家事妖精付きお屋敷。中編
主人に頼まれてでかけたのですが、ス○カを忘れて絶望しました。
久しぶりに切符を買いましたよ。
調度品は品が良く無難。
自分の好みを反映させるとすればファブリックくらいかな?
若干男性寄りなので、女性寄りに手を加えたいところ。
「そうでございますねぇ。花柄の色ものや花柄のレース、植物系の紋章柄などでしたらすぐに御用意できますが」
「……鈴蘭柄ってあるかしら?」
「三種類ほどございますね。こちらでございます」
美味しそうな飴色のソファに三種類の布がかけられる。
白地にブルー一色のアンティーク調。
黒地にホワイト一色で紋章柄と組み合わせた物。
薄い灰色地に花部分が白、葉の部分が緑の二色展開。
どれも好みで迷う。
「迷われるようでしたら、お部屋ごとに決められては?」
「それも名案ですわね。お任せもよろしゅうございましてよ」
「部屋ごとか……寝室にはアンティーク調がいいかな?」
「それでは、まず。このような感じで如何でございましょう」
しゅわんと音がする。
視界に散らばる光の粒に一瞬だけ目を細めた。
「お、おお!」
「……検証しないといけないのねー、執事スキル」
スライムたちも驚きの執事スキル。
真相究明はできるのだろうか。
奥が深すぎて難しい予感が大だ。
ソファの上には早速黒地のカバーがかけられている。
きちんと鈴蘭の柄がよく見えるように作られていた。
見本の物とは生地が違うらしく、キルティングっぽい。
テーブルクロスも生地違いの同柄。
水分を弾く生地はスライム素材だろう、たぶん。
黒いテーブルクロスって格好良いよね。
汚れが目立つのが難点だけど。
椅子の上には薄いクッション。
ダイニングチェアクッション。
ソファと同じ生地かな?
中央にどどんと鈴蘭柄が配置されている。
花瓶の下にもレースで縁取りされた花瓶敷き。
これも同柄。
何となく花瓶敷きって白いイメージがあったんだけど、黒も落ち着くと知って驚き。
しかし黒と白の組み合わせってどうしてこう格好良いんだろう……。
「如何でございましょう」
「全部屋こんな感じでお願いします!」
「承りました」
細かいところまで手が届く一流の執事って、こういう感じなんだろう。
何しろ執事とは縁遠い世界にいたので、リアルで対峙すると対応に迷ってしまう。
執事に相応しい主になれるといいなぁ……。
好ましく整えられたキッチンとリビングをあとにして、二階へと上がる。
「二階は遊戯室、趣味部屋、仕事部屋となっております」
「どんな物が置かれているか楽しみなのです」
サクラの目が輝いている。
家に入ってから鑑定しまくっているようだ。
時々、どれもすばらしく良質なのです! と興奮気味な感想がダイレクトに脳内へ響いていた。
「まずは遊戯室から……」
主に客人と使用するからか扉の装飾が他の扉より豪奢だ。
足を踏み入れて目立つのはビリヤード台。
あるんだね、ビリヤード。
ファンタジーの世界が中世ヨーロッパあたりの設定なのはよくある話。
バックギャモンができる専用テーブルもあった。
こちらでも人気があるのだろうか。
一応何回かやったことがあるのでルールは知っている。
せっかくなので一度くらいは挑戦したい。
スライムたちが良い対戦相手になってくれそうだ。
執事さんも頼めばやってくれそうだが、絶対に勝てない気がする。
「あ、お酒もあるんだね」
「葉巻セットもございますよ」
執事さんが年季の入った箱をぱかりと開けてくれる。
様々な種類の葉巻が並んでいた。
圧巻だ。
香りも不思議と鼻に障らなかった。
煙草を嗜む習慣はなかったが、初心者でもいけそうな葉巻には挑んでみたい。
繰り返し見たマフィア映画の影響か、どうにも格好良く見えてしまうのです。
絵画や人物像も多く設置されているし、ソファも一人用、横に慣れるタイプ、当然の二人用と幾つも置かれていた。
遊戯室の特徴なのかもしれない。
ゲームに興味がない人は絵画&像の鑑賞。
飽きた人や一休憩にはソファを使う。
そんな感じ?
