街長に会う。後編
安価なレディース日に行く予定だった映画。
入場者特典が好きな作家さんと聞いて初日に行くことに。
ネット予約してから、この映画館は入場者特典がありませんとか言われた日には絶望しそうです。
それぞれの映画館で明記してくれればいいんだけどなぁ。
無口らしい長男がぽつりと呟く。
「美味しい……」
さぞ美味しかろう。
長男が食べているのはふわふわ丸パンで挟んだものだ。
どの肉とも相性抜群で、まだ私しか知らないレシピのサンドイッチなのだから。
ちなみに食べているのは塩胡椒味。
一番手を加えやすい味なので、是非とも野菜を加えて食べてほしいところ。
このパンの再現は難しそうだが、ランクを落としたパンなら可能かもしれない。
Aランクだって十分に美味なのだ。
実際らいぎむパンは美味しい。
料理人たちは目から光線が出てるのかな? と思う目力を見せつつ、全種類を制覇している。
一口でも味や調理方法に、素材なども特定できるらしい。
当然一部だけだが。
それでも情報過多らしく、目が回っている料理人もいる。
へたり込んだ者までいたくらいだ。
それでも街長に言い含められているのか、私に特攻をかけてくる者は一人もいなかった。
目線はびしばしと感じるけどね。
続いて麺物。
どうん、ばーそ、すたぱ。
すたぱ以外はつゆにも賞賛の声が上がっている。
何を使っているのか見当もつかない……と何人かの料理人が打ちひしがれていた。
そりゃ異世界産のお出汁や調味料を使っているのだ。
特定できるはずもない。
「もちもち……こんなに食べ応えのある麺なんて!」
ちゅるんといい音をたてた長女が上手に麺を啜っている。
夫人も隣でどうんを啜っていたが、娘のマナー違反を咎めない。
どころか、自分も気にせず啜っていた。
どう食べようか思案しているようだったので、スライムに見本を見せるように頼んだのだ。
今回はローズが買って出てくれた。
ローズが食べている様子は何故かわからないが、とても上品に見えるのだ。
たぶん私より品格が高そうに見えるだろう。
「……スープがとても美味ですね。薄味なのに奥深いです……お肉よりもこちらが気になりますわ」
パウラはなかなか舌が肥えているようだ。
ラモンなどは腹持ちが良いと聞き興味を持ったらしく、ボノと熱く語り合っていた。
冒険者はカロリー消費が激しいから、腹持ちの良い料理は押さえたいところだよね。
「……フォルス様……野生種もどきの養殖に成功なさったのですか?」
ひそひそ声でスルバランが囁いてくる。
聞き耳を立てている者はいないようだ。
「うん。うちの子たち、優秀だからねぇ」
「そう、ですか。それは我らでも可能でしょうか?」
「どうだろう……モルフォ! ちょっといい?」
一心不乱に麺物の盛りつけをしていたモルフォを呼ぶ。
麺物保管担当はモルフォだ。
保管する物の養殖や育成はきちんと手分けされている。
「ん。何か質問なの?」
「スルバランが自分たちでも養殖は可能かって」
モルフォはしばし思案している。
スルバランは生唾を飲み込みつつモルフォの様子を窺っていた。
「ん。品質が落ちてもいいなら可能なの。一番育てやすいのはばーそもどきなの」
あ、ソバは乾燥に強いっていうしね。
逆に過湿には弱いらしいけど。
「つゆは再現できるの?」
「ん。できるとは思うの。雀人たちにお金を出せば、そこまで時間をかけずとも再現してくれるの」
「あー、私も資金援助はしてあげよう。レシピを提供すれば頑張ってくれるよね」
「ん。今も模索中みたいなの。いい線までいっているみたいなの」
「あら、素敵」
ホルツリッヒ村に来てくれた雀人のカネヤスは想像以上に頑張っているようだ。
早く移住してきてほしい。
そしてホルツリッヒ村でのジャポニカ種の栽培を!
