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ジャクロット王国十三王女。前編。

 風が強い中買い物に行ったら顔がぴりぴりします。

 とりあえずたっぷり保湿してみますが……早く落ち着くといいなぁ。


 ジャクロット王国十三王女は基本イラっと回です。 

 

 

 私はジャクロット王国十三王女ビシタシオン・ガイ。

 行方知れずの美しい兄上を捜すべく、隣国のベッルッカ帝国へと足を運んだ。

 ジャクロット王国よりも発展していると評価の高い国だったが、王族への対応はなっていなかった。

 行く先々でほとんど希望が通らない。

挙げ句に従者たちは、仕方ないのです! と王女を咎める始末。

そもそもベッルッカ帝国への訪れも、酷く反対された。

 王族の意見に従わない従者なんて不要だと、解雇を言い渡したにもかかわらず、しつこくついてくる。

 これだから王族に集るだけの輩は困るというものだ。

 憤慨しながらもベッルッカ帝国へ着けば、なるほど。

 ジャクロット王国とは比べものにならぬほどに、繁栄していた。

 

 何より食事がすばらしい!


 女性しか泊まれないというフロイラインという宿の食事は、王宮でも食べられない美味しさに物珍しさ。

 特にここ最近訪れた客が齎したレシピによって、どんどん新作の料理が作られているという。

 宿の料理人とその客とやらは、ジャクロット王国に連れて行きたい。

 王宮御用達ともなれば、どちらも地べたに額を押しつけて感謝するだろう。


 フロイラインは女性しか泊まれぬとあって予約を捻じ込むのは難しく、三日ほど泊まれない期間ができてしまったので、仕方なくダンジョンへ足を踏み入れると決めた。

 昆虫ダンジョンという、モンスターが全て昆虫という実に悍ましいダンジョンだが、美味しい肉がドロップするというのだ。

 物語でよく見かけるように、王女たる私が足を踏み入れればレアドロップがたくさん入手できるに違いない。

 管理のなっていない従者たちのせいで心許なくなってしまった費用も、それで十分に賄えるだろう。

 

