ヨユヒャネイ離宮の夕食。前編
髪の毛を切ってきました。
すっきり。
ここ数年同じ美容院を使っています。
炭酸シャンプーが気持ち良いんですよね。
スライムたちとまったりした時間を過ごしていたら、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「お夕食の準備をさせていただきたいのですが、よろしゅうございますでしょうか?」
低めの渋い声は案内してくれた執事ではないらしい。
少々残念に思いつつ入室の許可を出した。
「失礼いたします」
直角に頭を下げられて、高さのあるコック帽が落ちないか心配してしまう。
「コック長のバルドゥイノと申します。今宵は皆様でお楽しみいただけますよう、ビュッフェ形式で提供させていただきます」
おぉ、さすがの心配り。
というかスライムたちにコース料理を提供するのに抵抗があったのかな?
一流のホテルだし。
や、一流のホテルだからこそ、そんな考えはしないか。
バルドゥイノの背後からもワゴンを押してコックたちが入ってくる。
余談ではあるが全員顔が整っていた。
バルドゥイノも若い頃はさぞ苦労しただろうな? と思うレベルの美形だった。
一流ホテルに勤務するには、顔が良くなくては駄目な説は本当なのかもしれない。
「こちらがメニューになります。料理の説明なども簡単ではございますが、明記させていただきました」
手渡されたのは冊子。
ぺらっと一枚の紙じゃないあたりが凄い。
一枚目にはこう書かれていた。
写真レベルのイラスト付だ。
前菜五種類の内の一品。
二色のフラカリワー(カリフラワー)フレンチサラダ。
ホワイトとイエローのフラカリワーとベイビーリーフ(ベビーリーフ)をフレンチドレッシングで和えた一品。
食材は全てヨユヒャネイ離宮産を使用。
括弧内の説明は誰が書いたのだろう。
明らかに転生もしくは転移者じゃないと書けないと思う。
質問しようか迷ったが、ここは触れずにおくことにした。
「素敵なメニューですね。食べながら拝見しても構いませんか?」
「勿論でございます! 記念にそのままお持ち帰りになる方も多いので、フォルス様にも是非」
「ええ、勿論持ち帰って思い出の品にさせてもらうわ」
「料理人冥利に尽きる御言葉をありがとうございます」
笑顔が眩しい。
思わず目を細めてしまった。
バルドゥイノが運んできた物はサイズからしてメインだろう。
ビュッフェでよく見かける、蓋付の銀色に輝く容れ物に入っているので中は見えない。
蓋の隙間から湯気は出ていないが、できたて熱々の予感がする。
他のコックも様々な容器を運んでいた。
どれも中が見えないのが心憎い。
「人を置かれますか?」
ライブキッチンとかも好きだけどね。
質問があるってことは、いなくても平気。
つまりライブキッチンはない模様。
「あ、好きに食べるから、それは大丈夫です」
ないのであれば特に必要性を感じない。
手を借りたければスライムたちがいるしね。
「畏まりました」
私にだけされた質問なのかな、と思う。
コックたちが驚いていたから。
ここに宿泊する人たちは基本、全部人にやってもらうのが当たり前だから無理ないのかも。
「お食事が終わりましたら、そちらのベルを鳴らしてくださいませ」
テーブルの片隅に置かれている銀色のベル。
一見装飾が繊細なただのベルに見えるが、これも魔道具の一種なのだろう。
距離があっても、指定した人物や場所にだけ音が届くような。
スライムたちがいなかったら普段使いをしたかもしれない。
「はい。そうさせていただきます」
「何か御質問等ございましたときにも伺いますので、ベルをお願いいたします」
バルドゥイノが深々と頭を下げるのに、他のコックたちもならった。
何時の間にかセッティングが全て終わったらしい。
美味しそうな匂いが暴力的に漂っている。
「それではごゆるりと御賞味くださいませ」
バルドゥイノの言葉を合図にコックたちが部屋を出て行く。
一人だけ扉の前でお辞儀をするのを忘れていた。
あとで怒られるんだろうなぁと苦笑する。
穏やかな表情のバルドゥイノが一瞬だけ鋭い目をしたからね。
「どれも美味しそうなのねー。取り分けてあげてもいいのねー」
「ははは。お気持ちだけで。しかし食器類も素敵ね」
「ヨユヒャネイ離宮オリジナルの食器なのです。限定販売もしているのです。王宮でも使われているのです」
「あら、随分と手広くやっているのね」
「私は肉料理からいただきますわ!
