スルバランのドキドキは止まらない。 1
実況を見て我慢できなくなって購入したゲームは、やっとこさラスボスを倒すのみとなりました。
しかし真のラスボス的な存在はどうなるんでしょう。
そこまでのネタバレは見ていないので、大変気になります。
食欲魔神なサイコパスって凄いですよね……。
冒険者ギルド一の美人受付嬢ペルペトゥアが、彼女にしては人目を気にしない様子で駆け込んできた。
それだけの、用件なのだろう。
どんな用件なのかはさて置き。
ペルペトゥアに子供のような笑顔を作らせる人物は少ない。
最近ではすぐに一人の女性が浮かんだ。
「副会頭! フォルス様がインセクトダンジョンを踏破なさいました!」
入って早々に周囲にも聞こえるように叫ぶ。
商人ギルドの職員だけでなく、ギルド内全員が歓声を上げた。
フォルス嬢が齎す利益に興奮が抑えられないのだ。
スルバランもカウンターの下で、ぐっと拳を握り締める。
「そういえば、会頭はまだ王都ですか?」
「ええ。相変わらず情報が遅いお人です」
会頭がいないとわかっていても聞く辺りが、目端の利くペルペトゥアだ。
その言葉を聞いた人々は、相変わらずドーベラッハ商人ギルドの会頭は王都贔屓なのだと吹聴してくれるだろう。
フォルス嬢の活躍はホルツリッヒ村の運営に始まり、積極的なダンジョン攻略での、あらゆる活躍が知れている。
王都でも耳の早い者なら既に調査を始めているはずだ。
なのに会頭からは連絡の一つもこない。
相変わらず王都ギルドの会頭やその周辺たちへ、媚を売るのに忙しい毎日なのだろう。
スルバランも定期的な報告しかしていない。
フォルス嬢の件も、優秀な新人冒険者が商人ギルドにも利益を齎してくれている……としっかり明記している。
詳しく書いていないだけなのだ。
時々嫌味も含めた情報を隠語で書いているのだが、会頭が気付いてくれた過去は一度もない。
そういう人物だ。
冒険者ギルドの副ギルド長が、冒険者ギルドの利益を追求する愚物というのならば、商人ギルドの会頭は己の利益のみを追求する屑だ。
できる限りフォルス嬢には会わせたくない。
会ったところで、会頭はスライムたちによっていいように転がされて地団駄を踏む未来しか見えないとしても。
「自分の目で見ても、フォルス様のお話を伺っても、信じられない奇跡ばかりです。商談は長丁場となりましょうが、楽しくもあるのでしょうね」
自分も同席を! とは望まない。
望めば相応の責任を負わねばならないとよく理解しているからだ。
だからこそペルペトゥアはフォルス嬢に気に入られている。
自分の力量を過信しない。
冷静に見極めていた。
「では急ぎましょう。マジックバッグは大きい物を十個ほど用意しましたが足りるでしょうか?」
「ふふふ。きっと足りませんね。そのときは、商人ギルドへ足を運んでいただいては?」
「そうなりそうな予感しかしませんねぇ」
ふふふふ。
はははは。
と傍目から見れば近寄りがたいであろう笑い声をわざとらしく立てて周囲を牽制しながら、冒険者ギルドへと急ぐ。
冒険者ギルド前は人でごった返していた。
冒険者だけではなく一般人も多い。
フォルス嬢がテイムしたらしいクレスヘラオオカブトーンを、一目見ようと集まってしまったのだろう。
それほどに珍しいのだ。
しかも特殊個体だったというのだから恐れ入る。
小さい子、特に男の子たちは半狂乱だ。
見られたからなのか、見られなかったからなのかはわからない。
ただ前者のような気がする。
興奮の坩堝と化していた冒険者ギルド前だったが、ギルド内はそこまで騒がしくはなかった。
既にフォルス嬢のやらかしに職員たちも慣れてきたのかもしれない。
ペルペトゥアは受付に戻るというので会釈して、フォルス嬢が毎回通される個室へと足を向けた。
ノックを三回する。
「入ってこいよー! びっくりするもんがあるぞ!」
驚くものがあるのはわかっている。
それが何かを知りたくて急ぎ足を運んだのだ。
扉の向こうからその内容を叫ぶほどには愚かでないボノだが、今回ばかりはちょっとぐらい零してくれてもいいのに、と滅多にない考えが浮かんだ自分に驚いた。
「失礼いたします……良い香りでございますね?」
「だろだろ? 匂いだけじゃねぇんだよ。味もまた、最高なんだよ、な? セリノ」
「はい。とても美味しいです。本来は僕なんかが飲んでいいものではないと思います」
「セリノは村民候補だから気にすることはないのねー」
「さっさと村民になればいいのだわ!」
おやおや。
すっかりセリノはホルツリッヒ村の村民扱いのようだ。
大変羨ましい。
スルバランも屑会頭の尻拭いにも疲れたので、許可が下りるならホルツリッヒ村商人ギルドの会頭になりたいと思い始めている。
「こんな美味い物が飲めるなら、俺もホルツリッヒ村の村民になりてぇなぁ」
「スルバランならいいけど、ボノは駄目なのです」
サクラと呼ばれているスライムの言葉に、思わず目を輝かせてしまった。
「ちくしょう! 羨ましいぜ、スルバラン! そんなお前のでとっくすうぉーたーは、俺の物……」
「そういうところなのねー」
スルバランに差し出された陶器のカップを素早く横取りしようとするよりも早く、今の所一番認知度が高い、白いスライムのリリーがスルバランの手元へと置いてくれた。
よく冷えている陶器カップの中からは新鮮なベリーの香りがする。
一種類ではない。
何種類もが入っている贅沢な飲み物だ。
何しろ旬が違うベリーがふんだんに使われているのだから。
「ん!」
鑑定もせずに一口飲む。
無言でごくごくと飲みきってしまった。
「二杯目は鑑定してから飲むことをお勧めするのです」
二杯目はサクラが出してくれた。
大人しく言葉に従って鑑定をする。
一杯目で鑑定をしていたらごくごくは飲めなかっただろう。
味も最高だが、効能がとんでもなかったのだ。
「……この飲み物」
「デトックスウォーターというのねー」
「デトックスウォーターのみの販売でも、一商売できますね」
「アイリーンが作るものとまではいかなくても、十分商売にできるレシピは提供できるのねー」
「では、是非!」
「なぁなぁ、レシピもいいけどよぉ。もっと先に話すべきことがあんだろ? ドロップ品についてとか、依頼についてとか」
ボノの言葉はもっともだ。
だが敢えて言いたい。
空気を読めと!
