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スルバランはドキドキが止まらない。6

 主人と週末の晩酌を嗜むようになってしばらく経過しましたが、ここにきてウイスキーの値上げがありますね。

 近所のスーパーに定期的な入荷があるのでありがたいのですが、今後はどうなるか不安です。

 ポイントもつくので引き続き入荷してほしいなぁ。

 

 


 スライムたちが出してくれる飲み物は全て美味しい。

 冷たい物や温かい物をそのときの状況に応じて準備してくれる。

 小腹を満たす料理の提供もあった。

 サンドイッチが具沢山で美味しい。

 ボノが大きな声で、お代わり! と言って却下されていた。

 底なしの胃には制限をかける方針らしい。

 フォルス嬢たちの料理なら、大食らいのボノでも味で満足できそうだが、スライムたちの意思は常に尊重する方向だ。

 ボノは直感で、セリノは短いながらも経験を生かして、何かを言いかけては堪えていた。

 悪意がないどころか善意しかないので、こちらの対応はより慎重にならざるを得ない。

 心理戦がこれほど苦しい商談は初めてだ。

 金額が高額な商談も同様。

 満足感が得られる商談もまた、同様。


「六階はねぇ……隠し部屋についてなんだけど……インセクトダンジョンで隠し部屋の報告って、今まであった?」


「何件かはあったぞ。秘匿される場合も少なくないから、恐らくそれなりに存在するんじゃねぇかな?」


「ボノと一緒に潜ったときにもありましたよね、隠し部屋」


「お! そうだったな。お前ばっかりが喜ぶアイテムだったから、記憶が薄いんだよ」


「日頃の行いですね」


 隠し部屋は何故か商人ギルドが喜びそうなアイテムで溢れていたのだ。

 ボノはそれでもぶつぶつ言いながら自分が持ってきたアイテムバッグに、入りきれなかったアイテムを入れてくれた。

 金にがめつい副ギルド長を、ダンジョンが嫌ったのかも? と当時は思ったものだ。

 そのとき、やはり会頭が王都へ長期滞在中だったので干渉がないというのも、あったかもしれない。

ボノも、ダンジョンの意思を感じるぜ! と言っていたので、間違いのない判断だと思う。


「あ、あるにはあったんだ。で。隠し部屋っていうと、罠必須みたいな印象があるんだけど、どう?」


「冒険者には持っていてほしい警戒心だな。そういう印象で間違いねぇ」


「ですね。インセクトのダンジョンはそこまで悪質なものではありませんが、隠し部屋の前にはまず設置されていると言い切ってもいいでしょう」


「そこまで悪質なものではない……か」


 フォルス嬢は難しい顔をしながら、ローズに目線を投げる。

 ローズの収納から十本の矢が現れた。


「今回の隠し部屋は、壁の向こう側にあったの。で。壁を崩して隠し部屋を認識した途端、十本の矢が同時に飛んできたの。しかも放射状に、よ」


「それは……えげつねぇなぁ」


「現在この街に滞在している高位冒険者でも、完全に避けるのは難しそうです」


「そうよね。で、放たれた矢がまた、えげつないのよ」


 ボノが言う、えげつねぇと、フォルス嬢が言う、えげつないの言い方だと、何故か丁寧な口調で話すフォルス嬢の方が危険だと感じてしまった。


「紫が毒矢、真紅が焼き矢、錆色は色の通り錆び付……と。即死案件じゃねぇが、最終的に苦しんで死ぬ、か。即死より悍ましいわ!」


 スルバランの鑑定では、毒矢は解毒困難。

 焼き矢は広範囲の火傷は完治不可。

 錆色の矢に至っては、必ず破傷風に罹患する、という結果が出た。

 フォルス嬢のパーティーでなかったら、パーティー全滅の憂き目にあった可能性も高い。


「貴重な矢だと思うが……今後の参考のために提出してもらってもいいか?」


「ええ、いいわよ。ちょうど二本以上あるしね。三種類一本ずつ提出します。これに関しては注意喚起をしてほしいので無償の提出でいいわ。今後の研究もよろしくね」


「おうよ! あーせっかく提出してもらっても、良い薬師がいねぇからなぁ……フォルス嬢に依頼をだしてもいいか?」


「あら、私に?」


「完全調合のスキル持ちなんて、薬師でも少ないんだ。時間はかかってもいい。三種類とも頼む」


「……成分の解読ですの? それとも万が一その身に受けてしまった場合の治癒方法ですの?」


「可能であれば、そのどちらもだ」


「成分の解読までであれば、受けられますわ。でも治癒方法となると……出所は伏せていただかないと困りますわねぇ」


 テーブルの上に乗ったローズがテーブルから零れんばかりに巨大化して、ボノを覗き込んでいる。

 それはそうだろう。

 破傷風の完治薬は永遠に開発中とまで嘆かれている代物だ。

 開発が叶ったものは爵位が土地付きでついてくる程度にはすばらしい功績なのだから。


「了解した。完成した時点で王都にある薬師ギルドに直接持ち込んで話をつける。奴らもいい加減、傲慢な考えを改めるだろうしな」


 ボノは自信ありげに言うが、実際のところはどうだろう?

