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冒険者ギルドにて。中編。

 コンサート会場でグッズを買おうとすると、何時も欲しい物が完売御礼なので、今回は事前に通販で入手しようとチェックしてみたところ……そもそも欲しいグッズがありませんでした。

 毎回1点はあるんだけどなぁ……。

 


「こいつらを叩き起こす前に……大丈夫か? 無理なら別室待機もできるぞ?」


 ボノは犯罪者には厳しいが、弱者に優しい。

 大雑把な面が目立つが、意外にも細やかな心配りができる御仁だ。

 だからこそ長くドーベラッハの冒険者ギルド長を務められるのだろう。


「ボノ! ちょっといいか?」


 そんな場面でノックもせずに入ってきたのは、ヘルマン。

 冒険者ギルドの副ギルド長。


「なんだよ。今取り込み中なんだが?」


「俺も同席したいんだが」


「それは……」


 ボノの目線が私たちに向けられる。

 断ってもいいんだぜ? と言っていた。

 ヘルマンは何故か私たちに拒否をされるとは思っていない。

 ボノの足りない部分を補う存在としては大変有能だろう男を、私は嫌いだった。

 他の四人も嫌いだ。


「私たちが不利益を被らないのであれば、構わない。そうでないのならば、お引き取りをお願いしたい」


プルデンシアの凜とした声は何時聞いても安心する。

 彼女は何時だってこういった場面で矢面に立つのを躊躇わなかった。


「不利益を被るとは……随分とおっしゃいますねぇ?」


「え、だって有名じゃん、あんた。冒険者ギルドのためってーのはわかるけど。私たちだって、フォルス様のために譲る気はないんだからね」


 ふんふんと胸を張るアグスティナ。

 彼女にしては珍しく真摯にフォルス様を慕っていての言葉なのだと、私も他の皆もボノさえも理解しているが、ヘルマンはどうだろう?


「……はぁ。全くなんなんですかね、フォルスって」


「呼び捨ては、許さねーぞ、ヘルマン!」


「ですが!」


「呼び捨てならフォルス嬢の前でやれ。あのスライムたちの前で言ってみせろ。できねーだろ? 大体なんでお前が出てこないのをフォルス嬢が指摘しないと思う? お前がしでかすってわかってっから、避けてんだよ」


「はぁ?」


「何が、はぁ? だ。一度あの方の威圧を受けてみろってんだ。三割程度の威圧で、貴様なんぞは失禁しながら失神するのがオチなんだぞ!」


 失禁に失神と私たちの前で言われて悔しかったのか、ヘルマンは顔を真っ赤にしたまま羞恥にぶるぶると震えている。

 

「……恩人であるフォルス様に敬意を払えない人間は不要ですね」


 食事と薬にしか興味がないジェッセニアを知る自分たちからしても、驚きの発言だった。

 アグスティナは口をぱかーんと開いたまま硬直している。


「頭の下げ方なら、商業ギルドのスルバランさんに聞けばいいかと……」


 遠慮しつつもルイサまでもが意見をする。

 ヘルマンにとっては、スルバランへ教えを乞うなど酷い屈辱だろう。

 けれどルイサにヘルマンを揶揄する心は全くない。

 だからこそヘルマンは息を呑んだ。

 そう。

 そこまで馬鹿でもないのだ。


「……同席が不要なら結構です!」


 選んだのは本人からすれば戦略的撤退。

 私たちから見れば完全の敗北。


 ヘルマンはわざとらしく大きな音を立てながら扉を閉めて出て行った。


「あの……私、もしかして悪いことを言ってしまいましたか?」


 しょんぼりするルチアの頭をボノがくしゃりと撫ぜる。

 一瞬だけ体を固まらせたルチアは、ボノの手を拒絶しなかった。


「いんや。ヘルマンが足りてねーだけだ。評価の高い冒険者の視界にすら入れてもらえないのが悔しいんだろうよ」


「自分から避けておいてか?」


「複雑な男心って奴さ。頼られてーんだろうなぁ」


 フォルス様は一人で立てる御方だ。

 けれど信頼できる者は恐らく頼ってみせるだろう。

 現にボノなどは私たちの件を丸投げされている。

 

「まーフォルス嬢がダンジョン踏破したあたりで、引き合わせておくさ。ヘルマンもそこまで意固地にはならねぇだろうよ」


「だといいけれど?」


 皮肉げに口の端を上げたのはジェッセニア。

 ヘルマンと相性が悪いようだ。


「お前さんたちには迷惑をかけねーから、その点は安心しろ。じゃ、奴らを起こすがいいな?」


 私たちは全員揃って頷いた。


「おい! 起きろ! パキト!」


 ボノが寝転がっているパキトの肩を揺する。

 パキトは目を開けて、ボノから大きく距離を置こうとして、こけた。

 奴隷の首輪の効果だろう。

 いい気味だ。


「っつ! ボノっ! これは、どういうつもりだ?」


 体の異変から自分の置かれた状況を悟ったようだ。

 顔色が悪い。


「お前が洗脳スキルなんざを持ってるなんてなぁ。どうして申告をしなかったんだ?」


「くっ!」


「それだけでも十分に拘束される理由になるだろうがー」


「ステータスにも出ないスキルを申告する義理なんてねぇだろっ」


「や。表示されてるぞ? スキル欄に洗脳って、うっすらだけどな」


「はぁ?」


 初めて聞いた。

 ステータスの表示は幾度か見たことがあるが、文字はくっきりと見えやすいものだったのだ。


「鑑定の能力が強かったり、力の差があったりすると見えんだよ。うっすら具合からして、本来なら見逃すレベルだったが、事を起こしたあとじゃ逃れようがねーわな?」


 ギルドマスターともなれば鑑定能力は必須だろう。

 ギルドには優秀な魔道具もたくさんあると聞いている。

 その中の幾つかをボノは装備しているのかもしれない。


「どっちの能力がどれだけの割合で彼女たちを縛ったのかまではわからない。だから、貴様らは等しく罰を受けてもらう。財産は全て没収。スキルは封印か……しでかした件を考慮すると消滅か奪取になるかもな」


