昆虫ダンジョンインセクト ２４
ホットフラッシュが酷いせいか、暑さが例年より堪えます。
家に居るときの格好はかなりやばい感じです。
ら、裸族ではありませんよ！
肌が弱いので裸族は無理なんです、ええ。
ミートキリトリの肉祭りで英気を養った私たちは、最下層に挑む前の準備を整える。
いいところに隠し部屋があったものだ。
「えーと？ ギルドからの依頼は何だっけ？」
「商人ギルドからオオヤンマの羽一組以上。冒険者ギルドからはペーパーフィッシュの粉をとにかくたくさんとオオヤンマの捕獲なのねー」
「オオヤンマ大人気だね」
「調教できる飛行モンスターとして有名なんです。荷物こそあまり乗せられませんが、高速での長距離移動が可能ですから……今回はたぶん、ギルド所有にする心積もりではないかと」
ボノがオオヤンマに乗る姿を想像する。
トンボに乗る熊……なかなかにシュールな絵面だ。
「ん。なるべくたくさんティムをしてあげるといいの」
「う。たくさんと言えばペーパーフィッシュの粉なのよ。本のカビ取りに最高なのよ。自分用にもたくさん取るのよ」
「了解！」
向こうの世界にもあったら良かったのに。
あっちではエタノールで拭いてたっけな。
お宝本は友人たちが保管したり売却したりしてくれているといいんだけど……。
あ！
一年経ったら異世界転移もできるんだっけか。
消えた時間に滑り込んで、身辺整理をがっつりすればいいか。
やるべきことの一つとしてメモしておこう……。
「トンブラックは毒、ペーパーフィッシュは麻痺、オオヤンマは催眠の特殊攻撃を仕掛けてきますが、対策は……問うまでもなく万全ですよね？」
「うーん。お薬系はキズナオール傷薬の飲み薬＆塗り薬、虫避けと栄養剤しかなかったわ」
「状態異常回復薬は需要も高いので作るといいのです。毒、麻痺、催眠、どれも予防薬治癒薬ともに作れる材料があるのです」
「……予防薬？」
セリノの声が震えている。
察するに、この世界には予防薬自体存在しないんじゃないかなぁ……。
「状態異常を予防する薬なのです。アイリーンなら無効薬も作れるのです。ただ、今は材料がないのです」
「夢のような薬ですねぇ……。無効薬とか……死者が復活する薬と同じ扱いですよ、きっと」
乾いた笑いをするセリノの肩をスライムたちが、こぞってぽんぽんと叩いている。
や、そんなにリズミカルに叩かなくていいからね。
「じゃあ、せっかくの隠し部屋だし。ここで作っていこうか」
「セリノはお茶でもするといいのねー。鎮静効果のあるハーブティーを飲むのねー」
「お願いします」
肉祭りで養ったはずの英気が失われつつあるのには目を瞑る。
用意された椅子に力なく座るセリノを横目に見ながら、同じく用意された机を前に腰を下ろす。
各種材料がテーブルの上に並ぶので、私はレシピを思い浮かべた。
セリノがいるからね。
脳内で囁いておく。
『手持ちの素材を使って一番効果の高い解毒薬ができる。作成時間が短いと嬉しいな。当然の容器入り！』
今回は素材から作るパターンじゃないので、希望は控えめ。
浮かんだレシピはこちら。
解毒薬 ポイズンモーズの羽 一枚、肉 一欠片
ジキンタリスの花 一輪
ミキシの果実 一個
チョウセイモクの葉 一枚以上
綺麗な水 計量カップ一杯分
綺麗な水の中にポイズンモーズの羽を三分以上浸す。
一時間以上浸してはいけない。
ポイズンモーズの羽を浸した水に、チョウセイモクの葉を浮かべておく。
別の容器にすり潰した肉を入れる。
肉の中央にくぼみを作り、その中に乾燥させたジキンタリスの花、乾燥させたミキシの中から果実の皮だけを置いて包み込む。
チョウセイモクの葉を一端引き上げて、包み込んだ肉を入れて、よく混ぜる。
混ぜたあとで再度チョウセイモクの葉を投入。
葉の色が透明になったら完了。
葉の色に変化がない場合は、綺麗な水を変化するまでつぎ足す。
どろりとした紫色の液体になれば完成。
患部に薄く塗布し、残りは飲むべし。
おぉ！
