キノコ専用樹木小屋作り。
やってしまった!
前回一話先の作品を公開してしまいましたので、今回は割り込み投稿をしております。
間抜けな話で申し訳ありません。
畑と水田を通り抜けた先に、キノコ専用樹木小屋が並んでいる。
しかし、遠い。
村の中での移動が楽にならないだろうか?
この調子だと移動で日が暮れる日がこないか心配だ。
「んっ? 私たちの上に乗って移動するのっ? 時速八百キロまで出せるのっ!」
移動が結構大変だよねー……なんて、ちょっと愚痴を零したら驚愕の返事があった。
「んっ! 愛と一緒にゆっくり歩くのも楽しいけど、愛を乗せて走るのも絶対に楽しいのっ!」
時速八百キロって、どんな速さなんだろう?
リニアモーターカーの世界最高速度が六百キロを超えたとか書かれた記事を、見た記憶があるが……それよりも二百キロ速いとか想像がつかないなぁ。
「んっ! 愛を乗せるときはそろーりモードで移動するから、舌を噛んだりすることもないのっ!」
スライムたちの移動は基本的に飛び跳ねながらの移動だ。
そろーりモード移動というと、馬に乗っているときのような派手な振動もない、現代人に優しくてスマートな感じの移動だろうか。
「んっ! 善は急げというのっ! 早速乗ってみるといいのっ!」
みょいんと横に伸びたモルフォの上に跨がる。
みょいんと縦に伸びたモルフォの触手がしっかりと私の腰に巻き付いた。
「ふぉ! 手首が沈むっ!」
掴まるところがないよー? と告げるまでもなく、モルフォの体の上に置いていた手が手首まで沈む。
そして、固定された。
「んっ! 速度はいかがしますのっ?」
良かった。
聞いてもらえて良かった。
問答無用で八百キロの速度で移動をされるのかと、ちょっと心配だったのだ。
「えーと? クロスバイクの平均速度が二十キロぐらいだったような気がするから……二十キロでお願いします!」
「んっ! 了解なのっ! 出発進行!」
くっと動き出すとき特有の負荷を感じた他は、クロスバイクに乗っているときと同じ状態だった。
頬をくすぐる微かな風も心地良い。
「んっ! 乗り心地はいかがなのっ?」
「最高です、モルフォさん! クロスバイクと違って自分で漕がなくてもすいすい進むのがすばらしいのですよ! くぅー! 気持ちいぃ~」
晴れた日の通勤はクロスバイクだった。
汗だくになって漕いで、ある種の爽快感を得はしたものの、ここまでゆったりした心持ちにはなれなかった。
「んっ! 到着なのっ!」
癒やされる~! と見るともなしに流れる景色を堪能していたら、あっという間に着いていた。
「ありがとうね、モルフォ。移動は早いし、楽だし、癒やされたし。私は本当に果報者だわぁ!」
「んっ! 喜んでもらえて何よりなのっ。トレントでの移動だと高いところから見渡せるし、カロリーナでの移動だと、持つところが豊満なお胸でうはうはなのっ!」
「おぅ……セクハラだと思うんだけど、いいのかしら、カロリーナさん」
私の胸で癒やされたいのでしたら、遠慮はいりませんわ~、と幻聴が聞こえた気がした。
「お邪魔しまーす」
別の小屋を黙々と作っているトレントたちが、揃って指さしたローズとトリアがこもっている小屋のドアをノックする。
「ちょっと、待ちなさい!」
「……うん。大丈夫だよ、入ってきて!」
何やら重要な作業中のようだ。
「出直そうか?」
「大丈夫! トリアが浄化してくれたから!」
「じょ、浄化? 大丈夫なの?」
キノコのホラー映画で菌糸に侵食されて大変な目に遭う作品を思い出してしまい、勢いよくドアを開ける。
六畳程度の小屋の中。
中央には作業台。
かなり高級そうな木目で作業台に使うのが勿体ない作りだ。
もしかしたらエルダートレントの木材かもしれない。
万が一キノコ菌が飛んだとしても、エルダートレントで作られた作業台が侵食されることはないだろうから。
部屋中にぐるっと三段ほど棚が作られており、キノコを栽培するのだろう三十センチほどの樹木が並べられている。
入り口近くには大きな物入れが一つ。
成長したキノコの収納箱だろう。
モルフォが興味津々といった風情で収納箱を開く。
案の定中身はまだ空っぽだった。
「あらあら! 幾ら何でも気が早すぎますわよ、モルフォ! 今先刻キノコ菌を定着させたところなのですから」
「そうそう。ちょうどいいタイミングだったよね。小屋の中にキノコ菌が充満してたからさ。モルフォはいいとしても、愛に何らかの障害が出る恐れがあったから待ってもらったんだ」
「まぁ、万が一。愛がキノコお化けになってしまいましたら、トリアが治してくれたと思いますけれどね、おほほほ!」
「うふふふ。わからないよ? キノコ大好きな僕だからね? 大好きな愛が大好きなキノコになったら、美味しく頂いちゃうかも……」
トリアが満面の笑みを浮かべながら、フォークとナイフでお皿に載ったキノコのソテーを切るパントマイムを見せてくれた。
カタカタ震えてしまう、私の腕の中に収まったモルフォも一緒に、カタカタ震えている。
「……可愛い子が満面の笑みを浮かべると怖いものだと、一つお利口になれましたわ。ありがとうございます、トリア」
「さすがは、ローズだね! まさかそう切り返されると思わなかったよ! ほらほら、二人ともそんなに怯えないで? ただの、冗談だからさ。冗談!」
最後にぱくっとソテーを口に放り込む仕草までされてから言われても、説得力がない。
歪んだ微笑を浮かべて黙り込む私のフォローは、未だ震えるモルフォが頑張ってくれた。
「んっ! こ、この小屋は、どんなキノコが栽培されているのっ?」
「ここは愛が食べたがっていた、椎茸の異世界版キノコが栽培されていますわ!」
「ステータスは働き者のサクラが一通り鑑定してくれたから、完璧なんだ。作業台の上にファイルがあるから見るといいよ」
向こうの百均で売っているファイルと同じ物な気がするのだが、素材は何を使っているのだろう。
こちらにプラスチックがあるようには思えないのだが……。
「もしかして、そのファイルが気になってるの?」
「う、うん」
「リリーとトリアの力作ですわ! 限りなく『ぷらすちっく』に近い木で作ったファイルという認識が、愛の心を安らげるのねー、とリリーが言っておりましたのよ?」
わかってる。
私だって学習するよ?
