昆虫ダンジョンインセクト 13
店舗限定のテーブルオーダーバイキング。
キャンセル待ち通知が二回も届いたというのに、予約できていない絶望。
このまま食べられないまま終わりそうな予感。
チャンスはあと三回……。
五メートル先の左角から曲がってくると言われて、念の為攻撃態勢を取っておく。
相手に向けてのわかりやすい牽制ね。
『あ、サクラさんや。人物鑑定よろしく』
『はいなのです……いろいろと突っ込みどころ満載なのです』
セリノ
冒険者 LV5
所属 不運の欠損
HP 100
MP 100
PW 100
IT 100
スキル 短剣術 LV2
解体 LV2
鑑定 LV2
鍵開け LV1
罠察知 LV1
以下条件未達成のため封印中。
アイテムボックス LV2
転移 LV2
称号 譲福体質 不遇属性 前世の業を背負う者
どこから突っ込もう……。
サクラのコメントに大きく頷いていると、セリノが現れた。
左足を引き摺っており、右肩を押さえている。
どちらからも出血していた。
「ダンジョンで出血の始末をしないとか、貴男は馬鹿愚かですわねぇ?」
出血はモンスターを呼ぶ。
場合によってはモンスタートレインを意図しての行為とも取られかねないのだ。
「も、申し訳ありません」
出血が多かったのか顔色が悪い。
『この子、ちょっと前に会った不運新人冒険者君なのねー』
あ、そういえば、そんな子がいた。
あのときは単純に運が悪い上に、仲間に悪人がいるという説明だったっけ。
しかし鑑定結果を見ると、同情しちゃうかなぁ。
前世の業ってさ、前世でどれだけ悪いことしたのかしらんけど、今は普通の子かもしれないんでしょ?
福を譲る体質とか不憫だよねぇ。
だったら多少の手助けはしてもいいんじゃないかな。
……悪人は、頼まれても助けないけどね。
「まずはポーションで出血を止めるといたしましょう。よろしゅうございますか? 御主人様」
ローズに御主人様呼びされるとか照れる……って照れてる場合じゃないね。
「ええ、構わないわ」
「まずはこれを飲むといいのねー」
リリーが飲み薬タイプのポーションを手渡す。
「あ、ありがとうございます」
礼を言ったセリノは疑いもせず、ポーションを一気飲みする。
「えぇ? 凄く美味しいポーションなんですが! こ、こんな美味しいポーション、初めて飲みます!」
「味は、いいのです。体調はどうなのです?」
「あ、はい! 不思議とこう……気分がすっきりしました!」
「ん。次は塗り薬を塗るの」
「う。モルフォは足を塗るのよ」
そう言うサイは肩の傷に塗るらしい。
「えぇ? 傷痕がなくなっていく……しかも、あれ? 疲れが取れてます。何か、凄く上質なポーションをいただいてしまった気がするのですが。その……満足いただける対価を即時に支払えないかもしれません……ごめんなさい」
時間がかかっても払う気はあるらしい。
前世の業が重いだけの善人なのかな?
称号のおかげで、荒んだ性質になってもおかしくないと思うんだけど。
「……緊急時なので考慮しますし、謝罪は受け入れます」
「ありがとうございます!」
「ん。君は一人なの?」
「いいえ、新人ばかりの十人パーティーです……でした」
「う。過去形なのよ?」
「はい。僕はその……追放されました。僕がいると不運が過ぎるからと」
セリノは拳をぎゅっと握りしめた。
鑑定ができるなら自分のステータスの自覚もあるだろう。
称号については、パーティーメンバーに伝えなかったのだろうか。
譲福体質なんて、悪い奴ほど食いつくと思うのだが。
「ん? もしかして自分で自分の鑑定しか、したことない?」
「え? はい。余計なお金はかけられないからと。パーティーメンバーの人物鑑定も僕しかしていません」
なるほど。
鑑定レベルが低かったから、いろいろと見えていなかったんだね。
封印スキル以外にも頑張って育てれば使えるスキルばかりだったから、おかしいと思ったわ。
「……まずは、貴男のスキルを明確にしておこうか。この子が貴男より優れた鑑定能力を持っているから」
空気を読んだのかモンスターは出てこない。
少し離れた場所で蝶々コンビが頑張っているおかげもある。
「これが貴男のステータスなのです」
「は? はあああああ?」
咄嗟にサクラがスライム触手でセリノの口を塞いでも、悲鳴を上げ続けていた。
それだけ衝撃だったのだろう。
まぁ、わかる。
「追放されて良かったのかもしれないわよ? 譲福体質は人に運を譲ってしまう称号だもの」
「そうなんでしょうか? 僕自身は運が悪いという自覚しかなかったのですが……」
「パーティーメンバーに運を譲っていたから、不運と感じたのでしょうね。ソロで活動とかしたことなかったんじゃない?」
「あー、はい。同じ村出身の幼馴染みでしたので」
筋金入りだわー。
幼馴染みの誰かが、知っていたか感づいていたかで、セリノを上手く使っていたんだろう。
で、悪い奴のせいで譲渡できる運が枯渇してしまい、セリノの不運が自分たちの足を引っ張っていると思い込んでしまった……そんなところだろう。
「んー。私たちはこのダンジョンを攻略するつもりなんだけど、攻略完了まで良かったら臨時パーティーを組んでみる?」
「え! えぇぇ! それは申し訳ないです! 僕と一緒のパーティーになんかなったら、酷い迷惑をかけてしまいます!」
「たぶん、大丈夫。私自身運がすっごくいいのよ。だから貴男から運を譲渡されないですむの。貴男の本来の運がわかるし、もしかしたら封印されているスキルが解放されるかもしれないわよ?」
「はいぃい?」
繰り返される絶叫にモンスターが寄ってきているようだが、ローズが加わったらしく、やはりこちらに応援要請はこない。
しかも優秀なローズはしっかり容器を持っていって検証までしてくれる。
うちのスライムが優秀過ぎてつらい……。
「封印スキルの解放なんて、滅多に見られるものじゃないから、じっくり鑑定させてくれるなら、私は貴男とパーティーを組んでもいいわ」
「僕としては本当に有り難いのですが! その……スライムさんや蝶々さんたちもよろしいのでしょうか?」
おぉ!
