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昆虫ダンジョンインセクト 21

 真っ当な王女様も書きたい所存です。

 あ、現在執筆中の悪役令嬢は真っ当……悪役令嬢という時点で果たして真っ当なのかしら?

 悪役令嬢が活躍する作品を読み過ぎて、本来の意味を見失っている気がします。

 


 ブラック&ホワイトジーの有用性について真剣に考えている最中に、遠くで微かな悲鳴が聞こえた。


「……助けにいきますの?」


 ローズがジト目で見つめてくる。

 助けに行かない方がいいらしい。

 しかし善人のセリノが反応してしまった。

 ローズの密かな声が聞こえなかったのかもしれない。

 悲鳴に向かってダッシュで走っていった。


「ダンジョンであれだけの悲鳴を上げるとか、素人だよねぇ、間違いなく」


「冒険者でもホワイトジーに悲鳴を上げる人はいるのです」


「うん。気持ちはわかるよ。でもさ……」


「あの、可愛らしい悲鳴は地雷だと思うのねー」


「リリーさんの意見に賛同です」


 そう、微かに届いた悲鳴は作られた悲鳴。

 どこか余裕のある悲鳴だった。

 助けられて当たり前、助からなければおかしい、そんな傲慢な気配がするのだ。


 基本善人で、虐げられた期間が長すぎたセリノに、助けに行くなとは言えなかった。

 言えばセリノは心を痛めつつも行かなかったと、わかってはいても。


「同年代くらいの女性かな?」


「ん。数歳年上なの」


「う。若作りを頑張ってるのよ」


 そうか、頑張れ。

 容赦ないサイの言葉に、少しだけ申し訳なさを覚える。

 重い足を叱咤して、セリノの跡を追った。


「悪い予感、的中……」


 セリノはモンスターを手早く片付けていた。

 ドロップアイテムから察するに、ミートキリトリの通常個体一体。

 団体様で襲われるのは、私のための特別仕様らしい。

 解せない。

 

「酷いですわ! どうして私にその肉を献上しませんの!」


「……モンスターのドロップアイテムは、倒した本人に権利があります」


「それが何だというの? 私はお腹が空いているのよ! ほら! 早くっ! 献上なさいっ!」


 頭上も高くミートキリトリの肉を掲げているセリノに縋って、餓鬼も真っ青の勢いで奪い取ろうとしている女性の格好を見て、こっそりと溜め息を吐く。

 女性は元は豪奢であっただろうドレスを身に纏っていたのだ。


「ドレスでダンジョン……誰も止めなかったのかねぇ」


「止めても聞く輩なら、そもそもドレスでダンジョンに足を踏み入れようとは思わないのねー」


 リリーの返答は冷ややかだった。

 気持ちはわかる。

 地雷臭がぷんぷんするのだ。


「あ! フォルス様! ちょっ!」


 私に反応して少しだけ気がそれたセリノの手から、女性が肉を奪い取る。

 がつがつと貪り喰らう様は、酷い飢餓状態を想像させた。

 

「ん。悪くない味ですわ。もっと、寄越しなさい!」


 味を楽しむ余裕があるのなら、ただ単に食い意地が張っているだけだろう。

 脂ぎった唇をべろりと舐める様子はなかなかに醜悪だ。


「持っていません!」


「隠しても無駄ですわよ!」


 と言っても、セリノは軽装だ。

 何処に隠していると責めるのはおかしいほどの。


 ドロップアイテムの管理は私とスライムたちがしている。

 無限収納持ちだからね。

 セリノの手に余るアイテムも多かったから、本人も承知している。

 あとできちんと分配する予定だった。


「大丈夫、セリノ?」


「僕は大丈夫ですが……」


「あら、貴女。変わった服を着ているわね。ふーん。仕立ても悪くなさそうだわ。私に献上なさい。光栄に思うと良いわ!」


 あちこち破れて薄汚れたドレスは、近くで見るとあまり高級な物ではないとわかった。

 所謂派手なだけの、下品なドレスというやつだ。

 しかし彼女自身の目はそこそこに肥えているらしい。

 私が身につけているものは、彼女が着ているドレスよりは断然高価なのだ。


「お断りします。セリノ、行きましょう」


「はい。フォルス様」


 自分への非道は許せても、私への不敬は許せなかったようだ。

 セリノは女性を助けるように言ってくると思っていたが、私の言葉に何も言わずに従った。


「ちょ! 待ちなさい! 何故、私を置いていくの! どうして、服を献上しないの!」


「……貴女の態度がなっていないからですよ」


 セリノの低い声。

 幼馴染みの二人にすら向けなかった冷ややかさだ。


「なってないって! 私を誰だと思っているの! 控えなさい」


「……名乗られてもいないのです。控えようがありませんね」


 おー、セリノが頑張ってくれる。

 私を矢面に立たせたくないのだろう。


「私を知らないとは! これだから下賤な者は困ります。いいですか、お聞きなさい!」


 聞く気がない私は、そのまますたすたと歩き始める。

 スライムとセリノも当然私に続いた。


「お待ちなさい! 待てと言っているのです! いいですか! 私は王女なのですよ!」


 王女。

 本当ですか?


 思わず振り返ってしまった。

 セリノも振り返っている。

 王女はないだろういろいろな意味で。

 私たちが呆然としている間に、サクラはしっかりと鑑定をしてくれた。


『ビシタシオン・ガイ ジャクロット王国十三王女 行方不明の兄を捜している。と言いながらもお付きの者を連れて観光三昧。ダンジョンで取れる珍しい肉が食べたいと我儘を言って無理矢理ダンジョンに入った。お付きの者に見限られて放置。運だけでこの階層まで来た。食に関しては強運というより豪運』


 食に関して強運! 

