料理の講習。
友人たちに会ってきました。
コロナなどもあって三年ぶりでしたが、違和感なく話が出来て楽しかったです。
健康と推しの話で大盛り上がり。
年齢を感じます。
年齢を重ねてから推しに嵌まると深い沼に浸かってしまう気がしますね。
『スライムに料理ができるのかよ? とか暴言を吐く者がまだこの街にいるとは思わなかったのです』
『う。私たちの周囲にいる人たちが如何に真っ当なのかを実感する、今日この頃なのよ』
サイと二人指定された講習の会場へと向かう。
用意されたのは定期的に大きな催し物が行われている建物。
食べ物に関する催しもあったようで、広さや機材は充実していた。
勿論、アイリーンの料理魔法で出される簡易キッチンの便利さには遠く及ばないが。
『……料理器具も販売したら売れると思うのです』
『う。ぼったくって売るといいのよ』
『それは当然なのです。でもやる気のない奴には売る気はないのです』
『う。腕はさて置きやる気は大事なのよ』
ぺたんぺたんと飛び跳ねながら中央へやってきたサクラとサイに好意的なのは、ラモンの屋敷で既に料理を食べている料理人だけだ。
すぐにでも料理が作れるような格好で、エプロンのポケットからはしっかりとメモ帳が覗いている。
前回できなかった質問をする気もあるのだろう。
教えてもいいのは彼らぐらいだろうか?
さくさくと人物鑑定をしたサクラは、彼ら以外に教えてもいいかな? と思える人物を確定していく。
「おいおい。ぷるぷる震えてるだけじゃ、時間の無駄だぞ、あああん? ひゃあ!」
肩を怒らせて近寄ってきたのは如何にもチンピラ! といった風貌の男。
アイリーンの知識を共有するまでは、威勢がいいだけの男と表現していたのだが、チンピラという言葉の方が似合っているので採用してみた。
サイが威嚇をかねて巨大化すれば、いきっていたチンピラはその場で腰砕けになった。
全く口ほどでもない者が多すぎる。
サクラは巨大化したサイの上にぴょんと飛び乗って、わざとらしく睥睨してみせる。
あ、可愛い! と聞こえた気がしたが、今は触れないでおく。
「時間の無駄はこちらが言いたいのです。街長さんのお抱えコックさん、そこの女性五人組、それからつるつるコンビ以外は出て行くのです」
「「つるつるコンビ……」」
禿げコンビよりはマシだと思ったが駄目だっただろうか?
少なくとも女性五人は笑いを堪えているので、そこまで失礼な表現ではないように思う。
ちなみに街長のコックさんたちは、つるつるコンビに憐れみの眼差しを向けていた。
「はぁ? 俺たちはギルド長に直々に懇願されてきてやったんだぞ!」
「わ、私だって副会頭に頭を下げられたのですわ!」
「ボノに拳骨でも喰らうといいのです」
「う。スルバランに土下座でもすればいいのよ」
巨大化したサイの体から排除する人数分の触手が伸びて絡め取る。
大きく扉を開いて全員を放り投げてから、扉を閉めて施錠もしっかりしておいた。
「せいぜい二人に怒られるといいのです」
「う。同感なのよ」
「女性とつるつるコンビは私が担当なのです」
「う。街長さんのコックは私が担当するのよ」
通常サイズとなったサイがぽいんぽいんと移動すれば、コックさんたちはぞろぞろ着いていく。
程度の差はあれど彼らもプロだ。
しっかりと学んでいってほしい。
「つるつるコンビさんと言われるのが嫌なら、別の呼び方をするのです」
「あー、二人同時に呼ぶときはそれでかまわねーよ」
「そそ。あんたが言うと可愛らしいだけだしな。えーと? サクラだっけか」
「そうなのです。サクラなのです。よろしくなのです」
「おお、こちらこそよろしく頼む。ギルド長から聞いた話だと、どれも目ん玉が飛び出るほど美味って話だからなぁ。楽しみにしてたんだ」
「がっつり系も充実なのです。心置きなく覚えていくのです」
「おうよ!」
なかなかにできた御仁だったつるつるコンビ。
鑑定結果は料理人の卵なので、教え甲斐もある。
「お姉さんたちの事情は鑑定したので分かっているのです。分からないところは遠慮なく聞けばいいのです」
自分たちの飲食店を志している元冒険者の女性パーティー。
資金はあるのだが方向性に迷っていたところ、スルバランに声をかけられたようだ。
スルバランに頭を下げられたと豪語していた女性とは違い、信頼できやる気もあると太鼓判を押されていた。
「……ありがとう。よろしくお願いしますね」
先ほど可愛いと言った女性が手を差し出してくる。
触手で握手をしてみた。
「あ。気持ち良い感触……」
どうやらスライムに抵抗ないどころか好ましく思っている女性のようだ。
やり取りが楽なので有り難い。
他の女性も忌避感はないらしいので教えやすそうだ。
「では、まずは丼物に使う御飯の炊き方なのです」
土鍋で炊くのがいいのだが、あまり一般的ではないので普通の鍋で炊くやり方を教える。
