街長と会合中。中編
弁護士って頼んだことないんですけど、どういった料金形態になっているんだろう。
……と軽く検索してみたら、知らないことばかりでどこから調べていいのか分からなくなりました。
とりあえず実家が弁護士に頼んだ件は、特殊ケースなのが理解できた程度です。
やれやれ。
「そうですな。養殖に関する御指導は……一応少し多めの時間をいただいて五日後で如何でしょう?」
「ええ、構いませんわ」
「ん。大丈夫なの」
五日もあればこちらの準備は万全だ。
スライムたちのことだから、一時間後でも同じ準備が整えられる気もするが。
「ではこちらも慎重に手配いたしますので、よろしくお願いします」
「次はレシピがいいでしょうか」
「スルバラン鼻息が荒いぞ」
「ボノにだけは言われたくないですね!」
参考までにスルバランは少々興奮している程度。
ボノの鼻息はなかなかに荒かった。
「お前ら仲がいいなぁ。俺んときは、取り付く島もなかったんだぜ、会頭も副会頭も勿論ギルド員も」
「今でも全体的に見れば大事の共闘は何とかできる程度です」
「だな」
「そこが羨ましいんだよ。俺んときは冒険者ギルドだけが不利益を被ってたからよ」
ラモンが深い溜め息を吐いた。
どんまい!
後輩たちが頑張っているのだから胸を張ってほしいよね。
ボノもスルバランもラモンを尊敬しているみたいだからさ。
「で、レシピです。フォルス様」
「あ、うん。料理? 虫避け?」
「おぉ、虫避け! 検証結果の資料を拝見しましたが、すばらしい効果ですな!」
「虫苦手だからね。頑張ったら想像以上の効果が発揮されました」
正直やり過ぎた感はあるのです。
自覚症状はあるのです。
私をじっと見詰めてくるスライムたちの視線から、逃れられないのがつらいところなのです。
サクラに私の口調を真似しないでほしいのです! と怒られてしまった。
くすん。
「虫避けとして安価で広く売りたいのです。気がつかぬうちに虫の侵入を許し、赤子が多くなくなっているのはこの街だけの問題でもありませんから」
ラモンの顔は施政者の表情だった。
赤子の命が儚いのはどこの世界も共通らしい。
むしろこの世界の方が厳しいだろう。
「虫避けについては教会と話し合いも必要ですね。彼の方は既に御存じと思われますが」
「だな」
独自の情報網が凄そうだもんね。
「まずはそこそこの数を作っておくのがいいかもね。あとは品質を一定にできるように頑張ってもらわないと」
「難しいので?」
「作業工程が面倒なだけで、そこまで難しくないわ」
丁寧さによって効果に差が出てしまう。
薬師たちの頑張り次第ではボスとまではいかずとも、そこそこの虫系モンスターが倒せる物が作れるはず。
最低でも一般的に危険な虫を駆除できるレベルにはしたいものだ。
「こちらは薬師や細かい作業に長時間耐えられる方を採用してほしいわね」
「薬師か……いい加減てこ入れが必要だな」
ラモンが拳と拳をぶつける。
ごっ! と良い音がした。
彼もまた薬師と薬師ギルドに悩まされた被害者らしい。
「殴り込みは全員で行こうぜ!」
「フォルス様もスライムたちも数に入れてはいけませんよ?」
「「ええ?」」
ラモンとボノに助けを求める子犬のような眼差しで見上げられた。
ギャップも萌えが標準装備の自分的には、心にくる光景だ。
「トリアをつれていけばいいのです」
「その意見に賛成なのです」
「トリア、ホルツリッヒ村から出るかしら?」
「ん。アイリーンがいれば安心って言ってたの」
ホルツリッヒ村開拓も引き続きしたいしね。
入れ替わりで出かけてもらうのもありか。
「うわ……エルダートレントの説教と講習とか、薬師の連中がいろいろな意味で大騒ぎしそうだぜ」
遠くを見る目で何やら考え込んでしまったラモンの肩を、ボノとスルバランがぽんぽんと優しく慰撫した。
「他にも薬系のレシピはあるから、そちらも勉強してほしいわね」
「ああ、解毒剤に麻痺解除薬に覚醒薬だろ? インセクトダンジョン以外でも有効な薬だ。広く知らしめたいところだな」
「一足先にこの街で準備を始めて、広げていく感じですかねぇ」
「教会とかも介入してきそうだよな。今までは教会で治療してもらうことも多かったしよ」
……教会での話し合いに参加したくなくなってきたよ。
案件が多過ぎじゃない?
