甘い物は別腹のようです。
ムースもゼリーも好きですが、ババロアが好きです。
時々作ります。
この季節になると苺のババロアが無性に食べたくなりますね。
後半にいきなりの残酷描写が出てきますので、お読みの際はご注意ください。
スライムと二人が競うように肉を食べ尽くしていたが、ようやっと満足したらしい。
リリーが、ダイエットしなきゃなのかしらねぇ? と、全身を震わせている。
スライムにもダイエットが必要なのだろうか? 体型は全く変わった気がしない。
「やー美味だった! どの肉も甲乙付けがてぇ!」
「全くだ。クックルーからあれほどの肉汁が出るとは驚きだったな。オスカル様にもぜひとも召し上がって頂きたい……機会を設けては頂けないだろうか?」
「あー、オスカルの奴、俺様が食べられないのはおかしいとか言って、逆ギレしそうだしなぁ。どうだ、嬢ちゃん。対価は支払うから、考えちゃくれねぇかい?」
「そう、ですね。後数回取引をして、多少の信頼関係ができたなら考えます。村長さんからは、どうにも……取引してやってんだよ! という強い気配を感じてしまいまして、対等な取引が出来ない可能性が高いと思っております。あの女性も苦手ですし。よって現時点ではご遠慮申し上げます」
「そっか……」
「ならば、現時点では無理強いはすまい」
もう一押ししてくるかと思ったが、意外にも引いてくれた。
詐欺師と娼婦の態度があんまりな自覚はあるようだし、私の価値が想定以上に釣り上がってしまったのもありそうだ。
引かねばデザートを出さずに即時お帰り頂いてもよかったが、盗賊相手とはいえ最低限の礼儀は保ちたかったので、スライム達に目配せをする。
「ありがとうございます。誠意には誠意で応えたいと思っていますので、その点はご安心ください。デザートは レッドベリーのムース スライスレッドベリー乗せと、ニードルビーの蜜入りナオール花茶になります」
「す、スライム?」
皿を置いた途端、ふるるんと軟らかそうに揺れた様子が似ていたのかもしれない。
特にサクラと目の前のレッドベリームースを交互に凝視している。
「いいえ。勿論違いますよ? すうっととろける口溶けが最高のムースという故郷のデザートです。動き出したりしませんから、心配せずにスプーンで掬って召し上がってください」
丁寧に説明するもサンダリオは、スプーンの先でムースを突いている。
イスマエルが意を決したように、たっぷりとスプーンで掬い取って目を瞑ったまま口に入れた。
サンダリオが様子を伺う横で、イスマエルの目がかっ! と見開かれる。
漫画でよく見る、うまいぞー! と目から光線が出そうな、目力の強さだった。
「そ、そんなに美味なのか?」
無言で二口目を掬うイスマエルをちらちら横目で伺いながらも、サンダリオはスプーンに、それで味わかるの? という少量を乗せて口にした。
「っ!」
全く同じように、うまいぞー! 光線が出された。
「お代わり!」
勢いよくイスマエルが皿を差し出してくる。
「お気に召しましたか?」
笑顔のままで皿を受け取れば。
「す、すまない! あまりの美味しさと感じたことのない口溶けに我を忘れてしまった。その……お代わりを頂けるだろうか」
甚く恐縮した様子で訴えられる。
「ええ、喜んで」
「お、俺も頼む! スライムとか言って悪かった。これは最高のデザートだ!」
『美味しい物と同一視されるのは、構わないのです』
『んっ! むしろスライムムースとか名前がついても光栄なのっ!』
スライム達を見る目が好意的になるのなら、それもあるのかもしれないと、サクラとモルフォの言葉に頷きながら、お代わりをたっぷりと乗せる。
「ナオール花茶も一緒にどうぞ? 葉と球根のみしか利用されていないようですが、故郷では花をお茶に使うんですよ」
「……もしかして、まだまだナオール草に使い道、あるんじゃねぇのか?」
「ええ、そうですね。本当に容易く入手できて、色々な場面で役に立つ素敵な素材だと思います」
具体的に、どう使えるか、なんて、教えるつもりはない。
情報には当然対価が必要なのだ。
サンダリオもそれは重々承知しているだろうに。
「これ、は……ニードルビーの蜜ではないだろうか?」
「ええ、そうです。よくご存じですね?」
「オスカル様がお使いになる前に毒味をした時に、覚えた味だ。美味だな……」
イスマエルがほーっと力の抜けた溜息をついている。
癒やされてくれているらしい。
「何とも表現しがたい味だな。庶民の味とも高貴な味とも言えるし、甘い物が大好きな奴でも、むしろ苦手な奴でも飲めそうだ」
「何はともあれ、美味だ」
「ああ。それは間違いねぇ」
イスマエルの言葉にサンダリオがしみじみと頷いている。
