つぶらな瞳でした!
今年初のスライム更新です。
バーベキュー話が落ち着くまで連続更新の予定になっています。
遺体損壊などの残酷描写が数行出てきます。
ご注意ください。
バーベキュー用コンロはスライム達に、こんな感じ? と、地面に絵を描いて説明したところ。
「う! 愛は絵が上手なのよっ!」
「説明も上手いのです!」
モルフォが絵を理解して、サクラが私の拙い説明を噛み砕きながら二人がかりで作ってくれた。
モルフォはどうやら鉱物の加工が得意のようだ。
もやしの髭取りだけが特技ではないらしい。
仕上がったバーベキューコンロは大人数にも対応した大型で、肉焼き用、魚焼き用、野菜焼き用と三台もある力の入れっぷり。
仕上がりを見た私は、当然のように全員とハイタッチをして喜んだ。
「炭は私が点けるわ! この華麗な着火の舞に見惚れると良いのよ! ファイヤー!」
バーベキュー初心者が手こずると言われる炭の火起こしも、ローズの魔法で速攻だった。
ローズの身体から生み出された小さな火花が炭の中に吸い込まれていき、あっという間に炭が真っ赤になるまで、思わず息を止めて見入ってしまったくらいだ。
「食材も出揃ったのねー。そろそろ良いと思うのねー?」
各自がスライム収納から鉄板の食材を始め、未だ私が見たこともない食材を並べている。
リリーが私を見上げたので、大きく頷いた。
「宜しかったら、ご一緒に如何ですか? トレントさん達? エルダートレントさんなら、お話も普通にできると思うのですが如何でしょうか?」
ざわざわと風もないのに、木々の葉が揺れている。
思念のようなものは感じられなかったが、何やら相談がされているのは感知できた。
スライム達はあからさまに木々の中でも、後ろの方に聳え立っている立派な大樹を凝視していた。
「やれやれ。看破されるとは思わなかったよ……」
どっこらせっとの掛け声の後で、大樹が左右に揺れる。
ぼこぼこと根っこが土の上に這い出てきたと思ったら、その巨体を難なく支えながら、こちらへ歩いて移動してきた。
つい見上げてしまう。
圧巻だ。
「く、首が疲れるかも!」
「人族のように目を見て話す習慣もなし、声が聞こえぬでもなし。無理する必要はないと思うけど?」
そうは言いながらも大樹は器用に腰? を折った。
折れないだろうかと余計な心配をしてしまう。
「あ、可愛い!」
木の幹に目、鼻、口が浮かんでいる。
向こうの世界でのトレント系の印象を覆す、実に愛らしいつぶらな瞳だった。
ふと、愛らしくて大好きな深海生物めんだこを思い出す。
「か、可愛いと言われるのは、初めてだなぁ」
幹がくにゃりと軟体動物のように捻れる。
なかなかに不思議な光景だった。
何故か周囲の木々も同じように捻れている。
揃って照れているようだ。
「これから盗賊村の殲滅記念にバーベキューという料理をしようと思うのですが、ご一緒に如何ですか? この子達から、トレントさん達は普通に食事ができると教えて貰ったのですが」
「宴への招待は大変光栄なんだけど、いいの? 僕達は、君達の惨殺を、ただ、見ていただけだよ?」
「相手が自分達に害を及ぼす存在かもしれないのですからね。静観は基本でしょう。村民を護るぞ! と、攻撃されても仕方なかった状況ですし」
「は! あれを村民と言いたくはないな。あれらのせいで、我らと共生できていた元の村民達は皆殺しにされた!」
「そうなのね?」
リリーが相槌を打つ。
静かな哀れみが多分に含まれている声だった。
「ああ、そうだ。我らも戦おうとしたのだが、村長に……ね。生き延びてくれと、自分達が生きた証をせめて我らに覚えていて欲しいと、そう言われて……皆殺しにされるのを黙って見ていたよ」
つぶらな瞳から、ころころと涙が転がり落ちる。
さぞ無念だったろう。
双方満足する形で共生ができていた相手ならば余計に。
「じゃあ、食事の後に、お墓を作りましょう。ちょっと大袈裟なくらいのものを。通りすがりの人が、手を合わせずにはいられないようなものを」
「っ! ありがとう。骨の確保はできていたんだけどね。奴等の隙を見て、目の届かぬ場所に墓を作れそうになかったからさ。本当に、嬉しいよ」
細い枝が転がる涙を拭い取る。
他の木々達からも喜びの感情が届いた。
「約束はきちんと守るわ。定期的に掃除もします」
「うん。それは我々もするよ。彼等には穏やかに眠って欲しいからね……一応、確認させて欲しいんだけど。あれらは、どうするつもり?」
つぶらな瞳に宿る憎悪は、愛らしい雰囲気を一転させる。
それだけ屑に対する恨み辛みが累積していたのだろう。
「貴方達が吸収してしまえば、跡すら残らないわ! とか思っていたけど、食あたりしそうな汚さだしねぇ。不味い物を無理矢理食べさせたくはないのよね……」
「ぶふっ。美味い不味いを気にするとは凄いね! 髪の毛一本も残さずに吸収してしまうのは容易いんだ。味を感じる間もなく片付くよ。あぁ、そうだ。犯罪者の罪石は取り出しておくから、村を復興させる際の財源にすると良いんじゃないかな?」
「罪石?」
聞き慣れない言葉が出てきたので首を傾げる。
「ん? 罪石を知らないとは……もしかして、この国の、いや、この世界の人族ではない?」
どうやらこの世界での一般常識だったらしい。
返答に迷っていると、サクラが答えてくれた。
「愛は異世界転移者なのです。私達は愛と共にある為に生み出されたユニーク個体のモンスターなのです」
「なるほどなるほど。それは……珍しいね」
つぶらな瞳が興味深げに細められる。
くぅ、可愛い!
