スルバランのドキドキは止まらない。 2
寺沢先生の訃報を知って意気消沈。
お悔やみ申し上げます。
主人公たちもさることながら美女たちが好きだったんですよね。
人は自分にないものに憧れるのです……。
全巻セットとか出たら購入しようか検討しています。
大きすぎる話に冷や汗が滲む。
こんなとき、ボノが自分の意見に賛同してくれる性質で有り難い。
副ギルド長や会頭だったら、こうはいかないのだ。
内心の動揺は見抜かれていたのだろう。
リリーがすっとお代わりのすっきり草を使用したデトックスウォーターを置いてくれた。
しみじみといい塩梅だ。
ぶれる思考の揺らぎが消える。
虫避けスプレーは、虫避けスプレーとして販売する、これは決定だ。
頭の良い冒険者や一般の利用者が気がついたところで、出る杭は打たれて終わる。
一般人がどうこうできる話ではない。
王都から規制の打診が来るのは遠くない未来の話。
それまでに便利な虫避けスプレーとして、どこまで販売できるかが勝負どころ。
フォルス嬢は惜しげなくレシピを教えてくれそうだが、それをきちんと再現できる薬師がいるかどうかが問題だ。
レシピが洗練されていれば、レベルが低くとも虫避け自体はできるだろうが、その効果は格段に落ちるに違いない。
ドーベラッハにいる薬師たちとも相談だ。
この街に薬師ギルドがなくて良かった。
薬師ギルドは数多あるギルドの中でも保守的な組織。
商人ギルドとぶつかることも多い。
「俺んとこの依頼はこれで終わったな。商人ギルドに場所を移すか?」
「これだから、ボノは駄目なのねー」
「あぁ?」
「依頼は商人ギルドから出てるけど、トリュフマスターの話は聞いておくべきなのねー。あとは、レアなドロップアイテムの確認もしておくべきなのねー」
「お、おぅ!」
目を大きく見開くボノはリリーが、丁寧なアドバイスをくれたのに驚いている気がする。
スルバランは苦笑をした。
トリュフマスターの件は自分で説明しようと思っていたからだ。
「そんなにすげぇのか、フォルス嬢の手がけたトリュフマスターは」
「……鑑定をしてみたらいいですよ。私は評判の良い冒険者限定で販売する心積もりでした」
きちんと箱に収まっているトリュフマスター百個。
数えるまでもないだろう。
誇りを持って主人に仕えているスライムたちが、数え間違えるとは思えない。
それでもしがない商人。
箱の中から取りだした一つを鑑定用にボノに渡す。
残りの数を数えだした。
一列につき十個並んでいるので、大変数えやすい。
冒険者は言わずもがな、商人だってここまで相手の手間を考えてくれる者は少なかった。
「ぎゃ!」
ボノが大げさにのけぞっているうちに、さくっと数え終える。
当然ぴったり百個あった。
「こりゃ……トリュフが取り尽くされるのを心配しなきゃ駄目だなぁ……」
「何もこの街だけではありませんよ、トリュフの採取地は」
「それでも、数の制限は必要だろう。トリュフが供給過多とか、業者が困るだろうが」
「そもそもトリュフを扱う者たちは欲を掻きすぎなのですよ。少し冷や汗をかけばいいのです」
鼻が利く冒険者やスキル持ちを抱えて、トリュフを専門に取らせている商人が何人かいる。
暴利を貪っているので随分と恨まれているが、未だに健在なのは、しっかりと護衛を雇っているからだろう。
その護衛の評判までもが悪いのだから恐れ入る。
「……百個。多くねぇか?」
「繰り返し使えますが壊れないわけではないのですよね?」
「壊れやすく作り直そうか?」
フォルス嬢がしれっとした表情で首を傾げてみせる。
「基本は使い捨てなんだよね? 三回使ったら壊れるように調整する程度なら、話ながらでもできるけど……」
「い、今の段階では、何回使えるんだ?」
「丁寧に使ってくれれば十回以上は軽いわね」
永遠に壊れない物も作れるのでは? と思ってしまった自分に怖気だった。
恐らく間違っていないだろう。
「あー。でもトリュフが高いのは確かだし……トリュフの質とか大きさなんかまでは、その、特別なんじゃねぇよな?」
「特別にしたいとか我儘をおっしゃりたいの?」
傲慢な口調が似合うローズがにやりと笑った……気がした。
「ちげぇってば! トリュフ取りが大変なのは、質や大きさが掘ってみなければわからねぇ点にもある。だから……そこまでの制限はかけなくてもいいと思ったんだよ」
そういえばボノはトリュフを使った料理が好きなんだったな……。
思い出したスルバランは一瞬遠い目をしてしまった。
超高級食材が高級食材になるくらいなら許されるだろうか。
「調整はしていただかなくても大丈夫です。冒険者をこちらで吟味します……大丈夫ですね、ボノ」
