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ボノはさすがに慣れた。8

 お腹がぐるぐるとうるさいので、消化器科の予約を取りました。

 初めてのお医者さんは、あうあわないがあるのでドキドキですね。

 どれだけキャンセルや二重予約に悩まされているのか、予約する際の注意が驚くほど長かったです。

 


 ボノはテーブルの上に並べられた薬瓶とフォルス嬢の顔を交互に見詰めた。

 スルバランは即座に薬の鑑定を始める。


「こ、れは……」


 言葉が続かない。

 スルバランの言葉を止められる効果とは果たしてどんなモノなのだろう。

 ボノもスルバランに倣って鑑定をする。

 

「は!」


 自分の目を一瞬疑った。

 それだけの効力だったのだ。

 効力以外にも気になる点がある。

 フォルス嬢は一体どれだけの能力を隠しているのか。

 もしかして……人間ではないのかもしれない。

背筋がぞくぞくする。

 死力を尽くしても倒せないモンスターに対峙したときと同じ気分だった。


 ポイズンモーズの解毒薬 オリジナル瓶入り

 ランクSSS

 微毒から超毒まで効果抜群。

 どろっとした紫色で不気味だが効果に問題なし。

 甘めでほんのりパープルベリーの香り。

 患部に薄く塗ったあとで、飲み干すべし。

 オリジナル容器は鈴蘭の意匠、デフォルメされたポイズンモーズの全体像が彫り込まれている。


 グリーングフグフの麻痺解除薬 オリジナル瓶入り

 ランクSSS

 一部麻痺から全身麻痺まで効果絶大。

 とろみのある黄緑色の液体。

 酸味強めでグリーンキーウイの香り。

 一瓶の半分を飲み、三分以上時間をおいてから残りを飲む。

 一気に飲むと昏倒するので要注意。

 オリジナル容器は鈴蘭の意匠、デフォルメされたグリーングフグフの正面アップが彫り込まれている。


 トーポスの覚醒薬 オリジナル瓶入り

 ランクSSS

 昏倒状態から徹夜続きにも幅広く効果有。

 さらっとした深緑色の液体。

 砂糖の甘さにミントの香り。

 一瓶を少しずつ飲ませる。

 一本以上飲ませる場合は、五分以上時間をおくこと。

 オリジナル容器は鈴蘭の意匠、簡素化されたトーポスの葉が彫り込まれている。


「美味そうだなぁ、おい!」


 良薬口に苦し。

 それが薬に対しての揺るがない印象で、現実だ。


「……飲んでみてもいいか?」


「ボノ!」


「どれも薬とは思えないほど美味しいです。あと効果はどれも驚くべきものでした。解消されたあと特有の倦怠感なども全くありません」


「セリノの言葉に嘘はないのです。効果はセリノで全種類を試しているのです。自分たちも味見をしましたが美味しかったのです」


「え? 何時の間に飲んだの?」


 フォルス嬢も知らなかったようだ。


「三種類あるから、アイリーンと二人で一種類ずつ飲んでみればいいのねー」


「どうせなら全種類……」


「ボノ!」


 スルバランだって望んでいるくせに、やせ我慢はよくないぞ? と首を傾げてやる。

 一種類も飲ませてもらえなかったらどうするんですか! と目が訴えてきた。

 一度言った言葉を撤回するスライムたちじゃねぇ、と思うんだけどなぁ。

 二人で言葉を出さないやりとりをしているうちに、フォルス嬢が解毒薬の瓶を取った。


「私はこれをいただくわねー」


 甘めでほんのりパープルベリーの香りなら薄い果実水といった印象だろうか。


「私はこれを!」


 スルバランは覚醒薬に手を出した。

 ミントが好きだからな、こいつ。

 必然ボノは残った麻痺解除薬の瓶を握り混む。

 味を確かめるなら一気飲みでも大丈夫だろう、と一息に飲み干した。


「うめぇなぁ!」


 酸味強めでグリーンキーウイの香り。

 まさしく鑑定どおりの味だった。

 反射的に口を窄めてしまう酸っぱさだったが、あとを引かない。

 何より口の中の爽快感が半端なかった。


「……甘いミントって美味しいんですね……」


 スルバランは呆然としている。

 新しい世界を開いたようだ。

 自分が好むものに知らない面があったのも衝撃なのだろう。

 手の中にぎゅっと力強く瓶を握り締めている。


「解毒薬は子供も好きそうな味よ。購入する人にはお子さんの手が届かない場所に保管するように徹底していただかないと。あ! マズくするという手もあるわよ」


「無理にマズくするこたぁねぇよ!」


「ですね。いざというときに飲むのを嫌がる方が問題です。苦労している話も聞いておりますし」


 フォルス嬢が作る規格外の薬だ。

 そんな勿体ない真似はしたくねぇ。

 誤って一本飲んでしまった程度で副作用が出るとは思わないが、どんなに味が良くても薬には違いない。

 口頭での説明の他に書面を作ってわたしておくべきだ。

