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村を整備……おっと、誰か来たようだ。

 クリスマスが迫ってまいりました。

 シュトレン! シュトレンを作らねば!

 ケーキはお気に入りのショップで購入する予定なので、シュトレンは自作すると決めているのです。

 が、パン屋さんやケーキ屋さんで美味しそうなシュトレンを見かけると、手を伸ばしたくなります。

 最近はいい感じのミニサイズとか多いんですよね……。



 額の冷たさが心地良い。

 ゆっくりと瞼を開けば桃色のスライムが額に乗っていた。


「目が覚めたのです? 随分とお寝坊さんです」


「あー、今何時?」


「そろそろお昼なのです。寝ていた理由は覚えているのです?」


「……うん。ごめん」


 昏倒している最中、睡眠学習のように延々と囁かれた。

 聞き慣れぬ声までも聞こえた気がする。

 神様の声とかだったら、何を今更! と突っ込みを入れているところだが、恐らくトレントたちの誰かだろう。


「愛は本当に悪い子なのです。学習能力のない子なのです。皆、激おこなのです!」


「……弁解の余地もございませぬ……」


「潔いのはよろしいのです。取り敢えずは、水分を取るのです」


 ベッドの上で半身だけ起こすと、腰の辺りにクッションが差し込まれる。

 シルコットン製クックルー羽入りクッションには、小さくスライムの刺繍が施されていた。

 今回はサクラのみが刺繍されているバージョンだ。

 スライムたちは時々、こんなふうに自分アピールをしてくれる。

 鬱陶しくない愛情表現には、ただただ頬がほころぶだけだ。

 水分はよく冷えたレッドアップルの摺り下ろしジュースだった。

 喉越しの良さを堪能すべく瞼を閉じる。

 

「……よく寝ていたので体調は正常になったようなのです。その点は安心するといいのです」


「ありがとう」


 鑑定で見てくれたのだろう。

 そういえば体調不良に関してのステータスは出ていなかったが、その辺はどうなっているのか少し気になる。

 

「そういえば、サクラ。体調不良のステータスって、誰もがわかるものなの?」


「基本的には鑑定スキルがあれば見られるようなのです。愛が見たいのであれば、常時表示設定にするのです」


 サクラの鑑定が、完璧です、ありがとうございます! 仕様なのは、さておき。

 多少の鑑定スキルなり魔法なりを覚えた方が、今後の生活が安泰になる気がした。


「私も会得しようかなぁ、鑑定スキルとか魔法とか」


「ただでさえ人間嫌いの愛が、余計嫌いになるからお勧めはできないのです」


 あー、確かに。

 そこを突かれると痛い。

 でも今更私の人間嫌いが治ることはなさそうだから、身の安全を優先したいところではある。

 

「愛は考え過ぎるところがあるから、やっぱりお勧めはできないのです」


 二度言われてしまった!

 サクラが言うのならスライムたちも同意見だろう。

 トリアに聞いて、否定意見が出たら諦めるとしようか……。


「愛ー? 体調は大丈夫なのねー?」


 レッドアップルジュースを綺麗に飲み干して、考えをサクラに言おうとしたところで、リリーが飛び込んできた。

 勢いからして焦っているようだ。

 珍しい。


「うん。よく冷えたレッドアップルジュースのおかげで、頭もすっきりだよ」


「それは良かったのねー。倒れてからずっとサクラが頭の上に乗っていて、常に体調チェックをしていたから、感謝感激雨あられをするのねー」


「! 無茶させてごめんね、サクラ!」


「私を労ってくれるのなら、今後無茶は控えていただきたいのです」


「うううう、善処します……」


 絶対やらないとは、やはり誓えない。

 ただ何度もしでかしているのだから、少しぐらい慎重になろうとは、さすがに思っている。


「反省だけなら猿でもできるのねー。睡眠学習が効いているといいのねー……と、愛を可愛がるのは後回しにして、客が来てるのねー」


「客?」


「現時点では招かざる客、ではないのねー」


 現時点では、というリリーの言葉に、含まれる物を感じ取る。

 こちらの対応次第では、招かざる客になってしまうようだ。


「家には入れないわよ?」


「それがいいのねー。交渉場所は、倉庫街に作ったのねー」


 規格外スライムたちにかかれば、それは簡単な作業だ。

 私はいつの間にか着替えさせられていたシルコットンワンピースを脱いで、ブラジャーを着ける。

 余談だが締め付けが苦手なので、寝るときにブラジャーは着けない派なのだ。

 外出用の高級シルコットンワンピースに着替えようかと一瞬迷ったが、これには魅了効果がついている。

 ラノベ的に魅了効果は死亡フラグなので、最初から立てないでおこうと頷いて、シルコットン長袖ブラウスにポーク皮スカートを合わせて、ポーク皮ブーツを履いた。

 シルコットンシャツのカリスマ上昇効果が、どこまで出るのか楽しみだ。


 部屋を出てリリーの先導の元、サクラに乗って移動する。

 サクラの上で大きく伸びをして目を開けたら、もう着いていた。

 スライム移動ではなく転移魔法を使ったのかもしれないが、私の体調に支障がでることはなかった。

 勿論、車酔い的なものもない。


「ああ、待っていたよ。体調は大丈夫?」


 こぢんまりとした小屋の前に立てば、中からドアが開かれてトリアが現れる。

 トリアのにこやかな表情は、今まで見たことのないもの。

 所謂他人行儀な作り物の笑顔だ。

 客人用の笑顔なのだろう。


 小屋は四畳半程度の広さ。

 交渉用の小屋としては少々大きめだろうか。

 部屋にはテーブルと椅子四脚、四つ角の一つにミニテーブルが設置されており、上に花を生けた花瓶が置かれている。

 まだ見たことのない花だ。

 どこから取ってきたのか聞いてみたいが、今はそのときではない。


「こちらがホルツリッヒ村の村長だ。エルダートレントである僕と対等の友好関係を結んでいる人物だよ? 努々(ゆめゆめ)節度を持って接していただきたいね」


 ほ、ホルツリッヒ村?

