スライムたちが講習中のアイリーン。
治験でワクチンモニターのお知らせが来たので申し込んだら、申し込みが多すぎて返信が遅れますと連絡が届きました。
無料でワクチンができてお金まで盛れたら申し込む人は多いですよね……。
ちなみに同時にホットフラッシュのモニターも来て、どちらにすればいいのか迷いました。
入れ替わり立ち替わりスライムたちは講習に行っている。
毎回笑えるほどにトラブルが勃発するのは仕様だろうか。
『アイリーンの庇護者だから仕方ないのねー』
というリリーの発言に揃って頷かれました。
当然のようにセバスチャンにも頷かれました。
解せぬ。
で。
スライムたちが頑張って活動している最中に、私が何をしているかといえば……読書ですよ!
ちなみにお客さんはしばらく遠慮しました。
かなり人の目にさらされる生活をしていたからね……ストレスがマックスだったのですよ。
本人も気がつかないうちに酷く消耗していたようで、スライムたちも私の引き籠もり生活を賛成してくれています。
本当に優しい庇護者ですよ。
セバスチャンに案内されて足を踏み入れた図書室。
うん。
図書室じゃなくて図書館だった。
入り口に案内図があったんだけど、目が点になったよ。
どれだけ広いの?
見た目がお菓子の家っぽい可愛らしい一軒家。
ここまで広い図書室があるとか誰も思わないよね?
ね?
案内図を前に呆然としているとセバスチャンが話しかけてきた。
「私でも図書室の全ては把握できておりません。司書を呼んでもよろしゅうございますか?」
「あ、おしゃべりな司書さんね」
「はい。名前は本人からお聞きくださいませ」
「了解です」
「御主人様が御所望ですよ、おいでなさい」
セバスチャンが図書室の奥に向かって声をかける。
大きな声ではないのによく通る声なんだよね。
これも執事スキルなのかしら?
「スキルではございませんよ。熟練執事の嗜みでございます」
綺麗なお辞儀をしながら教えてくれる。
熟練執事の全てが取得できるものではないよね、きっと。
などと感想を抱きながら司書の登場を待った。
ばひゅん! と全身が突風にさらされる。
「落ち着きなさい」
「落ち着いてなんかいられるわけないのでしゅ! 何年ぶりの御主人様だと思っているのでしゅか。 これだからセバスは困るのでしゅ。大体セバスだって図書室にどれだけ来ていないと思っているのでしゅ? 執事足るもの。常に最新の知識を蓄えなければいけないものなのでしゅよ……」
セバスチャンが現れた司書の口を塞ぐ。
塞がなければまだまだ続きそうな勢いだった。
なるほどよく口が回る。
「御主人様への挨拶より優先するものがあるのですか?」
口を塞がれたままぶんぶんと首を振る司書。
「きちんと挨拶できますね」
高速で三十回ぐらい頷かれた。
うん、転びそうだから気をつけて。
様子を慎重に窺いつつ、司書の口が解放された。
「はじめまして、御主人様。アイリーン様とお呼びしてもよろしいでしょうか? 私は羊獣人の司書、カルメンシータです。カルメンかシータでお呼びくださいませ」
あ、語尾が『でしゅ』じゃない。
自己紹介なら大丈夫なのかな?
羊獣人というが背中には天使の羽。
純白で小さい。
今も言葉にあわせてぱたぱたっと動いている。
『でしゅ』の語尾に何となく納得してしまう、幼い容姿だ。
全身純白。
衣装も純白。
羊娘っぽい巻角と短い逆三角形の尻尾も純白。
一言でいって、可愛い! に尽きた。
「もふ、もふ」
「御主人様……落ち着いてください」
「触りたいのでしゅ? 角と尻尾は番以外に触らせては駄目でしゅけど、御主人様ならいいのでしゅよ。まずはどっちにするのでしゅ?」
巻角を突き出した次の瞬間には、くるっと振り返って尻尾をふりふりされた。
羽があるからね?
空中でね?
ちょうど目の高さなんですよ、うわあああ!
