ボノはさすがに慣れた 5
福袋の予約があちこちで始まっています。
今は11月頭からチェックしないと危険です。
毎年福袋を購入しても何かと使わないアイテムが出てしまうので、今回は絶対使い切れるアイテムを厳選して選びました!
主人との楽しむ晩酌のおともばかりになった次第です……。
可愛らしいフラワービーのチャームを掌へと乗せながら、呆然とするスルバランを見てにこにこと楽しげなフォルス嬢を心の底から尊敬する。
スルバランは普段ここまで無防備な顔をしない。
本人は認めないがスルバランは隙のない美形だ。
しかもその美形ゆえに寄せられる、様々な行為を悉く退けてきた剛の者でもある。
だからこそ、フォルス嬢の凄さを思い知るのだ。
このスルバランの表情を引き出せたことにも。
誰もが惹かれてしまう無垢なまでのスルバランを見ても、見惚れていないことにも。
「……蜜好きな俺としては本当に有り難い限りだぜ。そろそろ祝杯の酒が出てきてもいいんじゃねぇのか?」
「駄目なのねー。お酒は商談全てがすんでからなのねー。私たちがお酒を提供するのはオークションがすんでからなのねー」
フォルス嬢でなく、リリーからの答えがあった。
お酒を出してくれる気はあるらしい。
オークション終了後となったら、随分先の話になるが、最終的に飲めるのならこれ以上の我儘を言うものではないだろう。
「……絶対飲ませてくれよ?」
「ボノが潰れるまで飲ませて差し上げましてよ?」
ローズがにやりと笑った。
スライム収納にある酒の在庫はボノの想像を軽く超えているらしい。
「あの……」
ここで、すっかり存在を忘れていた……本人が消していたのかもしれない……セリノが挙手とともに発言をする。
「今更ですが僕、このままここで取り引きに混ざっていてもいいのでしょうか?」
「勿論よ。パーティー登録しているから、セリノにもお金を受け取る権利はあるしね。あ、もしかして欲しいアイテムとかあった? あったなら優先するわよ」
「いえ、そうではなく……御一緒させていただいただけでも僥倖なので、それ以上を求めるのはその……心臓がもちません!」
セリノの気持ちはよくわかる。
うんうんと大きく頷いた。
スルバランはフォルス嬢にチャームを返して己を取り戻したらしく、何時もの見慣れた笑顔をセリノに向ける。
「セリノ君、今までの不運が幸運に変換されたと思えばいいのですよ!」
「……過剰だと思います……」
不運が過剰よりはマシだと思うが、良心を痛めるのはセリノが善良な人間だからだろう。
だからこそ、フォルス嬢がセリノに対して好意的な発言を続けるのだ。
「過剰だと思うならホルツリッヒ村に貢献してくれればいいわ。永住しろとまでは言わないから」
フォルス嬢が艶然と笑う。
何度か見かける機会のあった、この国の王妃や王女たちよりも典雅で覇気のある笑顔だった。
「……取り引きの最後に口止魔法をお願いしますね」
「あ、そうだね」
「もしかして忘れていらっしゃいましたか?」
セリノがジト目でフォルス嬢を見上げる。
フォルス嬢は照れ笑いを返していた。
ボノはぽんと軽くセリノの肩を叩く。
「安心しろ、セリノ。スライムたちがちゃんと覚えているから」
セリノがスライムたちに目線を向ければ全員が揃って大きく頷いた。
本当にできた保護者たちだよ。
「僕の希望はお金だけです。自分の見る目も養いたいですから」
だよな。
フォルス嬢は身の丈に合わない物をぽんぽんと、善意一色で与えるだろうからな。
「ふふふ。それじゃあ、最後までいてね? できればオークションも参加してほしいな」
「オークションも、ですか……うん。では勉強させていただきます」
身の丈に合わないアイテムを合法的に見られる数少ない機会だからなぁ。
セリノが一緒にダンジョン踏破をしたと、知っている奴も少なくないから、冒険者ギルドからも護衛を回しておくか……。
「それじゃあ、そろそろ四階ね。レアドロップからいこうかしら……ダンスフライのプライド、ニードルフライのニードルガン、ツェツェフライの夢」
「……セリノよぅ。お前、こんな機会希少が過ぎるんだからな? ニードルガンをもらっとけ。お前さん、接近戦専門だったろ。これからは遠距離攻撃も覚えた方がいい」
「そうですね。私もそう思います。得ようと思って得られる武器ではないのですから。ダンジョン踏破者としてむしろ当然かと。フォルス様、当然ニードルガンのニードルもございますよね?」
「うん。売るほどあるよー。でもそれなりの重さがあるから、専用のマジックバッグがあった方がいいんじゃない?」
