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盗賊達の密談。

 別視点のターンです。

 まぁ、盗賊に落ちぶれる人達の典型的な思考なのかと。

 人数絞り込んだら、思いの外短めでまとまりました。


 12/1 メッセージで方言の表現が解りにくく誤解を招くかも? とご指摘頂きました。


 本文中の会話にあります『腹くちくなってっから』とは『お腹がいっぱいで満たされているから』といった意味合いで読んで頂けるとありがたいです。

 ちなみに自分、年配の方が使う表現、もしくは職人言葉のようなものだと思っておりました。

 ご指摘感謝です。


 

 



 バイヨンヌ村初の対策会議。

 村として機能し始めて1年。

 初の対策会議の相手がよもや、少女とスライムだとは夢にも思わなかった。

 非現実的な状況を改めて認識し直そうと溜息をついていると、全ての会議という会議に護衛としてしか参加してこなかったイスマエル・コルネが、会議開催の挨拶すら待たずに言い放った。


「アレは手を出してはいけない存在。これ以上の手出しは無用。違う村へ誘導すべきだ」


「そんな勿体ないこと、出来るわけないじゃないの!」


 椅子から立ち上がり、ゆっさりと胸を揺らしたバイヨンヌ村唯一の娼婦でもあり、首脳会議に出席を許されているアギライダ・アラニスがイスマエルの言葉を全否定する。

 少女が身につけていた高級衣料に目が眩んでいるのだろう。

 気持ちは解る。

 シルコットンマスターが確保できたなら、定期的に高収入を得られるのだ。

 今よりも安定した生活ができる。

 王都復帰への足がかりにもなるだろう。


「命惜しくば、誘導を。この村全員が全力で攻撃をしても、アレに傷一つつけられない……恐らく、その、心にすらも」


 オスカル・ガイはイスマエルの言葉に目を大きく見開く。

 世界広しと言えど、鑑定師として最高峰の実力を保持していると自負している。

 少女の鑑定結果は、魔法系に特化したソロでも活躍できそうな実力者。

 スライム達の鑑定結果は、普通のスライムよりも多少強い程度だが防御・補助系に特化した実力者をフォローするのに相応しい従者、だった。

 驚きの鑑定結果であったが、イスマエルの言葉ほどには強くないものだったのだ。


 オスカルは誰よりも、イスマエルの異常な強さを知っている。

 そして戦いに関する空恐ろしいまでの冷徹さをも理解してもいた。

 イスマエルは未だかつて一度たりとも、手出し無用という警告を発したりはしなかったのだ。

 人生初と言える非常事態なのだろう。


 けれど。


 少女は余りにも色々な意味で魅力的過ぎた。

  

「……懐柔も不可能なのか?」


「ちょっと!」


「無理だ。警戒心が強い。この村の誰よりも。オスカル様、貴方よりも」


「先刻から何なのよ、でくの坊! あんな美味しい獲物を逃がすとか考えられないわ! 貴方は黙って何時も通りただ見ていればいいのよ。同じ女性である、私が絶対懐柔してみせるわ!」


 アギライダの話術は実際なかなかのものではある。

 男性に対しては格別効果的だが、女性に対しても悪くない結果を残してはいた。


「あれだけの攻撃をして、傷一つ付けられず反撃されている。5人死んで、10人が怪我を負った。せめて報復をと思う気持ちは解るけれど、無謀だ。アレがこの村を殲滅しようと決意する前に、誘導すべきだ」


 アギライダの言葉など右から左なのだろう。

 イスマエルはオスカルを凝視しながら語る。

 珍しいほどの饒舌さだった。


「落ち着けよ、イスマエル! お前さんが、そんなに饒舌だとは思わなかったぜ!」


 会議に参加できるのは、オスカル以外に三人。

 護衛のイスマエル、娼婦のアギライダ。

 そして。


「イスマエルの奴がこんだけ語るんだ。あの嬢ちゃんは滅法強ぇんだろうよ? だけどな、オスカル様。極上の獲物を逃がすって選択。今の俺達にはねーんだぜ?」


 盗賊頭のサンダリオ・ゴディネス。

 オスカルとイスマエルが王都より逃げる途中に襲撃をかけてきて、イスマエルにより襲撃隊を全滅させられる直前に、忠誠を誓った男。

 元、王都を震え上がらせた凶悪盗賊団『ソル』の盗賊頭。

 腕も立ち、頭も良い。

 損得勘定の匙加減がオスカルと近かったので、今の今では重宝していた。


「食料枯渇状態。人数削られちまったから、遠征も難しい。今は嬢ちゃんから正当な手段で手に入れた食いもんで腹くちくなってっから、随分奴等も大人しいがな。嬢ちゃんを逃がすってんなら、暴動間違いなしだぜ?」