「エルダートレントとどちらが珍しいかしら?」
「君の方が珍しいね。あぁ、短い時間で君の為人も判断した上で、だけどね」
転移者は希少というわけではないが、話の通じる転移者は希有という辺りで間違いなさそうだ。
「ふふふ。高評価をありがとうございます。貴方の判断が正しいものであったと、これから先時間をかけて証明していきますね?」
「それはこちらも同様だ。末長く宜しく頼む」
『宜しくお願いいたします!』
「おお!」
エルダートレントの周囲全ての木に小さな口が生まれて、挨拶が唱和された。
「では早速、死体の始末をお願いしたいのねー。私達はバーベキューの支度をするのねー」
「了解した」
エルダートレントの枝が大きく振られる。
と。
地面から飛び出した無数の根っこが、転がる遺体を土の中に引きずり込んでいく。
骨の砕ける音や肉の千切れる音があちこちで聞こえたが、短い時間で遺体は跡形もなく消え失せてしまった。
あれほど村中を浸食していた血臭も見事に払拭されている。
森の香り的な爽やかな匂いが気持ち良く鼻を擽った。
「おー」
思わず感動してる私の足下に、一番大きな物は拳大くらいの石が山積みにされた。
ちなみに色は各種取り揃っていたが、ぱっと見漆黒が一番多そうだった。
「これが罪石だよ。生き物が罪を犯すと体内にこの罪石が生まれる。また、罪石からは罪の内容が読み取れるようになっているんだ。簡単に色でも識別できるけどね」
「黒だと殺人、赤だと詐欺とか、そんな感じ?」
「そうそう、そんな感じ。で。大きさと色で賞金が出る。賞金首だったら、その分もプラスされるよ」
「死んだ人からしか取り出せないの?」
犯罪の詳細が解るのなら、生きている間にこそ抜き取りたいものだが。
「ああ、高位の鑑定眼持ちなら体内に宿っている罪石の詳細を読み取れるらしいね。多分だけど、君なら見られるんじゃないのかな?」
エルダートレントの怖い説明を聞き、適当に一つの罪石を取り上げる。
赤が鮮やかな罪石だ。
オスカル・ガイ
元ジャクロット国第五王子 元バイヨンヌ村村長
罪状 詐欺、殺人幇助及び教唆、強盗
指名手配中 ジャクロット国より別途報酬有り
見えてしまった。
しかも詐欺師の石だった。
出身国からも別途報酬が提示されている。
余程の罪を重ねてきたようだ。
しょっぱい顔をしていれば、エルダートレントが枝を伸ばして優しく肩を叩いてくれる。
「ここから一番近い村は、それなりに大きな村だから、罪石を持って換金してくると良いよ。スライム達はとても優秀だし、君もきっと同じかそれ以上に優秀なんだろうけど、村の作り直しともなれば、人手が必要だろう? 奴隷を購入すれば君の情報を隠匿するのも容易いんじゃないかな」
エルダートレントの提案は極々一般的なものだと思う。
村人達と共同生活をしていただけあって、私よりも余程俗世に強い。
だが、奴隷購入となると、やはり抵抗があった。
人が信じられない。
契約に縛られていても。
難しい顔をしていれば、エルダートレントに頬を突かれる。
枝に突かれて痛くないとは、これいかに? と首を傾げれば、枝の先が痛くないように丸みを帯びていた。
気を遣ってくれたのだと思えば、人が信じられなくとも彼等が信じられれば良いかと、大きく頷いた。
「うん! 取り敢えずは、バーベキューをして交友を深めましょう!」
握り拳を高く空へ突き上げれば、スライム達が同じように触手を突き上げる。
エルダートレント筆頭にトレント達までもが枝を突き上げるのには、自然と笑みが零れた。
古民家な友人宅でのバーベキューはとても楽しかったのですが友人の負担が大きいので、有名なバーベキュー場とかに行くのもいいよね、とも思ったりします。
しかし量が食べられなくて驚きましたよ、上記のバーベキュー。
スライムやトレント達には存分に食べて頂きたい所存です。
次回は、異世界BBQ! の予定です。
お読みいただいてありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。