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昆虫ダンジョンインセクト 28

 呪文の詠唱って考えるの楽しいですよね。

 難しいですけれど。

 意味も考えますが、韻を踏むのが楽しいです。

 自分で使うのなら無詠唱ですが、声の良い人にはぜひ詠唱してほしいものです。



 開いた扉から足を一歩踏み入れる。

 背後から吹いた強めの風が一層私たちの体を前へと進ませた。

 ばたん! と扉が閉まる音が響く。

 それが戦闘開始の合図のようだった。


「わぁああ!」


 セリノの体が空を舞う。

 私やスライムたちは微動だにしない。


「セリノにも結界を張って差し上げるべきかしら?」


 首? を傾げたローズが触手を伸ばしてセリノの体を優しく絡め取る。

 空中でぐるぐると舞わされていたセリノは、ローズの結界に入るやいないや、地面に両手をついた。

 吐き気を堪えているらしい。


「今のはタンサンオオカブトーンの突き上げ攻撃なのです。距離があるので空中で踊らされる状況に陥りましたが、直接喰らったら人の腹など簡単に貫通するのです」


 ああ、カブトムシ同士の戦いでやるあの突き上げ攻撃か。

 カブトムシ同士だとひっくり返される程度の印象しかないんだけどね。


「クワガッタンたちが魔法の詠唱に入ったのねー。様子を見るためにわざと受けるのねー。もしかしたら、衝撃があるかもねー」


 リリーの口調は何時もと変わらずまったりとしたものだ。

 他のスライムたちに緊張感はない。

 ただ吐き気が治まったらしく顔を上げたセリノの顔色は、恐怖で真っ白だった。


「……そもそもこのモンスターたちって、存在するの?」


「するのです。ただAランククラスのダンジョンに生息するモンスターなのです。つまり、かなり強いのです」


「虫避け、効くかしら?」


「たぶん効果はあると思うのです。ただなかなか足が速いので、試している間はないのかもしれないのです」


 サクラとやり取りをしているうちに魔法の詠唱が完成したようだ。


「「「「「百花繚乱の美麗は澆薄ぎょうはく。水火無情と憂虞ゆうぐされては是非もなし。開け氷華ひょうか、散り狂え凍りこおりばな。死を誘う氷結デスフローズン」」」」」


「「「「「焔獄えんごくを謳え、炎牢えんろうを讃え、燃囚えんしゅうを崇めよ。紙燭しろうでも良し、天陽でも良し。選ばずとも良し。一切合切を灰燼に。二度の復元は永久に叶わず。殲滅の紅蓮花アナイーレーションレッドロータス」」」」」


 ちゅ、厨二病万歳!

 こんな詠唱なの?

 っていうか異世界クワガタが怖い。

 炎系と氷系の高位魔法(だよね?)を使えるとか凄すぎない?


 合計十匹のハサミが大きく開いて、その間から魔法が放たれた。

 無数の氷でできた薔薇と炎でできた蓮で、見た目は綺麗なんだけどさ。

 威力は半端なかった。

 ダンジョンの天井が一部崩落したからね。

 あと氷と炎の魔法が同時に放たれたせいか、小規模爆発も起こったよ。

 爆発では岩壁が剥がされていた。


「えーと?」


 ローズの結界は優秀で衝撃すらなかった。

 結界外の惨状を見るに、ローズの結界は最上級のものなのだと知れる。


「……クワガッタンの種類って、知能が低いんでしょうか?」


 そう。

 一匹が放った魔法なら問題なかったのだろう、恐らく。

 しかし今回は五匹が一度に同じタイミングで魔法を放った。

 挙げ句相対する同レベルの魔法を、これも同じ数で、タイミングで放った。

 結果。


 十匹のクワガッタンは霧散しちゃったんだよ!