 しかし足を踏み入れたダンジョンは、物語のダンジョンとは違っていた。

 レアドロップどころかドロップアイテムが少なすぎる。

 虫の羽など何に使うというのか。

 律儀に拾おうとする従者を咎めても、恥ずかしい行為を止めないのだ。

 虫の死骸など気持ち悪いから近付くなと言ったら、何時の間にかいなくなっていた。


 虫型の悍ましいモンスターに追いかけられる内に、気がつけば一人になっていて驚く。

 王女を一人にする従者なんてあり得ない。

 国に戻ったら注進しなければならないだろう。

 ぐーぐーと空腹を訴える腹をさすりつつ、ダンジョンを進めば、巨大な虫に行く手を遮られた。

 球体の体がくるっと回転し、私を獲物として定めたようだ。

 ごろごろごろと音を立てて転がってくる。

 私は悲鳴を上げた。


 ここでやっと物語が始まったらしい。

 王女の窮地に訪れるのは美形の騎士と決まっているが、走ってきたのは小柄な少年。

 短剣を握り締めているので、王女を助ける騎士ではないのかもしれない。

 ただなかなかの美形だったので、騎士が来るまでの間に合わせにしようと決めた。


 少年は手早くモンスターを倒した。

 短剣であっさりと倒せていたので弱いモンスターだったようだ。

 そして、しっかりドロップアイテムも出た。

 とても、良い匂いがする。


 ドロップアイテムを拾った少年は、しっかりとアイテムを持つも、一向に献上する気配がない。

 下々からの献上を許可していないからかと思い至り、仕方なく許可を出す。


「下々の者からの献上を、私は受け入れますわ!」


 掌を差し出すという、寛恕まで与えてやったというのに、少年は肉を握り直しただけで、一向に献上する気配を見せない。


「酷いですわ! どうして私にその肉を献上しませんの!」


「……モンスターのドロップアイテムは、倒した本人に権利があります」


 返答は信じられないものだった。

 下々の権利なんて、王族の要望の前ではないに等しいというのに。


「それが何だというの? 私はお腹が空いているのよ! ほら! 早くっ! 献上なさいっ!」


 他国の民ならば仕方ないかと、重ねて寛恕を示す。

 しかし少年は驚くべき行動を取った。

 私へ肉を渡さぬよう、頭上よりも高く持ち上げたのだ。

 にわかには信じられない無礼だ。

 少しでも少年の罪を軽くしてやろうと、私は必死に肉を求めて手を伸ばす。

 ぎりぎりのところで届かない。

 私は空腹と少年の無礼に奥歯をぎりぎりと噛み締める。


「あ! フォルス様! ちょっ!」


 少年が誰かの名前を呼び、目線が私から外れる。

 聡明な私はその隙を逃さすに、肉を入手した。

 手に肉特有の脂がべっとりとついた。

 初めて嗅ぐ肉の香りに鼻をひくつかせつつ、がぶりと齧り付く。

 王宮のマナーには反するが、ダンジョンのマナーにはあっているだろう。

 何も問題はない。


「ん。悪くない味ですわ。もっと、寄越しなさい!」


 初めて食べる肉の味は、こってりとしていて大変に美味だった。

 国にも大量に持ち帰らねばなるまい。

 少年に確保させればいいだろう。


 唇に乗った脂を綺麗に舐め取る。

 脂の乗った艶やかな唇で少年を惑わせるのは罪深いのだと、私はきちんと理解していた。


「持っていません!」


「隠しても無駄ですわよ!」

 

