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ボノはさすがに慣れた 2

 主人がコロナ診断を受けました。

 今は熱も下がり、それ以外の症状も落ち着いたようで、ほっとしています。

 ちなみに寝室や食事を分けて、家の中でもマスク生活をしたおかげが、自分にはうつりませんでしたよ。

 ワクチン4回受けたお蔭ですかね……。

 皆様もまだまだ気をつけてくださいませ。

 

 


 スルバランがにやにやしてこちらを見ている。

 フォルス嬢は涼やかにスルバランとボノを見つめている。

 居たたまれなさが増すが、これを乗り切らねばフォルス嬢との付き合いは断ち切られてしまうだろう。

 スルバランはそうなったらたぶんボノを見放して、商人ギルドの収益のみを追求する気がする。

 そうなったらホルツリッヒ村に迎え入れてもらえるかな? と不穏な考えが一瞬頭を過った。

 一瞬だ。

 それをやってしまったら、人として駄目だろう。

 己の矜持全てを捨て切れるほどの不満は、今の生活にない。

 本来であればフォルス嬢の噂を聞く程度の関係が、ボノには最善なのだ。

 実際フォルス嬢と対面してしまうと、少しでいいから付き合いが深まればいいと思ってしまう。

 すっかり餌付けされてしまっているのが、一番の理由な気がするのは自分らしい。

 

「あーっと。あとは、捕獲系だったな。フラワービー、ゴールデンカーメ、オオヤンマだけど……オオヤンマのでかさだとこの部屋では無理だな。テイマースキルのある職員を何人か用意しているから、そっちに移動してもらっていいか?」


「ええ、問題ないわ。しかしテイマースキル持ちの職員さんて、凄いわね」


「全員が全員、前線で自分がテイムしたモンスターを戦わせるのが嫌な奴らばかりさ」


「あ、なるほどね。それなら安心して任せられそうだわ」


 移動途中にフォルス嬢が微笑む。

 彼女自身がテイムしているモンスターを大事にする性質なのはわかっていたが、他のテイマーにもできるだけ同じ態度で接してほしいと考えているようだ。

 難しい攻略に挑む冒険者はテイムしたモンスターを大事にする者が多い。

 中途半端な実力者が一番テイムモンスターに対して酷い扱いをすると報告が上がっていた。

 その点、この街の冒険者ギルドが抱えているテイマースキル持ちの職員は、怪我をしない程度に縁の下の力持ちでありたい者たちが揃っているので、フォルス嬢も安心するだろう。


 冒険者ギルドの施設はいろいろあるが、テイムしたモンスターを管理する場所も当然ある。

 今回頼んだ三種類が揃って管理できる場所は限られていた。


「結界が張ってあるの?」


 目の前には花畑が広がっている。

 湖とまではいかずとも大きな池もあった。

 何より青空が見える。

 そう、ここは冒険者ギルドの敷地内にある巨大な土地なのだ。

 

「ああ、結界石が埋め込まれている。まず逃げられるモンスターはいねーな」


 冒険者ギルドに所属するテイムモンスター以外にも多くのモンスターがいた。

 依頼主に渡すまでの保管場所でもある。

 時折物好きな見学者もいるほどだ。

 知性の高いモンスターほど、安全性を理解しているので、暴走する例も少ない。

知性が低いモンスターは、テイムが容易いので、テイマーがしっかり管理している。

 

「じゃ、出してもらっていいか?」


「ええ、全員大人しくていい子たちばかりよ」


「調教済みだから安心するといいのねー」


 リリーが不穏な言葉をひそりと囁く。

 テイマースキル持ちの職員は、尊敬の眼差しで白いスライムを熱く見つめていた。


「……傷一つねーのか。全部うちで使いてーなぁ……」


 フラワービー、ゴールデンカーメ、オオヤンマ。

 なんとそれぞれ五体も出してくれた。

 比較的捕獲の楽なフラワービーは複数体提供してくれるかな? と考えていたが、想像を遥かに上回る。

 さすがのフォルス嬢だ。


「全部依頼が出ているのよね?」


「ああ。お前さんが納得してくれそうな依頼主は半分ってとこだな」


 捕獲は難しいので供給が全く足りていない。

 それを理解している者たちは、それなりの待遇で扱うつもりでいると、調べがついている。

 すぐ死んだ!

