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冒険者ギルドにて。前編。

 崎○軒のシウマイ弁当。

 期間限定鮭を食べてみたい今日この頃。



 ダンジョン脱出は驚くほど安易だった。

 フォルス様が守られるだけの方ではないと直感的に理解できていても、実感する機会は得られなかったのが心底残念だ。

 何しろスライム三匹と美しく舞う蝶二匹が、先手を打って全てのモンスターを駆逐してしまうのだから驚くしかない。

 ローズさんが張ってくれていたという結界から出て、ダンジョン脱出するまで、ほぼ早足のまま移動するペースは落ちなかった。


 先頭はブルーアゲーハとアゲーハ。

 そしてローズさん。

 殿はサクラさんとモルフォさん。

 私たちは前後から完璧に守られていた。


 蝶々コンビの攻撃。

 二匹の打ち漏らしはローズさんが余すところなく仕留めていく。

 一緒に防御も担当してくれているらしく、勢いよく飛んできた小石が私の頬を傷つけることはなかった。

 ドロップアイテムはしゅるんと触手が伸びてきて、モルフォさんとサクラさんが回収していく。

 気のせいではないだろう、ドロップの多さと頻度が異様なのは。

 ドロップ率アップの効果だけとは到底思えないが、質問はできない。

 何度か皆の口がもごもごしたが、さすがに指摘してしまう愚かな者はいなかった。


 冒険者ギルドへ到着してからも、驚きは続く。

 これだけ連続して人生初の驚きに遭遇したのは初めてで、今後もきっとなさそうだ。


 フォルス様は素早く受付嬢の中でも一番有能と名高いペルペトゥアに声をかける。

 ペルペトゥアは他の冒険者には決して向けないだろう、信頼に満ちた眼差しで返答をしていた。

 容姿が美しい彼女は何かとトラブルに巻き込まれがちだと聞いている。

 その苦労は回避の見事さに現れていた。

 そんなペルペトゥアにとって、駄目な冒険者をさくさくと生かして冒険者ギルドへと連れ帰るフォルス様は正の感情しか持ち得ない存在でもありそうだ。


 手早くギルドマスター・ボノを呼び出している。

 

 何時もなら頭やおなかを掻き掻き大あくびとともに現れるボノだったが、フォルス様の呼び出しは別物らしく、迅速にあり得ない礼儀正しい態度を見せつつ現れた。

「ん-? 今度はどうしたんだ?」


「例によって例の如く、ここでは言えない話よ」


「あー、だよな。知ってたよ、俺。知ってたから」


 哀愁を漂わせるボノも初めて見る。

 ペルペトゥアがしっかりしなさいとばかりに、ボノの背中をぱあーんと音も高く叩いた。


 始めて入る冒険者ギルドの最高級個室はいたたまれない。

 私たちにまで茶菓子と紅茶が饗される。

 饗したのは何とフォルス様だ。

 ボノの、旨いもんをください! と目は口ほどに物を言う圧に負けたのだろうかと思ったが、どうやら何時ものことらしいと察する。

 籠の中に山と積まれた茶菓子を美味しそうに咀嚼するボノの様子を見るフォルス様の瞳が、慈愛に満ち溢れていたからだ。

 フォルス様はどうやら、素で給餌をしてしまう性質らしい。

 相手によっては奴隷扱いされて都合良く使われてしまうが、フォルス様の場合は過保護な周囲がそれを許さないから問題もないのだろう。


「彼女たちは奴隷にもかかわらず、魅了と洗脳のスキルで、心の自由までも奪われていたわ」


「はぁ?」


 ボノがぽろりとお菓子を手から落としてしまう。

 次の瞬間には、おっと勿体ねぇ! ときちんと拾って食べていたが、驚きの加減は知れる。

 それほどに恐ろしいスキルなのだ。

 魅了も、洗脳も。


「どちらも微弱よ? ただ使っていた屑たちの相性も良かったんでしょうね。彼女たちは許されるはずの最低限の自由すら縛られてしまった」


「そんなこともあるんだな?」


「ええ、あるわ。例としては希少な部類に入るでしょうけどね」


「スキルの存在は知ってるし、犯罪事例は幾つも知ってる。だけど、ギルドの目をすり抜けて観察対象になっていなかったのは初めてだな」


「それだけ、微弱なのよ。正直、魅力的な娼婦の方がよほど男を狂わせる程度の、ね。彼女たちには運が悪かったとしかいいようがないの。たぶん彼女たちが心まで奪われるに至ったときの状況なんかもかかわっていると思うわ。その辺りは……彼女たちが答えられる範囲で答えてもらうと……いいかしら?」


 フォレスト様がわざわざ確認を取ってくださる。

 ボノを牽制もしているようだ。

 無理強いはするなと。

私たちは揃って深く頷いた。


「本当に次から次へと……あぁ……飽きねぇなぁ……」


「発覚している時点で喜びなさいな。冒険者ギルド長であるならば」


「喜んでるし、感謝もしてるぜ。お! そうだ。スライム二匹が戻ってきてんぞ。商業ギルドで何やら打ち合わせをしてたみてーだが……」


 ボノが続きを言い切る前に扉がノックされる。


「お待たせなのねー」


「う。ちょっとスルバランと丁丁発止ってきたのよ」


「当然だけど、完全勝利なのねー。お疲れ様、アイリーン」


「二人ともありがとう。三人はどんな感じ?」


「う。その辺はダンジョン攻略しながら話すのねー」


 白と緑のスライムが入ってきた。

 当然のように完璧な人語を操る。

 この二匹も私たちをここまで導いてくれた三匹同様に規格外の力を持っていて。

 主人であるフォルス様を大好きなのだろう。

 召喚なのかテイムをしたのかはわからないが、ここまでお互いを思いやっている関係はとても珍しい。

 召喚にしろテイムにしろ、基本は一方的な関係でしかないのだ。


「私たちはここで失礼するのねー。結果は教えてほしいのねー」


「う。私たちはダンジョンを攻略するのよ。今度こそ踏破するのよ!」


「それはどうかなぁ……」


「フラグを立ててはいけないのねー」


 みょいんと伸びた触手がフォルス様の額をぺちりと叩く。

 