 軽装の少年が隠し持っているとは思っていない。

 ただこう言えば少年が、新しい肉を献上してくると考え抜いた上での発言だ。

 見透かされているのだと気づき、早く新しい肉を取りに行かぬものか。


「大丈夫、セリノ?」


「僕は大丈夫ですが……」


 少年とのやり取りに女が断りもなく口を挟んでくる。

 無礼極まりない。

 これだから粗野な冒険者は困るのだ。


「あら、貴女。変わった服を着ているわね。ふーん。仕立ても悪くなさそうだわ。私に献上なさい。光栄に思うと良いわ!」


 しかし女は初めて見る衣装を身に纏っていた。

 デザインこそ冒険者に相応しい簡素なものだったが、生地がすばらしい。

 あそこまできめ細やかで艶やかな生地は王宮にこそ持ち込まれるべきだ。

まずは私が着て、父上や母上に献上させるのが最良だ。


「お断りします。セリノ、行きましょう」


「はい。フォルス様」


 王女に対して不敬が過ぎて反応が遅れてしまった。

 女は短すぎる断りの言葉を残して、少年を連れて行こうとする。


「ちょ! 待ちなさい! 何故、私を置いていくの! どうして、服を献上しないの!」


 服の献上はするべきだ。

 民の義務だ。

 しかも一人でダンジョンに王女を置き去りにするなんて、人道に反する。

 不敬も一瞬忘れる非道さだ。


「……貴女の態度がなっていないからですよ」


「なってないって! 私を誰だと思っているの! 控えなさい」


「……名乗られてもいないのです。控えようがありませんね」


「私を知らないとは! これだから下賤な者は困ります。いいですか、お聞きなさい!」


 度重なる不敬に、めまいまでしてしまったが……なるほど。

 少年も女も私が王女であると知らなかったようだ。

 隣国の王族を知らぬとは、無知にも程がある。

 所詮冒険者など下賤な輩の集まりだ。

 民が無知なのは仕方ない。

 ここは王族として、寛容になるべきだろう。

 私は名乗ってやろうとするも、二人はすたすたと歩き始めてしまう。


「お待ちなさい! 待てと言っているのです! いいですか! 私は王女なのですよ!」


二人が驚きの表情をして振り返った。

 やっと自分たちの不敬に気がついたのかもしれない。

 これからはきちんと対応してもらわないと困る。

 寛容すぎる態度は民をつけあがらせてしまうからだ。


「王女様が何故ダンジョンに?」


 言葉使いがなってない。

 探る口調も無礼だ。

 だが女の質問は、冒険者としては必要なものなのだろう。

 私は丁寧に答えてやった。


「行方不明の兄上様を捜しに来たのですわ! ああ、お兄様! 何処でどうしていらっしゃるのかしら! 私、心配でなりませんの」


「……もしかして元ジャクロット国第五王子オスカル・ガイをお捜しですか?」


「元! 何ですの、お兄様はっ!」


「詐欺、殺人幇助及び教唆、強盗の容疑で現在この国でも指名手配中らしいですよ。生死不問でジャクロット国からも別途報酬が支払われるとか……」


「は?」


 兄上様への不敬を咎めようとするも、荒唐無稽な話に思考が止まった。

 美しく聡明だった兄上は、誰かに浚われたのだ。

 そうに決まっている。

 弟妹たちだって、同じ意見だった。

 だからこそ私は、代表して隣国にまで足を運んでいるというのに。


「私が聞いた噂では、盗賊村と呼ばれていたバイヨンヌ村の村長をしているとか……」


 村長?

 兄上様なら小国の王になってもおかしくない力量をお持ちだというのに。

 汚らしい犯罪者の謀略に絡め取られてしまったのだろうか。

 民を思うあまり、村長という低い地位に甘んじておられるのか。

 何が理由なのかはわからないが、絶対に一度帰国をしていただくのだ。

 それだけは決まっている。

 父上も母上も大変心配しておられるのだ。


「では早速、その村に連れて行きなさい!」


「それは、無理ですねぇ」


 またしてもこの女!

 私の命令に従わない。

 無理に従わせてもいいのだ。

 空腹でなければ私の魔法で屈服させてやるのに。


「何故無理なの? おかしいわ! 王女たる私が命令をするのですよ!」


「ダンジョン内で冒険者に命令とか、随分と無謀な真似をなさる」


「ダンジョン内での負傷者や迷子の救助は推奨されてはおりますが、義務ではないのですよ」


 少年までもが私に無礼を働く。

 ダンジョンのルールより、王女の命令が優先されてしかるべきだ。

 この者たちは自分の言動が、国との諍いにまで発展してもおかしくないのだと、理解できているのだろうか。

 否、できているならここまで愚かな発言はしないはず。


「義務ではなくとも、私は王女なのですよ! 助けるのが当然でしょう?」


 怒りを抑え込んで、説明をした。

 ああ、せめてあの美味しい肉があと十個あれば、存分に魔法を振るって、この者たちに命令を聞かせられるのに。


「いいえ、当然ではありません。そもそもジャクロット国の王族を助ける必要はないと、冒険者及び商人ギルドでは通達がなされているのですが、御存じないのでしょうか?」


この二人には幾度驚かされればいいのか。

 腹立たしいのもここまでくると、呆れるしかない。


 王族を助けなくていいと通達があった?

そんな通達を、父上が許可するはずがない。

 これはゆゆしき問題だ。

 帰国次第報告すべき案件だろう。


「し、知らないわ! 王族を助けないなんて、おかしいでしょう?」


 しかし今取るべき行動は、二人に私を助けさせること。

 これが最優先。

 王族が知らないと言えば、通るはず。


「おかしいですね。ですが貴女が王族を詐称している可能性もありますから。失礼ですが、貴女がジャクロット国の王族である証明を、この場でできましょうか?」


 証明!

 王族としての証明!

 そんな無作法な発言は初めてだ。

 怒りで視界が真っ赤に染まる。


 存在そのものが高貴な私がわざわざ名乗ったのだ。

 王女なのだと、証明するまでもないはずなのに。



 マルチプレイ型のゲームは、距離感に悩みますよね。

 一度会話に参加すると、以降も参加し続けなければならない義務感が……。

 プレイしているとつい、参加したくなる性分なのが一番の問題なのかしら。


 次回は、ジャクロット王国十三王女。 後編。(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。 

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