相応の末路。
前回以上に猟奇的に人が痛めつけられる描写があります。
お読みの際は、ご注意ください。
苦手と感じたら、即座に読み止めることをオススメします。
二人とも罵声が多いので、話が進まなくて困りました。
小屋の中は掃除魔法で完璧な状態にしたにも関わらず、どことなく陰鬱とした空気が漂っている。
「……どこまで治癒したの?」
眠る女性二人の頬に赤みは差しているが、眉根が寄っており額には皺が深く刻まれていた。
「ん。眠っているからか、効き目が然程ではないのっ」
「う。治癒して貰った自覚が持てないだからだと思うのよ?」
「……性器の中まで薬塗るのはどうなの? と考えたのねー」
「性器内部の損傷が激しいので、まだ完治はしていないのです」
説明を受けて思わず嘆息してしまう。
「そうすると……起きるまでは1日1本栄養剤を与える感じかなぁ……」
医者でもないのだし、面識もない相手の性器内部に薬を丹念に塗る労力を使う気はさらさらない。
起きてから自分達で塗って頂こう。
「そう言えば性病って、病扱いだから効きがよろしくないのかしら?」
ポーションは怪我や、怪我から派生する心身の状態を回復するように作ってある。
スライム達がいてくれる以上、私自身は病になぞかかりはしないだろうが、病特化のポーションを作っておいた方がいいだろうか。
「そうなのねー。塗り薬を塗っても、性病自体は完治しないと思うのねー」
「娼館とか教会なんかに売るといいかもね。たぶん、ないんでしょう? その手の薬は」
「存在しないのです。基本性病にかかったら、死あるのみなのです」
だよねー。
あっちでも性病の種類によるけど、抗生物質必須だからなぁ。
「まぁ、性病の薬とか私には縁がない話だから、この人達次第かなぁ。すぐ製薬にかかるか否かは」
何はともあれ、目が覚めて、話ができてからだ。
病人に追い打ちをかけるような真似はしたくないが、向こうで搾取され続けてきた経験が囁く。
彼女達も遠くはない未来に付け上がると思うよ? と。
「あらあら。早いこと! もう逃げ帰ってきたみたいよ」
悩んでいればローズが扉の近くへ移動する。
二人が大声で喚きながら、こちらへ向かってくるのが解った。
「詐欺師も娼婦も逃げ足だけだものね。っていうか、逃げるにしたって、色々と必要な物はあるだろうし。その辺りも考えたのかな?」
モンスターに襲われて、まだ私達の方がましだと考えたのかもしれない。
意思の疎通ができるからといって、自分の都合全てが押し通せるわけではないのだけれど。
二人にはきっと、永遠に理解できないのだろう。
世界は自分中心に回っていないのだと。
「……モンスターよりも私達の方が、絶対的に強いのにね?」
「あの馬鹿愚か達に、私達の強さが解るはずがないのよ?」
「んっ! 見る目ないのっ」
ローズとモルフォの鼻息が荒い。
私達の実力を一番正確に見抜いたイスマエルは既に彼岸へ送り込まれてしまった。
自分達とは比べものにならないほど高みにいるのだと、気がつけもしない二人に明るい未来はやってこないのだ。
「うっ! じゃあ早速頑張るのよ!」
部屋の中、うにょんと身体を大きく伸ばしたサイが、素早くローズが開け放した扉の向こうへと飛びだしていく。
弾丸のような、と表現するのに相応しいスピードだった。
当然、娼婦は反応できない。
一瞬で、サイの身体に取り込まれてしまっただなんて、理解しようもない。
「お、おいっ! お前!大丈夫なのかよっ!」
詐欺師が娼婦を指差して叫んでいる。
娼婦は、きょとんとした表情で詐欺師を見詰めているだけだ。
「解ってないのか? お、お前。ス、スライムに、食われ、食われてるんだぞ!」
「はぁ? ナニ言ってるの? ふざけるのも大概にぃいいいい!」
サイの身体が大きく震える。
少しだけ消化したのだろう。
絶叫は、顔や手足などの保護されていない部分が溶かされて、激痛が走ったから出たのだ。
娼婦の衣服が溶けて、あの、赤いカボチャパンツが丸見えになる。
「いだいーっ! いだいっ! だずけ! だずけでぇ、おすがるぅううう!」
人間を立ったままの状態で五人飲み込んでも余裕のある大きさになったスライムの中で、娼婦がよろよろと移動する。
カボチャパンツと同じ深紅色になった手を、必死の形相で詐欺師へ伸ばした。
「来るなっ! 来るんじゃない! 化け物っ!」
へたんと腰が抜けたように座り込んでしまった詐欺師は、それでも尻をずりずりと動かしながら背後へと逃げを打つ。
「し、しまったのよ! 解体するんじゃなくて、溶かしちゃったのよ!」
予定と違ってしまった自分の作業手順に取り乱したサイが、つい念話でなく普通に言葉を発する。
「ば、馬鹿な! スライムが人語を話せるだと!」
詐欺師が驚いた次の瞬間、上手い儲け口でも考えついたかのように、貪欲に歪んだ微笑を浮かべた。
既に自分自身もサクラによって、取り込まれているのに気が付いていないらしい。
「お、おい! そこのスライム! 我が、そんな小娘より素晴らしい主に出会わせてやるぞ! さっさと中身を消化して、我の元へ来るがいい! そして、我に従え! 一時といえ、王族たる我に仕えられる栄誉を賜れるのだ。光栄に思うがいい!」
「な、何を馬鹿なことを言っているのよ! アンタだって! アンタだって、スライムに食われている癖にっ!」
罵倒は鮮明な言葉に限ると判断したのか、娼婦の声が随分とマシなものになっている。
だが、娼婦に自覚はあるのだろうか?