腹の探り合いって疲れるのよね……スライムたちに丸投げしちゃおうかしら。
しんねりとした眼差しを向けるも、スライムたちは私たちに任せてくれていいのよ! とやる気に満ちた眼差しを揃って返してくれた。
こんな目で見詰められたら頑張るしかないよね……。
先ほどのラモンに勝るとも劣らない遠い目をした私は、太ももの上に乗っているサクラのひんやりボディを撫で回した。
遠い目をしていても何が改善されるわけでもない。
私の小さな溜め息にスルバランが話を進める。
「次は料理レシピについて、お願いしたいです」
料理レシピは冒険者ギルドより商人ギルドの方が利益も出るしねぇ。
切実なのもわかる。
「えーと? ミートキリトリ以外にデトックスウォーターもあったわね」
「はい。すっきり草を使ったデトックスウォーターも合わせてお願いしたいです。使い勝手がとても良さそうなので」
うんうんわかるわぁ。
徹夜のあとに飲みたい一杯だわ。
「あー、大変申し訳ないんだが、レシピの提出だけじゃなくて、できれば全て講習をお願いしたいのだが……」
あら。
そこまでしないとかしら。
レシピって、レシピ通りに作ればきちんとできるものよ?
「うんうん。基本ができてねぇ奴とか、畑違いの奴が挑戦しようとすると、悍ましいモノができちまうんだよ、何故か」
「……そうですね。緻密なレシピが面倒で手順を違える人も多いですし」
うーん。
自業自得だよねぇ、それって。
そこまでの責任は取りたくないけど……。
心の中で難色を示していれば、サクラが囁いてきた。
『愛がやりたくなかったら私たちがやるのです』
『えー。皆がそこまでやることないでしょ』
『単純に楽しいからいいのです。愛にまで強要はしないのです』
なるほど、楽しいと。
……まぁそれならいいか。
「講習は基本スライムたちがやることを了承してね。あとは制限はあるってことも」
「はい。きちんと理解しております。できぬ者はそもそも参加させません」
「薬師関係は大丈夫なの?」
「ああ、奴らはスライムたちの実力を見せれば大丈夫でしょう」
ラモンは安易に考えているがそこまで簡単ではないだろう。
うちの子たちが相手でなければ。
嬉々としてプライドをへし折るだろうからなぁ、皆。
分不相応が嫌いな子たちなのよ。
夢見るくらいは許容するけどね。
「講習の担当を決めるのです。少し私たちだけで話し合いをするので、そちらもそうするといいのです」
スルバランが何時の間にか書き出してきた講習一覧を眺めつつ、スライムたちと話し合う。
まだ食事会場にいるリリーたちも念話で参加した。
薬の講習……トリアとペネロペ。
料理の講習……サクラとサイ。
リリー特製たーもーあーみーの講習……リリー。
ミートキリトリの養殖講習……ローズ。
どうんとすたぱの養殖講習……モルフォ。
「……こんな感じなのです」
「日程は被らないようにして、頑張れば全部の講習を覗けるようにいたしますわ」
「アイリーンのそばには必ず誰かがいるから、心配はいらないのです」
「ん。私たちの最優先はアイリーンなの」
「引き抜きは全力で拒絶なのです!」
あ、されてるんだね、引き抜き。
強引に連れて行こうとしても無駄だと理解している分、質が悪い気がするけど。
私の庇護者たるスライムたちが、私を見捨てる悲劇は天地がひっくり返ってもないだろう。
「ん。大まかな日程もこちらで決めるの」
「アイリーンは顔だけ出してもいいのです。出さなくてもいいのです」
スライムたちは私のために何処までも強気だ。
私は有り難くその好意を受け取った。
「こちらの都合はこんな感じになりますね」
素早く大まかな日程まで書き込まれた書類をテーブルの上に滑らせる。
三人が凄い勢いで覗き込んだ。
喜多愛笑 キタアイ
状態 地味に緊張中
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
口止魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
最近広告で気になっていたゲームアプリをはあはあと試してしまいます。
すぐに、こんな感じなのね……でアンインストールしてしまうことが多いのですが、時々お気に入りに遭遇してしまうのです。
今嵌まっているゲームなのですが、プレイヤーの化身であるモンスターの収納が限界になった時にでる表示が『立つ瀬がない』というのには、毎回笑ってしまいます。
次回は、街長と会合中。後編(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。