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産みたてクックルー卵と絞りたてモー乳のプリン。

 ストックが溜まってきたので、確認作業を始めました。

 確認作業と同時に修正作業もやった方がいいのか思案中。

 想像以上に確認漏れが多いのですよ……。




 さてプリン作りだぁ! と気合いを入れて簡易キッチンを取り出す。

 トリアはつぶらな瞳を瞬かせて、カロリーナは蛇目を一層大きく見開いて驚いてくれた。


「愛だけのスキルなのねー。愛はお料理上手なのねー」


「お陰様で私達もすっかりグルメになってしまったのです」


「後悔はないわ! むしろ嬉しいくらいよ!」


 スライム達が固まっている二人に説明をしてくれた。

 しかし二人の硬直は解けない。

 やはり珍しい魔法のようだ。

 

「う? 材料は何が必要なのよ?」


「卵と牛乳と砂糖……バニラビーンズってあったっけ?」


「ん! 存在はするけど、まだ出会えてないのっ!」


「あるにはあるんだー」


 まぁ、なくてもなんとかなる。

 超絶素朴プリンも、また良し。

 

「卵は産みたて、モー乳は搾りたてを用意するのね?」


 スライム収納は優秀だ。

 私は簡易キッチンにプラスした、収納ボックスに入っていたボウルと泡立て器を取り出す。

 泡立て器はボウルやざるとお揃いのステンレス製を専用魔法で作ったのだが、スライム達が体内シェイクでハンドミキサーよりも手早く泡立ててくれるので、ほとんど出番がない。

 今回は一通りの手順を覚えて貰うので出してみた。


「そう、よろし、くぅうう?」


「あ。これには愛も驚くんだね」


 トリアが安心したように微笑んだ。

 カロリーナの目は、まだ大きく見開かれたままだ。


 それはスライム収納から真っ白いクックルーと、これまた真っ白いモーモーが現れたからだ。

 アイテムボックスって、生き物駄目じゃなかったの?

 スライム収納が特別なの?

 うちの子達が例外なの?

 