仕上がったあとの使い方まで出たよ。
「解毒剤に必要な素材は、ポイズンモーズの羽一枚、肉一欠片。ジキンタリスの花一輪。ミキシの果実一個。チョウセイモクの葉一枚以上。綺麗な水 計量カップ一杯分だって、大丈夫そう？」
「勿論大丈夫ですわ。ポイズンモーズの素材は私が」
「残りは私が持っているのねー」
ローズとリリーが分量も完璧に出してくれるので、製作も容易い。
私はすり鉢とこね鉢を用意して、レシピ通りの手順で製薬に挑む。
セリノの熱い視線はなるべくスルーしつつ、すり潰して、混ぜた。
無事に葉の色が透明になり、どろっとした紫色の液体になったよ！ と額に浮かんだ汗を拭っている間に、鉢に入っていた解毒薬は瓶入り解毒薬に変化してしまう。
恐る恐るセリノに目を向けると、想像通りの顔をした彼がいた。
う、うん。
気にしちゃ駄目だ！
「解毒薬が完了したよー。患部に薄く塗ったあとで、飲み干すんだってさー」
ポイズンモーズの解毒薬 オリジナル瓶入り
ランクＳＳＳ
微毒から超毒まで効果抜群。
どろっとした紫色で不気味だが効果に問題なし。
甘めでほんのりパープルベリーの香り。
患部に薄く塗ったあとで、飲み干すべし。
オリジナル容器は鈴蘭の意匠、デフォルメされたポイズンモーズの全体像が彫り込まれている。
「複製は任されたので、残り二つもよろしくなのねー」
「ふ、複製？」
リリーさんや？
セリノに隠す気はないのかね。
誓約が上限一杯で、かけた本人に負担が出そうで嫌な予感がするよ。
苦笑しながらも製薬は続ける。
ギルドに卸さないと駄目な気もするしさ。
小さな溜め息を吐いて、同じように脳内で囁く。
『手持ちの素材を使って一番効果の高い麻痺解除薬ができる。作成時間が短いと嬉しいです。当然の容器入り……あまり目立たない容器を所望します』
や、そこじゃないか。
と自分の言葉に突っ込みを入れる間もなくレシピが浮かぶ。
麻痺解除薬 グリーングフグフの内臓 新鮮なものを一欠片
マンダラーゲの根 採れたて太めのものを五センチ
チョウセイモクの花粉小さじ一杯
綺麗な水 計量カップ一杯分
綺麗な水の中に新鮮なグリーングフグフの内臓を入れて、緩く掻き混ぜておく。
マンダラーゲの根は採れたてのものをすり潰す。
内臓入りの水の中へマンダラーゲの根とチョウセイモクの花粉を入れて丁寧に混ぜる。
色が鮮やかな黄緑色になるまで、少しずつチョウセイモクの花粉を追加。
とろみのある黄緑色の液体になれば完成。
一瓶の半分を飲み、三分以上時間をおいてから残りを飲む。
一気に飲むと昏倒するので要注意。
「せっかちな冒険者が一気飲みしそう。売るんなら徹底した注意喚起をお願いしたいねぇ」
何をしても地味に乱立していくフラグに生温い微笑を浮かべつつ、素材を所望する。
グリーングフグフはサイが、それ以外はリリーが並べてくれた。
早速調合を始める。
今回も追加がなかったので、仕上がりは早い。
「……なんであんなに早くできるのかなぁ？」
聞こえた質問の答えを、私は知らない。
強いて言えば完全調合のスキルが優秀なのかな？
目立たない容器を希望したら、綿？ に包まれた容器が出てきた。
……そうじゃない。
薬を作っていて、綿が出現したら余計に目立つのでは？
誰に向かっての突っ込みか不明だが、突っ込まずにはいられない。
スライムたちの警戒度が低すぎるので、セリノに対してその辺りを考えるのは無駄なのだろうか。
「麻痺解除薬も完成ー。一瓶の半分を飲み、三分以上時間をおいてから残りを飲む。一気に飲むと昏倒するので要注意……だってさ」
グリーングフグフの麻痺解除薬 オリジナル瓶入り
ランクＳＳＳ
一部麻痺から全身麻痺まで効果絶大。
とろみのある黄緑色の液体。
酸味強めでグリーンキーウイの香り。
一瓶の半分を飲み、三分以上時間をおいてから残りを飲む。
一気に飲むと昏倒するので要注意。
オリジナル容器は鈴蘭の意匠、デフォルメされたグリーングフグフの正面アップが彫り込まれている。
