教会に到着しました。
バレンタインチョコレートを狩ってきました。
楽しかったのですが、何と人酔いしてしまって、体力のなさに驚き。
血を抜いたあとだったからだと思うのですが。
そして、一番欲しかったチョコレートが完売しているのは何時ものことです。
とほほ……。
ボノのお蔭ですっかり賑やかしとなった馬車の中、想像していたよりは退屈しない充実した時間を過ごしているうちに、教会の前へと到着した。
さすが王弟殿下がトップを務める教会。
荘厳だ。
大きさも小さな城ぐらいある。
モルフォがいなかったら間違いなく迷子になる予感しかない。
マナーにそつのないスルバランがエスコートをしてくれるので、楚々とした所作を心がけながら馬車から降りる。
周囲のざわめきが一層激しくなった。
『何処かの国の王女様かしら……』
そんな声まで聞こえる。
新作のドレスは異世界人も魅了してくれるようだ。
「失礼! 御予約はお取りだろうか?」
門番らしき男が二人、走ってくる。
ボノとアランバルリが私を背中に庇ってくれた。
「当然だ! 自分はドーベラッハ街の冒険者ギルドマスター、ボノ・シプリアノ。こちらが予約証明書になる」
門番の前に証明書を堂々と突きつけるボノ。
なかなか様になっている。
「……証明書の確認をいたしました。本物だと証明されましたので、中まで御案内申し上げます」
所謂高貴な方の案内は常にこんな感じなのだろうか。
周囲のざわめきは大きくなるばかりなので、あまりみかけない待遇なのだと知れる。
まぁ、そこまで頻繁に他国の王女レベルの人間が訪れるとは思わないが。
首から提げていた十字架を証明書にあてるという判別方法は、あちらの世界でのチケット確認を思い起こさせるものだった。
十字架に証明書を当てた途端、証明書がぼんやりと青い光を放ったのだ。
ニセモノだと赤く光るのねー、とリリーが念話で教えてくれる。
「あいや、またれい!」
リアルで聞く機会があるとは思わなかった台詞に思わず吹きそうになるが何とか堪えた。
「許可証が出ている者を止めるとは、如何な理由があるのか!」
先導を買ってくれた門番が教会の中から走り出てきた男を誰何してくれる。
王都の教会を守るのに相応しい、職務に忠実な門番だ。
「そ、そのドレスに問題があるからだ!」
「はぁ?」
思わず出たのだろう純粋な疑問符。
『何言ってんだ、こいつ?』
とわかりやすい侮蔑の色を浮かべた門番は、少し語気を強めて酷く太っている教会関係者に再度言葉をかける。
「この美しくも繊細なドレスに何の問題があるというのだ? 淑女に相応しい装いであろう」
『ドレスと愛を同時に褒めるとは、なかなかの紳士ですわ!』
最近は騎士萌えを会得したローズ。
門番の格好はまさしく優秀な騎士そのものだったから、同じように萌えたのかもしれない。
「そ、そんな豪奢なドレスは見たことがない! この私が見たことないドレスなんだぞ? おかしいに決まってる!」
門番再びの、はぁ? 顔。
正直、私も何が言いたいかわからない。
ただ羨ましいだけなのかしら。
「……聖職者らしくもなく、どたどたと足音も荒く走って行ったと思ったら、淑女に暴言を吐くとは……そなたは、何処まで教会の恥をさらすつもりかっ!」
太った男性は一応聖職者だったらしい。
新しく出てきた人物は王弟殿下ではないだろう。
だがそれと同様な品格を持っているようだ。
年は老年といっていいだろう。
髪も長い髭も真っ白い。
しかし纏う覇気は全盛期のボノでも勝てないんじゃないかな? と推測できる凄まじいものだった。
「し、司教様……」
教会の階位がイマヒトツわからない。
ただ太った聖職者よりは階級が上なのだろう。
何やら一生懸命言い訳をしようと思考を巡らせているようだ。
「下がりなさい、無礼者が! 貴殿は三日間の反省室行きを命じます!」
「反省室なんて! この! 俺が? お許しください、司教様。悪気はないのです」
「悪気なくここまで無礼な真似ができるのであれば、性根が腐れておるのだろうな? 反省する期間を一週間に延ばす! さぁ、この愚か者を反省室へ!」
はっ! と深々と頭を下げたおつきの聖職者が太った聖職者を引き摺っていく。
「僕に酷いことをするなんて! 寄附金を減らす……や、止めるからなぁ」
そんな捨て台詞を残していった。
「この国に多大な貢献をしてくださる可憐な淑女に、当教会の者が大変な御無礼をいたしました。彼は即時破門の手続きを取らせていただきます」
「破門は重くないかしら。寄附金を末永く搾り取った方が教会のためになるのでは?」
「ふおふおふお。教会を案じてくださるのですな? 何とも慈悲深きお心。頭を下げることしかできぬ未熟者をどうかお許しくだされ」
「許すまでもないわ。貴男に罪はないもの」
