ボノはさすがに慣れた。6
年末に向けて大掃除を……と思っていたら、想定していなかった体調不良に見舞われました。
モチベーションが駄々下がりです。
ふと、掃除に関しては無理に大掃除をしなくても、日々頑張っていればいいのでは? と思った次第ですが、どうにも掃除が苦手なんですよね……。
たも網? とやらは凄い。
似たような物はあった気がするが、所謂貧民が使っていたようなのだ。
それをボノたちに、使いたい! と思わせたのは、偏に性能だと思う。
リリーの使い方講座にはボノも出席を決めていた。
リリーも恐らく、当然ねー、と同意するはずだ。
スルバランも同じように受けると疑わない。
それだけ使い勝手が良く、商売にもなるからだ。
フォルス嬢がボノやスルバランを信用してくれる限り、望めば提供してくれるだろう。
もしかしたら作り方なども教えてくれる可能性すらあった。
多くは望まないと己を戒めつつも、あれもこれもと思い浮かぶ妄想を叩き潰すのはそこそこ手間だったが、怠るわけにはいかない。
「他に欲しい物はある? レアドロップもどんとこいよ!」
フォルス嬢が楽しげに話を持ちかけてくる。
何処まで提供してくれるつもりなのだろう。
背筋をぞくりとした何かが走り抜ける。
スルバランは暫く沈黙を守ったあとで、躊躇いながらも切り出した。
「ゴールデンカーメの卵以外のドロップアイテムでも、大丈夫でしょうか?」
「勿論。ゴールデンカーメの甲羅とゴールデンカーメの眼鏡ね。幾つ欲しいのかしら」
ゴールデンカーメの甲羅は、懐に余裕がある奴らは自宅に置いておき、そうでない奴らは売り払うのが一般的だ。
スルバランが相手にするのは、自宅に置いても盗難されない自信がある輩だろう。
以前、まだ手に入らぬのか! と難癖をつけられている場面を幾度か見た。
市場に出回るのは中古品が多いから、新品を望むお偉いさんらしい。
綺麗な直角お辞儀をして詫びの言葉を延々と続けるスルバランの目が、死んだ魚の目と同じだったなんて、ボノにでも想像がつく。
ゴールデンカーメの眼鏡はお買い得品がわかる上に、装飾品としての評価も高い。
お偉いさん方の懐と誇りの両方を満たす希少なアイテムだ。
需要に供給が全く追いついていない状態が随分と長く続いている。
こちらは冒険者も手放したがらないので、へたをすれば甲羅よりも欲しがられているレアアイテムなのだ。
「……どちらも一ダースずつでも、大丈夫でしょうか」
「楽勝ね」
「楽勝なら。俺も同じ数、いいか?」
「ええ。いいけど……冒険者にも需要はあるの?」
「そこそこ稼いで引退を考えている奴らはこぞって欲しがるな」
「ああ、なるほどねぇ」
いろいろな考え方があるわねぇ、と感心しながらも、まずは眼鏡がテーブルの上に置かれる。
甲羅は大きいので、用意したボックスにスライムたちが数を数えながらしまってくれた。
ありがてぇ。
重さがあるので、しまうだけでも手間のかかる面倒なアイテムなのだ。
「フォルス嬢のお蔭で塩漬けの依頼がどれほど片付くか……感謝しかないですね」
「永遠の塩漬け依頼とかありそうよね……」
「あったなぁ。依頼主が死んで終わりかと思ったら、再度継続依頼として出された日には荒むんだわ……」
それが断れない筋からだから、また面倒なのだ。
力があれば塩漬け依頼も他のギルドと相談して片付けられたりもするのだが、ドーベラッハのギルドはそこまで評価が高くなかったので難しかった。
無論、フォルス嬢のお蔭で今後は助ける側に回りそうな予感があるが。
今まで冷たかった相手には、それなりの対応にしようとボノは決めている。
スルバランもそうだろう。
その辺りの価値観は似ているので、話し合わなくても意思の疎通はできている。
「じゃあ、宝箱にいこうかしらね? ふふふ。覚悟はいい?」
「宝箱の度に覚悟は決めています」
「そのたびに、覚悟が足りなかったと思うんですよね? わかります」
セリノが口を挟んできた。
つまりは今回の宝箱の中身も相当な物だと事前に教えてくれるわけだ。
セリノに感謝しつつ、ボノは覚悟のランクを上げた。
上げても無駄な気もしたが、やらないよりはいいはずだ。
……たぶん。
「まずは大きい方からいこうかしら。床に置くわよ」
モルフォが何やら敷物を出してきた。
その敷物にも突っ込みを入れたいが今は放置……。
「その敷物はなんですか?」
……できなかった。
スルバランの目が輝いている。
仕方ないな。
こいつの目は鑑定眼持ちより凄いときがある。
「川藻生地ね」
「最高級品は滅多に出回らないのですよ!」
「うちの子たちが張り切ってくれたので、普通に販売も可能よ」
「……今はダンジョンドロップ品の話ですね。今後の取り引きに川藻生地も入れていただけますか」
「了解!」
何とも鮮やかな青色だ。
需要はさぞ高いだろう。
そして惜しげもなく最高級川藻生地を敷物にするあたり、フォルス嬢たちの常識がずれまくっているのを改めて理解する。
指摘はしておくべきだろうか……スルバランがしないなら、この程度ならしなくてもいいと判断したのだろう。
「さ。どどーんと鑑定してくださいな」
「うぉ! でかいな」
「……これはまた……凄まじい効果ですねぇ」
成金が喜びそうなゴールデンカーメの像。
有象無象を引き寄せる予感しかしない、黄金の像だ。
外に設置したら一瞬で盗まれそうだ。
家の中に置いても三秒で盗まれそうだ。
「効果を考えると……王都の商人ギルドに置くといい気もしますが……」
「じゃなきゃ、王都の教会だな」
どちらも防犯は完璧だ。
商売の神が作ったなら、意地をかけて王都の商人ギルドが入手しそうだが、どうだろう?