 ええ、壮大な自爆です。


 さすがにオオカブトーンは無事だったけどね。

 サクラ曰く結界を張っていたとか……。

 モンスター同士でもあるんだね、フレンドリーファイヤー。

 巨体が揃って遠い目をしている気がする。

 これって、本当にボス戦なんだろうか。

 冒頭はそれっぽかったんだけどね。


 ドロップアイテムが山のように発生するが、さすがにまだ拾うわけにはいかない。

 お互いあまりの展開でがっくりしてしまった気持ちは、きっと同じものだったと思うが、

所詮は敵同士。

 緩い雰囲気が漂ったのは僅かな時間だった。

 今度はタンサンオオカブトーンが詠唱を始める。

 ボス二体は強固な結界に包まれたままだ。


「……お供を倒さないと、ボスの結界は解けないタイプ?」


「ん。それっぽいの」


「しかし結構魔法脳なんだねぇ」


「う。普段は肉弾戦を好むのよ。強敵認定したから距離を取って戦いたいのよ」


 なるほどね。

 いろいろなタイプの魔法が見られるのは嬉しいけど、セリノは大丈夫かしら。

 ちらっとセリノの様子を窺う。

 衝撃は引いたようだ。

 平静を装える程度には回復したらしい。


「氷、炎ときたら次は何かしらねぇ」


「アイリーンの魔法みたいに命を直接止める系、魂に干渉する系。もしくは光や闇系を考えますけれど……」


 ローズが触手でとんとんと自分の体を叩く。


「どれも違う気がしますの」


「シュー、シュー、シュー」


 お湯の沸騰し始め、蒸気が出だした頃合いに似た音が、タンサンオオカブトーンから発せられる。

 カブトムシはお腹に羽を擦らせて音を立てると書かれた記事を見たけれど……こんな音なのだろうか。

 っていうか、詠唱は?

 カブトムシは厨二病ではないの?

 や、そういう問題ではないか。


「キュー、ギュー、シュー。キュー、ギュー、シュー」


「珍しい魔法なのです。音魔法で洗脳系魔法なのです。恐らく固有魔法なのです」


 す、凄いのきましたよ。

 カブトムシのお供に洗脳される悪夢。


「安心するのねー。ローズの結界は音だって侵入を許さないのねー」


「え? でも音が聞こえてるよね?」


「本当は聞こえておりませんのよ? そうですわね……結界を通す間に、こういう音がしていると無害化して、文字変換している……でわかりますかしら?」


 わからない……。

 確かに聞こえて……ん?

 見えて?

 違う、頭の中に響いて。

 や、これも違う。

 頭の中に文字が流れる感じ。

 ああ……本当だ。

 聞こえてないんだ。


「びっくり。本当だ。聞こえてないね。見えているんだ」


「ん。さすがは御主人様なの」


「う。見えてるだけなら何の影響もないから安心安全なのよ」


 モルフォとサイの言葉を聞いてセリノの体から緊張感が抜ける。

 音魔法は目に見える効果がないから怖いよね。


「嘘! またしても自爆パターンなの?」


 真っ白だったタンサンオオカブトーンが、気がつけば真紅に輝いている。

 嫌な予感がした。

 次の瞬間、今度は頭だけが霧散する。

 飛び散ったよ、肉片。

 飛んだグロ映像だよ……。


 私は溜め息を吐いたが、ボスであるクレスヘラオオカブトーンは口をあんぐりと開いている。

 あるんだね、口。

 や、あるのは知ってたけど、見た目でわかるほど大きく開く口だなんて思ってなかったからさ。


「あ。きますわよ」


 お供たちのあまりの自爆っぷりに、頭に血が上ったのかもしれない。

 クレスヘラオオカブトーンが一体突進してきた。

 地響きが感じ取れる。

 そこまで重そうには見えないが重量級なのかしら?

