昆虫ダンジョンインセクト 16
友人にとある舞台のライブビューイングがあると聞き、発売開始時間にパソコンの前でスタンバイしました。
結果。
最前列しか空いていなかったという悪夢。
既に事前予約で良い席は埋まっていた模様。
舞台じゃなくても需要が高いんですね。
ほくほくとドロップアイテムを拾うセリノに、スライムたちと仲良く生暖かい眼差しを向けながら攻略を進める。
「んっ! 繁殖地発生気配を察知したのっ! 急ぐのっ!」
結構な声で叫んだモルフォが、スライム特有の高速移動で動き出す。
音もなく滑らかな横移動は恐ろしい。
ほぅと感心している間に目の前からいなくなってしまうのだ。
「モルフォったら興奮しすぎですわ。集まってきたモンスターは私が仕留めていきますので、皆は急ぎモルフォを追ってくださいませ」
先頭に出たローズが数え切れない触手を出しながら、集まってきたモンスターを絡め取っていく。
忘れがちだがスライムが敵を倒す方法は、体内に取り込んでからそのまま溶かしてしまうというものだ。
今回はそれをやるらしい。
無数のモンスターがローズの体内に取り込まれ、抵抗もむなしく溶かされていく。
内側が透けて見えるので非常にグロテスクだ。
セリノも口元を押さえている。
私も引きつった顔をしてしまった。
「あらまぁ、失礼いたしました」
ローズがその形でもできるんだ! と驚かされるカーテシーをすれば、内側が見えなくなる。
ただ私たちを安心させるためか、殺したモンスターのドロップアイテムを一つずつ丁寧に吐き出していく。
吐き出されたドロップアイテムは流線を描き、そのままリリーの体へと収納された。
「数はあとで報告するのねー。今のところ、今まで回収したアイテムしか出ていないのねー」
スピードとあわないのんびり口調でリリーが教えてくれた頃には、繁殖地に着いていた。
正確には今から繁殖地が生まれる場所へと辿り着いた。
「んっ。ここなのっ! しかもソイルカーメ、ゴールデンカーメ、グラスガメータが発生する禁断のトリプル繁殖地なのっ!」
まだモルフォの興奮は冷めていない。
その言葉を聞きセリノが同じレベルで興奮しだした。
「そ、そんな奇跡があるんですか? ダブル発生すら聞いたことがありませんよ!」
「んっ。アイリーンの豪運ならありうるのっ! きっとこの先同じ奇跡に出会える人はいないのっ!」
それはどうだろう?
私というきっかけがあれば、今後も発生する気がした。
まぁ、それこそ滅多に発生はしないだろうけれど。
「うっ! 皆頑張るのよっ! ローズと蝶々な二人、サイとサクラも防衛に回るのよっ!」
「んっ! 他の皆は生まれる幼生を片っ端から捕獲、収納するのっ! セリノはこのマジックバッグを使うのっ!」
モルフォの体から取り出されたトートバッグタイプのマジックバッグが、セリノに向かって投げ渡された。
「わわっ! これ、マジックバッグですよね? こんな形、見たことないなぁ……これも口止魔法対象かなぁ……」
驚きのあとに呆然としながらも、セリノはトートバッグを広げて、持ち手をそれぞれ肩にかけて固定する。
なるほど、それなら入れやすいだろう。
ちなみに私は足元に放り込む方式で、リュックサック型のマジックバッグの口を大きく開いてから置いた。
何もなかった地面に、じんわりと湧き水が溢れ出す。
それは瞬きする間に、小さな池となった。
指先サイズの子亀、子タガメが池の中に次から次へと発生する。
時々黄金に輝く個体もいた。
これがゴールデンカーメかな?