 ちっとも自分のところのテイマーが調教できない! といった、納品後の難癖も多いのだ。

 動く金額も金額なので、ボノはきちんと事前調査をさせている。

 金払いが良いからといって、人が良いわけではない。

 副ギルド長は気にするな、高値で売りさばけ! とがなるが、こればかりはボノも譲れないのだ。


「うーん。じゃあ、依頼書を見せてくれる?」


「おうよ」


 事前に準備しておいた方がいいですよ? とスルバランに助言されたので、ボノは全ての依頼書を見せた。

 買い取り価格のばらつきや相場など知られてしまうが、むしろフォルス嬢には知っていてほしいので問題はない。


「サクラ、ちょこっと依頼主の人物鑑定してくれない?」

 

「了解なのです」


 声を出さなかった自分を心から褒めてやりたい。

 あのスルバランですら眉根をひくつかせていた。

 それだけ凄まじい鑑定スキルの持ち主なのだ、この桃色のスライムは。

 依頼書から依頼主の人物像を鑑定するなんて、初めて聞いた。

 この世界広しといえど、そんな桁外れの鑑定ができる者がいたとしても、数えるほどに違いない。


「この二人にはフラワービーを渡して大丈夫です。ゴールデンカーメはこの男だけ。オオヤンマはこのパーティーと女性だけです」


 半分どころか三分の一にもならなかった。

 冒険者ギルド屈指の者に任せた調査でも足りなかったようだ。


「フラワービーを虐待するこの女性の依頼は断固として断ってほしいのです。ゴールデンカーメを転売ばかりしているこの男性も同じ扱いを。我儘貴族坊ちゃんには、一度だけオオヤンマに乗せて怖がらせれば、両親に感謝されるのでお勧めの対応なのです」


「き、貴族相手にその対応で平気なのかよ?」


 本当にしつこい依頼だった。

 しかもお坊ちゃまのお小遣いで支払うつもりらしく依頼金も低すぎた。

 両親が真っ当なのは調査で知れていたが、子供に対しての対応が甘く感じられたので嫌々受けた依頼だったのだ。


「大丈夫でしょう。お子様の教育は御自宅でお願いいたしたく……と嫌味の一つでも言ってあげるといいわ」


「フォルス嬢ならできるでしょうけど……」


「あら私のような小娘よりも、冒険者ギルドのマスターである貴男が言うべきよ。貴男の外見なら威圧感もばっちりだしね。何時もより怒った感じで言えば、相手は引くわ」


 細かく説明してくれた。

 しみじみ優しい女性だと思う。

 厳しいところも知っているが、実際対面すると優しさを強く感じるのだ。


「虐待女も転売野郎も、貴族のお坊ちゃまも助言に従うぜ。ありがとな」


「他の依頼主たちには、きちんとしたテイマーを雇うなら応じてもいいというのです。依頼主本人が騙されていたり、テイマーを侮っていたりといろいろな例がありますが、その一言で全て片付くのです」


「了解だ。拒否しすぎるのも問題だからな」


「副ギルド長ならお金さえ支払えば、助言などせずに依頼を達成させてしまうでしょうしね」


 数多ある冒険者ギルドの中でも、インセクトダンジョンの恩恵を受けているこのギルドの運営状況は悪くない。

 むしろ良いのだ。

 良心的だと冒険者や依頼主からの評判も高い。

 だが副ギルド長の守銭奴が過ぎるのは問題視されている。

 過去にいろいろあったせいだと理解して、行動の自由を許していたけれど、フォルス嬢への態度も考えて、一度しっかり話し合うべきかもしれない。


 テイマースキル持ちの職員が、許可の出た依頼主たちにどのモンスターを渡すかを念入りに話し合っている。

 スライム収納から解放されたモンスターたちは、フォルス嬢が許すまでその場にちゃんと留まっていた。

 そのあとのテイマースキル持ち職員たちの説明にも納得したようで、遠く離れない場所で寛いでいた。

 こんな引き渡しなら何時でも大歓迎だ!

