昆虫ダンジョンインセクト 25
町内会費の集金を終えて一安心。
人様から預かったお金を長時間持っていたくないですよね。
さくっと上の人に届けて領収書を入手しました。
ちなみに達筆でした。
素敵。
薬の準備もできたので満を持して最下層攻略へと挑む。
ダンジョン難易度は高くないけれど、死者は普通に出ているダンジョンだからね。
気を抜かないようにしないと。
モルフォの先導で七階へ下りる。
足先が地に着いたその、瞬間。
「え?」
モルフォの隣にいたセリノの体が固まった。
たぶん麻痺だ。
誰も察知できないとか、ペーパーフィッシュって隠密か何かなの?
「強くはないのです」
サクラがいち早く発見したようだ。
ペーパーフィッシュに体当たりで即死させている。
「カメレオンのように擬態上手なのです」
サクラの触手が指す方向を凝視すれば、ペーパーフィッシュが壁の隆起にしっかりと擬態をしていた。
この階層にしては小さい掌サイズ。
だからこそ、見落としたのかもしれない。
「……学習能力は高いのでしょうね。こうして下りた途端に襲いかかって、随分と成功してきたのでしょう。なかなかの団体様ですわ」
悪役令嬢の微笑を浮かべたローズが触手を一閃する。
衝撃波が四方に飛んだ。
一ダースではきかないペーパーフィッシュが落下し、即死した。
「う。早速麻痺解除薬の出番なのよ」
「あ! 麻痺してると嚥下って大丈夫なのかしら? ゼリータイプにするべきだった?」
「う。今回は少しずつ飲ませれば問題ないのよ。ただゼリータイプがより効果的なのも確かなのよ」
「なるほど。じゃあ、あとで作っておこうか」
嚥下できなくて窒息とか怖いからね。
飲めるのなら良かった。
熟練の介護士にも負けない丁寧さと素早さで、サイがセリノの口を開かせて麻痺解除薬を飲ませていく。
半分ほどを飲ませて……は! メモリとかもつけておかないと駄目かしら?
スライムたちにぬかりはなくても、一般的にはきっちり半分飲ませるとか無理だもんね。
複製するならその辺も伝えておかないとだわ。
使ってみないと気がつかない点ってたくさんあるものよね……。
「ん。周辺にモンスターの気配はないの。セリノが麻痺から回復するまではここで待機なの」
「ドロップはしっかり拾うのねー」
残りの麻痺解除薬を飲ませるのに三分以上はかかるから、その間に黙々とドロップアイテムを回収すればいい。
とにかくたくさんと依頼されたペーパーフィッシュの粉は、百包み以上あった。
拾うのは面倒だが、この数あれば依頼はクリアだろう。
本のカビ取り剤は、薬包紙に包まれてドロップしている。
一包につき一冊ってところかしらね。
だとしたら数が必要なのも納得だ。
「あ、綺麗な指輪」
ドロップアイテムの中に銀色が綺麗な指輪があった。
シンプルなので重ねづけもできるだろう。
「その名もペーパーフィッシュリング レアです。銀色が綺麗な指輪。紙で指を切らなくなる効果があるのです。紙を使う仕事の人には必須と謳われていますが、供給が足りていないので高く売れるのです」
高く売れるんだー。
私用に一個は欲しいな。
あとは、リリーたちにお任せするよ。
何しろ十個はあったからね。
「ん? これはどんな効果があるのかしら?」
ペーパーフィッシュの形をした銀色の置物、掌サイズ。
デフォルメされているので意外に可愛い。
「ペーパーフィッシュの奮励 レアです。ペーパーフィッシュの形をした銀色の置物。
図書室や図書館に飾っておくと、火災や水害から本を守ってくれる効果があるのです。愛は読書家だから、たくさんストックしておくのです」
これまた本好きには堪らないアイテムだ!
……お風呂で読んでいてぽっちゃんしても、大丈夫とかだったら、お風呂場にも置いちゃうんだけどなぁ。
こちらも十個ほどあった。
この数なら売却はしない方向かな?
「……あー、お手数をおかけしました」
ペーパーフィッシュの置物を掌に載せて鑑賞していると、セリノが口を開く。
麻痺から解放されたようだ。
「気分はどうなのね?」
「……過去に飲んだ麻痺解除薬では、しばらく痺れのようなものが残ったのですが、今回は全くありません」
「今までの解除薬に比べて効き目の早さとかは、どうなのね?」
「早いですね。基本、パーティーの中で誰かが麻痺を喰らったら、一時間は足止めされます」
解除までそんなに時間がかかるんだね?