「アイリーン、これを使うといいのねー。セリノも使うのねー」
水の中にいる幼生を捕まえるのにはどうすれば? と思った次の瞬間には、リリーが便利グッズを出してくれる。
「これは?」
「リリー特製たーもーあーみー! こっちではフィッシュネットっていうのねー。これは下から数えて五番目のサイズなのねー」
一番下はどれぐらい小さいのか、逆に大きいサイズはどこまであるのか、ふと一覧で見てみたいなぁ……と思う間もなく、フィッシュネットを振るう。
小さな池の中、ちょっと怖いわ! と叫びたくなる量の幼生が発生していたからだ。
セリノも無言でフィッシュネットを動かす。
ちらりと見たネットの中、黄金の輝きが多すぎるのを気にしてはいけない。
無心になって、ネットを動かし続ける。
何時まで続くのかと、飛び散る微妙に生臭い水を拭っているうちに、泳ぐ幼生が映り込んだ。
つまりは泳げるだけのスペースができてきたという事実に、溜め息が零れる。
セリノも満足げに汗を拭っていた。
「……集まってきたモンスターに、少し分けてあげる?」
背後の凄まじい戦闘に、そうと尋ねてみるも。
「今更なのねー」
「ん。多くを独占した私たちも標的にされてしまうから、却下なの」
否定されてしまった。
今ならまだ、生き残っているモンスターに行き渡る数がありそうなんだけどなぁ……。
「フォルス様の御慈悲は、そうだとわかる者にのみ施せばよろしいかと、愚見いたします」
おぉ、セリノにまで咎められてしまった。
完全独占しちゃうと、微妙な罪悪感を抱くんだよね。
異世界ルールというわけではなくて、向こうでもあった暗黙の了解だと理解できていても、性格上躊躇ってしまうのは致し方ないだろう。
だが私が迷っていると認識した他の三人により、池にいた幼生は一匹残らず回収されてしまった。
リリーが池の水までをも回収している。
「これで、スライム内に養殖池を作って、レア種を繁殖させるのねー」
できるのか? と思うも、恐らくできるんだよねー、とすぐに思い直した。
「回収完了なのねー」
「了解ですわー。ほら貴方方! もう幼生は一匹たりとも残っておりませんわ! 今なら生かして差し上げますわよ! おほほほほ!」
仁王立ちをしたローズが高笑いをしながら生き残ったモンスターに、最終通告を突きつける。
何体か理性を残したモンスターは去って行ったが大半のモンスターが残った。
「愚か者なのねぇ?」
リリーの目がきらりと光る。
ぬぱぁっと粘液が蠢く音がして、残っていたモンスターはスライムたちにさくりと捕食された。
先ほどの怯えの混じった嫌悪を考慮したのか、中身は透けていない。
程なくして大量のドロップアイテムが、流線を描きながら違うスライムの体へと収納されていく。
入り交じる流線状のアイテムは、何処か滑稽にも見えた。
「ん? んっ! 凄いの! 幼生大量発生に釣られて、成体まで集まってきたの!」
「ふわ!」
言葉とともに飛び上がったのはセリノ。
素敵な反応だ。
私の反応が遅れたからとて、拗ねはしない。
……しない。
左側二つ目の角からわらわらと三種類の成体が現れる。
ゴールデンカーメの数が多いのは今更確認するまでもなさそうだ。
「ワンプッシュ確認は私が任されましたわ! アイリーンは存分にゴールデンカーメのナンパをなさいませ!」
「ナンパじゃないよー、テイムだよー。誤解されたらどうするの!」
私がローズの言葉にやれやれと肩を竦めて返すが、何体かのゴールデンカーメはナンパと言われて、嫌がるどころか喜んでいる様子。
え、ナンパされたいの?
テイムじゃなくてナンパ?
