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反省も後悔もできない者が至る場所。後編。

 前回以上のイラッと回です。

 リアルでも時々見かける自分中心に世界が回っている人の話です。

 あの自信は何処から来るのか、聞いてみたくなります。

 

 

 


 アレホがおかしい。

 ダフネよりセリノが大切だなんて言っている。


「こいつらは使えない新人だから、ろくな資産を持っていないのねー。個人資産は他にあるのね?」


 気持ち悪い色をしたスライムが何かを言っている。

 スライムがしゃべれるなんて、そもそもおかしい。

 マスターボノは何故、このスライムを駆逐しないのだろうか。


「ありません。それどころか、パーティーの共同資産も自分たちの物として独占しています」


「ちょ! チェスっ!」


「じゃあ、取り敢えず丸裸にするのねー」


「きゃああ!」


 スライムの言葉と同時にダフネとアレホは文字通りの丸裸にされた。

 下着までもが奪われる。


「ふざけないで、このスライムっ! 変態っ!」


「何処が変態なのね? こっちこそ、薄汚いものを見せられて慰謝料を請求したいのねー。誰もそんな貧相な体、お金をもらってもみたいと思わないのねー」


「……だな」


 スライムの無神経な言葉よりも、マスターボノの同意に心を抉られる。


「ま、ますたぁ?」


 アレホ以外の男をも虜にしてきた、上目遣いの涙目でマスターボノを見つめる。

 しかし返ってきたのは初めて見るマスターボノの冷笑。


「気持ち悪いな、赤の他人に全力で縋る目ってのはよ」


「アレホが馬鹿で、セリノが優しかったから、通じると思ってるのねー」


 え?

 スライムに通じないのは仕方ないとして、マスターボノにも通じていないの?


「商人ギルドの人間も全員まるっと、見なかったことにするだろうなぁ。パーティーメンバーですら無視じゃね?」


「無視すると逆ギレされて面倒なので、話をすり替えていました」


「そそ。馬鹿だからすり替えに気がつかずに、今日も男どもは私の虜! とか宣っていたわね。本当、同じ女として羞恥を覚えるほど恥ずかしいわ」


 フリダの言葉よりもチェスの言葉が痛い。

 話をすり替えられていたなんて。

 逆ギレされて面倒とか、思われていたなんて。


「……酷い」


「悲劇のヒロイン設定なのねー。悲劇のヒロインを気取るなら、儚げ成分を大量投入しないと、様にならないのねー」


「お前さん、なかなか言うな」


「人間観察は嫌いじゃないのねー。アイリーンと一緒にいると駄目人間の見本に遭遇する機会が多くて、面白いのねー」


「あーお前さんたちが楽しんでいるなら、フォルス嬢の逆鱗にも触れねぇのかな?」


「アイリーンは基本寛大なのねー。ちゃんと贖いの機会は与えるのが、我が最愛で最強の御主人様なのねー」


 テイムされたモンスターの主人自慢など聞いたことがない。

 文句なら聞いた記憶もあるけれど。


 素っ裸で椅子に拘束されている二人の前に、資産全てがさらけ出される。


「うわー。随分使い込んでるなぁ」


「酷いわね。しかも中途半端に使うものだから、資産としての価値もなくなっているわ」


「う、うるさいわよ!」


「お前がねー」


「むご!」


 スライムの触手がぴしゃんと口元を叩く。

 何やら粘つくものが口の周囲に張り付いて、口が開かなくなってしまった。


「沈黙は金なりなのねー。屑は学ぶといいのねー」


 スライムとマスターボノまでが一緒になって、資産の確認をしている。

 

「……はぁ。貴重なマジックアイテムだったのに。これじゃあ、売却も修理も難しいわ」


 フリダが溜め息とともに手にしているのは、他のダンジョンで手に入れた希少なドロップアイテム。

 真実の鏡。

 その鏡を見つめると自分が美しく見えるから、常に携帯して暇さえあれば鏡を覗き込んでいた。


「逆しまの鏡なのねー。お安く修繕してあげるのねー。お金がないならホルツリッヒ村での肉体労働返済でもいいのねー」


「え? これは真実の鏡ではないのですか?」


「ん? セリノがそう言ったのね?」


「いいえ。セリノは逆転して映る鏡だと……」


「ですから、左右とか上下が逆に映るのかと思っていました」


「ああ。そこの犯罪者が独占して、よく効果が確かめられなかったのね? この鏡は逆しまの鏡。美しいものを醜く、醜いものを美しく映す天邪鬼な鏡なのねー」


 ……え?

 じゃあ、私が凄く、美しく見えたのは……。


「この鏡に美しく映ったのなら、本来はとても醜いものなのねー」


 スライムがダフネの感情を見透かしたように説明をする。

 その声には嘲りの色が強い。


『私は可愛いもん! 醜くなんか、ないもん!』


 必死の訴えも声にはならない。

 自分の意見を言えないなんて、悔しすぎる。


「性格の悪さが鏡に出るという点では、真実の鏡とも言えるのねー」


「……希少なマジックアイテムと同等であると?」


「そうなのねー。装飾も綺麗だし、おなかの中が真っ黒な貴婦人とかが喜びそうなのねー。修繕が終わったら、ギルドを通してオークションに出すといいのねー」


「御助言ありがとうございます」


「皆でホルツリッヒ村に伺って、誠心誠意努めさせていただきます」


 チェスとフリダがスライムに向かって頭を下げている。

 馬鹿じゃないの?


