スライム達のお買い物。
おかしい。
またしても6000文字超えました。
登場人物(主にスライム)が多いせいなのでしょうか。
希少鉱物とか検索すると楽しくて仕方ないです。
書きすぎると収拾がつかなくなるので、その辺りは控えめにしました。
ちょこっとだけ主人公がBL妄想を語っています。
『ぷーくすくす。部屋の中に何もないから、あいつら驚いているのです!』
『んっ! すっごく鼻をふごふごさせてみっともないのっ!』
『うっ! せめて匂いを嗅いで、美味しさにあやかろうとするけど、余計に飢餓が増しているだけなのよ。お馬鹿なのよ!』
私達が家を出た途端に雪崩れ込んでいった男達の末路をスライム達が語ってくれる。
やっぱり出した物全てをしまっておいて正解だったようだ。
「……何かご用でしょうか? ゆっくり休まれると思っておったのですが」
おぉ。
言葉遣いが丁寧になってる。
でもまぁ、嫌味表現は変わらないらしい。
本人は嫌味のつもりではない気もするが。
「周囲が余りにも騒がしいので落ち着けないのですよ。寝てしまおうかとも思ったんですが、この子達が買い物をしたいと言うので、お願いしようかなと考えまして、出てきました」
色々と画策していたのだろう。
私達が出てきた事で、それも難しくなったのかもしれない。
だからと言って八つ当たりされる謂われはないのだ。
自業自得だよな? と、牽制するのは忘れない。
「スライムが? 買い物、ですか?」
「ええ。特殊個体の子達なので、とても頭が良いのですよ。私と念話も可能ですし」
「は? 念話ですか! スライム如きが?」
一流にもなれない詐欺師が何をぬかすというのか。
貴様が『如き』と貶めたスライム達の方が比べものにならないほど聡明だ。
「申し上げましたよね。とても、頭が、良い、と。今の罵倒も当然理解していますよ? ねぇ、皆?」
スライム達が心得たとばかりに巨大化する。
そしてリズム良く飛び跳ねた。
どしんどしんと地面に震動が伝わる。
何人かがバランスを取りきれずに転がる凄まじさに、詐欺師の額から冷や汗が滴った。
「この子達が望む物を用意してくださるなら、私も貴方方が望む物を用意致しましょう?」
「! 大変失礼致しました。さぁ、皆様方はこちらに!」
途端に詐欺師が表情を笑顔に変えて、村で唯一の店へと案内する。
護衛の男……イスマエルは詐欺師の背後に立ちながら、私達を牽制した。
この村で真っ当に評価する気になるのは彼だけだ。
忠誠の先が愚かな元王族でさえなかったら、もっと真っ当な生活ができたかもしれない。
店に入り、詐欺師がカウンターの向こう側へと入っていく。
イスマエルは出入り口を塞ぐ形で仁王立った。
店の外には多数の人の気配があるが、イスマエルが恐ろしいのか中に入る度胸まではないようだ。
「そして、何をご希望でいらっしゃいますか?」
「……その子達に聞いて貰えるかしら? さぁ、皆。欲しい物を遠慮なく言うと良いわ」
私の言葉にスライム達は身体の中から、すちゃりと誇らしげに自分の身体の倍ぐらいあるシルコットンの布を取り出した。
カウンターの上へ布を置き、その上へ自らの身体を乗せる。
ぴょぴょんと書き終えた順番に布から飛びのけば、布にはそれぞれの身体の色で、希望する物の名前が書かれていた。
「シルコットンの布を! なんて勿体ない!」
ぶるぶると震える詐欺師の前に、ローズがシルコットンの布を山のように積み上げる。
沢山あるから無問題! の、アピールだ。
詐欺師が手を出そうとすれば、瞬間で布は消える。
ローズが元通り体内に収めたのだ。
そして、小さな布を取り出して一言。
ローズの赤文字で書かれたのは。
始めましょう! の文字。
詐欺師はごくりと生唾を飲み込んで、スライム達が差し出した布をチェックしてゆく。
一枚確認する都度に、額の皺が深くなっていった。
「これ、は……」
「用意できませんか? でしたら、取引は中止と言うことで、宜しいですね?」