これは、それ以上突っ込んじゃいけない奴だ。
「村からの持ち出しは禁止にしてあるから、心配しなくても大丈夫だからね? さ、安心してキノコのファイルを眺めるといいよ!」
「ありがとう」
作業台をテーブル代わりにファイルを開く。
モルフォは作業台に乗ってファイルを覗き込んだ。
トリアとローズは何やら、栽培について意見を戦わせている。
トリアは品質を、ローズは量産を第一に考えているらしく、なかなかの激論のようだ。
「さて……どれどれ……」
私はファイルをめくる。
一枚目にはタケシクンと書かれたキノコが図入りで説明されている。
「何で椎茸だけ、タケシイとかじゃないのでせうか? まるで男性のお名前のようでございますことよ?」
タケシクン
椎茸
緑も鮮やかな肉厚キノコ。
彩りにも良い。
煮てよし、焼いてよし、生でもよし。
拳大サイズが美味。
癖のない食べやすいキノコといわれている。
「なるほど、肉厚しかあってなかった!」
形は椎茸なのだが傘の部分が真緑だった。
椎茸と違って白い部分は軸だけなのも、違う点だろう。
あとは生で食べられる点もそうかな?
向こうでは食べても平気な人がいる中で、食中毒を起こす人もいたらしいし。
タケシクンは生食ができるというので、キノコサラダあたりで食べてみたい。
できたてをその場で丸かじりするのも良さそうだ。
「ん? 緑色なの?」
「みたいだけね。向こうの椎茸は……形だけだと……おうふ。ポックリに似てるわぁ……」
ポックリ
別名・即死ノコ。
生食で食べると即死する。
一般的に毒性のないとされるシンプルな形と色。
誤食する人が多いので注意が必要。
火を通すと良いキノコの香りがするが味はいまひとつ。
一度乾燥させてから、そのまま食べると大変美味。
携帯食にもオススメ。
愛がキノコを採取するときは、椎茸に色と形が似ているので、特に気をつけるように。
「いろいろと突っ込みどころの多いキノコだけど、生食さえしなければ楽しめそうなので、ちょっと食べてみたいかな」
最初に名前を聞いたときは、絶対栽培しないでほしいと思ったけど、これなら大丈夫だ。
「あ、確かもう一個言ってたキノコがあったっけ……」
ケタケタ
別名・大笑いタケ。
食べると笑いが止まらなくなる。
三個以上食べると笑い死にする。
蛍光レモンイエローな色。
傘は大きく、人の頭ほどもある。
生食は、爽やかな果実の味がして美味。
火を通すと、濃厚なキノコの出汁が出るのに、さっぱりしていて美味。
乾燥粉末して、爪の先ほどの量をたっぷりの水とともに飲むと、気鬱の病に効く。
「ある種ポックリより怖いわぁ」
「あー、ケタケタね。一口ぐらいなら、あ、美味しい! で終わるから、味見なら大丈夫なんだけど、味見じゃ終わらないのが玉に瑕だよね。ケタケタのスープはドラゴンでも笑い殺せるっていう、怖い逸話があるからねぇ……」
「ちなみに、トリアはうきうきと栽培準備を整えていましたのよ?」
「一応私とスライム以外は出入り禁止にしてあるから安心してね。そうそう、このマークがついているキノコは取扱注意だからね」
トリアが作業台の上に広げられたキノコの図を指さす。
誰がデザインしたのだろうか。
取扱注意と書かれたキノコ図の右上に、トリアが両手にスライムを乗せて微笑むマークが記されている。
キノコファイルには、ルマッシュ、ジシメ、リンギエも当然載っていた。
他に知っているところだと、タケマツ(まつたけ)、タケナメール(なめこ)、キノエダッケ(えのきだけ)、タケヒラノン(ひらたけ)などが掲載されており、タケマツは専用手袋を装備しないと火傷をするとのことで取扱注意マークがつけられている。
また異世界特有キノコは、美味しいけど生食は駄目。
扱いは難しいけど、下手したら死ぬけど、一度食べたら病みつき! といった癖のあるキノコが多いようだった。
需要と供給のバランスが整うまでは、十二種類のよく使うキノコを作ると決めたようで、残り二種類を異世界特有キノコから選別しているとのことだ。
できれば食べやすい色味のキノコであるようにと、額を突き合わせるようにして議論を続ける二人の背中に向かって、モルフォと二人でそっと祈っておいた。
*今回ステータスの変動はありません。
喜多愛笑 キタアイ
料理人 LV 4
スキル サバイバル料理 LV 4
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV∞ 愛専用
命止魔法 LV3 愛専用
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
ストックが減ってしまって、何とか増やそうとしたのですが、一話の話が伸びただけという不思議。
予約投稿完了したら、ストック作りに勤しむ所存です。
しかし、眠い……。
次回は、ふわふわパンのサンドイッチをトリアと。前編(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。