もっと丼物が美味しくなると思うんだよね。
「えーと? 雀人……ならばイシスジャニア国か。今のうちに縁を繋いでおかないとですね……」
「そうだね。特にどうんとばーそを広めたいなら、是非。調味料は今の所そこでしか作れないと思うから」
「理解しました」
「ん。どうんとすたぱの養殖は同じ区域でも大丈夫なの。ばーそだけ乾燥区域なの」
「いいですね。困っている農家は少なくないので、あちこち打診できそうです」
スルバランは嬉しそうだ。
この様子だとドーベラッハ街に限らず、困窮している区域に手を差し伸べるのだろう。
商売が最優先だとしても、こうした気配りを見せるからスルバランは信頼できるのだ。
モルフォも満足げに頷いている。
そして、スープ。
これは塩胡椒のみを使った。
照り焼きと葱甘酢でも作れるけどね。
その辺りはさすがに料理人に模索していただきたい。
「このトメトスープはすばらしいな! ガーリックの味が食欲をそそる。何杯でも飲めそうだ!」
次男は食レポが上手い。
お代わり! と大きな声でスライムにスープカップを突きつけていた。
小さいカップだから好ましい味には物足りなさを感じるよね。
クリームスープ、モー乳スープ、とろみのついたスープ、コンソメスープ、モー乳&味噌スープと味噌汁。
和風のスープをもっと出したかったんだけど、出汁や調味料の供給が追いついていないから控えました。
料理人たちの特定談義も凄まじかったしね。
「……フォルス様。まさかここまで種類が出るとは思わず……お手を煩わせてしまいまして、恐縮です」
ボノと一緒にラモンがやってきた。
ラモンは見るからに恐縮していたが、ボノはお腹をさすっている。
あの様子では全種類を三周ぐらいしていそうだ。
「いえいえ。料理は趣味だから気にしないで。職業も料理人だしね」
「そうでしたか!」
「驚くよなぁ。それ以外に目立ちすぎてるからなぁ」
ボノが大きくうんうんと頷いている。
スルバラン同様かなり巻き込んでいるので文句は言わない。
「料理人さんたちがかなり熱心に語っていたから、そこそこの料理だったとは思うけど……」
「そこそこなんて謙遜がすぎます! 全てが美味でした。現時点で全てを再現できないのは残念ですが、何時かは全種類制覇したいと料理人たちが言っておりました」
「私が作った料理に拘らず、いろいろなレシピを模索してほしいですね」
「麺物は今のところ難しいが、丼物、サンドイッチ、スープだけでも人は呼べるだろうよ」
「……ボノ、言葉遣い!」
「気にしないでください。今更です」
ボノの頭に拳骨まで落として注意している。
さすがに街長ともなれば礼節にも気を配るようだ。
でもボノに関しては全く気にしないので、ストレートに返しておく。
「いてぇよ。ラモンさん……」
現役ではなくなっても鍛えているのだろう。
ボノの目には涙が滲んでいた。
「えーとですね。やはり目玉になる料理は必要だと思いますので、決まりましたら試食をお願いできますか?」
「ええ、喜んで。連絡をくだされば何時でも足を運びますわ」
「ありがとうございます! 本当に助かります!」
「フォルス嬢……まだ食べ足りない奴らがいるんだが……」
「じゃあ、誰かに作ってもらうわ……うん。リリー、モルフォ、サイが引き受けてくれるって」
しゅたっと触手を上げてくれたよ。
本当、やる気に満ち溢れているよね……。
「おぉ、もしかしてスライムたちも作れるのですか? ここまで凄いユニークモンスターは初めて見ます」
「俺も初めてだよ。全員ほんとーに優秀なんだよ。おかげさまで随分処分できたぜ?」
粛正された中にはラモンが手を焼いていた冒険者も、いたのかもしれない。
「ああ、そちらも助かりました。隠すのが巧妙だったり、被害者が報復を恐れて泣き寝入りしたりで、なかなか裁けない奴らでしたから……」
ぎりっと歯を噛み締める音がする。
屑を駆逐できたが、それまでの被害者を思えば歯ぎしりもしてしまうのだろう。
「では、料理に関してはスライムたちが頑張ってくれますので、私たちはそれ以外の話をいたしましょう」
何時の間にか私の隣にきていたスルバランの言葉に、ラモンとボノは大きく頷いた。
喜多愛笑 キタアイ
状態 地味に緊張中
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
口止魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
今年は桜の散りが早かったように思います。
満開の次の日に、大風&大雨だもんなぁ……。
来年はもっと楽しみたいですね。
次回は、街長に会う 後編。(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。