迷いラミア。
タイトル出オチで恐縮です。
貝ブラと迷いましたが、シルコットンのチューブトップブラにしてみました。
チューブトップという表現が出てこなくて、検索をかけたのは内緒です。
そういえば先日フェイスソープでシルコットンという名前の商品を見かけました。
「良い匂い~。お腹空いた~。私にも! 私にも食べさせて下さい~。食べさせてくれるなら、奴隷にでもなんでもなります~」
「ら、ラミアぁ?」
トレントが生息していた反対側の森の中から、彼女? は現れた。
上半身は女性の身体、下半身は蛇。
私の知識では、ギリシャ神話に出てくるラミアそのものだった。
「止まりなさい! 貴女は何者なのっ!」
口に肉を銜えたローズが、全く以て様にならない格好で、彼女を誰何する。
彼女はその場に立ち止まり、両手を挙げて降参のポーズを取ってから、切々と訴え始めた。
「女王だった母が殺されたので、群れから追い出された特殊個体のラミアですぅ~。戦闘も苦手だし、男性を誘惑するのも苦手というか、無理なんですぅ~。ラミアに生まれたのが何かの間違いだったのですぅ~。生肉は食べられなかったのです~。焼いたお肉が食べたいのです~。焼いたお魚も美味しそうなのです~。お野菜も美味しくいただけますのですぅ~。皆様が食べ残した物でも構いませんの~。どうか哀れな私に、お慈悲を下さいませ~」
降参ポーズのまま、べったりと上半身を地面につける。
ラミア流の土下座だ。
モンスターの中でも土下座はメジャーな謝罪方法なのだろうか?
大きな胸が邪魔をして額が地面から僅かに浮いていた。
『土下座の価値観は日本と変わらないのねー。この世界では最上級の謝罪なのねー。たぶん愛みたいな転移した人が広めたのねー』
リリーがこっそりと教えてくれた。
女王の娘とは思えない誇りなき謝罪が、彼女の置かれた状況を如実に物語っている。
「……ゆっくりと、良く噛んで食べるのなら、皆と一緒にどうぞお召し上がりください?」
彼女の哀れすぎる訴えにトレント達は同情の色を強く乗せている。
スライム達は、恐らく”特殊個体”の部分で警戒を解いた。
仲間にしようと画策しているらしく、凄く珍しい私を除外した話し合いをしているようだ。
「ありがとうございますぅ~。どれを食べて良いのかしらぁ?」
「……キャノベツ、ジンニン、イモジャガは、確か胃に優しい野菜だったはず……」
エルダートレントが皿の上に自ら焼いた野菜三種を載せると、彼女へと手渡した。
「まぁまぁ。エルダートレント様お手ずからとは……光栄ですわぁ~。ありがたく頂戴いたしますねぇ~」
知性も理性も良識もあるラミアのようだ。
きょろきょろと辺りを見回しているので、フォークと箸の両方を差し出してみる。
「お心遣いありがとうございます~。どちらも使えますが、この料理はどちらで食べるのが正式な作法なのでしょうか~?」
箸が使えるのは珍しい。
同じ事を思ったのだろう。
リリーが肩に乗ってきた。
「お箸の使い方が解るのね?」
「はい~。母がここではない世界の日本という国の転生者だったのですよ~」
「て、転生者って、この世界に多いの?」
「どうでしょう~? 世間に疎くて大変申し訳ございませんが、私は母しか知りませんわ~」
「生きている内にお目にかかりたかったなぁ……この料理はバーベキュー。箸で食べるのが日本では一般的です」
「あらぁ? 貴女も転生者ですのぉ~?」
「その話は、お腹が満たされてからにした方が良いのでは?」
「それもそうですね~。ありがとうございますぅ~」
彼女は勢いよく柏手を打った。
「いただきますぅ~」
食事の挨拶も日本式だ。
母親から教えられたのだろう。
他のラミアもそれに倣ったのだろうか。
そうではない気がする。
女王暗殺理由にも、何となく想像がついた。
しかし、このラミアを育てた人になら、生きている内に会ってみたかった……。
「美味ですぅ~。このほっくほくのイモジャガ! 良い香りのするしょっぱい調味料はなんですかぁ?」
「バターなのねー。イモジャガバターは、ダイエッターには天敵だけどラミアさんには、ちょうど良いのねー」
リリーは半分が食べられたイモジャガにバターを追加している。
確かにラミアは、かなり痩せていた。
胸だけがばいんばいんなのは、羨ましくないです、本当に!
……普通胸から痩せると思うんだけどねぇ。
ラミアは違うのかしら?