一人で混乱していると、ゴールデンカーメが語りかけてくる。
例によってなんとなーく言っている言葉が理解できる。
テイムにしろ、ナンパにしろ、ついて行くのは吝かではないと。
ほぅ、どちらでもいいらしい。
これは突っ込んだ方が負けだろう。
私は何とも情けないやり取りを経て五体ものゴールデンカーメのテイム? に成功する。
何処か納得しきれない何かがあるのも、そのうち消え去るだろう。
番で残してあとはギルド依頼として渡すかなぁ……などと考えているうちに、やってきた三種類の成体たちは全滅させられていた。
諸行無常……と心の中で呟きつつ、お楽しみのドロップアイテムを確認する。
ついでとばかりに確認した、集まってきたモンスターによる、ドロップアイテムの数は、モンスターハウスかモンスタートレインにでもあったのか? という量だったとだけ付け加えておく。
ソイルカーメの手
持っていると水難に遭いにくい。
お守り的アイテム。
デフォルメされているので、子供が怯えることもない見た目。
ソイルカーメの甲羅
加工の上で、武具として使われる。
文様が変わっている場合は、そのまま飾られることも。
重さはあるが防御性は高い。
ソイルカーメの卵
孵化させた個体はテイムをしやすい。
茹でれば食べられるが、味はイマヒトツ。
栄養価は悪くない。
レアドロップ。
グラスガメータの奮闘
グラスガメータの形をした、能力上昇アイテム。
見た目がグロテスクなので、粉末にした上での摂取が多い。
そのまま食べた方が数値の上昇が高い。
グラスガメータの卵
孵化させた個体はテイムをしやすい。
どう加工しても食べられないが、モンスターをおびき寄せる撒き餌になる。
撒き餌は虫系モンスターのレア種を寄せられるが、調合が難しい。
レアドロップ。
グラスガメータの目玉
持っていると水中でのモンスターを発見しやすくなる。
一個で発見がしやすくなり、二個で討伐も楽になる。
ただしそれ以上持つと、逆に発見しにくくなり討伐が困難になるので要注意。
ちなみに、ゴールデンカーメは全てテイムをしたので、ドロップアイテムはない。
どんなアイテムがドロップされるのか気になるが、倒すのは勿体ないので宝箱で出ると良いなぁ……とフラグだけ立てておく。
「フラグ達成なのです。これは良い達成なのです」
サクラがスライム収納から何かを取り出した。
「ゴールデンカーメがドロップアイテムをくれたのです。飼ってもらう御礼だそうです」
「あ。こういうフラグなら乱立してくれてもいいよね」
「それこそ駄目なフラグなのです」
注意しながらもサクラが、ゴールデンカーメのドロップアイテムを説明してくれた。
ゴールデンカーメの甲羅
金と同じ扱い。
重さがあるので、売れば一財産。
飾っておけば金運上昇効果あり。
無論生きている成体より効果は落ちる。
ゴールデンカーメの眼鏡
いわゆる鼈甲の眼鏡。
かけていると、お買い得品がわかる。
綺麗な飴色で、装飾品としての評価も高い。
レアドロップ。
ゴールデンカーメの卵
孵化させた個体は少しだけテイムをしやすい。
白身黄身がなく、全て黄金色。
カラも黄金色。
茹でれば金と同じ扱い。
レアドロップ。
「おー、徹底してお金絡みなんだねぇ」
「だから人気なのです」
「ん? アイリーンの駄目フラグが立ったの」
モルフォが触手で指す方向を見ると、冒険者がこちらを伺っていた。
その数ざっと数えて九人。
それだけでセリノがいたパーティーだと知れる。
『この階では会わないんだよね?』
『愛がフラグを立てたせいなのねー』
良いフラグのあとで、悪いフラグが立つ。
これ、物語の鉄板。
やっちまったよねーと思いつつ、真っ青な顔色をしたセリノの肩をぽんぽんと優しく叩いた。
喜多愛笑 キタアイ
状態 少々意気消沈気味 new!!
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
口止魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
ちなみにライブビューイング。
今回友人に聞いて調べるまでどんなものか知りませんでしたとさ。
世情に疎すぎて、来年回ってくる予定の自治会当番に戦々恐々です。