「少し! 少しだけ、お待ちください! おい! サンダリオを呼んでこい!」
「ですが、オスカル様……」
「俺は大丈夫だから! 急げっ!」
イスマエルは心配そうに詐欺師を伺いながらも店を出て行く。
「少々お待ちください。重要な物が何点かありますので、相談させていただきたく思います」
「……解りました。そちらの椅子に腰掛けても?」
「勿論です! あ、お茶を淹れますね!」
意外にも丁寧な所作でお茶を淹れてくれるので、有り難く口を付ける。
一応サクラに鑑定して貰ったが、高級紅茶・王室御用達につき美味しく頂けます! と出た。
まぁ、ここにきて薬を盛っても無駄だと解る程度の頭は持っているのだろう。
スライム達にも同じカップで、同じ紅茶を出してきたので、その点はきちんと評価するつもりだ。
スライム達が。
「んだよ! 俺は奴等を止めるので、大忙しなんだって! おっと! こいつは失礼しやした」
護衛に引きずられてきたサンダリオと呼ばれていた男がへこりと頭を下げる。
腰が低そうにも見えたが目が笑っていない。
『元盗賊頭と出たのですよ! 頭も良く腕も立つらしいのですよ! 注意するのです!』
サクラが教えてくれるので、私は笑顔で元盗賊頭に向かって頷く。
「お気になさらず。まとめ役は大変ですものね? 貴方がこの子達の希望する品物を揃えてくれるのですか?」
スライム達がすかさず、希望する品物が書かれた布を広げて見せる。
「……嬢ちゃんじゃなくて、スライムが希望しているんで?」
「ええ。この子達が作りたい物に必要なんですよ」
嘘は言っていない。
私が作ってみたい物=スライム達が作りたい物なのだと教えないだけで。
「そうですかい……いやぁ……難物ばかりですなぁ……何を作られるか聞いても問題ねぇですかね?」
詐欺師より余程慎重だ。
そして情報の引き出し方も悪くない。
イスマエル同様、名前呼び確定にしよう。
「米と書かれた穀物は故郷で食べていた物なので料理に。花々はシルコットン用の染料として。鉱物はちょっとしたアクセサリーと武器を作りたいので」
「スライムが、料理、染色、鍛冶をやるってわけで?」
「ええ。この子達は優秀なのよ……本当に、ね」
目線を飛ばせば、サイがシルコットンを一枚取り出す。
解りやすいように触手でもって、可愛らしい巾着を速攻で作った。
「こ、この形状は?」
「バッグですね。可愛いでしょう?」
「見たことねぇ型だ……手に取っても?」
「どうぞ?」
サンダリオは興味深げに巾着を弄くり回している。
その手で詐欺師に渡せば、詐欺師も同じように確認し倒している。
手垢まみれになったので、ぜひともお買い上げ頂きたい。
サンプルとしてでも高値で売れるだろう。
「……花々は、乾燥した物であればすぐに。鉱物はレッドベリルとアダマンタイトだけ。米ってーのは、名前は違うけど似た物が倉庫にあった気がするので確認してきやす。後は、申し訳ねぇが在庫がねぇ」
「在庫はってことは、手に入れられる手段はあるのかしら?」
「……ああ、輸送上時間がかかっちまうが……どれぐらい村に滞在できるんだい?」
「急ぐ旅ではないけど、ここにいない方達の態度が宜しくないので、長期滞在は考えていないわ。どうしても欲しかったら、他で探すし」
肩を竦めれば、詐欺師とサンダリオが素早く目配せをする。
外はイスマエルが止めているようだが、先刻よりもうるさくなっていた。
「倉庫から、該当する物を持ってくる。それぐらいの時間は待って貰えるよな?」
「ええ、さすがに」
サンダリオは飛ぶように店を出て行く。
ドアを開けた途端に雪崩れ込もうとした男達は、サンダリオとイスマエルに弾き飛ばされている。
スライム達はカウンターの上で交渉する気満々で、シルコットンの他に、それで作った小物や衣類、熱々のままの料理各種、その料理の素材などを並べ始めた。
詐欺師の目は血走っていて、今にも本能の赴くままに暴走しそうな気配だ。
後一押し、かな?
