スライム愛好会を訪ねてみる。9
長期治験をやっていたのですが、次回で終了となりました。
あまり行かない場所なので、せっかくだから美味しい物でも食べようかしら? と思って色々調べたのですが……何処のお店も想定しているより1000円ぐらい高く感じて驚きます。
時々困った客が来るけれど、基本はスライムと安全に触れ合いたいとやってくる人が多いので今後も触れ合いは続けたいですね……と笑顔で語ったクリストバルが、一階に下りた途端、その表情を一変させた。
「……またですか!」
視線の先には受付。
男女二人が並んで対応している。
そこまで混雑しないと聞いていたが、受付の前には行列ができていた。
「冒険者殿!」
クリストバルが受付の前に立つ男性に背後から声をかけると、大柄な男が振り返る。
「お! 会長さん。今日も元気にスライムを愛しているのかよ」
にやにやと浮かぶイヤラシイ笑みはクリストバルを馬鹿にしくさったものだ。
「当愛好会の会員に絡むのは止めてください!」
そう。
混雑の理由は冒険者が受付嬢をしつこく口説いていたからだ。
普段は温和なのだろう受付嬢の顔には隠しきれない怒りが見える。
隣の男性も見かねて注意をすれば、受付が更に混雑するのは仕方ないだろう。
「絡んでねぇよ? 口説いているだけだ。知ってんだろ。受付嬢と冒険者のお付き合いが多いってーのは」
「冒険者ギルドの受付嬢と冒険者のお付き合いが少なくないのは知識として持ち合わせておりますが、当愛好会で冒険者とお付き合いをしている方は少ないですね。どころか苦手にしている方も多いですよ。何せ冒険者はスライムを捕獲するより駆逐する側として認識されておりますから」
受付の二人が大きく頷く。
並んでいたお客たちも大半が頷いていた。
スライムはモンスターの中でも弱いモンスターに区分されている。
冒険初心者が経験を積むために選ぶモンスターの一角だ。
大体の冒険者は自分の実力に応じたモンスターの討伐へとシフトしていくが、まれに弱いモンスターばかりを倒して悦に入る輩がいる。
恐らくこの冒険者は弱いモンスターばかりを狩るタイプなのだろう。
命大事に! の信条が悪いとはいわない。
むしろ無謀な者が多い冒険者には勧めたいと思う。
だが弱者虐めのノリで弱いモンスターばかりを倒すのは、ちょっと違う気がするのだ。
「心が狭いよなぁ。愛好会と名乗ってるけどよ。この会は俺らよりたくさんのスライムを殺してるんだろ?」
「……実験の結果、死んでしまった個体が一体もいないとは言いません。ですが、殺す前提の実験は一切しておりませんよ」
「口では何とでも言えるよなぁ。スライム殺して金儲けができるなんて、羨ましい話だぜ」
クリストバルの肩を叩こうとするので、止めようかな? と動く前に、ローズが冒険者の手を派手に振り払った。
無事に幼女とスライムを送り届けたようだ。
「ち! んだよ、躾がなってねぇ……」
「躾がなってないのはそちらでしょう?」
ローズは私の肩の上。
私の背後には巨大化したうちの子たち。
客や研究員は、おー! と驚きの声を上げているが、そこに恐怖は感じられなかった。
「で。受付嬢を口説きに来ただけならとっとと帰宅してもらえる? ってーか、惚れた女が頑張ってる仕事の邪魔するとか嫌われる男の典型よ」
「か! 買い物にも来たんだよ。口説いたのはついでだ、次いで!」
「女性を口説くのが次いでなんて……貴男、女性にモてないでしょう?」
周囲がどっと沸いた。
ちがいない!