なんにせよ、時間がゆったりと流れている気がした。
「当屋敷では禁止しておりますが、サイコロ賭博をされると、雰囲気は一気に乱れますね」
「サイコロ賭博?」
「随分身持ちを崩して、教会は勿論、王が直々に控えるように物申された過去もございます」
何時の時代でも賭博は危険なものらしい。
キャンブルは興味があるけど、イマヒトツ縁がなかった。
周囲に暴走する人や強要する人がいたのも、手を出さなかった原因の一つ。
自分が作った物でやるギャンブルなら多少羽目を外しても……。
「駄目でございます」
「ん。アイリーンの作る物はお金で買えない物も多いの」
「う。自重しないと駄目なのよ?」
「ちょ、ちょっとぐらいなら!」
「この屋敷内で。私の監視下でございましたら」
「執事さんの意見に賛成なのねー」
執事さんの言葉にスライムたちも賛同する。
駄目と言われなかっただけでよしとせねば!
「本日御遠慮いただいた方々でしたら、構いません」
「いい鴨になりますわ」
ローズの欲望がダダ漏れです。
スライムたちどころか執事さんも頷いています。
スルバランもいい鴨なんだね?
ラモンとボノはわかるけど、スルバランは意外だった。
賭け事になると熱くなる性質なのだろうか。
「じゃあ、安全圏でいろいろ挑戦させてもらいます」
「はい。存分にお楽しみくださいませ」
遊戯室だけ独立していて、趣味部屋と仕事部屋は続きの間になっているそうだ。
仕事に疲れたら趣味に逃げられるように……という、初代の信条だったとか。
それ以降の人たちも、賛成してそのままの間取りとなっているとのこと。
ワーカーホリックが多かったのかな?
今まで縁が遠かった遊戯室部屋より、趣味部屋の方が親近感が湧くかな? と思いつつ開かれた扉。
「これまた……凄いねぇ……」
趣味部屋というよりは、コレクションルーム。
人形とぬいぐるみがケースに収められて並んでいた。
「初代がアンティークドールコレクターでした。アンティークドールが苦手な方がぬいぐるみを収集された結果が、こちらの部屋となります。一体だけ収納されている物は曰く付きなのでお手を触れませんよう」
「かなり危険な子もいるのです。ただアイリーンなら大丈夫なのです」
「……ふむ。アイリーン様。そちらの人形の前へ立っていただけますでしょうか?」
執事さんが指し示す先には三十センチほどのガラスケースが鎮座している。
ケースの上に銀色の十字架が置かれているのは、鎮魂の意味なのだろうか。
アンティークドールというよりは、スーパードルフィー。
つまりは人間に培い造形だ。
ヴェール越しに見えるのは、金髪碧眼の愁いを帯びた表情。
衣装は純白のウエディングドレス。
刺繍が恐ろしく精緻だ。
ガラスケースの正面に立つ。
彼女と目があうように腰を落とした。
右斜め下を見ていた目線が、何時の間にかしっかりと私をとらえている。
澄んだ瞳だった。
「……かわっ!」
綺麗だなぁと見惚れていれば、憂い顔が一変。
愛らしい笑顔になる。
背後に控えていた執事さんの喉が軽く鳴った。
「……大変失礼いたしました。彼女が微笑むのでしたら、アイリーン様はどちらの人形たちを手に取っても問題ございません」
「時間を取って愛でてあげればよろしいのですわ。この部屋にあるものは……そういうものですわ」
ローズがしみじみと周囲を見回した。
愛が足りていないのかな?
けれど、愛を執事さんに求めるのは酷というものだ。
どの子たちを見ても埃一つなく、丁寧に手入れはされているけれど。
それだけでは物足りないのだろう。
「……皆、名前はついているの?」
「ついているものも、ついていないものもございます。こちらを御覧くださいませ」
手渡されたのはイラスト入りの冊子。
人形たちの名前は勿論、来歴から問題点までが事細かに書かれていた。
「じゃあ、名前のない子には名付けをしたいけれど大丈夫かしら?」
部屋の中にいる全ての人形たちに呼びかければ、溢れんばかりの喜びの感情が伝わってくる。
否定の意思が一切感じられなかったのが何より嬉しかった。
喜多愛笑 キタアイ
状態 家事妖精に興奮中
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
口止魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
しかし自分の迂闊さに呆れます。
暑さで注意力が散漫になっているんでしょうか。
次回は、家事妖精付きお屋敷。後編(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。