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冒険者ギルドにて。後編。

 何時の間にか蝉が鳴かなくなり、虫の音が聞こえてくる昨今……。

 月見~と名付けられた美味しそうな食べ物が期間限定発売されます。

 今年は幾つ食べられるかな……。

 マ○クの月見バーガーはいただきました。

 


 ボノが呼んでくれた馬車に乗りフロイラインへと到着する。

 常に人気の女性専用宿は予約が取りにくいはずなのだが、フォルス様には関係ないのだろう。

 受付で名乗るまでもなく、フロイラインの中でも高級に入るだろう部屋へ通された。


「ごゆっくりなさってくださいませ」


 案内してくれたのは、男性が好きなはずのラミア。

 女性専門宿の従業員をやるくらいなのだから、男性が苦手なのだろうか。

 それとも男性には既に飽きて、女性をターゲットにしたのか。

 高級宿だし対応は丁寧だったが、一瞬だけギラつく目で見られて背筋が怖気だってしまう。


 扉が音もなく閉められて、全員の緊張が緩和するのが伝わってきた。


「……女性専門宿の従業員にラミアって……どう受け止めればいいというのか」


「あの方、ちょっと怖いですわね。俗に言う肉食系なのかしら?」


「そう、なの? 私は特に優しいお姉さんって感じたんだけれど……」


 ルイサがおどおどと二人とは違う印象を語る。

 二人は生温い顔で互いを見つめた。

 彼女がルイサに優しいのは、ルイサの胸が細やかだから……ラミア種は細やかな胸の女性には比較的寛容というのが定説なのだ。


「そりゃ、ルイサが貧乳だからだよ! ラミアって胸がない女性には優しいんだ。ライバルにならないからね!」


「そうなの? 優しくしてもらえるのは嬉しいな」


 突っ込みどころしかないアグスティナの発言に対してもルイサは寛容だ。

 アグスティナに悪気が一切ないからだろう。

 それでも不愉快になる女性が多いのだと、アグスティナにはいい加減学習してほしい。


「ちょっと、ティナ! 私たちだけならいいけど、フォルス様がいらっしゃるときは、もう少し考えて発言なさいよ」


「わかってるってば! でもフォルス様は何も言わないと思うけどなぁ。そもそもフォルス様だって貧乳じゃないじゃん。きっと憧れの美乳だよ!」


「……そうだな。フォルス様は何もおっしゃらない。そして一定のラインを超えたら、容赦なく切り捨てるだろうな」


「……え?」


 優しいだけの方ではないと、今のうちに認識を改めておかないとアグスティナは排除されてしまうだろう。

 アグスティナの近しい距離感を厭うていらっしゃる目をしておられた。


「そうですよ。あの方は優しいだけの方ではないのです。たぶん私たちの誰よりも厳しい方でしょう。反射で物を言う前に、一呼吸おくようになさい。また奴隷に戻りたくはないでしょう?」


 どんな苦境にもめげずに前向きだったアグスティナに、私たちは随分と助けられてきた。

 だからこそ、フォルス様に排除されてほしくはないのだ。


「……皆がそう言うんじゃあ、そうなんだね。難しいなぁ、さじ加減が」


 空気が読めないわけではない。

 読むのが面倒だから素で対峙している。

 たまにしか会わない相手であれば、それでもいいだろう。

 フォルス様もきっと排除まではしない。

 ただ村へ永住ともなれば、弁えるところはきちんとしなければ、警告もなしに排除されてしまいそうだ。


「ルイサもですよ。あの方は努力の仕方を知らない者には親切に教えてくださるでしょう。ですが、知っているにもかかわらず努力を怠る者は、同じように排除するはずです」


「うん。前の私じゃ駄目なのはわかってるよ。でもたぶん、今の私なら平気な気がする。

頑張って裁縫でフォルス様のお役に立つんだ!」


 ルイサ本人も知らなかった彼女の特性。

 一人で黙々とできる作業でもあるのが裁縫だ。

 確かにルイサには向いている気がするが、誰も気がつかなかった。


「私は薬師としてお役に立ちたいなぁ。エルダートレント様から希少な薬草とか教えていただけないかしら?」


「親しくなってからなら教えていただけるかもしれないわ。私は……き、貴族的な作法とかかしら?」


「あー。フォルス様がお作りになった商品は、王族も虜にしそうだもんなぁ。旧貴族の作法でも知らないよりはいいだろう……ディタが精神攻撃対応で、私は物理攻撃対応かなぁ」


「それがいいわね。貴族独特の言い回しも復習しておかないと駄目だわ。すっかり忘れているもの」


「えぇ! 皆やれることがあって、凄いなぁ……私は何ができるだろう?」


「ティナは明るいから売り子さんをすればいいと思うの」


「お! それならできそう。できそうだけど……フォルス様に御指導をお願いしたいなぁ」


「わ、私も! 最初はどうしたらいいかわからないんだよね、お裁縫」


 それぞれの得意分野でホルツリッヒ村に貢献する心つもりではあるが、やはり希望を述べたあとで研修をお願いしたい。

 勿論、苦手分野でもフォルス様が望まれるならば挑む所存ではあるが、やはり研修は必要だろう。


「ホルツリッヒ村には先住者がおられるようだから、その方たちに聞くのもいいと思う」


「そうだね。先人に従えって言うしね」


「……今更だけど皆、ホルツリッヒ村に永住希望でいいのかしら?」


 私は当然行くつもりでいる。

 彼女らをまとめている立場だからといって、強制するつもりは全くなかった。


「無論。あの方より私を薬師として生かしてくださる御方はいらっしゃらないと思ってますから」


「あら? そうなの」


「ええ。あの方からは薬に使う材料の香りが強くするの。料理の食材として使われているだけじゃなくて、生粋の薬師と同じ香りが仄かにするの」


 私には感じられなかった。

 アグスティナとルイサも揃って首を傾げている。

 恐らく一流の薬師であるジェッセニアだからこそ察知できるものなのだろう。


「薬師としての力量も私より上ね。あれだけ多才だと器用貧乏になりかねないのに、どの才能を取っても超一流。人格もできていらっしゃるし、得がたい方だわ。許されるならば生涯お側にありたいわね」


