昆虫ダンジョンインセクト 17
駄目な人が怪我をする描写有。
さくっとした残酷描写なのですが、苦手な方はご注意ください。
顔色の悪いセリノをスライムたちが庇う。
すっかり庇護者になったようだ。
それだけセリノが善良なのだろう。
さて。
彼らはどんな人間なのかな?
けが人を治癒せずに追放したのだ。
全員が駄目人間な可能性も残念ながら否めなかった。
「……アイリーン・フォルス殿とお見受けいたします。我がパーティーの荷物を拾ってくださったようで、ありがとう存じます」
『はい、アウトなのねー』
脳内に響くリリーの声に、他のスライムたちが揃って頷く。
「……優秀な冒険者、セリノ君を助けた覚えはありますが、荷物を拾った覚えはないのですが?」
「えぇ? アイリーンさんが少年好きとは意外ですぅ」
『ほほほほ。彼女もアウトですわ!』
ローズの声にもスライムたちは頷いた。
語尾が~すぅって女の子は、経験上地雷が多い。
彼女はスライムたちにも地雷認定された。
「少年に違わず綺麗なものは何でも好きよ」
「じゃあ、私も好きってことですね! うふふふ。好きなだけ貢がせてあげますよ!」
うん、ドン引き。
でもいるんだよねー。
こうやって自分だけの世界に生きてる人。
男女問わず。
「いいえ。貴女は醜いので嫌いです。セリノ君には喜んで貢ぎますけど、貴女に貢ぐものなど何一つとしてありませんね」
彼女の怒りを煽るべく、鼻で笑ってやる。
一般的には可愛らしいと評価される顔が、真っ赤になって醜く歪んだ。
「ちょ、ちょっと強いからって、調子に乗っているんじゃ!」
ないわよ! と続くはずだったに違いない言葉は、リーダーらしき男の、大きな掌で塞がれて消える。
随分と強く押しつけたようだ。
彼女の顔が今度は酸欠で真っ赤になる。
誰か、窒息死する前に止めてやれ。
私は止めないから。
「メンバーが失礼いたしました。こいつ、リーダーである俺の女だからって、調子に乗っちまってるみたいで……」
へらへらと笑って彼女持ちであることを、ちゃっかりと自慢している。
自慢が恥に直結する女性と付き合っていると言われても、反応は冷笑一択だ。
「アレホ。謝罪は本人にさせないと駄目じゃないか。逆にフォルス様に失礼だろう?」
「るせぇよ! 生意気に俺様を呼び捨てにすんな! リーダーと呼べよ、リーダーと!」
「あいにくと不運の欠損からは追放された身だからね。君をリーダーなんて呼べないかな。あと、俺。フォルス様と臨時だけどパーティーを組ませていただいているからね。愚か者を破る者っていうんだ。格好良いだろう?」
「臨時だけとパーティーを組んだのは初めてなのよ。感慨深いわ」
自分でパーティーを作るとしたら人間はいないだろう。
完全な庇護目的は別として。
だから人とのパーティーを組むのはこれが初めてなのだ。
セリノが良い人なので、今後も臨時パーティーなら組む機会もありそうだが、彼らと組む日は永遠にこない。
「な、なんでこんな出来損ないとパーティーなんか組むんですか? 俺の方が絶対貴女のお役に立てますのに!」
「や。立てないわね。寄生虫を飼うつもりはないの」
「きせ、い、ちゅう?」
「アレホに酷いことを言わないで! あんただってスライムの強さに寄生しているだけなんでしょ!」
彼女の言葉に、私よりも周囲が怒った。
スライムは勿論、セリノも激おこなのだ。
「本当に昔からお前は、自分より綺麗な人を貶めるのが好きだよな。性格悪っ!」
「は、はぁ? セリノ如きが何を言ってるのよっ?」
「今ドーベラッハ街で、フォルス様の価値を知らぬ者はいない。明確な価値がわからない人間は多いみたいだけどね。フォルス様はただ、スライムたちに愛されているだけ。優秀なスライムたちが一身に愛を捧げるだけ、お強いんだよ!」
スライムたちが頷きながら拍手をしている。
「基本モンスターは自分より強い人間にしかテイムをされない。そんな、冒険者として基本中の基本であることも、お前は知らないんだな?」
おぉ、美少年の嘲りに満ちた表情。
私へ向けられたら真面目に凹む。
さすがの彼女も驚いたようで、二の句が継げないでいる。
「き、さま! セリノ、如きが、俺様の女を、馬鹿にするんじゃねぇよ!」
アレホがセリノに向かってモーニングスターを振るう。
背後にいた他のメンバーが慌てて飛び退いているところを見ると、突然ぶち切れるのは日常茶飯事のようだ。
ががっとダンジョンの岩を削ってしまい、その威力は落ちているが、掠めただけでも怪我を負うだろう。
しかしセリノは慣れた感じで自分の頭の上を掠めていったモーニングスターをやり過ごして、強く握り締めているアレホの指先へとナイフを滑らせた。
角度が悪かったのだろう。