「そうよ! あいつらってば、食べ物食べた途端、がっついちゃってさ! 他の女あてがって逃げたけど……女も、限界よ?」


 盗賊村としての噂が広がったため、通りかかる旅人はここ数ヶ月皆無。

 手が出せる強さの食用可能な周辺モンスターは既に狩り尽くした。

 多少の備蓄はあったが、我慢がきかず罪人になったような屑達を満足させる量など有もしなかった。

 アギライダの他に飼っている女は二人いたが、荒淫と栄養失調のせいで、余命幾ばくもない。


 食欲と性欲。

 この二つを十分に満たせる物を少女は持っていた。

 少女にとっては不幸な事だが、村にとっては僥倖以外のなにものでもないだろう。


「……警告は、なした。決めるのは、オスカル様、貴方だ」


 イスマエルはそう言うと、所定の位置に戻って警護を続ける。


「まずは謝罪して懐柔。村に馴染んだら薬を盛って、洗脳すりゃいいだろう。洗脳がきかなかったり、嫌がったらスライム姦でもすりゃあいい。あれ、結構癖になるんだよなぁ」


「ね? サンもこう言ってることだし! お金だけなら散々盗んで使い道もないから沢山あるからさ。高めの相場で食料しこたま売って貰って、まずは村の栄養失調をどうにかしちゃおうよ。他の女も復活できるかもしれないし」


「金も後で回収できるだろうしな。何時も通りに、絞れるだけ搾り取ろうぜ! あの年であの身なりで一人旅はそれなりの事情があんだろうよ。血縁が追っかけてくる心配もしなくてよさそうだしな。親がするように構ってやりゃあ、多少なりとも懐くに違いねぇって」


 少女自身も少女が持つ物も、価値がありすぎた。

 やはりサンダリオを重宝せざるを得ないのだろうか。


 オスカルは、目を伏せてしばしの間沈黙する。

 そして、心を決めた。


「……解った。サンダリオの意見を採用する。ただ! アギライダは関わるな。サンダリオはアギライダを接触できないように監視してくれ」


「嘘でしょう?」


「お前の交渉力じゃ無理だな。差し入れてやっから、大人しく籠もっとけ」


「あの子が作ってる料理を差し入れてね? 絶対よ。あと、お酒も!」


 少女は同性にも関わらずアギライダにも、あからさまな拒否反応を示して見せた。

 余程、酷い目にあってきたのだろう。

 それでも最初の段階でアギライダが口を出さなければ、もっと有利な交渉ができたはずなのだ。

 壊れていない唯一の女なので、周囲に甘やかされ続けているから仕方ないのかもしれない。

 だが少女が村に住むようになれば、アギライダも危機感を覚えて少しは大人しくなるだろう。

 少女の持ち物が魅力的過ぎて排除もできないはずだ。


「後は部下達に手出し無用を徹底させてくれ」


「あの食事の匂いがある以上難しそうだがなぁ……料理に関しては、交渉してくれよ?」


「ああ、勿論交渉する。全員分は難しいかもしれないが……」


「その辺は何時も通り貢献度で決めようぜ……嬢ちゃんが来た方向に足を伸ばせば、モンスターがいるかもしれねぇしな」


「そうだな。適当に選んで今夜か早朝にでも向かわせてくれ。交渉は……明日にする」


 こちらから交渉に向かっても心証を悪くされるだけだろう。

 明日には交渉の場を設ける約束がされている以上、焦りは禁物だった。


「! オスカル様! アレが家から出てきました!」


 と、決定した途端。

 外の様子を伺っていたイスマエルが叫ぶ。


「何だと! くっ! 予定変更だ! イスマエルはアギライダを隔離。サンダリオは皆を引き離して説明をしてくれ!」


「やっ! 痛い! 離しなさいよ! でくの坊っ!」


「ちっ! 予想外だな、嬢ちゃんは!」


 アギライダの首根っこを捕まえて足早に部屋を出るイスマエルより早く、サンダリオは部屋を後にした。

 オスカルは冷えた紅茶を飲み干しながら、襟元をびしりと正して、有利な交渉をすべく頭の中で謀略を練りつつ会議部屋の施錠をする。


 アギライダの隔離を他人に押しつけたらしいイスマエルが背後に侍った。

 サンダリオは物凄い表情で、少女にちょっかいを出そうとした男達の首根っこを捕まえて引き離している。

 にも関わらず少女が居た部屋に飛び込んだ癖に、不思議そうに首を傾げながら出てくる男達に対しては、イスマエルが咆哮で威嚇した。


 男達どころか、サンダリオすら硬直する、イスマエルの威嚇全開の咆哮に。

 少女は顔色一つ変えずに、ゆっくりとオスカルの方へと歩み寄ってきた。




 次回は、スライム達のお買い物。予定です。


 村長が、主人公と直接やりとりが出来ず、スライム相手に悪戦苦闘するお話になる予定は未定。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。

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