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ジャクロット王国十三王女。後編。

 イラッと回二話目。

 いろいろとおかしい表現が多々ありますが、本人の思い込みによる表現なので、あーお花畑、自意識過剰乙と、生温くスルーください。


 屈辱に震える私に向かって、女が拍手をする。

 次から次へと無礼な振る舞いをされて、失神すらできない。


「あ、貴女! 拍手なんて、人を馬鹿にするのも!」


「叫ばないでくれます? モンスターが来ちゃうから」


「それがなんだというのです? 貴女たちが倒せばいいではありませんか!」


 自分たちを冒険者だと称するのならば、それが仕事なのだ。

 粛々とモンスターを屠ればいい。

 私の叫びを否定するなど、そもそも許されないのだというのに。


「ん。お客さんが来たのっ。団体様御一行なの。六階のモンスター全種類各二体ずつなの」


「ブラックとホワイトな、あんちくしょうはお任せします!」


「はい。任されました」


「ひゃあああ! どうしてこんなにたくさん来るんですの! ほら! 早く、どうにかなさい」


 モンスターが言葉を話したと、問う間はなかった。

 生理的嫌悪を覚える昆虫が何十倍もの大きさとなって襲いかかってきたのだ。

 ダンジョンへ入る前に従者の一人が、姫様の大嫌いな虫が出現するのです! と言っていたのを、ふと思い出す。


 華麗に少年の背後へ隠れようとするも、少年は私の体に触れぬように避けて、モンスターへと挑んでいく。


「ぎゃっ!」


 少年へすがりつこうとした勢いのまま、地面に倒れ込んでしまった。

 起き上がろうとするも、高貴で華奢な私の、体の上を何かが転がって行く。

 巨大な球体だ。

 これもモンスターなのだろうか?


「ぎゃふん!」


口から可愛らしい悲鳴が零れるのを聞きながら、私は失神した。



「ちょっと! 貴女! 何を惚けているの! 私を助けなさい」


 失神する時間は基本僅かなもの。

 今回は勝手が違うので何時もより目覚めまで時間がかかってしまったようだ。

 少年たちはモンスターを全て倒しきり、ドロップアイテムを回収している。

 肉の良い香りはしない。

 全く肉のドロップがないとは、どこまでも使えない奴らだ。


 鼻息も荒く体を起こそうとして、まだモンスターが体の上に居座っているのを知る。

 幾ら高貴な私の体から離れがたいからといって、死して尚、淑女の体に乗っているのは紳士ではない。

 そもそも他のドロップアイテムを回収する前に、私の体の上からモンスターをどかすのが優先だろうに。


 呆れた溜め息を吐くと、何やら音がしたと思ったら巨体が消える。

 ドロップアイテムとなったようだ。

 途端に美味しい肉の、香しい匂いが鼻を擽った。


「まぁまぁまぁ! すばらしく大きくて美味しそうなお肉なのっ!」


 肉の香りにつられるようにして私は体を起こした。

 バランスを崩してしまうのは仕方ない。

 何故少年は私をエスコートしようとしないのか。

 貴族であれば少年の年頃でも紳士の嗜みを会得しているというのに。


 体を起こした私は、女の足元に転がっている肉に向かって可憐な手を伸ばした。

 と、肉は指先に触れず、消え失せてしまう。

 ドロップアイテムは長時間放置しておくと、ダンジョンへ吸収されるとしつこく言い聞かされた。

 そのお蔭で知識として入っていたが、こんなに短い時間で吸収されるのはおかしい。

 女かスライムが意地汚く奪い取ったというのか!

 怒りに震えていれば、顔が地面とキスしてしまう。

 土の味が口の中に広がった。


 違う。

 私が食べたいのは土ではなく、肉だ。


「ドロップアイテムの強奪は犯罪なのねー。面倒だけどさくっと回収して、冒険者ギルドにお届けするのねー」


 やはりモンスターが言葉を話している。

 話をするモンスターは知能が高いと物語で読んだが、スライムは頭の良いモンスターではなかったはず。

 もしかして、悪い奴に作られた人造モンスターなのだろうか。

 ゴーレムよりは簡単に作れる気もする。


「ん? リリーが行ってくれるの?」


「まかせなさいなのねー」


「え! どういうことですのっ? スライムがしゃべっているなんておかしいわ!」


 鋭い指摘をしてみせ、その反応を伺う。

 人造モンスターであれば、普通のモンスターより知能は低い……ん?

 もしかして高いのだろうか。


「今更なのねー。そしておかしいのはお前なのねー」


 スライムの言葉の意味が理解できない。

 理解できないが、スライムの言う、お前が、私を指しているのだとは理解できた。

 私はスライムにお前呼ばわりされたのだ。

 見下されたのだ!