ナオール花茶とレッドベリームースの癒やし&ストレス緩和効果のお陰で、二人の気配から不穏なモノがごっそりと抜け落ちていた。
案外、悪人矯正用の飲み物&食べ物としても使えそうだ。
ティーカップを傾けながら、土産を持たそうか迷って止めた。
土産話だけでも十分だろう。
スライム達があいた皿やカップなどを片付けだして、ようやっと二人が腰を上げる。
「今日は本当に、ご馳走になった! 全部が全部最高に上手かったぜっ! 今後もぜひ、末永くお付き合いいただきてぇものだぜ!」
「不遜な態度は改めるようにさせるので、村への永住なども考えていただければありがたい」
「お言葉は、胸に。繰り返し申し上げておりますが、今後の対応次第とさせていただきますこと、ご了承くださいませ」
何とか確約を引っ張り出そうとしているが、口約束もするつもりはない。
明日は私と直接取引する話が既についているのだ。
それ以上の譲歩は無用だろう。
「あー。もう村の飯とか喰えねぇよ! なぁ、嬢ちゃん。食堂とか、やんねぇか? 食材はこっちが全部用意すっからよぉ」
「……サンダリオ」
村の食材在庫状況は危機迫っているはず。
少なくとも、まだ元気な村人全員が満足する食材など提供できないだろう。
私の持ち物をあてにされるのはいただけない。
「つっはぁ! 悪かったよ! 明日の取引が上手くいったら、ちったあ前向きに考えてくれよな!」
私は微笑だけで返事をする。
いい加減しつこい。
「馳走になった。行くぞ、サンダリオ」
「はぁ……名残惜しいぜ! また、明日な! 嬢ちゃ!」
扉を開けると、イスマエルに背中を押されて嫌々出て行こうとしたサンダリオの頭を一本の矢が貫通した。
こめかみを見事に貫いていた。
目の前で、サンダリオの瞳がぐるんと回転し、白目を剥く。
口からはぶくぶくと泡を吹いていた。
猛毒が鏃に塗り込められていたに違いない。
貫通した矢は絶対防御で弾かれて、床に突き刺さる。
同時にサンダリオが地面に倒れ込んだ。
全身をびくびくと痙攣させている。
死まで、秒読みの状態だろう。
「何故ですかっ!」
イスマエルが声を上げる。
イスマエルの身体には、弁慶の立ち往生のように、無数の矢が突き刺さっていた。
サンダリオと違い、前後不覚にならないのはさすがだな、と思う。
基礎体力が絶対的に違うのだろうし、毒味などで耐性がついているのだろう。
「このっ! 裏切り者がっ! 二人で美味な食事を独占しやがって!」
矢をつがえていたのは見知らぬ村人の一人だったが、その隣には詐欺師が立っている。
「は、ぁ?」
詐欺師の言葉にイスマエルが、何を言っているか解らないと、大口を開けた。
私もイスマエルと同じ気分だ。
「ずうっっと、良い匂いがして! フルコースを堪能しただろうが! どうして、俺様を呼ばない! おかしいだろう!」
お前の頭がなーと、詐欺師の耳には決して届かぬ突っ込みを入れる。
もしかして人外による精神汚染の効果で、狂気に堕ちてしまったのかもしれない。
「自分が、いなければ、オスカル、さま、あなたどうなさるおつもりですか……」
気力だけの仁王立ち。
だが既にイスマエルの目は死んでいる。
毒のせいではない。
次に吐き出されるだろう詐欺師の言葉を恐らく、明確に予想しているのだ。
「はっ! 貴様などいなくても、どうとでもなるわ! この木偶の坊がっ!」
案の定、愚かな言葉を吐いた。
イスマエルの瞳から静かに光が消えてゆく。
「そら、どけ! おい、貴様! 俺様にフルコースを出すのだ! 奴等に出した物より豪華な物を出すのだぞ!」
暗い瞳から生気が完全に消え失せるのと同時に、イスマエルの身体は詐欺師に突き飛ばされて、地面へと沈んでしまった。
*今回ステータスの変動はありません。
喜多愛笑 キタアイ
料理人 LV 3
スキル サバイバル料理 LV 4
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV∞ 愛専用
命止魔法 LV3 愛専用
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
次回は初の対人戦です。
や、今までで既に随分死んでいますけども、本人が殺すよー、と覚悟を決めた初の対人戦闘ということで。
主人公の攻撃系オリジナル魔法を使うまでもなくスライム達が瞬殺してしまいそうですが。
というか、全員微動だにせずとも、ローズの攻撃全反射な防御で完全勝利できるんですけどね。
どうしようか悩んでいます。
次回は、同情の余地もなし。(仮)になります。
お読みいただいてありがとうございました。
次回も引き続き宜しくお願いいたします。