ボノはさすがに慣れた。7
友人とミュージカルを見に行く予定なのですが、既に一度行った友人が美味しい御飯のチェックもしてくれたようです。
わかってるなぁ、友よ。
一応お勧め所のチェックはしているんですけどねー。
フォルス嬢がテーブルの上へと置いた説明書を、スルバランは素早く自分のアイテムバッグへ入れてしまった。
折れないように重要書類入れに挟んでからなのはスルバランらしい。
商談後に二人で話し合いをする心積もりなのだろう。
副ギルド長と会頭は当然呼ばない。
ボノは誰を話し合いに参加させようかと思案する。
冒険者ギルドに頭脳派は少ない。
しかも動ける頭脳派は数人しかいなかった。
何時もの顔ぶれになるだろうなぁ、と溜め息を吐けばスルバランは人選の難しさにしばらく硬直している。
あちらには動ける頭脳派が多い。
だからこそ選別も大変なのだ。
「養殖が上手くいけば食糧問題は随分変わると思うわ。幾つかレシピを教えましょうか?」
「え?」
「味が三種類じゃ飽きられるでしょう? 食べ方だけでもそのまま食べる以外に丼物にする、パンに挟む、麺に載せる、スープに入れる。これだけでレシピは何倍にもなるわ」
「す、すげぇ」
「あらあら。ここで驚いている場合じゃないわよ? 塩味は三種類の中でシンプルな味つけだから、更に違う味を加えても美味しいと思うの」
スルバランがごくりと喉を鳴らす。
おいおい、それは俺の立ち位置だろうよ! と突っ込みを入れそうになった。
そこまで食い意地の張った奴じゃないが、美食には目がない。
それだけフォルス嬢が示す料理は魅力的なのだ。
「使う野菜や献立次第では貴族だって食べに来るでしょうね? 美食に目がない人も、お金を惜しまない人もさぞ多いはず……」
「インセクトダンジョンぐらいしかないこの街に、新たな観光客を呼び込める、と」
「そうね。街の責任者には早めに話を通しておくのをお勧めするわ」
街を統括しているのは、冒険者上がりの苦労人。
頭も使える奴だったのが功を奏したのか街の経営は、彼になってから随分とマシになった。
この話はボノから持ち込むつもりでいる。
尊敬できる先輩でもあるのだ。
既にフォルス嬢の話はしていた。
権力にまとわりつかれるのを厭う御仁だから、間違っても召喚及び招待などしないでくれ、と伝えれば素直に頷いてくれる常識人なので本当に有り難い。
「街の責任者はフォルス嬢のお眼鏡に適う人物ですので、都合がよろしいようでしたら、会っていただけると嬉しいです」
「スルバランが推奨するならできた人物なのでしょう。この話し合いが終わったら席を設けてもらえれば伺うわ」
「ほ、本当かよ!」
思わず席を立ってしまう。
叶わないと考えていたのでもの凄く嬉しい。
「あら、貴男がそこまで喜ぶなんて……冒険者畑の人なのかしら」
「よく分かるなぁ……そうだよ。尊敬する先輩なんだ」
「街の運営をするって大変なのに……凄い方なのねぇ」
感心するフォルス嬢を見ると我がことのように誇らしく感じてしまった。
「じゃあ、ますますミートキリトリの養殖とその販売を成功させないと」
フォルス嬢の言葉にスライムたちが揃ってぶるりと震えた。
スライムたちにもあるのだろうか、武者震い。
「頑張ります!」
「おうよ!」
「スライムたちもやる気なので、口を挟ませてもらってもいいかな?」
「喜んで!」
スルバランが食いつきすぎる。
奴らしくねぇが、それだけの案件だ、無理もねぇ。
フォルス嬢が不愉快に感じてないっぽいから問題ねぇかな?
「ふふふ。じゃあミートキリトリの件はそんな感じで進めていきましょうね。次は……六階の宝箱にいくわよ」
「うぉ! す、すげぇ」
インセクトダンジョンに潜り続けている剛の者たちでも、ここまで集めるのは無理だろう。
出されたのは貴族婦人が喜びそうな小ぶりの宝石箱。
スライムたちがせーの! という掛け声とともに四種類を一度に開けてくれる。
フラワーキリトリの羽、鎌、眼球、ファランジリングそれぞれ全種類が入っていた。
個別でも人気の高いアイテムだが、揃いともなるとコレクション魂が疼く貴族が多そうだ。
フォルス嬢が必要ないならオークションに出してほしい。
「これはそこまでレアでもないからオークションでもいいかなぁ、と考えているの」
「是非!」
間髪入れずスルバランが叫ぶ。
まぁいいけどよ。
冒険者ギルドでは個別で需要の高い物を買い取れればそれでいい。
「そして、つ、次の宝箱は……皆、お願い!」
「任されたのねー」
何故かフォルス嬢が目隠しをして耳を塞いでしまう。
「お、おいおい。何が出てくるんだよ?」
呪われたアイテムじゃねぇよな?