興奮で全ての指をわきわきさせていると、セバスチャンに背中を撫でられた。
「……この屋敷の主人となられる方は、ほとんどが『もふらー』でございましたが、アイリーン様はなかなかに重篤であられる御様子……」
「そ、そこまででもないんじゃないかなぁ?」
声が上擦っている自覚はある。
指先が震えている自覚だってあった。
だから殊更時間をかけて、まずは尻尾に触る。
「おぉ、もふすべ!」
もふもふのすべすべ。
よく手入れされている証の感触だ。
牧場で飼われている羊では、こうはいくまい。
や、そもそも比べる対象でもないか。
「はぁ……癒やされる……」
「スライムたちが嫉妬しそうですな」
「そうかしら? たまには言葉にしないと駄目な自覚はあるんだけど」
今度は巻角に触る。
こちらはつるつるのすべすべ。
冷たいかと思ったら体温が通っているかのように、ほんのりと温かい。
「うん。幸せ……」
執事がしてはいけないだろう、しらーっとした眼差しを無視して、尻尾と巻角を存分に堪能する。
「御主人様御所望の本の用意はすんでいるのでしゅ。早速持ってきてもいいのでしゅ?」
「あ、準備万端なのね。ありがとう。よろしく」
またしても全身が風に包まれる。
この勢いはさすがにどうにかならぬものか……。
「アイリーン様に慣れれば落ち着きましょう」
「本当に?」
「……しばらくは難しいでしょうなぁ。何しろ実に久方ぶりの御主人様でございますれば」
セバスチャンも苦笑する。
彼もまた新しい主人を長く待ち続けていたので、カルメンシータを咎められないのだろう。
「はい! 持ってきたのでしゅ」
一冊だけ本を抱え、残りの本は空中に浮かせながら運んでいる。
これなら一度に何冊でも運べそうだ。
「セバスは御主人様にお茶を用意するのでしゅ」
「貴女に言われるまでもなく、準備は調っておりますよ」
「ならよいのでしゅ。御主人様! 本は全て保護魔法をかけているので、万が一飲み物や食べ物を零しても大丈夫でしゅよ。全部弾くのでさっと拭いてくれればよいのでしゅ」
「おお! 素敵!」
セバスチャンが用意したのは三段のアフタヌーンティーセット。
目移りしそうな見た目も可愛らしいお菓子が多数鎮座している。
彼がこの愛らしいお菓子を作ったのかと思えば、自然と頭が下がるというもの……。
ローズならギャップ萌え! と喜ぶだろう。
「手が汚れたときは、そこの布巾を使うのでしゅ。本を楽しく読むのに、糖分や水分は必須だと思うので、準備は万端なのでしゅ」
うんうん。
長時間集中して読むと食べ物も必要になってくるよね。
その辺りを理解してくれるのが嬉しい。
「用意した本は三冊なのでしゅ。地図が充実した本には、立ち入り禁止区域がわかりやすく書かれているのでしゅ。別途地図もあるので必要なら申しつけてほしいのでしゅ。食べ物屋さんが充実した本には、御主人様が好みそうなお店に付箋をつけているので、そこを中心に読んでほしいのでしゅ。後悔はさせないのでしゅよ! マナー本は全部読むと途方にくれると思うので、これは知っておかないと駄目かも? というものに付箋をつけているので、そこだけ読めばよいのでしゅ。もっと読みやすいマナー本を編纂するように言っているのですが、なかなか好ましいものが仕上がってこないのでしゅよ……」
怒濤の説明がされる。
司書として考えるとかなりの親切対応な気がした。
おしゃべりとは感じない。
私が主人だから遠慮しているのだろうか?
「図書室は迷子になるくらいに広いので、一人では歩かないでほしいのでしゅ。どうしても一人で歩きたい場合は、シータがこっそりとついていくのを許してほしいのでしゅ」
「運動不足解消に歩きたくなったときにはお願いするわね」
「図書室をそういう使い方をする人は珍しいのでしゅ。でも御主人様とお散歩は楽しそうでしゅ。たくさん説明するでしゅよ!」
カルメンシータが一緒にいれば本を読まずとも、私が好む説明をして読書後の満足感まで与えてくれそうだ。
本好きとしては邪道な気もするが、急ぎ知識を身につけたいときには便利に使わせていただきたい所存……。
まずは面倒なマナー本から始めるか……と用意された紅茶を一口飲んでからページを捲る。
微かな本の香りが紅茶の香りに紛れて漂い始めた。
飲み物を飲み、お菓子を摘まみ、本のページを捲る時間を楽しんでいる最中に、スライムたちが講習の報告に来てくれたのをカルメンシータが怒濤の勢いで追い返していたと。
本の区切りが良くなって顔を上げたとき、セバスチャンにそっと教えてもらった。
喜多愛笑 キタアイ
状態 リラックス中 new!!
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
口止魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
クリスマスビュッフェやアフタヌーンティーに凄く憧れているのですが、どちらも普段より高いのでなかなか手が出せませんね。
ローストチキンが好物なので一人でこっそり行こうかしら……。
次回は、 王の教会へ……。(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。