 書面の内容は……うん。

 スルバランに一任だな。


「……味も良く効果も高いとなると、安価では出せませんね」


「在庫はどうなんだ? 真っ当な薬師なら作れそうなんかよ?」


 何もかもフォルス嬢に丸投げするわけにもいくまい。


 瓶に浮かんでいる不思議な模様を素材にしているのなら、そこまで入手困難なものではないのだ。

 ポイズンモーズは町外れの森で討伐できるモンスター。

 トーポスも同じ森で採取可能だ。

 グリーングフグフは街に流れている川でも時々見かけるし、そもそも外道として捨てられている魚なので、一番単価が落とせるかもしれない。


「身近で手に入る材料で作ったから、きちんと手順を踏んで丁寧に作業できる薬師なら、そこまでランクが高くなくてもできるでしょうね」


「……レシピの開示はしていただけるので?」


「直接教えないと駄目かな。一日講師として依頼してもらえるかしら?」


「ありがてぇ!」「感謝します!」


 これで死ぬ冒険者が減る。

 後遺症が出てしまったせいで冒険者を引退する奴らも少なくなるはずだ。

 スルバランだって商品価値が高い薬の商談は嬉しいだろう。

 この街のダンジョンにあった薬だけど、あらゆる系統の毒に対して警戒しなきゃならねぇお偉い方たちも歓迎する薬なのだ。

 ま、別の心労が増えるのは致し方ねぇが。


「追加は出せるけど、検証用に一ダースずつわたしておくわね。これも試供品ということで代金は不要よ」


「すまねぇな。ちゃんとした冒険者を厳選するから安心してくれ」


「検証の際には商人ギルドからも人を出しますね」


「ええ、それなら多方面から検証できそうね。頑張って」


 虫避けを使えば最終階層まで足を伸ばすのは容易い。

 戦闘を苦手とする商人でも問題なく辿り着けるはずだ。

 全くフォルス嬢には、どんな感謝をしたらいいかわからねぇぜ?

 ここまで個人に対して恩義を感じるのは、ボノにとって初めての経験だ。

 たぶんスルバランもそうだろう。


「……七階はねぇ。さすがに最終階層ってだけあって、報告事項が多いのよ」


 そうだった。

 薬の件はダンジョンに関係なくフォルス嬢の好意だったのだ。

 しかし薬の件を超える報告はないだろう……や、あるかもな。

 ボノの想定など軽々と超えてくるフォルス嬢だ。

 ダンジョンもフォルス嬢につられて進化したのかもしれない。

 何をきっかけにおきるかわからない、ダンジョンの進化。

 もしかするとフォルス嬢のような規格外の存在に触発されているのだろうか。


「そうね。まずオオヤンマを一度殺してからテイムしたら、オオヤンマが貢ぎ物をくれたのよ」


「ん? んんん? 一度殺してからテイム?」


「できませんよね?」


「うちのサイが頑張ってくれたから。サイは切るのが上手いのよ。知ってる? 熟練剣士が切り落とした首は、時間が経過していなければ元通りにくっつくのよ?」


「初めて聞く話だぜ」


「……おとぎ話ではなかったんですか?」


「知ってんのか?」


「他国で独特の剣を使う伝説の剣豪が、修行の果てに成した、と耳にしました」


「ああ。日本刀かな? もしかしたら同胞かしら……」


 フォルス嬢と同じ故郷の御仁ならやってのけるかもしれない、と疑いもせずに思ってしまった。

 スルバランも納得の顔をしている。

 セリノのどうして信じないのでしょうか? という表情が真実に近い気がしてきた。


「で、くれたのがこれね。オオヤンマドロップアイテムセット」


 フォルス嬢がテーブルの上に宝箱を置く。

 開けてくれたのだが、明らかに宝箱の大きさ以上の物が入っている。

 どうやら宝箱ではなく、マジックボックスのようだ。

 

「オオヤンマの羽十枚。オオヤンマの眼球十個。オオヤンマの優美十個。オオヤンマの折衷十個……そして、マジックボックスの宝箱。テイムしたオオヤンマは……最上の敬意を払ったんでしょうね」


 あとあれだ。

 すんげぇ怖かったんだと思う。


「そうそう。その子は特殊個体でね。名付けもしたからうちの子にしたわ。ホルツリッヒ村の人たちも乗ってもらえるように手配するつもりよ」


 羨ましいなぁ、ホルツリッヒ村。

 特殊個体なら例のヘラクレスオオカブトーンと一緒に、安全に乗れます! を謳い文句に観光の目玉にもできそうだ。



 午前中は婦人科、午後は消化器科と医者のはしご日になってしまった。

 先日友人と引いたおみくじの病欄は、重くない、治るだったので、怖い診断が出ても気楽に考えるとします。


 次回は、スルバランはドキドキが止まらない。8(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。 


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