 大きさは向こうの象程度。

 カブトムシ好きの人たちにしたら夢の個体なのかねぇ。

 大人でも軽く五人は乗れそうだし。

 あ、テイムとかすると面白そう。


「高く売れると思うのねー。でもさすがにボスモンスターはテイムできないと思うのねー」


 だよねー。

 こんなときにこそ、立てよ、フラグ! って思うんだけどね……。


 突進してきたクレスヘラオオカブトーンはなんと、ローズの結界ごと私たちを空中に放り投げた。

 そんな干渉の仕方ができるのに大いに驚く。

 スライムたちも驚いていた。

 逆にセリノが冷静だったのが面白い。

 憧れでもあるのかな、クレスヘラオオカブトーンに。


「……もしかして、遊んでる?」


「……結界を破ろうと必死なだけなのです。破れなくて焦っているだけなのです……たぶん」


 そう、クレスヘラオオカブトーンは結界に触れることができた上に、動かすこともできた。

 でも破ることはできない。

 ローズの結界に包まれた私たちは、空中を優雅に揺蕩っている。

 クレスヘラオオカブトーンの鋭い角が結界に触れると、巨大なしゃぼん玉に似た形の結界がふわーんと空中に浮き上がって、優しく揺れながら動く。

 動いて止まる。

 止まったらクレスヘラオオカブトーンが再び角を突き出してきて、ゆるゆると移動してしまう。

 

「な、何か。クレスヘラオオカブトーンもお供たちと同じ道を辿るんじゃあ……」


 私たちに遊ばれていると感じたのだろう。

 クレスヘラオオカブトーンが結界を突き破ろうとする度に、艶々していた漆黒の体から色が抜けていく。

 そろそろ純白になるのも近い。

 それはそれで大変綺麗だが、どう見ても命を削っているようにしか見えなくて居たたまれなかった。


「はぁ?」


 足元も覚束なくなり、よろよろと体をふらつかせながら突進を繰り返していたクレスヘラオオカブトーンの、純白の首が不意に高く飛んだ。


『貴方方はお強い。神御使みつかい様でいらっしゃいましょうか?』


 静観していたもう一匹の個体が話しかけてくる。

 結界も解かれているので、敵対しない意思表示なのだろうか。


『勝手ではございますが神御使様と判断し、愚かな夫の首を飛ばしました。度重なる不敬をお許し願えましょうか?』


 何やら神の使いと誤解して、夫を殺したらしい。

 急展開に頭が追いついてこず、沈黙を守っている間に話が進んでしまう。


『ダンジョンを守る特殊個体として長く生きて参りましたが、初めて神御使様にお目にかかる僥倖に胸が高鳴る思いでございます。どうか、従者としてお仕えできればと伏してお願い申し上げます』


 カブトムシの土下座。

 初めて見たよ。

 威嚇する体勢に見える気が、ちょっとだけするところが悲しいね。


 とにかく誤解は解いておかないとまずいだろうと、私はどうにかまとまり始めた思考を引き続き整理しながら口を開いた。





喜多愛笑 キタアイ


 状態 若干困惑気味 new!!


 料理人 LV 4

 

 職業スキル 召喚師範 


 スキル サバイバル料理 LV 5 

     完全調合 LV10

     裁縫師範 LV10

     細工師範 LV10

     危険察知 LV 6

     生活魔法 LV 5

     洗濯魔法 LV10

     風呂魔法 LV10

     料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用

     掃除魔法 LV10

     偽装魔法 LV10

     隠蔽魔法 LV10

     転移魔法 LV ∞ 愛専用

     命止魔法 LV 3 愛専用

     治癒魔法 LV10

口止魔法 LV10

     人外による精神汚染


 ユニークスキル 庇護されし者


 庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化  解体超特化


 称号 シルコットンマスター(サイ)   




 

 ホラー三部作映画の二作目を見てきました。

 いろいろと突っ込みどころが満載で今回も楽しかったです。

 三作目は何年後に見れるんだろうなぁ……。


 次回は、昆虫ダンジョン インセクト 29(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。 

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