反省も後悔もできない者が至る場所。前編。
ざまぁ回。
残酷描写はないですが、お花畑思考視点なのでイラッとする可能性が高いのです。
ご注意くださいませ。
乱暴に揺り起こされて、痙攣する瞼をどうにか開く。
眩しさに顔を顰めた。
「おい! 何時まで寝てるんだ? マスターにこれ以上迷惑をかけるな!」
「おぉー。随分と突き放せるようになったんだな。フォルス嬢効果か?」
「あの御方は噂以上に慈悲深い方ですね。臨時パーティーを組んでいたセリノもすっかり別人のようになっていましたよ」
聞き慣れた声のはずだが別人のようで、判断に困ったアレホは、転がっている床の上で首を傾げる。
「ちょっと! あんたもよ、ダフネ。何時までもみっともない格好しているんじゃないわ!」
こちらは何時もの聞き慣れた声、フリダのものだ。
「うーん? あれぇ、あれほぉ? どうして床に寝てるのぉ?」
寝ぼけているダフネは、酷く寝乱れた格好をしている。
何時もならば、それがどこであろうとのし掛かるしどけなさだったが、できなかった。
ギルドマスターがいるようだと、認識できていたからだ。
「ねぇ? アレホぉ、しなくて、いいの?」
「おいおい。冒険者ギルドでおっ始めるってんなら、放り出すぞ!」
「へ、へぇ? マスターボノっ! きゃ! 私、こんな恥ずかしい格好で!」
ボノに怒鳴られたダフネは、しっかりと目覚めたようだ。
下着丸出しだった下半身を隠そうとするも、スカートが短すぎて隠せていない。
今更隠しても意味ねぇよな?
そもそも何時も丸出しじゃね?
と、心の中でアレホは毒づく。
フォルスという美しい人物に魅入られてしまったので、何時もは即座に可愛いとかやりたいとか思う、ダフネへの情愛が激減していた。
「よし、目覚めたな。暴れずに、大人しくその椅子に座れ。で。俺の言うことを黙って聞け」
指し示されたのはただの椅子ではない。
血の跡が残っている椅子だ。
「えぇ! 何なのよ、この椅子。汚ったなぁぃ! ちょっと、フリダ! 椅子を交換しなさいよ!」
「ごめんよ! 私は犯罪者じゃないから、罪人の椅子になんか座らないわ」
そうだ。
罪人の椅子だ。
聞いたことがある。
大人しく座ればいいが、座らないと……。
偶然罪人の椅子が動く場面を見た経験のあるアレホは、慌てて椅子に座る。
「きゃあああ!」
古道具屋に転がっていそうな小汚い椅子は、何やら魔法が施されているらしい。
どこからともなく生み出された縄がダフネの全身を縛り上げた上で、椅子にくくりつけている。
「……これって、マスターボノの趣味なんですか?」
「ちげぇよ! 作った奴の趣味だよ! 変な目で俺を見んな!」
冷ややかな声で質問をしたフリダに対して、ボノが全力で否定する。
まぁ、縄で縛るのが趣味な御仁たちが好む縛り方だからな。
胸が強調されるのでアレホは嫌いではない縛り方だったが、この場面で意見を言わないだけの頭はあった。
「ったく、椅子にすら満足に座れねーとか、本当に面倒だぜ……で? こいつらの罪状は、どうするんだ?」
「フォルス様に不敬を働いただけでも万死に値するのでは?」
「あー。フォルス嬢は気にしねーけど、スライムたちが気にするからなぁ……商業ギルドの奴らも同意するかもしんねぇ。けどな、同じ冒険者同士。冒険者ギルドでは残念ながら通じねぇ」
「長年に渡ってのセリノに対する、不当な扱いを罰していただきたいです!」
「……ほぅ」
お前らだって一緒になって、奴を虐げていただろうが! とは言わない。
ダフネも何かを感じたようで、黙っている。
「幼馴染みであるのをいいことに、この二人はセリノを不当に扱ってきました。正直言って奴隷以下の扱いです」
「それだけじゃない。俺たちに対しても不当に扱えと強要をしてきた」
「お前らはそれに甘んじたのか? なら、同罪だが」
「……セリノに甘えていたわ。割って入るよりも、見て見ぬ振りをした方が多いと認めます」
「ああ。ちゃんと裁かれる心積もりでいる。他のメンバーも同様だ」
ふん。
こいつらだって、同罪だ。
一緒に裁かれるのが当然。
「御主人様が許さないのはアレホとダフネだけなのねー。セリノも時間は欲しいけど、贖罪はいらないみたいなのねー」
「そうなんか?」
「なのねー。きちんと謝罪ができているし、セリノ自身に、幼馴染みたちを好きにさせていたっていう、罪悪感があるのねー。優しい子なのねー」
「はぁ……お前ら、それならそうと、ちゃんと言え。過剰な断罪は、被害者の心を傷つけるぞ?」
「ですが……」
「言い方、変えるわ。これ以上セリノを傷つけないためにも、冷静な判断をしろ」
チェスもフリダも唇を噛み締めている。
おいおい。
こいつらも同罪だろう?