恐らく自慢にしていたに違いない、見事な乳房が跡形もなく溶かされてしまっているのに。
「……痛覚は切ったのかしら?」
「お互い、もうだめぽーっていう、自覚が出るまでは切っているんじゃないかと思うのねー」
「なるほどねぇ」
頷きながらも、ただ見ているだけなのは退屈なので、お茶でもしようかと首を傾げる。
漂っているはずの噎せ返るような血臭は、肩の上に乗っているローズのお陰なのか全然感じない状態だ。
「そう言えばこの手の犯罪者って、死にましたよーって届けたら、何かしらの報酬って貰えたりするのかなぁ?」
小屋で未だ悪夢に魘されているだろう彼女達の慰謝料にでもなればいい。
「この世界の人間は、死ぬと子供の握り拳ほどの石みたいな物を残すのねー。それにはその人の一生が刻み込まれているのねー。だからそれを持って冒険者ギルドとかに行けば、犯罪歴に応じて、報酬が貰えるのね-」
「死体は随分見てるけど、石はなかったような?」
「ん。死体の前で『死せる者よ! その人生の全てを余すことなく吐き出して、来世へと向かうがよい!』と囁けば出てくるの! ちなみに、私達でもできるの!」
この人数を一人で囁いて回るのは大変だなぁと、遠い目をしてしまったが、手分けすればそこまで難儀でもなさそうだ。
「聖人ほど石は重いのねー。こいつらは悪人だから軽くて持ち運びに便利なのねー」
「なんていうか、良く出来たシステムだねぇ」
犯罪者の死がダイレクトに金になるのだ。
少しは被害者も救われるだろう。
特に家族などがいるならば尚更だ。
「そんな訳はなかろう! 我がスライム如きに捕食なぞされるものか! 全く自慢の乳房が無残にも消え失せたから、八つ当たりなのか? はっ! 所詮は娼婦。屑だから仕方ないな!」
「はぁ? アンタこそ、守ってくれるイスマエルもいないってーのに、よくそこまで強気でいられ! きゃああああ! 私の! 私の胸があああっ!」
罵倒の言葉は続かないが、絶叫になったところでうるさいのには変わりない。
娼婦の落とした目線の先には、腹よりもへこんだ皮膚が映り込んでいる。
しかもその皮膚は、どろどろに溶け重度の火傷でも負ったような、痛々しい状態だ。
「え? ちょ? 待って! 何で痛くないわけ? おかしいじゃないの。こんな酷い怪我してて痛くないとか! ……解ったわ! 幻覚なのね? スライムが幻覚のスキルや魔法を持っているわけないから、小娘! アンタがやっているんでしょ、おおおおおおおぅうう!」
私に向かって駆け寄ろうとして娼婦は転んだ。
サイが当初の予定通りに右足を解体したらしい。
一瞬で娼婦の右足が太ももから、ごっそりと消え失せた。
「げ、幻覚! 痛みがないから、幻覚なのよ! これはあっ! いい加減止めなさいよ、小娘ぇええええっ!」
起き上がろうとして難しいらしく、諦めて這いずって近寄ろうとする、その精神力は賞賛に値するかもしれない。
何とか這いずって、サイの身体と外への境界線まで辿り着いた。
恐る恐るサイの身体に触れた指はしかし、即座に引っ込められた。
「ひぎぃいいい! 痛いっ! 痛いぃ!」
触れた右手3本の指は見事に第一関節が溶けて、骨が剥き出しになっていた。
「どうしてぇ? 幻覚じゃないのぉお!」
どこまでも響き渡る金切り声に、 自分が娼婦と同じようにスライムに囚われてしまったのかと、座り込んだまま周囲を伺っていた詐欺師の身体が、ぴょんと滑稽なまでに高く飛び上がった。
女性二人をどうしようか、実は迷っています。
詐欺師と娼婦も、死に方を微妙に迷っています。
次回は、因果応報とスライムも言う。(仮)になります。
お読みいただいてありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。