そんな声まで聞こえる。
「ち! 余計なお世話だよ、ばばあ!」
「え、私ばばあ呼ばわりされるほど、老けて見えるの?」
「いいえ。フォルス様はお若いですよ。そこの冒険者が嫉妬しているだけです」
「「その通りです!」」
受付の二人は大きくクリストバルの意見に頷いた。
行列の客も頷いてくれる。
「どうしておじちゃんはお姉ちゃんを虐めるの? お姉ちゃんが可哀想だよ!」
幼女などは力説してくれる。
お姉ちゃんと、おじちゃん。
実際どちらが年齢が上かはさて置き。
幼女の目には私の方が若く見えているようだ。
「ち! どいつもこいつも、うっせぇな」
冒険者は床に唾を吐き捨てて奥へ入っていった。
この分だと中でも何か仕出かしそうな、嫌な予感しかしない。
冒険者の背後についていた、従者? 冒険者? パーティーメンバー? の二人が、ぺこりと頭を下げて、唾も丁寧に拭き取って後をついていく。
「……出入り禁止にはしないの?」
「何時でもしていいと、冒険者ギルドからも言われているのですが……」
「おつきの二人が不憫とか?」
「ですね。そちらの問題は冒険者ギルドが介入しているようですが、解決に時間がかかっているようで」
「なるほどね……でも、そろそろ決断をした方がいいかもよ。受付嬢さんも可哀想だわ」
「一応迷惑料は支払っています」
受付嬢がにっこりと笑ってくれる。
現時点でできる手配はしており、それ以上は他の組織の結果待ち……といったところか。
「何かこう? 嫌な予感がするわ。奴を追いかけましょう」
「また不愉快な思いをされてしまいますが……」
「自分から首を突っ込むんだもの。ある程度は許容するわよ。自己責任だってわかっているから、安心してね」
「安心できません……」
クリストバルが肩を落とす。
うちの子たちが、わかるよー! とばかりに、クリストバルを宥め始めた。
それでもクリストバルは奥へと案内してくれた。
奥はスライム愛好会が販売権を持つあらゆる商品が販売されている。
便利グッズに食材、イートインコーナーも設けられていた。
お客も多く、なかなか賑わっている。
「お客様! 何度も申し上げておりますが、スライムの販売は行っておりません!」
「けちくさいことを言ってんじゃねぇよ。俺のような常連には特別なサービスがねぇと、なぁ?」
またしても販売員に絡んでいる先ほどの冒険者。
販売員はやはり若い女性だった。
「前から目をつけてんだよ。こいつ、スライムとは思えないほど戦闘力があるじゃねぇか。肉壁ならぬ、スライム壁にしてぇんだ」
従者の一人が抱えているのはうっすらと黒いスライム。
抵抗しないのは、販売員や従者を慮ってのことだろう。
冒険者を地味に威嚇しているのだが、冒険者には通じていないらしい。
実力がない上に鈍いようだ。
「ただで、譲れって言ってるわけじゃねぇ。きちんと金も払うって言ってんだ。いい客だろう?」
販売員はぶるぶると拳を握り締めている。
目の端には涙が浮かんでいた。
自分の不甲斐なさが悔しいのだろうか。
涙目がクリストバルと私たちを捉える。
大きな目が見開かれる。
クリストバルは彼女に頷いて見せた。
「……参考までに、おいくら、支払って、いただけるのでしょうか?」
「一ブロンだな!」
「寝言は寝て言え!」
瞬間で返事をしていた販売員さん。
うん、気持ち、わかるよ。
「会長! 彼は出入り禁止でお願いします。うちの子を一ブロンで買うとか許せません」
「そうですねぇ。一ブロンとかないです、ええ」
日本円換算百円。
一億でも十億でも売らないけど。
お金に換算なんてできないけど。
最低限って、あると思うのよ。
「……今まで失礼いたしました」
スライムを抱えていた従者がクリストバルにスライムを手渡した。
「さぁ、行きますよ。ここも、出入り禁止です。あーこれで出入り禁止じゃないの、冒険者ギルドくらいですね」
「や。こちらで出入り禁止になったら、冒険者ギルドも出入り禁止じゃなかったか?」
「そうだった! これでやっと解放されるぜ!」
二人は手を取り合ったあとで、スライムを優しく撫でた。
どうやら従者二人はスライムが好きらしい。
「は? お前ら、何を言って?」
どごっ! といい音がして冒険者が崩れ落ちる。
一人がよっこらしょっと背負った。
「今まで大変御迷惑をおかけしました。金輪際こいつがうろつくことはなくなりますので、御安心ください」
「ありがとうございます。自分たちもこれでこいつから解放されます。その……落ち着きましたら、こちらに伺ってもよろしいでしょうか? 触れ合いもしてみたいのです」
二人が深々と頭を下げる。
何やら良い方向へ転がったらしい。
「ええ、貴方たちだけでしたら喜んで、お待ちしておりますよ」
笑顔で頷くクリストバルに、販売員の女性も、お待ちしております! と声をかける。
背負われた冒険者の苦悶に満ちた表情と、二人の晴れ晴れとした表情のギャップはなかなかに凄かった。
喜多愛笑 キタアイ
状態 一人を除いて皆幸せで何より! と満足な心持ち。new!!
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
口止魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
大好きな作品のアニメ化が軒並み決まって嬉しいです。
忘れずに録画せねば。
次回は、スライム愛好会を訪ねてみる。10(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。