「くっく。食事と薬のこと以外でニアがそこまで多弁になるとはな!」


「あら、貴女だってそうでしょ? 女性騎士として生涯お仕え申し上げちゃう心積もりなんでしょう」


「ばれたか!」


 プルデンシアは破顔した。

 フォルス様は守られるだけの方ではない。

 それでもプルデンシアは、誰にも捧げなかった女性騎士としての矜持を、フォルス様に捧げるのだろう。


「できれば剣を賜りたいなぁ……」


「くださるでしょ。フォルス様なら自ら作ってくださりそうで怖いわ」


「ああ。鍛冶のスキルはなくとも錬金術のスキルで、特殊効果のある剣などを作ってしまいそうだな」


「豪運であらせられるから、もしかしたらダンジョンドロップアイテムのレジェンド級とかお持ちな気もするわ」


 そして惜しみなく下げ渡すのだ。

 プルデンシアなら使いこなせるわと笑いながら。

 受け取ったプルデンシアは喜び、溢れ出る忠誠を新たに誓い、更なる高みへと上り詰めるに違いない。


「私も! 永住を希望します! そして裁縫スキルを少しでも洗練させて、シルコットンの下着なども作ってみたいです」


 ルチアはジェッセニアよりも具体的だった。

 フォルス様が示した道がどれほど嬉しかったのだろう。

 明るく笑うルチアは、まるで別人だ。

 五人の中で誰よりも長く不遇を託っていたルチアの未来に、ここまで光が差すとは本人も想像し得なかったと思う。

 この無垢な笑顔を是非フォルス様にも見ていただきたい。


「私も……永住希望、なんだけど……大丈夫かな? 許してもらえるかな」


「ティナ?」


「皆と違って、私にできることってないじゃん? お役に立とうと頑張っても空回りして、フォルス様の御機嫌を損ねるようなら……希望しないという選択も……」


「どうしちゃったの? ティナらしくないよ! 何時ものティナなら言うよね? 私絶対に頑張るから、フォルス様に喜んでいただけるように頑張るからって!」


「……ルチア……」


 仄暗い思考しか持てなかったルチアに対して飽きもせずに繰り返して、少しでも本人が楽になれるようにと紡ぎ続けた言葉。

 負の考えに憑かれた人間のそばで励まし続けるのは難しい。

 誰にでもできることではない。

 実際アグスティナ以外は、自分を見失わないためにも、ルチアとは一定の距離を取っていた。

 だがその一線を踏み越えてずっと。

 二人が出会ってから何年もの間。

 アグスティナは己を失わずに、声をかけ続けた。

 そういった素地ができていたからこそ、ルチアがフォルス様を心から信頼できたのではないかとすら思うほどに。


「貴女の優しさと強さを、フォルス様が見抜けぬはずがないわ。貴女は何時もよりちょっとだけ自分の言動に対して慎重になればいいだけ。暴走しそうなときは私が声をかけるわ」


「私もだよ! ティナ。私の一番大好きなお友達。ずっとずっとホルツリッヒ村で過ごそうね?」


「うん……うん、うん! ありがとう、ディー。ありがとう、ルチア! 私一生懸命頑張るよっ!」


 やっとらしい笑顔が浮かぶ。

 天真爛漫な様子はアグスティナによく似合うのだ。


「では、全員ホルツリッヒ村永住希望と言うことで! さぁ、乾杯をしましょう!」


 いそいそと祝杯の準備を整えていたジェッセニアの手にかかれば、美味しそうなおつまみも並ぶ。


「あ! それローズさんからもらっていたバッグ!」


「そそ。マジックバッグなんだって。フロイラインの料理も美味しいけど、ホルツリッヒ村の料理も楽しんでほしいからって、フォルス様の意向でローズさんが貸してくれたものよ! ちょっと見ただけでも美味しそうな料理や飲み物がたっくさん入っているの。さ! 祝杯を挙げるわよ」


「ベルナルディタ! 音頭を頼むぞ」


「ええ、わかったわ」


 カップはさすがに備え付けの物を使っている。

 良い部屋なだけあって、繊細な絵まで描かれたカップだ。


「では、全員揃っての奴隷解放とホルツリッヒ村での輝かしいだろう未来を祝して、乾杯!」


 ベルナルディタの声に続いて、喜びの祝杯が上がる。

 酒は一滴も出されなかったはずなのに、全員が二日酔いにでもなったかのように、次の日は起きられなかった。 

 友人がベル○らのアフタヌーンティーを教えてくれました。

 始まる前から期日延長になっていて凄かったです。

 予約……とれないだろうなぁ……。

 せめて秋のアフタヌーンティーに行きたいですね。


 次回は、昆虫ダンジョンインセクト 12(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。  

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