「注意喚起の徹底はギルドマスターの責任なのねー。重ねて言い含めておけばいいのねー」
リリーの売る気は何時だって満ち溢れている。
需要は高いだろうから、ギルドマスターに責任の所在を求めてもいいよね？
『手持ちの素材を使って一番効果の高い覚醒薬ができる。作成時間は短くお願いします。当然の容器入り……使い勝手が良ければ、目立ってもいいです』
目立ってもいいは地雷だったかな？ と気持ち後悔しているとレシピが浮かぶ。
覚醒薬 トーポスの葉 一枚
カットンの枝 十センチ
チョウセイモクの樹液 小さじ一杯
綺麗な水 計量カップ一杯分
刻んだトーポスの葉を綺麗な水に入れる。
カットンの枝は皮を剥いで残りを粉砕。
皮は焼いてからすり潰す。
加工したカットンの素材とチョウセイモクの樹液を水に投入。
深緑色になれば完成。
繊維が残っている場合は漉す。
一瓶を少しずつ飲ませる。
一本以上飲ませる場合は、五分以上時間をおくこと。
時間をおかないと永遠の眠りにつく場合もある。
もしかして、せっかちな冒険者に対する脅しなのだろうか？
死ぬと言われても急ぐ人は急ぎそうな気もするが、さすがに自己責任でお願いしよう。
覚醒薬の素材は全てリリーが出してくれた。
どれだけの素材を管理しているのだろうか。
リスト化してほしい気もするが、手に負えない予感しかしない。
今はやるべきことをするのが優先と、製薬に挑む。
今回は三回ほどチョウセイモクの樹液を追加した。
更に繊維が残ってしまったのでしっかりと漉すのも忘れない。
漉し終えた途端に瓶になりました。
本当に空気を読んでるよなぁ……。
ちなみに三種類とも、できたのはドリンク剤サイズの瓶が二本。
私とセリノ用なんだろうね。
スライムたちがさくさく複製してくれるから、何度被害に遭っても無問題だけどさ。
「覚醒薬も完成したよ。一瓶を少しずつ飲ませて覚醒を促す。一本以上飲ませる場合は、五分以上時間をおくこと。時間をおかないと永遠の眠りにつく場合もある……ってさ」
トーポスの覚醒薬 オリジナル瓶入り
ランクＳＳＳ
昏倒状態から徹夜続きにも幅広く効果有。
さらっとした深緑色の液体。
砂糖の甘さにミントの香り。
一瓶を少しずつ飲ませる。
一本以上飲ませる場合は、五分以上時間をおくこと。
オリジナル容器は鈴蘭の意匠、簡素化されたトーポスの葉が彫り込まれている。
「覚醒薬の扱いが一番面倒とは想定外ですわ」
「今ある素材でできる物だったからね。もっと細かく設定すれば面倒も避けられると思うけど……ま、今回はこれでいいじゃん。販売についても最終的な決断を下すのはマスターたちだしね」
私の言葉にうんうんと頷くセリノとスライム。
冒険者ギルドと商人ギルドはいいけど、薬師ギルドとかあったらトラブルが起きそうだよね……。
薬師ギルドが存在しないように祈っておこう。
喜多愛笑 キタアイ
状態 心身ともに良好 new!!
料理人 ＬＶ ４
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 ＬＶ ５
完全調合 ＬＶ１０
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人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
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称号 シルコットンマスター（サイ）
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かろうじて着れましたので、購入。
太ってから通販での購入のハードルがかなり上がりましたよ……。
次回は、昆虫ダンジョン インセクト ２５（仮）の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。