「ふっふーん! 愛のために収納内で飼っているのよ! 感謝するといいわ!」


 どうなっているのだろう、スライム収納。

 頭の中に牧場風景が広がる。

 その背景には、魔王か何かのように巨大なスライムが高笑いしていた。


 取り出されたクックルーとモーモーは静かなものだ。

 これが初めてでもないのだろう。

 スライム達に慣れているし、私達に対しての怯えも見えない。


「ん! クックルー、卵を産むのっ!」


 モルフォが触手を伸ばし、クックルーの喉元を優しく擽る。

 くっくるー! と叫んだクックルーは、ポコンと小さな音を立てて卵を産んだ。


「愛ー! 卵は幾つ必要なの?」


「あ。四個欲しいデス」


「ん! 四個だと連続は難しいのっ!」


 モルフォは三匹のクックルーを取り出して、同じように喉を擽る。

 ぽぽぽん! と新たに三個の卵が生み出された。


「さ。良い子にするのです!」


 サクラはモー乳を搾っていた。

 乳によく似た触手が搾る様子は、ほのぼのしつつもどこかにエロティックさが宿る。

 自分の駄目な思考を首を振って飛ばす間に、一リットルほどのモー乳が素早く搾られた。


「ありがとうなのねー」


 スライム達にお礼をされたクックルーとモーモーは、嬉しそうな鳴き声を上げてから自らスライム収納へと戻っていった。


「あ、愛が規格外なの~? それともスライム達が規格外なの~?」


「多分両方なんじゃないかな?」


 私達が答えるまでもなく、すっかり冷静になったトリアがカロリーナの質問に答えている。

 さすがは年の功。

 立ち直りの早さが見事すぎた。


「こっちの動物って真っ黒が主流じゃなかったっけ?」


「卵を産んだり、乳が搾れたりできる動物は白が多いのです。肉が美味しい動物は黒が多いのです。なので、お肉用のクックルーとモーモーは黒なのです」


 ブランド鶏や牛とまではいかずとも、種類によって用途が変わるようだ。

 色で判別できるのはわかりやすくて有り難い。

 魔物と家畜の味もきっと違うのだろう。

 機会があったら色々と教えて貰いたい。


「ちなみに、私達の中に収納されている動物達は家畜になったけど、野生種の旨味がそのまま残っている素敵仕様なのねー」


 リリーの背後に不穏な金色のオーラが見えるようだ。

 また、牧畜で一儲け! 的な妄想をしているに違いない。


「素敵サプライズをありがとう! やっぱり産みたて搾りたてで作ると美味しいわよねー」


 そうなってくると熟成肉などの味が気になるところだが、今回は触れないでおこう。


「さ! 始めるよー。まずは、卵を割るねー」


 私はボウルの中に卵を割り入れた。


「カロリーナもやってみて? 失敗してもいいからねー。あ! トリアも挑戦する?」


「僕はまたの機会でいいかな」


「了解! おぉ! 上手いねー、カロリーナ」


 卵丸呑みの印象しかないラミアのカロリーナだったが、さすがは特殊個体。

 時間はかかったものの三個の卵を、殻すら中に落とさず綺麗に割り入れた。


「し! 失敗しませんでしたわ~! 狩りは成功したことがありませんでしたのに!」


 両手を挙げてジャンプするカロリーナは可愛い。

 シルコットンのチューブトップに包まれた胸が、たゆんたゆんと揺れるのは羨ましい。


「う! カロリーナはできる子なのよっ!」


「ん! きっと良い料理人になるのっ!」


 喜ぶカロリーナの肩に乗ったモルフォとサイがぴょんぴょんと飛び跳ねながら一緒に喜んでいる。

 くぅ、微笑ましいわ。


「続いて鍋にモー乳、茶砂糖を入れて掻き混ぜます。焦がさないように気をつけてくださいねー」


「こ、こんな感じで宜しいですの~?」


 火加減をとろ火にして泡立て器で中身を優しく混ぜている。

 うん。

 やはりカロリーナの料理センスは抜群だ。


「で、砂糖が溶けたら冷ますんだけど……今回は時間短縮するねー」


 私はさくっと小鍋に入ったモー乳を程良く冷ます。

 トリアの感心した、カロリーナの尊敬しきった眼差しが面映ゆい。


「で、この二つをよく混ぜてねー」


「は~い!」


 大きな手で押さえられるボウルは微動だにしない。

 その点も料理向きな気がする。


「よく混ぜたら漉しますよー。しっかり漉しておくとプリンがなめらかになるので手を抜かないでね」


「了解しましたの~」


 死んだ盗賊達が見たら激怒しそうだが、漉し器の代わりにシルコットンの布を使う。

 少しだけ目を粗くして漉し器用に作って貰ったので完璧だ。


「こ、こんな感じでどうでしょう?」


 力加減が心配なのか、やはり時間をかけて丁寧に搾り上げたカロリーナが自信なさげに問うてくる。


「完璧! カロリーナはお菓子作りのセンスあるよ!」


「ありがとうございますぅ~!」


「カラメルソースの方は……茶砂糖と水を混ぜてっと」