「ご寛恕にも深く感謝いたします。彼の者は寄附金と一緒に押しつけられた者にすぎませぬ。勘違いが甚だしい者なのですよ」
なるほど、駄目な息子を教会に押しつけたのか。
それなりの寄附金が支払われたので置いてやっていたが、私への不敬で相殺どころかマイナスになってしまった。
破門で放逐は、教会側としても願ったり叶ったりなのかもしれない。
「ささ、どうぞ中へお入りください。貴殿もよく案内してくれたの。あとは我が引き受けよう」
「は! 司教様の御指示に従います」
門番は司教と自分たちに深々と頭を下げて、本来の職務へと戻っていった。
年相応にゆったりと歩く司教にならってゆっくりと足を勧めた。
教会の中に入っていけば、城のように豪奢な作りに驚く。
「大聖堂なども御案内したいところですが、王弟殿下が首を長くしてお待ちでございます。御歓談のあとにでも、案内させましょう」
興味深げに周囲を見回していたので、司教がそんな提案をしてくれる。
せっかくなので日を改めてお願いしたいところだ。
司教の足は繊細な装飾が施された扉の前で止まる。
「こちらは大司教様の私室でございます。どうぞ、ごゆるりと御歓談くださいませ」
私室へ案内されて驚く。
それだけでも大したステータスだと思う。
私以外の三人もおろおろしている。
「どうぞ、入りなさい」
何処までも穏やかな声音が扉の向こうから聞こえた。
宗教のトップに立つ者は似た声をしているなぁ、と昔から思っているが、彼もまた同じタイプの声だと感じる。
「失礼いたします」
三人が尻込みをするので、ノブに手をかける。
回すまでもなく扉が開いた。
「後ろの三人も入ってきなさい。取って食いはしないよ。アランバルリは何度も会っているだろう?」
くすくすと笑う声は鈴が鳴るような声だった。
こんな声で説法をとかれたら、百パーセント洗脳されるだろう。
「し、私室は初めてでございますが故に……」
「アイリーン殿とは末永いお付き合いをお願いしたかったからねぇ。私室へと足を運んでいただいたのだよ。おや、色とりどりで愛らしい」
私と並んで入ってきたスライムたちに目を細めている。
忌避感はないようだ。
忘れがちだけど可愛いうちの子たちはモンスター。
基本駆除対象だから攻撃態勢に入る人も少なくなかった。
「ようこそ、足をお運びくださいました。アイリーン・フォルス殿。私は王位継承権第三位サカリアス・ポルティージョと申します。どうぞ、末永いお付き合いをよろしくお願い申し上げます」
深々と丁寧に頭が下げられる。
王族とは思えない腰の低さだ。
大司教の正装なのだろう。
純白の衣装がよく似合う。
ちなみに髪の毛と瞳は鮮やかなブルーだった。
サファイアのような深みのあるブルーは信者たちを安心させそうだ。
「さぁ、どうぞ。お座りくださいませ。教会秘伝のワインも用意させました」
テーブルの上にはワインの他にも、おつまみ各種が並んでいる。
ボノの喉がごくりと音を立てた。
恐らく希少なワインなのだろう。
ソファの座り心地は最高だった。
あちらの世界なら数百万はしそうだ。
「では、失礼して……」
私がやっても良かったのだが、スルバランが給仕を買って出た。
ワインの注ぎ方はソムリエ並みに見事だった。
サカリアスはにこにこと様子を窺っている。
ボノはワインをガン見していた。
アランバルリは料理を一つ一つ鑑賞している。
どれも美味しそうだ。
「では、グラスをお持ちください」
細く美しい指先がワイングラスを持ち上げる。
サカリアスにならってグラスを持ち上げた。
真紅のワインが揺れる。
「乾杯!」
差し出されるグラスに、自分のグラスをあてる。
高級なクリスタルの、小気味よい音が響く。
ボノのワインを速攻で嚥下する音が、いろいろと台無しだったが、ワインは大変に美味しい。
「お代わりも遠慮なく……」
飲み慣れているのだろう。
ボトルに手を伸ばしたボノを咎めはせず鷹揚に微笑む。
促す微笑に背中を押された私も、お代わりを注いでもらった。
喜多愛笑 キタアイ
状態 まったり気分 new!!
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
口止魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
実家に一足早いチョコレートを持ってまったりしてきました。
行きより帰りの方が荷物が多くなってしまうのは仕様です。
家族といえど離れていると、距離感のさじ加減に迷います。
心配かけまいと事後承諾が多いんですよね……。
自分もいい年なので、その辺りの心配りは忘れないようにしたいものです。
次回は、 教会でのひととき。1(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。