「ジンニンが甘いですぅ! こんな甘いジンニンは初めてですぅ!」
「特に調味料は付けていないのです。野生種の野菜の甘みを堪能すると良いのです」
私がラミアの胸を凝視していると、サイがすすすすっと音もなく寄ってきた。
「う! ぽしゃーん魚のさぬーき風白出汁焼きはどうだったのよ?」
「美味しかったよー。ぽしゃーん魚の身に、良い加減でお出汁がしみしみだった。相性良いみたいだねぇ」
「う! リリーが一儲け! って言ってたのよ? ……ラミアのお胸が可哀相なのね? シルコットンのブラジャーをつけてあげるのよ?」
またリリーが何やら悪巧みをしているらしい。
止めるか止めないかは迷う所だ。
「ちょ! サイ! ラミアさんの意見も聞いてあげてぇ!」
私が剥き出しのラミアの胸を心配していると判断したサイが、目に止まらぬ早業でシルコットンでできたチューブトップブラを着付けてしまった。
「あらら? 胸が揺れない~。ありがとう~。貴方が作った物なの~? 素晴らしい技術をお持ちなのねぇ~」
どうやらラミアは頓着しない性分のようだ。
母親の教育が良かったのか、天然仕様なのか、どちらともなのか。
ただ短い時間の中で、比較的付き合いやすいタイプの天然なのかな? と判断する。
「頂いても宜しいのかしら? でもこれ、シルコットン製ですよねぇ~? しかも緻密な織り。高級品と伺っておりますから、うーん。何ができるか自分でもよくわかりませんが、労働力でお返しをするということで如何でしょうか? あぁ! キャノベツも甘いぃ~。美味しいですぅぅ~」
うっとりと目を閉じてキャノベツの甘みを堪能しながらふるふるしているラミアは、私よりも随分と幼く見えた。
「なら貴女も村の一員ね! やることは沢山あるから、何か貴女にできる事もあるでしょうよ! できることからこつこつとやればいいわ! はい、胃に優しいクックルーのささみ! 日本酒で蒸してあるから最高に美味しいわよ!」
「クックルーの、ささみ~? 聞いたことのない部位ですの~」
「ああ、うちの子が優秀でね。こちらでは食べない部位とか、他の部位と一緒にまとめられちゃってる部位とかを綺麗に解体してくれる……」
「ふぉおおお! 美味しいですわ! こんなにやわらかくて食べやすいお肉、初めてですわ。生みたいなのに生臭さが全くないですわ! 素晴らしいですわ!」
クックルーささみの酒蒸しは最高に美味しかったらしい。
綺麗な赤い眼が宝石のように輝いている。
蛇眼なせいか、スタールビーのように星が見えた。
スライムやトレント達がせっせと餌付けをしているので、傍観することにした。
隣には優しい葉音をさせながらエルダートレントがやってくる。
「随分変わった子みたいだね? でも、嘘や害意は全く見受けられない。ラミアに擬態した新しい種族と言われても信じてしまいそうだよ」
悠久の時を生きているのだろうエルダートレントから見ても珍しい個体のようだ。
「……一緒に共同生活できそう?」
「大丈夫だと思うね。お母様の教育が良かったのかな? 同族にかなり邪険にされたと思うけど、あれだけ純粋でいられるのは遺伝と本人の気質じゃないかと推察するよ」
美味しいと笑顔で饗された物を食べ、礼を言い、お返しは何が良いかと問う存在が悪い者であるはずがないと、日本人なら思うだろう。
少なくとも私は、そうと捉えた。
「そう言えば、ラミアは女性だと思うけど、貴方達は性別ってあるの? それとも、雌雄同体? あと、個体名って存在する?」
「トレント達に性別はないねぇ。エルダートレントにもないよ。ただ基本的に、守りに強い種族のせいか女性的な思考をすると考えられているかな。個体名はあるにはあるんだけど、トレント達は外見が一緒だからねぇ。よく間違えられて……一時期は枝に名札をぶら下げていたくらいなんだ。お気に入りの子でもできたら、気軽に付けてあげて欲しい。ちなみに僕の名前は、ビクトリア」
「随分と貴族的な名前で驚き! トリアとか呼んだら駄目かな?」
「愛と呼ばせて貰えるのなら喜んで」
短い時間の中で愛称呼びはどうかと思わないでもないが、これから長い時間一緒にいようと考えている相手だからこそ、良いのではないか。
少なくともエルダートレント……改め、トリアからは嬉しそうな気配しか感じ取れない。
「どちらかと言えば、僕は男性寄りの思考みたいなんだけどねぇ。名前をつけてくれた子には女性的と思われていたみたいで、憧れの女王様の名前なの! とか言われた日には断れないよね?」
「確かに。でも変えたいとは思わなかったんでしょう?」
「僕に隷属させる意味以外で名前を付けたがる人は珍しかったからね」
そもそも黙っていたら木だ。
特にこの村のトレント達は擬態が上手い気がする。
記念樹等で自分都合の名付けはしても、相手の意思を確認した上での名付けはなさそうだ。
「じゃあ、この村の名前を考えて? 貴方が付けたかった、男性的人名でも良いから。今は亡き村の名前を復活させてもいいよ?」
キャラクターの名前を難読漢字一覧からつけていた自分には、この世界の名付けは向かないだろう。
「光栄だけど、いいのかな?」
「トレント達と相談してもいいし」
「……じゃあ、ちょっと相談するね」
トレント達が揃って一瞬だけ硬直する。
そして、驚きの気配と主に凝視された……わざわざ木の向きを変えたのは、そういうことだろう。
「気負わずに考えてね?」
そういうわけにはいかないでしょー!
尻拭いが得意のトレントだろう悲鳴が聞こえてきたので、私はひらひらと掌を振って、ラミアとスライム達の近くへ寄って、〆のデザートは何にするかを聞きに行くことにした。
*今回ステータスの変動はありません。
喜多愛笑 キタアイ
料理人 LV 3
スキル サバイバル料理 LV 4
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV∞ 愛専用
命止魔法 LV3 愛専用
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
食材メモを更新ついでに見直さないとと思いつつ、放置プレイ中……。
後悔すると解っていても、後回しにしてしまう今日この頃なのです。
次回は、やっぱりですか、そうですか。 の予定です。
お読みいただいてありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。