分量をきちんと計量していれば、吹きこぼれ寸前で火を落とすのも可能だろう。
「炊き出し用の鍋とかでも作れるのか?」
「蓋があればできるのです。基本、米一カップにつき水一~二割増しなのです」
「このカップは……穀物ダンジョンのドロップ品でしょうか?」
「そうなのです。米も穀物ダンジョンのドロップ品なのです」
アイリーンが行きたがっている穀物ダンジョンを、スライムたちは既に踏破している。
しているが、内緒だ。
オークションが終われば自分の足で踏破を目指すだろう。
雀人のカネヤス経由でいろいろな米も持ち込まれている。
踏破するまではそれで十分事足りると思うからだ。
自分の足で踏破して得た米をアイリーンは殊の外喜ぶに違いない。
「えーと? 浸水時間ってーのが必要なんだっけか?」
「必要ないものもあるのです。が基本は必要なのです。三十分~一時間が妥当なのです」
「これは浸水不要なのでしょうか」
「そうなのです。すぐ火にかけて問題ない米なのです。最初は強火で五、六分。小さな泡が出て溢れそうになったら、弱火で十分。水が残っていたら更に弱火で一、二分。火を止めて十分蒸らして完成なのです」
「誰か一人は鍋を見ていた方が良さそうですね」
「ふきこぼれる寸前で止めるのは見ていても難しいものなのです」
なるほどなるほどと頷く皆の前に、既に一口サイズに切り分けてあるミートキリトリを出した。
「御飯が炊き上がるまで時間があるので、ミートキリトリの味見をするのです。一応照り焼きも出しておくのです」
「こ、これが噂の!」
「葱甘酢味が気になっていたんです!」
全員の食いつきが凄かった。
女性も普通に肉好きらしい。
さっぱり系の葱甘酢味には特に興味があるようだ。
「照り焼きは安定の美味さだけど、新しい味もかなり美味いな」
「塩胡椒味は手を加えやすい味ですね」
「炊きたての御飯の上に載せて食べたら……最高でしょうねぇ」
女性の言葉に全員揃ってごくりと喉を鳴らす。
さてはお腹を空かせてきたな?
「御飯が炊き上がるまで我慢するのです。その間に簡単に作れる、デトックスウォーターの作り方を教えるのです」
「「よろしくお願いします、師匠!」」
つるつるコンビの言葉に続いて、女性たちも頭を下げた
熱心で大変よろしい。
「ちなみにデトックスウォーターの鑑定結果はこれなのです」
デトックスウォーター
ランクSSS
イエローベリー、オレンジベリー、レッドベリー、パープルベリー、グリーンベリーのベリー尽くし。
とても飲みやすく、見栄えもいい。
残り物フルーツが使い切れるレシピとして、人気が出ること間違いなし。
美肌効果大
腸内改善効果大
むくみ改善効果大
鑑定結果をあらかじめ書いておいた紙をテーブルの上に置く。
女性陣の目がかっ! と見開かれた。
うんうん。
女性が好む効果が目白押しだからね。
分かるのです。
アイリーンも感動してたしね。
「……いろいろとすげぇなぁ。っつーか、何で今までこのレシピに辿り着けなかったんだろうな?」
「フルーツをふんだんに使える料理人は、残り物を使おうとか思わなかったからじゃね?」
「あとはたくさんの素材を混ぜると味がはっきりしない……つまりは美味しくないという先入観のせいかしらね」
「せめて、ベリー系だけとか系統を絞って組み合わせてみればと思うけど……そこまでフルーツを使える立場の人で、創作する人ってあまりいない、ですよね」
「だな。既存のレシピを磨き上げるってー話は聞くけど、老舗ほど創作料理の壁は厚いって話だしなぁ」
全員があれこれ意見を言い合っている。
たぶんそんな理由だろう。
あとは何かしらの制限を神たちがかけていたのかもしれない。
人は堕落する生き物だからと。
「レシピを知ってしまえばあとは素材の入手と見分け方なのです。残り物だからといって傷んでいる物を使ってはいけないのです」
「はい、サクラ師匠!」
師匠と呼ばれるスライムはきっと希少だろう。
サイも同じように師匠と呼ばれている。
アイリーンは当然ね! と楽しそうに笑う姿が想像できた。
今回の講習ではデトックスウォーターと御飯の炊き方をしっかりと会得していった彼らの、料理人としての活躍が実に楽しみなのです。
そして放逐されたやる気のない奴らは、ボノとスルバランにぼっこぼこにされればいい。 サイと二人でにやりと微笑を浮かべてから、真面目で優秀だった生徒たちに、放逐した奴らには決してレシピを教えないようにと噛んで含めておいた。
座って楽しめるコンサートに申し込み続けたんですが、結局席が取れませんでした。
普通の席は取れたんですけどね……来年は取れるといいなぁ……。
次回は、リリー特製たーもーあーみーの講習。(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。