私はモルフォが出してくれたスコーンを片手に、引き続き優雅にお茶を飲む。
リリーが欲しい物の追加に、主が今飲んでいるお茶の茶葉とティーカップと書いてくれるのに目を細めた。
「すまねぇ! 待たせた……なぁああ!」
両手にずた袋を下げて入ってきたサンダリオが悲鳴を上げる。
カウンターの上に並べられた品物の数々に驚いたらしい。
詐欺師はリリーが差し出したミネストローネの皿に、顔を突っ込みそうな勢いで匂いを嗅いでいる。
よだれが入っていないか心配だ。
「こ、これが、品物だ。確認してくれ」
サンダリオがずた袋をカウンターに置く。
カウンターの上の交渉品は、またしてもスライムの中に収納された。
ミネストローネに舌を突き出していた詐欺師も、我に返ったようだ。
スライム達はずた袋をひっくり返すと、品物を確認し始める。
サクラが頷いた品物は右へ、首を振った物は左へと避けられた。
左へ置かれた物が圧倒的に多い。
『この小袋の中が米? みたいなのです。米と鑑定では出ずに、稲 インディカ種と出ているのです』
「あーなるほどねぇ」
どうやらこの世界では籾殻付で保管しておくらしい。
インディカ種があるのなら、ジャポニカ種も期待できそうだ。
「何か問題でも?」
「いえいえ。こちらの穀物が探していた米ではなかったのですが、近しい種類だったので思わず頷いただけですよ。スライム達が気に入ったのは、右側の品物ですね。他は……」
スライム達が容赦なく布を掲げる。
品質が悪い! と。
「あぁ? んな、はずねーぞ! こっちのレッドベリルは王宮御用達の品物を横流……んんん! どうにか譲り受けたもんだぞ?」
ローズがレッドベリルを体内に取り込む。
瞬間で吐き出した。
説明の布付で。
「おいおいおいおい! 本当かよ!」
レッドベリルの半分以上がよく似せて作った贋作のようだった。
説明には1ブロンの価値もない屑鉱石、騙される方が悪いレベルの偽物と書かれていた。
花々は、乾燥の仕方が悪く商品価値なし! と、サクラが説明布を置いた。
「オスカルっ! てめぇ、ちゃんと鑑定したんじゃなかったのかよ!」
「……希少鉱物はアギライダも勝手に鑑定して購入しているが?」
「悪いことは全部あいつのせいかよっ! つったく! じゃあ、花は! こっちは間違いなくお前だろっ!」
「……染料としては問題かもしれないが、薬としては問題ないはずだ。むしろ、この花は薬として重宝されている」
そんな話は客の前でやらないで欲しい。
溜息をつけばリリーが、花に関しては詐欺師の意見に同意する! と布をサンダリオに見せた。
「あーあーはいはい! 俺が悪者でようござんすよ! ご期待に添えなくて申し訳もございませんねえぇ!」
けっ! と、床に唾を吐き捨てるのに眉根を寄せれば、スライム達は、先程作った巾着と詐欺師の唾が入った気がしないでもないミネストローネとミネストローネに使った食材をカウンターの上に並べた。
「……これは……さすがに少ないのでは?」
詐欺師が私に話しかけてくるが、今度は答えない。
スライムに変わって随分と丁寧な説明もした。
交渉はスライム達として貰いたい。
巾着=鉱物。
ミネストローネ=穀物。
食材=花々。
問題ないのよっ!
「このバッグが希少鉱物代? 暴利だろう?」
作るところを見てたじゃない!
制作工程=完全再現=流通していない希少商品レシピ。
しかも現品有!
むしろ、随分と良心的な取引だと思うけどっ!
「穀物欲しかったんじゃねぇのかよ? スープ一杯はなぁ。せめて10人分はねぇと!」
寝言は寝て言うのです。
穀物は望む物ではないです。
望む物に近い物だ、と、主は言ったのです。
スープ一杯。
これだって料理人が食べれば、再現できるかもしれないのです。
サービスしすぎだって、思っているのです!
「は、花々は本来、薬用に用意していた物だ。薬用としては高品質だというのに、文句をつけられるのは筋が違うだろう?」
何に使おうと客の勝手なのねー。
薬用以外に使える=販路が広がると解ったのねー。
筋が違うのは、そっちの方なのねー。
本来は伏して感謝すべきなのねー。
初めての取引で、主の顔も立てて、随分とおまけをしてあげたのっ!
そんなことも解らないでごねる人達とは、主も取引したくないと思うのっ!