 いつ村の名前が決まったのかしら?

 今かしら?

 確かドイツ語で、豊かな森とか、そんな意味合いだったはず。

 恐らくそれに近しい意味なのだろう。

 エルダートレントが守護するのに相応しい名前なので、私的には大歓迎だ。


「初めまして、ホルツリッヒ村村長、アイリーン・フォルスと申します。本日はどういった御用件で、当村においででしょうか?」


 トリアに倣って営業用の笑顔を向ける。

 ついでに偽名を名乗っておいた。

 良い機会だろう。

 信用できる相手にはその都度、教えていけばいい。


 テーブルの対面に座っていたのは、細マッチョ体型の男性だった。

 私の笑顔にどうやら見惚れているらしいのを察知する。

 カリスマ上昇効果が存分に効いているようで一安心。

 これで、何の交渉をするにしても有利に進められるはずだ。


「あ、と。こちらの村から逃げてきたという女性からお話を伺いまして……」


「どんなお話だか、伺っても?」


「え、あ、はい。その……御気分を悪くされないでいただきたいのですが、なるべく情報を正しく伝えるために、女性が使った言葉をそのまま再現いたしますので……」


 申し訳なさそうな表情に、負の感情は見えない。

 取り引き上の駆け引きでもなさそうだ。

 逃亡女性はよほどの暴言を放ったのだろう。

 さすがに恩知らずは、やることが違う。

 周囲の威圧を、静かに首を振ることでいさめる。

 空気が多少落ち着いたところで、男は慎重に口を開いた。


「女性は二人いたのですが、そのうちの一人が『肩にスライムを乗せて、トレントとラミアに囲まれて笑ってる気持ち悪い女がいる村から、必死の思いで逃げてきた』と言っていたのです」


 想像通りだったので、あー、はいはい。と突っ込みを入れるまでもない内容だった。


「更にもう一人の女性が『どうやら私たちが酷い怪我をしたのを助けてくれたようなのですが……不審者にしか見えなかったので逃げてきたのです』とも言っておりまして……お耳汚し、大変失礼いたしました」


 うわぁ、もう一人の女性も屑だった。

 助けてもらったかもしれない相手を不審者呼ばわりとか、ないわー。

 ないわー。

 それとも、それがこっちの常識なのだろうか。

 だとしたら、ますます人との接触をしたくない。

 魔物と親しくして何が駄目なのか。

 女性はテイマーという職業を知らないのだろうか。

 まぁ、私はテイマーではないけれど……。

 女性たちに取っては長い時間、見る者全てが敵! という状態だったのを十分加味しても、お礼の一言はないものかと問いたいのだ。


「自分が知る限り、こちらは『盗賊村』と呼ばれて商人の寄りつかぬ村でございました。そんな村から逃げおおせたということは、盗賊たちが自発的にいなくなった、もしくは殲滅された結果なのかと愚考いたしまして……まずは、自分の目で見てから、その、商売の種が転がっていないか見極めようと、足を運んだ次第でございます」


「こちらには、お一人でこられたのですか?」


「はい、そうです。腕に自信がございますのと、他の者には同行を断られましたので、一人で伺いました」


『嘘は一切ないのねー』


 脳内に直接囁かれる。


『人物鑑定の結果は、こんな感じなのです』


 バスコ・アランバルリ


 商人 LV50

 所属 メンディサバル商会

 階級 主任


 HP 3000

 MP 3000

 PW 1000

 IT 1000


スキル 話術師 LV10

     鑑定師 LV10

     危険察知 LV10

     短剣術 LV10

     解体 LV10

     夜目 LV10

     遠目 LV10

     サバイバル料理 LV10


 称号 戦う商人 押しつけられ体質 


 称号の押しつけられ体質を見て、親近感を覚える。

 ステータスが高いのも、階級が低いのも、仕事を押しつけられた挙げ句、ミスも当然のごとく押しつけられ、手柄は奪われ続けた結果なのだろう。

 適うならば彼とは良い取り引きをしたい。

 そして多少親しくなったら、サバイバル料理の腕前を見せてもらえたら嬉しい。

 ついでに、サバイバル料理がレベル10に至るまでの苦労を是非とも語っていただきたいものだ。

 

「は! 大変失礼いたしました。自分はバスコ・アランバルリ。メンディサバル商会に所属しております。階級は主任でございます。自己紹介が遅くなって大変失礼いたしました」


 がたっと! 大きく音をさせて椅子から立ち上がると、深々と頭を下げられた。

 久しぶりに見た直角のお辞儀だった。





 喜多愛笑 キタアイ


 状態 心身共に良好  new!!


 料理人 LV 4 


 スキル サバイバル料理 LV 4

     完全調合 LV10

     裁縫師範 LV10

     細工師範 LV10

     危険察知 LV6

     生活魔法 LV 5

     洗濯魔法 LV10

     風呂魔法 LV10

     料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用

     掃除魔法 LV10

     偽装魔法 LV10

     隠蔽魔法 LV10

     転移魔法 LV∞ 愛専用

     命止魔法 LV3 愛専用


     人外による精神汚染


 ユニークスキル 庇護されし者


 庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化  解体超特化


 称号 シルコットンマスター(サイ)


 シュトレン作りもしないとなのですが、年賀状も書かないといけませんね。

 気がつけば20日とか!

 さすがは師走……油断も隙もない感じです。


 次回は『商人と交渉。(仮)』の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。



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