「他にも修繕可能なアイテムは少なくないのねー。そちらは任せるといいのねー。セリノ以外のメンバーに対する慰謝料は、修繕したアイテムを売り払えばとんとんぐらいにはなる目算なのねー」


「……修繕費もこいつらが出すべきじゃねぇのか?」


「勿論等しく負担させるのねー。パーティー所有の物が壊れたら、壊した者が全負担する例もあるけど、今回は全体責任がオススメなのねー」


「マスターボノ。僕たちはリリーさんの意見に賛同します」


「ええ。この二人が背負うべき咎は他にも多くありますから、最後の、情けですね」


「フリダに情けかけられるとか、うっざ! ちょっと、チェス! あんたが私に情けをかけて、私の代わりに何でもしなさいよ!」


 あ!

 声がでた。

 真実の主張は、スライム如きの拘束なんか吹っ切れるんだ!


 ふんと鼻息も荒くスライムを凝視してやる。

 しかしスライムは、にたりと薄気味悪い微笑を返して寄越した。


「マスターボノ。この二人は何処に売られるのね?」


「はぁ? 売られるですって!」


「あー。金にするならいますぐバラすのが最良。苦しめるなら娼館に売り飛ばすのが最良ってとこか」


「……アレホも娼館ですの?」


「ああ。がたいのいい男を組み敷く嗜好の館なら、それなりの需要があんだろ」


「なるほど、確かに」


「……ダフネこそ……需要はあるのかしら?」


「虐げたい系嗜好の館一択だな」


「は……はぁああああ?」


 喉が裂けそうなほどの、絶叫が溢れ出た。

 怒りが酷いのか、視界が真っ赤だ。


「虐げたい系は消耗が一番激しいからなぁ。常に一定の額で引き取ってくれるぞ。二人売り飛ばせば……うーん。ぎりぎりか」


「バラしてもいいと思うのねー。他のメンバーよりも贅沢していたから、健康状態も悪くないのねー」


「ね、ねぇ? バラすって、さぁ。その……」


「生きたまま解体して、臓器にしてから売り飛ばすって意味なのねー。生きのいい心臓が一番高く売れるのねー。あんたの心臓はなかなか高額で売れるのねー」

 

「いやあああああああ!」


「……これだけ嫌がるなら、バラすか?」


「それは、その……少々後味が悪いので、娼館へ売る方向で」


「お願いしたいのです」


 生きたまま解体されるくらいなら、娼館へ売り飛ばされる方がずっといい。

 虐げる系といってもたかが知れているだろう。

 今まで以上に媚を売れば生きながらえるどころか、娼館に君臨、もしくは高貴な方に身請けだってされるかもしれない。


「それじゃあ、アレホとダフネは娼館へ売却の方向へ……おい、お前ら! 何か言い残すことはあるか」


「それじゃあ、遺言みたいですよ、マスターボノ!」


 ダフネはばちっと今後のためにも鍛えておきたい、とっておきのウインクを飛ばす。


「……アレホ。どうだ」


 渾身のウインクも無視されてしまい、ダフネは一人むくれる。


「セリノに……早く迎えに来いと」


「他のパーティーメンバーには?」


「お前らも同罪なのに、セリノに許されて狡いな」


「……はぁ。ダフネは?」


「え? えーと。差し入れをたくさん持って遊びに来てね!」


 アレホとチェスに向かってウインクと一緒にしなを作りながら、オネダリをしておく。

 アレホにだって休日くらいあるだろう。

 娼館で稼いだお金を是非貢いでほしい。

 チェスも締まり屋だ。

 きっと貯金だってあるはず。

 それを全部貢いでくれればいい。


「……マスターボノ」


「んあ?」


「こいつに現実を思い知らせる方法ってないでしょうか?」


「んー難しいなぁ。こーゆー奴はどんな状況でも自分に都合のいい活路を見いだすからなぁ。でもまぁ……あの娼館に行けば、嫌でも自覚するだろうよ。伊達や酔狂で奈落の底(アビスボトン)って名を冠しているわけじゃねぇし」


 奈落の底?

 酒場で誰かが話していた。

 あそこは娼館じゃない。

 地獄だと。


 背筋を巨大なモンスターに舐め上げられる気配がして、後ろを振り返る。

 後ろにいたのは、縄の拘束も解けたアレホ。

 ダフネの視線を感じたのか、アレホが下げていた顔を上げる。

 その瞳は。

 奈落の底と言われれば納得するほどの、深淵の闇を宿していた。

 

 またしても行って来ました。

 贅沢ティーコース。

 飲み放題なのに、そこまで飲めないていたらく……もう年なんだなぁ……。

 ジュレたっぷりの飲み物に飲み応えを感じる今日この頃です。


 次回は、昆虫ダンジョン インセクト 19(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。 



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