「アイリーンが苦手なだけで、アイテムとしてはすばらしい効果なのねー」
「これですわ」
ローズがボノのそばにどんと置いた。
「お、おぉ違う意味ですげぇ」
「これは確かに……フォルス嬢だけでなく、見るのすら嫌がる人は多いでしょう……しかし……それでも欲しがる高貴な方は多いでしょうねぇ……」
遠い目をしてしまったスルバラン。
「その……やはりそこまで欲しがられる秘宝なんでしょうか?」
セリノがそっと質問をしてきた。
ボノもお貴族様とやり取りする立場にならなかったら、セリノと同じ考えをしていたと思う。
だが、本当に高貴な方々にとっては恐ろしく切実な問題なのだ。
ボノの横に置かれたのはブラックジーを剥製にしたような宝箱。
鑑定結果がこれだ。
ブラックジーの秘宝
中身は、永遠のブラックジーという名を冠する漆黒の宝玉。
飾っておくだけで、子孫繁栄、頑強長寿が約束される。
王族などが喉から手が出るほど欲しがる秘宝。
宝箱の中に入れたまま設置すると盗難防止になるので推奨。
尚、あらゆる種類のジーに好かれるらしい……。
ランク レジェンド
な?
見た目とかどうでもいいんだよ。
隠しておけばいいんだし。
それこそ専用の隠し部屋を作ればいいんだしな。
ただあらゆる種類のジーに好かれるってーのは問題だなぁ。
一緒にジー避けのアイテムを置いておけば回避できるのか?
秘宝と呼ばれる代物なのだ。
こちらの効果が勝ちそうなものだが……。
「そんな貴方方に朗報なのねー」
リリーがテーブルの上に十個のピンバッジを置く。
レアドロップアイテムのホワイトジーの野望だ。
ホワイトジーの形をしたピンバッジで、ジー系統モンスターとの遭遇率を減らしてくれる効果がある。
検証の結果、実際かなり減るとの報告が上がった。
しかし十個つければ、絶対に遇わない……という説については検証ができていない。
十個も集まらないし、集まったとしてもつけて挑んでくれる冒険者がいないからだ。
「秘宝の近くに並べて飾っておけば、ジー系モンスターとジー系の昆虫は出ないのねー」
「そりゃあ、いいわ! 絶対にセットでオークションだろう」
「ですね。それを聞けば購入を考える方々が間違いなく増えるでしょう」
「有効範囲は敷地内とされているけれど、宝物部屋として離れ扱いにするか、屋敷の壁にホワイトジーの触覚を埋め込んでおくと安心なのねー」
なるほどな。
どうせ落札するのは金持ちだ。
宝物屋敷を新しく建設するのが一番だろう。
どれぐらいで効果がでるのかわからないが、ジーモンスターの繁殖力を考えると、即時出そうな気がする。
「アイリーンが耳と目を塞いでいる間に、他のジー関係ドロップアイテムの取り引きもするのねー」
「ジー関係ですと……レアドロップが欲しいですね」
「おう。うちもだな。特にホワイトジーの夢は幾つあってもいいな」
水虫避けトゥーリング。
装備していると水虫に悩まされない効果がある。
冒険者は職業病かってくらいに水虫の奴らが多いからな。
かくいうボノも随分と悩まされた。
今は完治しているけどな!
……しているよな?
「ブラックジーのど根性を欲しがる御令嬢がいるのですが……大丈夫でしょうか?」
おうふ。
随分といかれた御趣味の御令嬢だなぁ。
「昆虫が好きな女性も一定数はいるのねー。そうでなくても、凝視しなければ何か模様のあるリボン程度にしか見えないのねー。レース自体は高級な生地なので返品覚悟で納品するといいのねー」
「……リリー殿の言葉をそのままお借りして納品するとします」
返品、されないといいな?
「あ、ホワイトジーの野望十個も検証がすんで、本当に遭遇しねぇんなら、欲しがる奴らがいそうだぜ」
「本当に遭遇しないのねー。見えない場所につけていても効果はあるから、ローブの裏とかにつければいいのねー」
「お。隠してつけてもいいなら需要が増えるかもな。五セットほど欲しいわ」
「まいどありーなのねー」
ずらっと並んだ小さなホワイトジー、その数五十匹。
さすがのボノもこめかみ辺りに何かが走ったが、リリーは全く動じていないようだった。
いろいろとすげぇよな。
主人が隣の席の人がコロナになったと教えてくれました。
がくがくぶるぶる。
ミュージカルが見終わるまでは発症しませんように。
や、マスクしっぱなしで濃厚接触はないとのことだったので大丈夫だとは思うんですけどね。
ワクチンもがっつり受けてるし。
次回は、スルバランはドキドキが止まらない。7(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。