「じゃあ、依頼から片付けていこうか……まずは、どちらがいい?」
「俺の方がさくさく進むぜ。先にやらせてもらおうか」
ここは引けない! とばかりにボノが語調を強める。
スルバランとしては何だったら商人ギルドに移動してから詰めてもいいので構わない。
先に手配してもらうという名誉くらい、簡単に捨てられる。
これができないから、会頭は駄目なんだよなぁ……。
「スルバランとは長引きそうだから、そうしよっか。えーと、じゃあ順番に出していくよ……って出すのはスライムたちだけどね」
「ん。素材から出すの。ホワイトジーの触覚、一本以上。何本欲しいの?」
「えーと。十本いけるか?」
「ん。倍でも大丈夫なの」
「じゃあ、倍で」
ボノは部屋にあらかじめアイテムボックスを置いている。
いけ好かない副ギルド長の手配だろうか。
「ん。ちゃんと確認するの」
アイテムボックスの隣に、大きなテーブルを出した、青いスライムのモルフォが、一本一本丁寧に素材を並べていく。
「くぁー! 最高の素材だぜ!」
「ええ、欠けが全くないとはすばらしいの一言に尽きます」
ホワイトジーの触覚は意外と欠けやすい。
それなりの硬さがあるので、折れる可能性は低いのだが、先端などが特に欠けやすいのだ。
「完全な状態なら一本100ブロンってとこか?」
「プラスで追加報酬も出したいところですね」
「追加報酬かぁ……最近とんと出してねぇからなぁ」
「冒険者は素材の扱いが荒い者が少なくありませんからねぇ」
「全くだぜ」
両腕を組んで目を閉じたボノは、覚悟を決めたように大きな声で叫ぶ。
「持ってけ! 二十本のまとめ納品と状態が完璧なので、素材売却代と同額だ!」
「う。つまりはホワイトジーの触覚だけで 4000ブロンなのよ。アイリーン。頑張った甲斐があったのよ」
「そうね……でもできればジー関係の依頼は遠慮したいわ……」
女性冒険者の多くに見られるようにフォルス嬢もジー系のモンスターが苦手のようだ。
愛らしさに微笑が浮かぶ。
「ペーパーフィッシュの粉は、たくさん出たので百包みくらいどう?」
「……フォルス様。それだけペーパーフィッシュの粉が出たということはですね。リングや置物も出たのではないでしょうか?」
「うん。商人ギルド向きだよね」
「幾つでもいいので売っていただきたい!」
「いいよー。で、何個欲しいの、ボノ」
「百もあれば、しばらく文句を言われないですむぜ、感謝する!」
ボノががばりと頭を下げた。
本のカビ取り剤だもんなー。
ドロップ品に対して、格好良い良くないで引き受ける冒険者は意外に多い。
あまり引き受けてもらえない依頼なんだろうなー。
で、商人ギルドで買うとお高いから、せっつかれるんだろうなー。
と思って、ボノを見れば引き攣った笑いで返された。
フォルス嬢はそんな冒険者ギルドの内情を的確に把握しているに違いない。
どうやら私の考えは当たっていたようだ。
フォルス嬢が綺麗な流し目をくれた。
リングや置物を含めた、ペーパーフィッシュの粉の取り引きが大変楽しみだ。
そしてあとはラスボスを倒すまでの段階で、何時もやっているゾンビゲームがバージョンアップしました。
いろいろと変更点があると、大好きな実況者さんが一年ぶり以上に実況してくれて大興奮。
死に戻りながら黙々と地下の拠点を作っています。
楽しいです!
次回は、ボノはさすがに慣れた 2(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。