「おうよ! 思いつくパーティーが三パーティーほどいる。高位のパーティーじゃねぇが、誠実だから大丈夫だろうよ」
ボノの言葉に何となくその三パーティーの一つに、セリノの元パーティーが入っている予感がした。
「トリュフマスター以外の納品も見ていきますか?」
「ああ、こんな良質のアイテムを見せられたらなぁ。関係ないかもしれないアイテムだって見たくなるのが筋ってもんだろ?」
既にフォルス嬢に餌付けされているボノは、彼女が作るものなら料理以外にも興味が出てきたようだ。
「じゃあ、シルコットン製衣類とポーク製衣類にホワーンラビットの衣類ね」
それぞれ十着ずつ。
これも箱にきちんと収まっていた。
「シルコットン製の衣類とか……すんげぇ艶やかなんだなぁ……。ポークとホワーンラビットって、こんなにやわらかそうな質感が出るとか……職人ギルドが荒れそうだぜ」
シルコットン製はさて置き。
ポーク製、ホワーンラビット製の衣類は普通に販売されている。
値段も安価だ。
安価なりの品質だ。
しかし目の前に並べられている衣類は最早別物といってもいい。
数え切れぬほど同じ素材を使った商品を取り扱った経験があるスルバランだが、ここまで品質の良い物は初めてだった。
「サイがシルコットンマスターだから素材には不自由しないのよ。私も裁縫師範のスキルを持ってるし」
「お前さん、どこまで多才なんだ?」
「あら、この子たちの多才さには負けるわよ。私が作る物と全く同じ物を作れるもの」
くすくすと笑うフォルス嬢の言葉に、ボノは唖然とスライムを見つめている。
そこまで規格外だとは思わなかったらしい。
スルバランはそこはかとなく感じ取っていたので、ボノほどには驚かなかった。
「では、量産は可能なんですね」
「可能ね。でもホルツリッヒ村の健全な運営に向けて、販売はそちらを中心に考えているわよ」
「納品は今回限りでしょうか?」
「え! ポークとホワーンラビット製の軽装備ができるなら、頼みてぇんだが」
軽装備を頼むまでもないだろう。
今回納品されている衣類には、回避率上昇効果や身体能力向上効果などが付いているものもある。
組み合わせ次第では武器屋で買う装備一式より、安価で安全なのだ。
「制限はかけるけど定期的に卸すわよ? ただ一回着ただけで、二度と着られない状態にするような粗暴な冒険者には売らないでほしいわ」
「フォルス嬢もしくはスライム製とわかれば、そんなことをする奴はいねぇだろうが、厳選する」
「ボノ以上に厳選しますので、御安心くださいね」
ボノの依頼にも応じるのなら、スルバランは販売相手を考え直す。
冒険者以外に売ると切り替えた。
特にシルコットン製は貴族相手一択だ。
それほどに質が良い。
デザインもシンプルなので、自室で寛ぐには最適だろう。
装飾過多なドレスは酷く重いのだ。
「ダンジョン系じゃない依頼は、これで最後ね」
出されたのはホワーンラビットの牙で作られたペンダント。
効能も見た目もすばらしい。
スルバランは再鑑定をする。
ホワーンラビット牙のペンダント
革紐を穴開けした牙に通したシンプル仕様。
シルコットンつまみ細工の薔薇モチーフ付。
回避率上昇&速度上昇効果有。
可愛らしい飾りが付いているので女性が好むだろうが、効能だけを考えれば男性だってこっそりとつけかねない代物だ。
「……フォルス嬢。この可愛らしい飾りなしのは作れねぇのか?」
案の定ボノがそんな提案をしている。
「勿論できるわよ。最後にまとめて注文を受けるから、しっかり書き残しておいてね?」
「す、スルバラン!」
「……できる限り自力で頑張りなさい。貴男が欲しいアイテムは、私だって欲しいのですから」
「お、おう」
ボノは涙目でテーブルの上に何故か置かれていた、注文用紙、と書かれたものを手にした。
「すげぇ! これなら俺でも簡単に注文できるぜ!」
スルバランも一枚引き寄せた。
なるほど。
アイテム名がずらっと書かれており、個数を書く項目や、細かい希望などを書く箇所まで用意されている。
この様式を商人ギルドで使わせてもらえるように、お願いするのを忘れないようにせねば。
商人ギルド副会頭としての矜持で、スルバランは己のメモ帳にしっかりとその旨を書き込んだ。
アニメイト主催の相棒ものの企画。
一次予選を通過して大喜びしていたのですが、大賞にはいたりませんでした。
残念。
なろう年間企画の歴史のテーマが料理なので気になっているんですが、歴史は難しいんですよね。
毎年ホラーしか参加していない今日この頃です。
次回は、スルバランのドキドキは止まらない。3(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。