「あー。武器屋に売ってるぞ。何なら良い店紹介する」
「ですって、セリノ」
ここまでお膳立てされたら、受ける以外の選択肢はない。
セリノは困ったように眉を寄せてから、深く溜め息を吐く。
「ダンジョン踏破者のパーティーである一員として、赤の他人目線で見たら、断るのは不自然ですね?」
「そうそう」
「では、有り難く、ニードルガンの持ち主になります。武器屋の紹介はよろしくお願いしますね、ギルド長」
「まかせとけ! オークション会場は王都になるだろうから、そこでニードルガン持ちも紹介してやるよ。教えを請えばいい。奴はちょっと暑苦しいが良い奴だ、いい師匠になってくれるだろうよ」
そろそろ引退を考えているらしいと聞いたから、ニードルガンの扱い方を教える講師への転職でも勧めておこう。
奴は今王都在住だったはずだ。
「ではニードルガンについてはそれで終了と。他のアイテムはどうする? 勿論複数個あるわよ?」
「どちらも五個ずつはいただけると嬉しいです」
スルバランが腰を上げかけながら言った。
常に貴族様が欲しがるアイテムだからな。
「うん。大丈夫よ、ボノはいいの?」
「そうだな、ツェツェフライの夢を一個もらえるか? 冒険者ギルドの雑魚寝部屋に置きてぇ」
金のない奴らが泊まるための簡素な大部屋。
鼾問題が持ち上がっていたが、これを設置しておけば大丈夫な気がする。
「それなら無料で上げるわ。私も駆け出し冒険者には援助したいから」
「使うのは駆け出し冒険者だけじゃねぇぞ?」
「使う人の選別はボノでしょ。それならいいわ、贈り物で」
「正直、助かる。ありがとな」
机に両手をつけて深々と頭を下げる。
フォルス嬢はそこまで大げさに感謝してくれなくてもいいのにと、屈託なく笑った。
「通常アイテムもいろいろあるけど、食料系は……」
「ダンスフライのフライはやっぱ欲しいんだよな、酒のあてに」
「いますよね。冒険者で妙にダンスが上手い人」
「少ないけどいるんだぜ? ダンスフライを食いまくってダンスが上手くなって、貴族令嬢のエスコートをして成り上がった奴」
「え? 本当に?」
お、珍しい。
フォルス嬢が驚いている。
恋愛系に疎いのかもしれないな。
スライムたちが情報を遮断してそうだ。
「ああ、本当だぜ。俺が知る限り三人いる」
「全員美形でしたけどね」
「えーと、なんだ? 体形もいいらしいぜ。細マッチョっていうんだっけか? 辺境で大人気なんだよな」
「あー、乙女ゲームあるあるね」
何やらフォルス嬢が悟ったらしい。
据わった目をしている。
「なんだ、興味があるのか?」
「物語の話ならそれなりに楽しめるって感じよ」
「現実的だなぁ。それだけ美人で実力もあるのに」
そう、時折見え隠れする、フォルス嬢の闇。
自分の価値を低く見過ぎている態度に思考。
ここまで綺麗だとボノの想像も付かない経験をしているのだろう。
「恋愛は面倒なの。あのどろどろした感じ。しばらくはお腹いっぱいね」
「言ってみてぇなぁ、そんな台詞」
「あら、ボノはモテたい男なの?」
「そりゃ男ならモテたいだろう。なぁ、スルバラン」
「いえ、私は誰にでも好かれるのは困ります」
「お、そういえばお前は偏執的な奴を引き寄せるんだっけな」
「暴力女を惹き付ける男に言われたくないですね!」
しまった、この話は痛み分けだった。
ボノもスルバランも、本人が好ましいと思う女性には好かれないのだ。
特にボノの許容範囲は広いはずなのに、その範囲からハズレた女ばかりが暴力を持ってボノを支配しようとする。
相手が権力持ちだと本当に、厄介なのだ。
「二人とも大変ねぇ」
「ダンジョン踏破の記念オークションを開く貴女も、人ごとではありませんよ?」
「ははは。最悪、誰も追ってこれないところに逃げるから大丈夫!」
フォルス嬢なら人が住めぬ極寒の地や灼熱の大地でも快適に過ごしそうだからな。
ボノとしてはお偉い人たちがフォルス嬢に対して丁寧な対応をしてくれるように、祈るしかなかった。
そして今年のふるさと納税はTボーン&Lボーンステーキに挑戦!
ちょっとお高いけど、たぶん大丈夫なはず……。
しかし今日は風が強いなぁ……洗濯物が飛んでしまいそうなので、天気は良いのですが中干しにしています。
微妙に悔しく思うのは主婦あるあるですね。
次回は、スルバランはドキドキがとまらない。5(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。