薬を飲んで三秒後に、はい解除! とはならないようだ。
「一時間経過しても、体の何処かが痺れている気がして、丸一日は違和感に苛まれるのです。ですが、この解除薬にはありません。恐ろしいほどに、すばらしい効能と言っても過言ではありません。是非、ギルド長に相談して販売していただければと思う次第です!」
セリノが熱かった。
それほど、この解除薬が優秀なのだろう。
ちょっと嬉しい。
「アイリーンの薬は全てにおいて優秀なのねー。ギルド長たちと相談して、卸すかどうかも決めるのねー」
「そこからなんですね。無理もありませんが。これだけ優秀な解除薬ならば、間違いなく囲い込もうとする輩が出てくるでしょうから……」
自分手製のあれこれを卸すのは吝かではない。
ただ自由が奪われるとなれば、卸さない選択肢を取るだろう。
「あら? 次のモンスターが参りましたわよ」
ローズの声にセリノから目線をそらす。
「でっか!」
何処からその巨体が現れたのか。
ダンジョンの不思議あるあるかもしれない。
気がつけば目の前にオオヤンマがホバリングをしていた。
しかし、でかい。
人なら二人は乗れそうだ。
「特殊個体のようなのです。普通は一人乗りサイズなのです」
「それでも大きいと思うけどね! って、セリノぉ?」
私たちより警戒しているはずのセリノが昏倒した。
オオヤンマの催眠を喰らったのだろうか。
「う。気合いを入れて目を見つめすぎたのよ」
咄嗟にサイが滑り込んでくれたので、頭を思い切り打ったりはしなかったようだ。
スライムクッションは優秀だからね。
ひんやり加減も最高なのです。
オオヤンマが大きく羽ばたいた。
砂塵がくるくると舞い踊る。
サイクロン的な攻撃なのかな?
目の前にできた小さな竜巻が、ゆっくりと襲いかかってきた。
他の冒険者はこれを、どう躱すのだろう。
見てみたい。
なぜならうちの場合、ローズの結界防御のお蔭で、一定の距離を保ってそれ以上は近づけないからだ。
オオヤンマの大きな瞳が驚愕を色濃く映している。
歴戦の猛者でも初めての経験なのだろう。
「う!」
珍しくサイがオオヤンマに躍りかかる。
首がすぱん! といい音をたてて切り落とされた。
包丁使いが鮮やかなサイらしい攻撃だ。
「は! テイムをしておくべきだったんじゃあ?」
「特殊個体なので、テイムをできれば喜ばれたと思うのです」
「う。それならば、えいっ!」
切り口も鮮やかに落とされたオオヤンマの首を、サイが元あった場所へと押しつける。
もしかしてあれかな?
熟練の職人が切り落とした箇所は、時間が経過していなければ、元通りになるという、奇跡。
「さすがはサイなのねー。オオヤンマが復活したのねー。しかも死んだ記憶がほんのりあるから、恐怖系のテイムなのねー。きっと飼い主に従順になるのねー」
不幸中の幸いかしら。
ギルドの人たちは喜ぶだろう。
サイが責任を持ってスライム収納に入れておいてくれるようだ。
入る前に、オオヤンマがそっとサイに箱を渡している。
「う。オオヤンマ ドロップアイテムセットをもらったのよ」
すごいね、恐怖系のテイム。
貢ぎ物まであるらしいよ。
まぁ、恐怖系じゃなくてももらってきたけどさ。
オオヤンマの羽
羽を失った者の治療に使われる。
完全欠損を治すのには十対の羽が必要。
オオヤンマの眼球 レア
設置しておくと索敵範囲が広がる。
王族や貴族が警戒用に欲しがるので、需要が高い。
オオヤンマの優美 レア
オオヤンマの形をした爪先サイズの飾り。
ブレスレットやネックレスにつけて使用する。
五分ほど空が飛べる。
リキャストタイム一日。
オオヤンマの折衷 レア
オオヤンマの横シルエットが彫られたドッグタグ。
持っているとオオヤンマのテイムをしやすくなる。
また、テイムしたあとにも友好的な付き合いがしやすくなる。
空飛べるアイテムって結構多いんだね。
時間は短くても需要は多いだろう。
あとテイマーさんは、テイムしやすくなるアイテムをがんがん使えばいいと思う。
人から奪うよりよほどいいじゃん?
あーでも、ドロップがレアだからそこまで知られていないのかもしれないね。
自分の運の良さを忘れるところだったよ!
喜多愛笑 キタアイ
状態 心身ともに良好
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
口止魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
ホットフラッシュに悩まされているので、婦人科ではなく神経内科にかかってみました。
これで少しは落ち着くといいなぁ……。
処方された薬は一種類。
一週間後に再診予定ですよ。
次回は、昆虫ダンジョン インセクト 26(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。