 私はカロリーナの前で砂糖三、水一の割合で二つを軽く混ぜ合わせてオーブンに入れた。


「はい。カロリーナ。あとはこの子に向かって、程良くカラメルソースを作って下さい! って、囁いてくれる?」


 またしても大きく目を見開いたカロリーナは、恐る恐るオーブンに向かってお願いをする。


「程良いカラメルソースを作って頂きますよう、お願い致しますの~」


 次の瞬間、ぽにゃ~んと妙な音が聞こえた。

 完成を知らせる音だろうが、何時もの音より気が抜けすぎている。

 オーブンができる子なのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。


「……カロリーナにお似合いの音なのね?」


「そうみたい」


「か、完成したのですか~?」


 音ではなく完成を気にするカロリーナは、その点において揺るぎない。

 思わず生温かい目で見詰めてしまった私達を責めないで欲しい。


「……良く出来たみたいよ? 後は型に入れて蒸すだけね……」


 先を見越して誰かが用意してくれていた容器を指差せば、カロリーナが目を輝かせて大きく頷いた。

 カラメルソースを入れてから卵液を入れ過ぎないように説明して、作業の様子を見守る。

 慎重すぎるくらいなカロリーナの作業を責める者は誰もいない。

 むしろ好感度が高いようだった。

 周囲に恵まれたカロリーナは、きっと良い料理人になるだろう。


 私が一人感慨に耽っている間に、スライム達の説明を受けたカロリーナが、鍋に水を張り容器を沈めて火をセットした。


「楽しみですわ~!」


「ここまでは順調とみたけど?」


「完璧なのねー。初めてとは思えないのねー。沸騰したら蓋をして弱火で15分なのねー。でも、我慢できないのねー」


 カロリーナが超絶技巧を持つ料理人になり、今までカロリーナを邪険にしていたラミア達が土下座してプリンを請う場面までを想像していた私の頭上に、リリーが乗ってきた。


「はいはい。今回は時間短縮しますよ。よいっしょっと!」


 掛け声は不必要なのだが、何となくかけてしまう不思議。

 

「さぁ、カロリーナ。蓋を取ってこの竹串を刺してみてね? 卵液がくっついてこなかったら仕上がっている証拠だよー」


「は、はい!」


 これも専用魔法で作り出された竹串を渡す。

 カロリーナは気合いを入れて一つの容器を選ぶと、ぷっすりと竹串を突き刺した。

 そろそろと抜き上げると、竹串には何もついてこなかった。


「うん。完成だね!」


「さ! 食べるわよ! 早速食べるわよ!」


 我が家の食欲大魔神ローズが触手を伸ばす。

 しかし、容器を摘まんでから、は! と我に返った。


「し、失礼しましたわね! さぁ、カロリーナ。好きな物をお取りなさい!」


「いいのですか~?」


「勿論よ! ちゃんと人数分あるしね!」


 そこはローズにとって確かに重要だが。

 言ってしまっては台無しだろうに、ローズもカロリーナも嬉しそうに見つめ合っている。


「それではこちらを!」


 一つの容器を選んだカロリーナに全員が続く。

 サクラが木のスプーンを用意してくれていた。


「まだ熱いから少し冷ました方が美味しいかもって、ローズさん!」


「うーん。ほっかほかのプリンも美味しいですわ! ですわ!」


 カロリーナの口調が影響したのか、ローズには大変良く似合うお嬢様口調で喜びの声を上げた。

 私を除く全員がローズの声に突き動かされたように中身を口にしている。


「熱いですわ~。美味しいですわ~。最高ですわ~」


 カロリーナは涙目で喜んでいる。


「……後でトレント達にも作ってあげたいけど……いいかな?」


 目を閉じてプリンを堪能していたトリアが、尋ねてくる。


「了解。産みたて搾りたてじゃなければ、ストックがあるからすぐに作れると思うわ」


 私の言葉に背後で伺っていたらしいトレント達から喜ぶ気配が伝わってくる。

 プリンを欲しがるトレントって、かなりシュールじゃない? と思いつつも、美味しい物を共有できるのは嬉しいので、傍にいたサイに材料を確保できるか尋ねてみた。



 クックルー卵と搾りたてモー乳のプリン

 ランクS

 新鮮な食材を使っているのと、甘みの付き方が絶妙なので高ランク。

 バニラビーンズが入って、冷やされると更にランクアップ。

 食欲がない人も喜んで食べる逸品。

 食欲不振改善効果有。

 

 音声ソフトで、泡立て器&漉し器の『き』が『うつわ』と読まれてしまいましたよ。

 これはかなり一般的な表現じゃないのかしら。

 所謂、料理器具とかは難しいのかな?


 次回は、村を整備しましょう。水回り編 前編 の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。

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