セリノだって、こいつらが罰則を喰らえば喜ぶだろうが。
むしろ幼馴染みである俺たちの罪が重かったら、それこそ傷つくし、悲しむじゃねぇか。
「じゃあ、私たちも謝ればいいわね! さ。セリノに謝りに行くから、拘束を解いてちょうだい!」
ここでまた、ダフネが寝言をほざく。
「ちょっと、マスター! 早く、拘束を解いて! セリノは優しいから、謝れば許してくれるわ」
「許さねぇよ? 今までだって、許されてなかったんだ。許されたんだと、お前が勘違いしていただけで」
低い低い声。
初めて聞く怒りに満ちたチェスの声だ。
「ちぇす?」
「お前もアレホも。既に謝罪する機会は失われた。あとは粛々と断罪されるだけだ」
「……マスターボノ。この二人は、セリノを逃げるための囮として、故意に傷つけ放置しました」
「故意じゃねぇ!」
少なくともアレホは助けようとまでしたのだ。
ただ、まとわりつくダフネが邪魔で助けられずに、自分も怪我をしてしまったから、そちらを優先しただけで。
「……置き去りは、本当のようだな」
「置き去りにしたって、助かる傷だったわ。 それにっ! セリノ一人の犠牲で、私たち全員が助かるなら仕方ないでしょう? 尊い犠牲よ。セリノだって、納得して!」
「してないわ! するわけないでしょう? 血止めすら許さずに追い立てたのはあんたじゃない!」
そうだ。
ダフネが言ったのだ。
出血が酷いと、新しいモンスターを呼んでしまうと。
だから、一緒に連れてはいけないと。
「な、納得してなくたって! 置き去りにすると判断したのはアレホだわ! 悪いのはアレホよっ!」
俺は悪くない。
リーダーだからと、責任ばかりを押しつけるのはいい加減止めてほしい。
「悪いのは、何時だって、お前だ。ダフネ」
「アレホっ! 酷いわっ!私は貴男の恋人じゃない!」
恋人だから優先して当たり前だと言ったのは、ダフネ。
優先してしまう気持ちは理解できるが、リーダーとしては公平に判断しなければ駄目だと、殴られても蹴られても意見してきたのはセリノ。
他の奴らはほとんどが傍観。
時々、チェスとフリダが、セリノの意見に賛同していた。
それは、つまり。
「お前が悪い。俺は幼馴染みのセリノを、大事に思っていたんだ」
「え? 何を言ってるの。アレホ……」
呆れたようにアレホを睥睨するダフネ。
憐れみを浮かべた目で、マスターや、フリダや、チェスがアレホを凝視する。
違う。
俺は憐れじゃない。
俺はセリノに嫌われてなんていない。
ましてや、捨てられたなんて、そんなの、嘘だ!
「お前はいらない。セリノだ。セリノがいないと、リーダーなんてできるはずがないだろう?」
「はああああ? 何を情けないこと言ってんの? 今更セリノが必要とか、馬鹿じゃないの? セリノは、私たちが捨てたんじゃない!」
「捨ててなんかいない! ちゃんと迎えに行っただろう」
「……ねぇ、アレホ。どうしちゃったの? あんた、今、すっごくみっともないよ?」
「うるせぇ! そもそも、貴様が諸悪の権化なんじゃねぇか! おい、チェス、フリダ! こいつを俺のパーティーから追放すんぞ!」
「……アレホ。君のパーティーなんて、もうこの世の何処にも存在しないよ?」
「は?」
「パーティーの解散は、リーダーに問題ありと判断された場合。即時解散が可能なのよ。貴男だって知っているでしょう? 何度もセリノに注意されていたものね」
俺のパーティーが存在しないなんて、嘘だ。
「アレホとダフネ以外のメンバーが、パーティーの解散を認めたんだ。既にギルドマスターの許可も得ている」
「ああ、俺が許可をだした。不運の欠損は本日付けで解散。お前も今日からリーダーを名乗ることは許されない」
アレホの全身から力が抜ける。
罪人の椅子は椅子からずり落ちそうになったアレホの体を、優しく縄で拘束して、姿勢を正しく矯正した上で、座り直させた。
先月行って美味しかった贅沢ティーコース。
今月も無事予約できたので行ってきます。
予約開始時間と同時に戦えば、希望日の希望時間に予約できることがわかったので、今後も一安心。
今回は幸せの苺尽くしなので、これまた楽しみです。
次回は、反省も後悔もできない者が至る場所。後編。(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。