布にはカラフルな文字が躍っている。
私の気持ちを120%理解してくれている可愛い子達に、眦が自然と撓んだ。
「……スライム達の言うとおりですね。不満があるようであれば、この取引はなかったということで」
私は、パン! と手を叩くと席を立つ。
スライム達に目配せをすれば、例によって一瞬で品物は収納された。
インディカ種はちょっと惜しいけれど、あるのが解ったのだから検索もできるだろう。
ジャポニカ種が見つかる日もきっと近いはず。
「ま、待ってくれ! 申し訳なかった! 今ので構わない! 取引をさせてくれ!」
「す、すまねぇ! 調子に乗った。 こっちの花と鉱物を詫びにつけるから、どうにか取引をさせて欲しい!」
やはりサンダリオはブラボーだ。
言葉だけの謝罪など、商人同士の取引で無意味だと解っている。
詐欺師も爪の垢を煎じて飲んで欲しい。
「サンダリオさんの詫びに免じて、お受けするのはどうかな?」
サクラがすかさず花と鉱物を鑑定する。
両方とも私達が望む使い方ができる品物だった。
しかし、ここまで読んでいたのだとしたら、恐ろしい頭の回転の早さだ。
何か特殊スキルでも持っているのだろうか。
それとも。
今までこうして幾度となく詐欺師の尻拭いをしてきたのだろうか。
ありがとうねーサンダリオさん。
良いお取引ができたのねー。
これは誠意に答える一品なのねー。
凄く美味しいのねー。
リリーが触手を伸ばし、プレーンなスコーンをサンダリオに手渡している。
サンダリオは、無言で口の中に入れた。
詐欺師の制止も当然間に合わない素早さだった。
「……うめぇなぁ! これは、パンか? 菓子か?」
「朝食代わりにする人達もいたけど、お菓子として扱われる方が多いかな?」
スコーンは存在しないのだろうか。
詐欺師が奥歯をぎりぎりいわせながら、サンダリオを憎々しげに凝視するのを見ると、貴族階級が好む高級品っぽいようだ。
「ごっそさん。ありがとな!」
晴れ晴れとした顔でリリーの頭を撫でている。
純粋な感謝しかなかったようで、リリーも抵抗はしなかった。
スコーンがとても美味だったのだろう。
「……明日は、貴方とお取引頂けるのでしょうか?」
「ええ。お約束の通りに」
「……もし、宜しければ代金を支払うので、料理を食べさせては貰えないだろうか?」
「おい! オスカル! てめぇっ! 一人で喰ったのか、あの料理!」
何時の間に食べたのか、全く気が付かなかった。
驚いていると、モルフォが見ていたらしく、一瞬の早業だったのっ! と教えてくれた。
詐欺師の唇にはミネストローネを飲み干した艶やかな痕跡が僅かに残っている。
「サンダリオだって食べただろうが! あんなに美味しそうなスコーンを!」
「スコーン……スコーンっていうのか……美味かったなぁ……」
「……イスマエルさんとサンダリオさんのお二人でしたら、招待致します。私、職務を全うされている、仕事の出来る方を好ましく思うので」
ぽかんと口を開けた詐欺師の顔がゆっくりと屈辱に赤くなっていく。
「俺の代わりに、オスカル様を、お願いしたい」
イスマエルも聞いていたらしい。
そんな希望を告げてきた。
どこまでも忠犬だ。
大型忠犬護衛×能なし元王族。
うん。
美味しい。
ローズを見れば、大きく頷いている。
すっかりBL脳になってしまったようだ。
「それは、駄目ですね。貴方が来ないのなら、サンダリオさんだけをお招きします」
「! 行ってこい、イスマエル!」
「ですが!」
「俺だけ行かせるよりはマシだろ、な?」
唇を噛み締めていたイスマエルだったが。
「……申し訳ない。馳走になる」
サンダリオと詐欺師の説得に負けたようだ。
「腕を奮いますね!」
私がにっこりと微笑みかければ、サンダリオは美食を想像したのかだらしない笑みを浮かべ、イスマエルは困ったように眉根を寄せ。
詐欺師・オスカルは、唇を血が滲むほどに噛み締めながら、私に向かって憎悪の眼差しを向けて見せた。
愚かすぎるわね!
と、ローズが言う。
全くね!
と、私も同意した。
*今回ステータスの変動はありません。
喜多愛笑 キタアイ
料理人 LV 3
スキル サバイバル料理 LV 4
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV∞ 愛専用
命止魔法 LV3 愛専用
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
料理魔法 レベル13 日本製調味料召喚
次回は、やはりここは、ステーキ一択で! の予定です。
解りやすい豪華さを出そうとすると、これかなぁと。
付け合わせに悩みますね。
にんにく醤油味で食べさせるのもいいかしら。
迷います。
お読みいただきありがとうございました。
引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。