ローズが宣言した。
「好きにすればよいのです」
思わずサクラ口調になってしまった。
当然誰も気にする者はいない。
スライムたちはそれぞれ好きな料理から攻略にかかるようだ。
私はせっかくのメニュー冊子なので順番にいただくことにした。
……のだが。
先ほど見落としていたコメントを発見する。
料理のイラストに釘付けだったからね。
それ以外は目がスルーしていたらしい。
気がついて良かったよ。
お食事を選ぶ前にワインは如何でしょうか?
とのコメントだ。
なるほど。
ワインは前菜から楽しみたいので有り難い。
ワイン紹介のページに誘導される。
三種類のワインが記載されていた。
ホワイトワイン 辛口
コルケ・グレートウォール産のグリーンベリー(マスカット系)で作成。
爽やかですっきりとした味わい。
グリーンベリーの香りは優しく鼻を擽る。
魚料理におすすめ。
レッドワイン 辛口
ガダラリンダ産パープルベリー(メルロー系)で作成。
渋みと酸味のバランスが絶妙。
パープルベリーの香りが心地良く鼻を抜けていく。
肉料理におすすめ。
ピンクワイン 甘口
ノイリマトラ産ピンクベリー(異世界種)で作成。
フルーティーな甘さ。
強い芳香が鼻の奥に一瞬だけ残る。
乾杯用、食前酒、デザートワインにおすすめ。
それぞれ微妙に形の違うワイングラスが描かれている。
そこまで気にしたことはなかったのだが、ワインによって異なるグラスが推奨されているようだ。
せっかくなのでお勧めに従ったグラスで堪能したいと思う。
まずは食前酒。
異世界産のピンクワインよね。
……っていうか、異世界産とか書かれていても誰も気にしないのかしら?
私の情報がダダ漏れで大丈夫なのかしら?
大丈夫じゃなくてもスライムたちがいる以上、最悪にはならないと思うけど。
いそいそとピンクワインが置かれている場所に足を運ぶ。
ワイングラスの前にプレートが置いてあった。
食前酒用の小さいグラスにピンクワインをそそぐ。
可愛らしい色合いだ。
まさしく桜色。
「誰かー! せっかくだから、かんぱ!」
い、は言わせてもらえなかった。
「「「「「乾杯!」」」」」
スライムたちが一瞬で側に寄ってきてグラスをあててくる。
「もぅ。最後まで言わせてよ、乾杯! あら、甘いのにすっきり。これなら食中ワインでもいけるわね」
「三つのワインの中では一番アルコール度数が低いのです。私はこれを中心に飲むので、愛もそうするのです」
サクラの場合は色が気に入った説もあるが、ここは頷いておく。
二杯目を注ぎかけて、前菜には白ワインかな? と思い直し、これまたおすすめグラスに白ワインを注いで席に戻った。
ワインを置き、前菜を一通り手にすると今度は席に座る。
開いたままのメニュー冊子を改めて見詰めた。
前菜一品目、二色のフラカリワーフレンチサラダ。
真っ黒い小皿に二口分乗っていた。
彩りも綺麗だ。
写真に撮らなくてもイラストとして残るのは嬉しい。
前菜は全種類一口ずつ器に盛られて並んでいる。
人数分以上並んでいるのは、もっと食べたい人用の手配なのだろう。
味はさっぱりと美味しい。
フラカリワーの食感も好ましかった。
汚さないようにと、少し離れた場所に置き直した冊子を捲る。
二品目はネギタマのムース。
旬のネギタマ味を極力生かす味付けで仕立てた一品。
食材は厳選されたアタリプォ産(高級ネギタマの有名産地)を使用。
実物と瓜二つで思わず冊子と器を並べてしまった。
真っ白いネギタマムースの上に薄茶色のフライドネギタマが乗せてある。
スイーツが入っているようなガラスの器は、説明なしで見ると甘い味を想像してしまう。
「わ。とけた」
口の中ですっととろける舌触り。
フルーツのような甘さはないが、ネギタマのやわらかい甘さをわずかに感じた。
ネギタマ独特の香りもほとんどない。
フライドネギタマがなければ飲めてしまえた。
サクラが気に入ったらしい。
視界の端で、追加で三個も取っていた。
喜多愛笑 キタアイ
状態 御飯が美味しくて満ち足りています new!!
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
口止魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
主人が分厚いポークが美味しかった! と言っていたお店が、駅近くにできたと聞いて一人で行ってきました。
美味しかったです!
次は完売していたプレミアムセットに挑戦したいですね。
次回は、ヨユヒャネイ離宮の夕食。中編。(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。