フォルス嬢次第の気もする。
「私的には、像は王都の商人ギルドでいいと思うの。金額の折り合いがつけば、ね」
にっこりと笑うフォルス嬢から尋常ではない威圧を感じる。
この威圧を受けて、値引きを申し出られる商人がいたら、フォルス嬢がスカウトしそうな凄絶さだった。
「像は、と申しますと?」
「教会にはこちらがいいかなぁと」
次のお宝はテーブル上へ置かれた。
丸い池? としか表現しようがない物体だ。
鑑定をして絶句する。
ゴールデンカーメの池。
ランク アーティファクト。
効果 半永久的にゴールデンカーメの幼生体が一定数繁殖する。
ただし中に入っている一定量の水を零してしまうと、効果が消えるので要注意。
あまり動かさずに、一箇所に止めておくのをお勧めする。
球体型の宝箱に入っている。
「あー、確かにこれは、教会向けですね」
「拝観料とか取れる代物よ、これ」
フォルス嬢がまた楽しそうに笑う。
管理が大変そうだが教会ならやってのけるだろう。
それだけお金を齎してくれるアイテムなのだ。
基本清貧を謳う教会だが王都の教会には権威も必要だった。
何しろ最高責任者が王族なのだから当然だろう。
権威を維持するには金もかかる。
それも膨大な金が。
このアイテムをきちんと管理できれば教会には、定期的な収入が見込めるようになる。
しかもそこそこ高額の。
「王都教会の最高責任者は人格者で人を使うのが上手な方みたいだから、しっかり管理して理不尽な目にあっている人たちを助けてほしいものね」
この国はよくやっている方だと、それなりの立ち位置にいるボノは思う。
しかし、全てを救いきるには何もかもが足りていない。
フォルス嬢は何処までこの国に対して踏み込んでくれるだろう。
正直、彼女一人でこの国は最強国にまで簡単にのし上がれる。
「では、この二つはオークションは通さない方向で?」
「ええ、スルバランかボノが直接交渉してほしいわ」
「スルバラン一択で!」
「馬鹿を言わないでください! 一蓮托生です! 二人一緒に伺っても地位的に微妙なんですよ!」
そうだった!
王都の商人ギルドはさて置き、教会の最高責任者にこっそりと会うには、地位が足りていなかった。
「あら。そう言われてみればそうね。じゃあ、私も一緒に行くわ」
「アイリーン?」
リリーがフォルス嬢の肩に飛び乗ると、伸ばされた触手が彼女の頬肉を引っ張る。
美形は変顔をしてもそれなりに見られるから凄げぇな。
「ちょうろいいじゃなひ? 王都には、もともと行くつもりだったし。オークションもあるし?」
「そうだけど、私たちの賛同もちゃんと取ってほしいのねー」
「皆で王都に行ってオークションと商売を頑張ろうねー?」
「お買い物も入れてくれないと困りますわよ?」
「う。食材が楽しみなの」
「ん。それ以外のアイテムも楽しみなの」
「ちゃんとした薬師ギルドにも寄るといいのです」
スライムたちの賛同も取れたようで何よりだ。
スルバランもボノと同じように深く安堵したようだった。
今年のクリスマスもチキンを食べまくりました。
スーパーにいろいろなチキンが並ぶんですよね。
チキン好きとしては嬉しい限りです。
フライドチキン、スモークチキン、ローストチキン、ローストポークを堪能しました。
あ、最後は豚肉好きの主人用にと購入したのですが、凄く美味しかったです。
自宅でも作ってみたいなぁ。
次回は、スルバランはドキドキが止まらない 6(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。