「ふざけるな! 奴隷には何をしても問題ねーだろうがっ!」


「いいのかよ? これから奴隷堕ちになるんだぜ、お前。お前が何されてもいいって言ってるようなもんだからな。とんでもねぇ、マゾヒスト野郎だなぁ、おい」


 ぷっとアグスティナが吹き出した。

 プルデンシアとジェッセニアはくすくすと笑っている。

 あのくすくす笑いが、男性にとっては酷く屈辱らしい。

 ルチアはおろおろしているが、助けようという気は起きていないので、良い傾向だ。


「き、貴様らどうにか!」


「しませんが、何か?」


 つんと、貴族令嬢らしく顎を上げて言ってやった。

 三人がそれに倣って、ルチアまでもが一拍遅れて倣う。

 殴りかかりたいだろうパキトだが、動こうとしても転がってしまうので、歯ぎしりするしかできないようだ。

 ざまぁ!


「悔しいか? でもお前が感じている屈辱以上のものを彼女たちは受けたんだ。まだまだ足りねーぞ。さ、こっちも起こすか。おい! 起きろ、セベロ!」


 斧を振り回すだけの脳筋に、魅了能力が備わっているとは正直驚きだった。

 魅了スキルの印象としては、可憐な令嬢や、優秀な王子などが持っている……そんな認識でいたのだ。


「セベロ! 貴様はうっすら魅了スキルで彼女たちの自由を侵害した。ゆえに、罰せられるぞ。いいな!」


「お、おぅ?」


 ボノに命令されて、納得がいかなくても応じている。

 や、納得がいかないわけではなく、ただ起きたばかりで寝ぼけているだけの気もしてきた。


「どうして素直に頷いてんだ? このくそ馬鹿野郎!」


「はぁ? 馬鹿は貴様だろう! 絶対ばれねーって言ったのはお前じゃねぇか!」


 先導したのはパキトだったらしいが、同意した時点で同罪だろう。

 今までされてきたあれこれを考えれば、きっちりと同じ罰を受けてほしいと願う。


「あ! そうだ。今ホルツリッヒ村にカンデラリアがいるんだよ。もし希望するなら、カンデラリアに聖女の慈悲を施すように頼んでもいいんだぜ?」


「是非、お願いしたい!」


プルデンシアが勢いよく立ち上がった。

 性犯罪者に多く与えられるので有名な罰、聖女の慈悲。

 与えられる者は多くない。

 その精度にも聖女の力量によって差があると聞いている。

 しかし、あの美しいカンデラリアは僧侶ではなく、聖女だったのか……。

 魅力的な彼女に群がる愚かな者どもを、自らの手で罰せられるのは少々羨ましい。

 ホルツリッヒ村に滞在しているのならば、永住の可能性はあるのだろうか。

 奴隷の身では話しかけるなんて叶わなかったが、解放された今であれば自らお願いもできる。

 奴らにされた屈辱を話したならば、あの方はさぞ精度の高い慈悲を与えてくださるに違いない。


「んじゃ、普通に牢屋にぶち込んどくぜ。そこにある財産は全部持っていっていい。マジックバッグを貸してやるから、仲良く分配しろ」


「いいんですか?」


「かまわねーよ。用が済んだら俺に直接返却してくれりゃあいい。フォルス嬢の信頼を得たなら問題ないさ」


「では遠慮なくお借りします」


 ジェッセニアとルチアは手早くマジックバッグの中に財産を入れ始めた。

 パキトとセベロは聖女の慈悲を与えられると知って、大人しくなってしまった。

 首輪の効果もあるのだろうが、財産を完全収納するまでそのままでいてほしいと思う。


「フロイラインには連絡を入れておいたから、ギルドの前に馬車が来てるだろうぜ。荷物を収納したら、馬車に乗ってフロイラインでゆっくりすればいいさ。フォルス嬢が戻ったらそっちにも連絡を入れてやるから安心しろ」


「お手間おかけして恐縮です。この度はありがとうございました」


「おうよ。気にするな。あ! でもボノが頑張ったって、一言フォルス嬢に言ってくれたらありがてぇな」


「わかりました」


 頷いたところで、ちょうど財産の収納が終わったようだ。


「こいつらを売却した金は後日渡すぜ。娼館の方もフォルス嬢のお蔭で大繁盛だからなぁ……少し時間がかかるかもしれねーが、その辺は勘弁してくれや」


「はい。そちらの件も了承いたしました。それでは、失礼いたします」


 ルチアが渡してくれたマジックバッグをしっかり持った私たちは、ボノに一礼すると個室を出た。

 意気消沈した彼らの啜り泣きが微かに聞こえる。

 私たちがいなくなって、更に実感したのだろうか。

 

「ざまあみろ!」


 アグスティナが飛び跳ねて喜ぶのに苦笑しながらも、大きく頷いて同意の意思を示した。


 コンサートで知っている曲が流れると嬉しさ倍増です。

 今回は席が良さげなので、それもまた嬉しいですね。

 あとはコロナ対策をばっちりせねば……。

 

 次回は、冒険者ギルドにて 後編(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。  

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