これは好印象。
スライムたちを私の大切な存在と認識してくれたらしい。
「問題ないのねー。御主人様は不憫属性に弱いのねー」
「既に一人助けているのです。御主人様は慈悲深い方なのです」
「ん。つけあがらなければ大丈夫なの」
「う。追放したメンバーを見返してやるのよ!」
おや?
サイはざまぁ好きなのかな?
随分と気合いが入っていらっしゃる。
残り九人のパーティーメンバー全員が屑とは限らないけれど、せいぜいセリノを追放したことを存分に後悔すればいい。
「それでは、そのぅ……お言葉に甘えてパーティーを組んでいただけると有り難いです」
「臨時パーティー名前かぁ……」
厨二病も真っ青なセリノのパーティー名前は誰がつけたのだろう。
「愚か者を破る者など、如何でしょうか?」
は!
セリノが命名者だったらしい。
「あら。素敵なパーティー名ですわ! 貴男、センスがありますのね」
戻ってきたローズが絶賛している。
そうか。
ローズも厨二病罹患者か。
「そんなふうに言っていただけると嬉しいです。あの……その……如何でしょうか、御主人様」
「ちょ! 私は主人じゃないから! あー名乗っていなかったわね、ごめんなさい。私の名前はアイリーン・フォルスです。パーティー名は、それでいいですよ」
スライムたちのきらきらしい期待に満ちた眼差しを向けられたら、駄目だなんて言えっこない。
セリノのチワワっぽいわんこ目にも負けた。
目が大きいんだよ、この子。
容姿は可愛い系に傾いて、調っている。
小柄なのももしかしたら、侮られる要因の一つだったのかもね。
「僕はセリノです! その……フォルス様は貴族様でいらっしゃいますか?」
「いいえ、違うわ。私の国では平民でも姓があるの」
「初めて聞きました! 世界は広いですねぇ……」
セリノは感心しているが、申し訳ない。
私の故国はこの世界にはないのだ。
転移者であることは黙っておこう。
もう少し縁が深くなったら言えばいい。
一緒に行動して、今までの高評価がひっくり返ることもあるのだから。
「ではパーティーを組んでっと」
一般的なパーティー申請は、そういえばどうするのだろう?
首を傾げれば、リリーが教えてくれる。
「一般的なパーティーは冒険者ギルトに申請するのねー。臨時パーティーは双方合意の元で宣誓するのねー」
「あ、そうなのね。それじゃあ、セリノ君。よろしく」
「僕のことはどうぞ、セリノと呼び捨ててください。フォルス様」
「私のことは……」
「どうかフォルス様でお願いします!」
今までにない強い口調で言われてしまった。
スライムたちも仲良く頷いている。
私を呼び捨てられる人間は今後いるのだろうか……。
いるだろう、たぶん……と自分を宥めつつ、セリノと息を揃えて宣誓する。
「私はセリノと臨時パーティー、ルナティックブレイカーを結成します」
「僕はアイリーン・フォルス様と臨時パーティー、ルナティックブレイカーを結成いたします!」
確かめてみようと冒険ギルドカードを取り出してみれば、裏面にしっかりとパーティー名と二人の名前が記されている。
「セリノのスキル封印が解除されたのです。ソロ活動か譲福しなくていい者とのパーティー宣誓が条件だったようなのです」
「ですって、セリノ。良かったわね。転移もアイテムボックスも使えるスキルだもの」
「はい! これもフォルス様のお蔭です。ありがとうございます!」
深々と頭を下げられた。
ちなみにレベル2のアイテムボックスは、60×60×60の容量が入ってMP消費はないらしい。
レベル2の転移はMPを消費してダンジョン一階分程度移動できるとのこと。
残念ながらセリノのMPでは移動した途端にMP枯渇で昏倒してしまうようだ。
この先頑張ってMPを上げ回復用のポーションを持てば、いざというときの回避に使えるようになりそうだ。
しかし転移魔法はないっていってたけど、スキルではあるんだなぁ……。
『転移スキルは希少スキルなのです。MP消費をしない転移スキルはないのです。結構なMPを消費するので、なかなか使える人はいないのです。だから転移魔法が使える愛は凄いのです!』
前世の業を背負っている少年に、せめてもと与えられたスキルなのかもね。
このまま良い少年の印象を崩さないで過ごせればいいのだけれど……。
気がつけばセリノをぼんやりと見つめてしまう。
私の目線に気がついたセリノは大きな目を細めて蕩けるように笑う。
危険なフラグが立った気もしたが、気にしないようにして、セリノを含めた皆に先を促した。
喜多愛笑 キタアイ
状態 若干興奮気味 new!!
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
新型にも対応しているワクチン接種の予約をしました。
一体何時になったら終息するんでしょうか。
個人でやるべき事は限られていますが、できることを粛々とこなしたいものです。
次回は、昆虫ダンジョン インセクト 14(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。