「この子たちが切実にダンジョン踏破を望んでいるので、私たちはこれで失礼して大丈夫かしら?」


「おうよ。十分だ。あ、屑だけ隅に転がしておいてもらえるか?」


 ボノの言葉を聞いたローズが屑二人を吐き出した。

 薄汚い下着しか身につけていない状態だ。

 呑気に鼾まで掻いている。

 あ。

 腹まで掻き出した。


「十分後に目覚める設定にしておりますけど、延長いたしましょうか?」


「あー、そうだなぁ。一時間後にしてもらえっか?」


「了解いたしましたわ。屑どもの財産はどこに出せばよろしいのかしら?」


「それは俺の背後に頼むぜ」


 新品にしか見えない状態の装備品やアイテムが、整頓された状態で並べられる。

 ボノはそれらを厳しい眼差しで凝視していた。


「それじゃあ、ボノ。くれぐれもよろしくね」


「おう。任せてくれ。何時も通り、迅速に抜かりなく手配するぜぃ」


 ひらひらと気軽に手を振るフォルス様に、同じように手を振ったボノ。

 良好な関係が垣間見られて微笑ましい。


 スライムたちにまとわりつかれながらフォルス様が出て行く。

 私たちは扉が閉まるまでその後ろ姿を見送った。


「いろいろと大変だったとは思うが、フォルス嬢に会えたのは僥倖だったな」


「はい。そのとおりでございます。フォルス様には感謝しかございません。今後はフォルス様が村長を務められているホルツリッヒ村で、粉骨砕身努める所存でおります」


「ん? 誘われたのか」


「良ければと、選択肢の一つに加えてくださいました」


「良かったな。俺としては奴隷解放されたあとは、冒険者として復活してほしいが……フォルス嬢が絡んでいる以上無理強いはできねぇ」


「フォルス様が絡んでなくても、無理強いは駄目だよ、マスター・ボノ!」


 フォルス様とのやり取りでは沈黙を守れたアグスティナだったが、彼女がいなくなった途端にこれだ。

 まぁ、フォルス様の勘気に触れなくて良かった。


「おぅ。わかってるって、口が滑っただけだ。フォルス嬢の前では、俺だって緊張すんだよ」


「そうなの?」


「ああ、あの方はとんでもなく強ぇえからな」


 白熊獣人の種族的な強さは有名だし、ボノ自身の強さも同様に有名だ。

 そのボノがとんでもなく強いと評価するなら、私の評価にも間違いはなかったようだ。


「フォルス嬢から聞いただけだと、お前さんたちの奴隷落ちは真っ当だったが、扱いが最悪だったとなるが、どうだ?」


「……全員微妙なところですわ。担当次第で奴隷に落ちない手配もできたと思います」


「全員かよ?」


「奴隷落ちするまでは顔見知り程度の関係があった相手もいます。ですが、基本的に関わりのないもの同士……何らかの基準で選ばれ、嵌められたのかと、推察いたしましたの」


「うん。特にジェッセニアは嵌められたと思う。しかも随分と偏った思考の持ち主に」


「薬師としてではなく、女として商品価値を見いだしたのでしょう、恐らく。全く愚かしいことですわ」


 全員娼婦として一定以上の需要がある容貌をしている。

 ジェッセニアは五人の中でも特に加虐心をそそられる性格でもあった。


「うーん。その辺りは調べてみるが……難しいかもしれねぇ」


「私もフォルス様のお役に立てれば構いませんので、家の者へ無実が伝えられればそれで」


「あぁ、それぐらいならいけるな。引き受けるぜ。皆も個々の要望があったら書き出しておいてくれ。極力手配はする」


「随分と手厚いのだな?」


「それだけフォルス嬢が怖いんだよ。あの方はきっと、お前さんたちが納得いく形で落ち着くまで、目を光らせてくるだろうからな。あー、こいつらも目が覚めないうちにがっつり拘束しておくか」


「……問題なければ、私に嵌めさせてくれないか?」


 よっこらせっと、口に出して腰を上げたボノの手には、スキル封じの首輪が握られている。

 犯罪者用の首輪は、スキル封じ以外にも犯罪者の行動を制限する付与がなされていた。

 

「おう。かまわねーぞ」


 ボノはプルデンシアの希望を簡単に叶えた。

 プルデンシアは男装の麗人が見せる理想の微笑を浮かべたまま、屑二人の首に首輪を嵌める。

 鼾がふごごっと聞こえた。

 絶望的な未来を知らない脳天気な鼾には、失笑が浮かんでしまった。


 秋のスイーツ食べ放題。

 行きたいんですけど、まだ外出控えめの方がいいですよね。

 温泉とかも入りたいのですが、秘湯でも駄目かしら。


 次回は、冒険者ギルドにて 中編(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。 

 

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