 怒りで頭が沸騰しそうになった瞬間。

 私の目の前でスライムは巨大化した。

 巨大化したスライムを凝視している間に、私の身はスライムに囚われてしまったのだ。


『私を出しなさい! 早く!』 


 内側からスライムの体を叩く。

 何とも不思議な触感がした。

 この国で食べた美味なスイーツ、果物のゼリーに似た触感。

 食べたら美味しいのかしら? と一瞬だけ考えてしまった私を、馬鹿にするかのように女が私に向かって手を振る。


『どこまで恥知らずなんですか? 貴女は!』


 私を飲み込んだスライムと女の関係は友好なようだ。

 物語の中のテイマーは、悍ましいモンスターとも心を通わせている。

 女もそうなのだろうか。

 モンスターと仲良くするなんて信じがたいが、この美しい目が嘘を見るはずもない。

 なれば、このスライムを内側から傷つけて差し上げましょうと、スライムに歯を立てようとした瞬間。


 視界が真っ黒になった。


 失神するときとは違う真の闇に恐ろしさを感じたのは、意識が戻ってからのことだ。


『……と、いうわけなのねー。私は主様のところに戻るから、後始末はよろしく頼んだのねー』


『……ほんとーに、すげぇな、フォルス嬢。ついに王族まで引っかけてくるとは……』


『勘違いも甚だしいのねー。奴らが押しかけてくるのねー』


『そうは言うけどよぉ。お前さんだって、本当はフォルス嬢が尋常じゃねぇ、巻き込まれ体質だって、認識してんだろ?』 


『うるさいのねー。主様は悪くないのねー』


『そりゃあの方は悪くねーよ。対応は何時でも適切だかんな』


 耳元で会話がされているが、起き上がれない。

 会話の片割れが私を恐怖に叩き込んだスライムだと、わかってしまったからだ。


『主様を悪く言うなら、おやつセットは持ち帰るところだったのねー』


『俺の言い方が悪かった! フォルス嬢は、天使で、女神で、ギルドが崇拝して守るべき御方です!』


『スルバランの調教はすばらしいのねー。はい。スコーンセット。スルバラン用も預けておくのね』


『了解! きちんと本人に手渡ししておくぜ! フォルス嬢にも礼を言ってくれな』


『……そーゆーところなのねー』


『ん? どういうことだ?』


『なんでもないのねー。じゃあ、私も行くのねー』


『おお、気をつけて行けよ』


 そういうところなのねー。

 意味のわからない言葉を残して、あの悍ましくも恐ろしいスライムの気配が消える。

 私は大きな溜め息を吐いた。


「さて。もう目が覚めてんだろ。起きてもらおうか、ビシタシオン」


「な! 無礼ですわよ!」


「無礼はアンタだよ、ただのビシタシオン」


 飛び起きれば目の前にいたのは、熊のような大男。

 登録のために必要だからと、無理矢理連れて行かれた冒険者ギルドにいた。

 確か、冒険者ギルド長だったはず。

 実に粗野なギルドの長らしい、不遜な存在だ。


「この国に入ったときに連絡があったからなぁ。ジャクロット王国に問い合わせたんだよ。

ジャクロット王国十三王女様が許可なく我が国に足を踏み入れた。戦争をお望みか? と」


「なっ! 行方知れずの兄上を捜しに来た私に対して、何たる無礼!」


「あー。あの詐欺師か……なぁ、知ってっか? アンタが言うところの兄上は、この国では犯罪者なんだってこと」


「……え?」


「できれば捕縛、無理なら殺してもかまわない。犯罪者の中でも凶悪な部類に入るんだよ。ジャクロット王国から他に犯罪者を連れて入国もしてるしな。だから、この国は正式な手続きを踏まないジャクロット王国の王族に対しては、犯罪者対応なんだ」


「兄上の、せいで」


「そうだ。でもまぁ、こっそり観光するぐらいなら見逃してやる。面倒だしな。だがアンタは派手にやらかした。最悪なのはフォルス嬢に無礼を働いたことだ」


「フォルス嬢?」


「あー名乗ってもらえなかったか。アンタをここまで運んできてくれたスライムの主だ。この街に取っては神様みたいもんだな」


 少年とスライムをこき使って自分は高みの見物をしていたあの女が、神様?

 

「今はこの街の神様だけれど、そのうちこの国の女神にもなるだろう御方だ。ぶっちゃけ、扱いとしては王族より上だな」


「そんな、馬鹿、な」


「で。その辺りの話もしたところ……アンタは、王族から除名された。今のアンタはただのビシタシオン。平民で犯罪者」


「私が、私が、平民で! 犯罪者ですって!」


「そうだ。ジャクロット王国の返答は、罪を償ったら帰国を許すとさ。国外追放とか宣ったら抗議しようかと思ってたんだけど、その辺はわかってるみてーで良かったわ」


「良くないですわ! 私をどうするおつもりですのっ?」


「フォルス嬢を筆頭に、迷惑をかけた人へ、金銭でもって贖ってもらう。娼館と農場、どっちへ行く?」


 究極の選択肢に私は涙を流す。

 真珠のような涙は、ギルド長の心を動かすと思ったけれど。


「……選ばないならこっちで決めるぞ。もう一度だけ聞いてやる。最下級の娼館か、一日一食、スープとパンしか出ない農場、どちらにする?」


 ここで答えねば強制的に決められるのだと認識して、私は震える口を開く。


「……最下級の娼館の食事は?」


「スープとパンの食事を三食。水は飲み放題」


 私は迷わずに下級娼館を選ぶ。

 一食よりはましだ。


 しかし後日、下級娼館で許された、僅かな自由時間の中で。

 農場であれば、売れない作物が食事に追加されるときがあること。

 作業に慣れれば、こっそりと作物を盗み食いする機会が少なくないこと。

 真面目に働けば待遇が改善されたりすること。

 何より男性が多いので、女性は優遇されること。

などを教えてもらった。


『私も農場で働いていたときは、顔なんて殴られなかったもん』


 教えてくれたのは私よりもずっと幼くあどけない少女。

 特殊な性癖に人気が高い幼女の歯は一本もなく、笑ったその顔はくしゃりと歪み、老婆のように見えた。  


 企画にあわせて書き進めていた作品の予約投稿が完了しました。

 予定では三作品ぐらい仕上がっているはずなのに……。

 ネタ帳にだけメモして、他に書き進めている作品を仕上げていこうと思います。

 夏に間に合うかなぁ、デスゲーム。


 次回は、ジャクロット王国十三王女。 後編。(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。 

 

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