指先へとナイフの切っ先が届く前に、ナイフが折れてしまう。
「セリノ!」
「はい!」
渡しそびれていたアントラーズディアの短剣を投げれば、セリノはしっかりと受け取った。
指先に近付いたナイフに怯えたのかバランスを崩し、モーニングスターをダンジョンの壁にめり込ませてしまったアレホは、セリノを警戒するのも忘れて、必死に外そうとしている。
「武器に執着しすぎるなって! 何時も忠告してたよね!」
使い慣れた武器を使うようにアントラーズディアの短剣を握ったセリノは、またしてもアレホの指先を狙う。
「ぎゃああああああ!」
セリノの短剣はアレホの手からモーニングスターを離させるのに成功した。
アレホの指や掌の肉をこそげ落とすのと同時に。
モーニングスターがごとんと音を立てて地面に転がり、手を押さえたアレホも同じように地面へと転がった。
「あ、あれほぉおおおお!」
あ、あほぉと聞き間違えた。
一人心の中で間抜けなことを考えている間にも、目の前のお花畑劇は続く。
「ちょっと! どうにかしなさいよ!」
「自分たちでどうにかしなよ。僕はただ、一方的に攻撃をしてきたから反撃しただけなんだから」
「ふざけんなぁ! なんで、セリノ如きが反撃するんだ? ごふっ!」
セリノが彼女の下腹に容赦なく拳をぶち込む。
真面目に冒険してないよねーと思われる体が、一瞬空中に浮き上がった。
「せ、せり、の! あん、た……ぐふっ!」
文句を言おうとしたが、込み上げたものを吐き出すのに必死な彼女は、アレホのすぐそばで嘔吐する。
「……くっそ、きたねぇなぁ……俺様の彼女を気取るんなら、ポーションくらい、早く出せよ」
「ポーションなんて、もうないじゃん! アンタが大振りして怪我するたびに使うからさぁ」
吐瀉物で口の周りを汚しながらも、まだ彼女が毒を吐く。
「……ダフネ」
そんな二人のやり取りに業を煮やしたのか、渋い表情を浮かべた男性が薄汚れたポーションの瓶を手渡す。
察するに、四面楚歌の状態時にでも出そうと取っておいたものだろう。
「持っているなら、さっさと出しなさいよ、屑!」
だが彼女……ダフネは、御礼どころか文句をつけて、自分で半分ほどのポーションを飲む。
「うえ! まっず! 消費期限が切れてるんじゃないの、これ!」
ポーションを渡してくれた男性にケチをつけているのに我慢できなくなったのか、アレホが怪我をした手でダフネを殴る。
そしてその痛みにまた、のたうち回った。
しみじみ阿呆だ。
「くっそ! ぽーしょっ!」
ダフネの手から転がり落ち、更に中身の減ってしまったポーションを、掌に振り掛ける。
表面上の怪我は治ったらしく出血は止まったようだ。
ただ量が少なかったのか、消費期限が危険だったのか、痛みの呻きは止まらない。
「くっそ! いって! 俺様が、こんな、めにっ、あうはずがねぇっ!」
「自業自得だよね。本当馬鹿愚かって君みたい奴を指すんだよ?」
「セリノの分際でぇ!」
痛みを堪えながらも殴ろうとするアレホに対して深々と溜め息を吐いたセリノは、軽く助走をつけてアレホの顎を蹴り上げた。
「がっふ!」
舌を思い切り噛んだらしいアレホが、今度は喉を掻きむしりながらのたうち回る。
「何かさ、切りがないから……こいつらは無視するよ。で、どうするの?」
「ごめんなさい!」
「すまん!」
同時に謝ったのは、ポーションを差し出した男性と、その横に立っていた女性。
続いて他の皆も口々に謝罪を始める。
そうだ、これが普通だ。
まずは謝罪から、そうでないと話すらできない。
「あんたら、私たちを裏切って?」
「裏切ってないから」
横に立っていた女性がダフネに向かって、取り出した瓶の中身をぶちまける。
「ちょ! ZZZ……」
即効性の睡眠薬だったらしい。
昏倒したダフネに、これでようやっと話ができそうだと思ったのは、私だけでなかったようだ。
他のメンバーに、セリノ。
そしてスライムまでもが、それぞれに頷き合っていた。
喜多愛笑 キタアイ
状態 少々食傷気味 new!!
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
口止魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
クリスマスイベントに行く気満々で綿密な計画をしていたところ、体調不調に!
これも日頃の行いか……。
無料期間最終日に行くつもりだったんですよね。
諦めて有料期間に行くべきでしょうか。
次回は、昆虫ダンジョン インセクト 18(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。