 教会の最高責任者を口説いて連れて行かないとまずい気がしている。

 それほど今の薬師ギルドは、自分のギルドが最高だと信じ切っているのだ。

 王族の勅命ぐらいの切り札は欲しい。


「依頼は受けましょう。でも薬師ギルドに行くときは、スルバランと、スルバランが選んだ推薦人と一緒に行ってくださいね?」


 ははは。

 さすがは、フォルス嬢。

 何もかもお見通しだ。


「推薦人か! そうだな、頼むぜ。スルバラン」


 頼まれますけどね……フォルス嬢に同行いただいたときに、お願いしてしまおう。

 

 スルバランは大きく色を変えた文字で書き記しておく。


「隠し部屋にあった宝箱は凄かったわ! でもね。それ以上に凄い宝箱を見つけたのよ」


「アイリーンが失神した宝箱もあったのねー」


「その話はしないで! 私が目と耳を塞いでいるときにして!」


「了解なのねー。あれはあれで凄い宝箱だけど、ミートキリトリの宝箱には勝てないのねー」


「ミートキリトリの宝箱? そこまでレアでもねぇだろうが」


「ボノ! 話は最後まで聞きなさい!」


「そそ。急いては事をし損じるってね? まず宝箱自体は解体しちゃったんで、中身の一部を出すわね、よろしく。ローズ」


 またしてもローズがテーブルの上へ皿を出して胸を張った。

 そういえば彼女は肉が大好きなのだと聞いている。


「あ? 三種類? どこが違うんだ? ……匂いが違うわな」


「つまりは……味も違うと」


「まずは御笑味あれ! ってね」


 ここ一番の笑顔を披露するフォルス嬢。

 彼女が食を大切にしているのは重々理解している。

 スルバランたちの、もっと良い食べ物がドロップしないのか? の要望に応えられたのが嬉しいのだと思う。

 やろうと思ってできるものではないのだが、フォルス嬢ならなんでもありなのだ。


 スルバランは頷いて、甘酸っぱい香りが仄かに漂うミートキリトリを口にする。


「うわ! うめぇ! なんつーかこう、ミートキリトリの肉の味を完璧に引き出している味っつーのか?」


 ボノはスルバランとは別のミートキリトリを選んだようだ。

 自分が食べている物は、甘酸っぱい味なのでボノが抱いた感想とは違う。

 ネギシロ、もしくはネギミドリが細かく刻まれたものを、甘酸っぱいたれによく漬け込んだソースを絡めた味……で恐らく間違いないとは思う。

 しかしこの甘酸っぱさを出せる調味料は何を使っているのかわからない。


「ボノが食べているのは塩胡椒味。スルバランが食べているのは葱甘酢味。塩胡椒味はさて置き、葱甘酢はこっちじゃ再現不可の味……と、言いたいところだけど」


 ボノが大きく生唾を飲み込んでいる。

 スルバランの喉も鳴っていた。


「なんと! 味付けソースの入った小瓶もあるのです! 勿論照り焼き味もあるよ!」


「……と、申しますと?」


「うん。美味しくないお肉やお魚にもこのソースをかければ、同じ味が楽しめるってことだよ!」


「奇跡だ!」


「うんうん。きっと食の神様が頑張ってくれたんだよ」


 食の神様はこの世界にいらしたのだろうか?

 スルバランに取っては目の前にいるフォルス嬢こそが、食の女神そのものだ。


「朗報は更に続きます。これ以降、初めてドロップした二種類のミートキリトリ、三種類の調味料はレア扱いですが、ドロップするようになりました」


「ありがてぇ!」


「さーらーに! この説明書を御覧ください!」


 フォルス嬢が、ばばばばーん! という効果音付でテーブルの上へ置いてくれた一枚の紙。

 ボノと二人で覗き込む。


「ミートキリトリの養殖についての説明書……」


「……これでインセクトダンジョンも一流ダンジョンに格上げ間違いねぇな!」


 ボノは立ち上がって一人ダンスを踊った。

 スライムたちの、あら意外に上手ね? という目が微笑ましい。

 ダンスフライの効果はしっかりと出ているのですよ。

 披露するつもりはないが、スルバランのダンスの腕前は、ボノより上だ。


「養殖場については、冒険者ギルドと商人ギルドで組んで管理でいいよな? この街の特産品にしようぜ!」


「ですね。常にこの味を提供できるわけですから、肉のみでもいいですし、他の食材と組み合わせた料理の開発もしたいです」


「しっかりした奴を巻き込んで、いい感じに普及させていこうな」


「ですね!」


 興奮のままに差し出してくるボノの手をぐっと握り締めてしまった。

 さすがのスルバランも浮かれずにはいられない。


「は! フォルス嬢。この説明書は売却アイテムでいいんだよな?」


「ふふふ。ミートキリトリの肉に関しては既にうちの子たちが……」


「わぁ! 皆まで言うな! わかってるけど、言うな!」


 わかります。

 既にミートキリトリの養殖体制が整っていて、今更説明書は必要ないってことですね?


 スルバランが頷くのに、スライムたちも揃って頷いてくれた。

 




 先日ふるさと納税でT&Lボーンステーキを購入しました。

 Lボーンについては初めて聞いたので思わず調べてしまいましたよ。

 一つで二種類の部位を楽しめるステーキ。

 大きすぎてフライパンに入らないというアクシデントがありましたが、大変美味しくいただきました。

 まだ残っているので年が明けたら焼きたい所存です。


 次回は、ボノはさすがに慣れた 7(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。 


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