 じゃなくて豪運!

 どれだけ食い意地が張っている王女なのかと。

 や、待って。

 何処かで聞いたよね?

 ジャクロット王国。


 記憶を遡る前に、サクラが教えてくれた。


『元バイヨンヌ村村長 オスカル・ガイ。彼が元ジャクロット国第五王子だったのです』


『それだ!』


 憧れのオスカル様と同じ名前というだけでも許しがたい詐欺師は、無残な最期を遂げている。

 誰かの収納に、奴の罪石が入っていたはず。

 だからといって、彼女に形見として罪石を渡す気にはなれない。

 詐欺師には腹が立ったし、彼女にも腹が立っている。

 そういう意味では似た者な兄妹だ。


「王女様が何故ダンジョンに?」


「行方不明の兄上様を捜しに来たのですわ! ああ、お兄様! 何処でどうしていらっしゃるのかしら! 私、心配でなりませんの」


「……もしかして元ジャクロット国第五王子オスカル・ガイをお捜しですか?」


「元! 何ですの、お兄様はっ!」


「詐欺、殺人幇助及び教唆、強盗の容疑で現在この国でも指名手配中らしいですよ。生死不問でジャクロット国からも別途報酬が支払われるとか……」


「は?」


 ビシタシオンは詐欺師が指名手配されているのを知らなかったようだ。

 知らされていなかったとは思えない。

 恐らく知ろうとしなかったのだろう。


「私が聞いた噂では、盗賊村と呼ばれていたバイヨンヌ村の村長をしているとか……」


 セリノが何かに気がついた表情をした。

 バイヨンヌ村は現在改名されて、ホルツリッヒ村として有名になりつつある。

 そしてホルツリッヒ村の村長は私。

 つまりは詐欺師の行方を知っているのだと、勘づいたのだろう。

 頭の良い彼のならば、既に詐欺師がこの世にいないと、わかったかもしれない。

 盗賊村が駆除されて、生死が不明ならば、その死が意図して隠されたと考えるのが妥当なのだから。


 ……そういえば、詐欺師の罪石。

 どうしようかな。

 そして、この王女も。

 どうしようかな。


「では早速、その村に連れて行きなさい!」


「それは、無理ですねぇ」


 だってもう、存在しませんからね?

 と心の中で囁く。


「何故無理なの? おかしいわ! 王女たる私が命令をするのですよ!」


「ダンジョン内で冒険者に命令とか、随分と無謀な真似をなさる」


 王女の処遇を決めきれぬまま、私は悪役らしい微笑を浮かべてみせた。


「ダンジョン内での負傷者や迷子の救助は推奨されてはおりますが、義務ではないのですよ」


 入ってしまったら自己責任。

 助けを求めて足元を見られても仕方ない。

 むしろ感謝するべきだ。

 それがダンジョンルールなのだ。


「義務ではなくとも、私は王女なのですよ! 助けるのが当然でしょう?」


 当然ではありません。

 心の中で突っ込みを入れる。

 セリノの目が細められたので、似たような考えだったに違いない。


 無論、非道な対応をすれば注意や罰則はある。

 ただ基本は自己責任。

 ダンジョンに入る者は、それを承知していなければならない。


「いいえ、当然ではありません。そもそもジャクロット国の王族を助ける必要はないと、冒険者及び商人ギルドでは通達がなされているのですが、御存じないのでしょうか?」


 え、そうなの?

 存じ上げませんでした、私。


『例の詐欺師が派手にしでかしてるからなのねー。そもそも王族が他国でうろうろするとか、問題なのねー。良識を弁えた王族ならば踏むべき手順を踏んで、許可を得て行動するのねー。詐欺師捕縛のために、定期的に派遣されるジャクロット国の騎士たちはきちんと許可を得ているのねー』


 ジャクロット国自体はそこまでおかしい国ではないんだね。

 詐欺師とこの王女を見ると、王族限定で警戒度を上げちゃうけど。


「し、知らないわ! 王族を助けないとか、おかしいでしょう?」


「おかしいですね。ですが貴女が王族を詐称している可能性もありますから。失礼ですが、貴女がジャクロット国の王族である証明を、この場でできましょうか?」


 は!

 毒されていた。

 鑑定ができるから、私は彼女が間違いなくジャクロット王国の王女だと知っているけれど、セリノはそうじゃない。

 王族の詐称などするリスクが高いが、他国ならとやってしまう犯罪者は少なくないと聞く。

 セリノの真っ当な対応に、感心して拍手をしてしまった。

 

 



 喜多愛笑 キタアイ


 状態 絶賛イラッと中 new!!


 料理人 LV 4

 

 職業スキル 召喚師範 


 スキル サバイバル料理 LV 5 

     完全調合 LV10

     裁縫師範 LV10

     細工師範 LV10

     危険察知 LV 6

     生活魔法 LV 5

     洗濯魔法 LV10

     風呂魔法 LV10

     料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用

     掃除魔法 LV10

     偽装魔法 LV10

     隠蔽魔法 LV10

     転移魔法 LV ∞ 愛専用

     命止魔法 LV 3 愛専用

     治癒魔法 LV10

口止魔法 LV10

     人外による精神汚染


 ユニークスキル 庇護されし者


 庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化  解体超特化


 称号 シルコットンマスター(サイ)   



   


 十年に一度くらいしか回ってこない町内会の班長が回ってきてしまいガクガクブルブル中。

 最低月一の会合に出席するだけでいいらしいのですが、ご近所付き合いが皆無に等しいので、戦々恐々です。

 一年間何事もなく無事に過ごせますように……。

 

 次回は、昆虫ダンジョン インセクト 22(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。 

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