 駄目なテイマーによってテイムされたモンスターが、ギルドへの引き渡しの時点で逃げてしまう事件も、指折って数える程度にはある。

 フォルス嬢の成果を見て、仕事のできるテイマーが増えてくれればいいのだが。


「冒険者ギルドの依頼はこれで完了ね?」


「だな」


「じゃあ、例の虫避けについて話をしたいから、個室へ戻っていいかしら?」


「お、良い成果が聞けるんだな」


「ここでは無理な程度にはね」


 テイマースキル持ち職員たちにあとを任せて、個室へと戻る。

 緑色のスライムが温かいタオルを出してくれた。

 お手拭きというらしい。

 手を丁寧に拭くフォルス嬢とスルバランの隣で、顔を拭く。

 恐ろしくすっきりしたので、間抜けな溜め息を吐いてしまった。


「飲食店でやると嫌がられるけど、ここなら問題もないのかな?」


 フォルス嬢が呆れた声で言う。

 この辺の飲食店で、こんな洒落たサービスをしてくれる店があっただろうか。

 あまりにも汚れていると、汚れを落としてから店に入れと注意されることはあるようだが。


 ボノにだけ新しいお手拭きが出されたので、今度は丁寧に手を拭いておく。

 出されたのは先ほどとは違うデトックスウォーターだった。

 とにかく鼻から抜ける爽快感が気持ち良い。

 スルバランも同じように感じたのか目を閉じて堪能している。


「すっきり草を使ったデトックスウォーターなのねー。眠気覚ましにもいいのねー」


「すっきり草って、噛むもんだと思ってた」


 葉っぱをそのまま噛むから、冒険中以外にはあまり使われない。

 夜の見張りをしているときに何度か噛んだ。

 何しろ爽快感が強すぎる代物。

 目は覚めるが、口の中にずっと残って、次の日の朝食など味がしないほど酷かった。


「いろいろと調合が必要なのねー。量も絞ったものを数滴でいいのねー」


 なるほどと納得する。

 それならこんなに美味しく飲めるのだ。


「で、すっきりしたところで、虫避けスプレーの結果よ」


「おう」


 思わずゴクリと生唾を飲む。

 

「最終ボス以外は、ワンプッシュで即死亡だったわ」


「は?」


「強い個体は死ぬまで時間が必要だけれど、それでも五秒以上のモンスターはいなかったわね」


 あまりの強さに全身が震えた。

 この商品に関しては完全な統制が必要だろう。

 むしろ武器ではなくただの虫避けとして販売するべきなのかもしれない。

 もしくは緊急離脱用に、評判の良いパーティーにのみ配布制もありか。


「……この件に関しては商人ギルドは、虫避けとしてのみの販売を推奨します」


「武器としては一切使わせないってか?」


「気付く者には忠告を。それぐらいの品物でしょう」


「……フォルス嬢は、どう考える?」


「私は虫避けとしてこの品物を作り上げました。ですが虫嫌いですからねぇ……自分は武器としても使うつもりです。このダンジョン以外でも虫系モンスターは出ますよね?」


「出るな」


 ここ以外でも使うと豪語したフォルス嬢。

 ならばこの一件はスルバランに賛同しておくべきだろう。

 一つのギルドで抱えるには大きすぎる話なのだから。



 定期購入品を一回で止められると思って注文したら、三回必須のパターンでした。

 三回分は実家か義実家にプレゼントしようかしら……。

 ちなみに送料を無料にするために、他のアイテムを注文する今日この頃。

 うきうきと特価福袋を購入したらスマイリーバッグが……癖のないバッグが良かったなぁと贅沢にも思いました。


 次回は、スルバランのドキドキは止まらない。2(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。  

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