ホルツリッヒ村という名の楽園。後編。
……ホラー企画が予定の日に投稿できませんでした。
とほほ。
締め切りまでには投稿できると思います。
今は前中後編の、中編を執筆中なのです。
蒸し暑さによる消耗と体調不良が憎い今日この頃。
久しぶりの一人の時間を満喫する。
ピアもカンデラリアも狙われやすい外見なので基本二人行動をしているので、なかなか一人の時間がないのだ。
教会では当然一人の時間など許されない。
寝ているときですら監視の目があるのだ。
教会だけが世界だったときは気にならなかったが、一度自由を覚えてしまうと、一人の時間は定期的に欲しくなった。
ピアは良い子なので一人の時間が欲しいと言えば、自分は野宿してでもカンデラリアのために時間を作ってくれる。
良い子なだけに口にしにくいのだ。
「この空間が得られるだけでも、ホルツリッヒ村永住を即決してしまいそうですわ」
教会から定期的に帰還の命が下る。
その都度お布施をすればしつこくは強制されないが、人生を考えると教会との縁を一切切ってしまいたくなるのだ。
閉鎖された仄暗い空間。
優秀とされているカンデラリアが完全に縁を切るのは難しい。
それだけの情報を既に得ている。
「アイリーンさんにお願いすれば、簡単に断ち切れそうだけれど……」
規格外過ぎる彼女の近くにいたいと望むならば、教会との縁は残しておくべきだろうとも思う。
「……ピアとも話し合って、アイリーンさんとも話し合うのが無難でしょうか」
ピアは所謂フリーの暗殺者だ。
昔は組織に属していたらしいのだが、脱退したとのこと。
詳しくは制約がかかっていて話せないが、追っ手を放たれない円満脱退が叶った! とは教えてもらった。
暗殺者の組織とも繋がりがある教会経由で、多少なりともその世界を知っていたカンデラリアは驚愕した。
あり得ない処遇なのだ。
たぶんピアが優秀だったか、ピアの口から幾度となく上がる師匠が優秀だったか、はたまたそのどちらもが優秀だったのかといったところだろう。
一緒に冒険をしていれば、ピアが無能でないのは自然と知れたのだ。
ピアもまた暗殺組織経由で教会の闇を理解している。
だからカンデラリアの行動や狂気の思考にも寛容だ。
ピアと出会えたのは今までの中で一番の僥倖だろう。
今後も一緒にありたいと思っている。
ピアもよほどの理由がない限り、カンデラリアとともにあってくれると信じて疑わない。
「夕食の準備ができたよ。すぐに出られるかい?」
扉がノックされてトリアの声が聞こえる。
「室内着ですが着替えた方がよろしゅうございますか?」
「うーん。初めて会う人がいるから、着替えた方がいいかな?」
「では、少しだけお時間をいただけますか」
「うん。焦らないでいいからね」
エルダートレントは永く生きているので基本的に寛容だと聞いている。
トリアもまた寛容らしい。
聖女も冒険者も着替えは早く! を求められる職業だ。
カンデラリアはタンスの中からシルコットン製のワンピースを取り出して、頭からかぶった。
シンプルなデザインだが、胸元や袖口、裾などに可愛らしい小花模様の刺繍が施されている。
これもスライムたちが刺したものなのだろうか。
そう言われてもカンデラリアは驚かない。
「お待たせいたしました」
花飾りのつけられたサンダルを履き外へ出る。
似たようなワンピースを着たトリアが鍵を閉めてくれた。
「この村で盗難はあり得ないけど、今後はわからないからねぇ。僕たちも習慣づけようと思っているんだ」
「今は施錠の習慣がございませんの?」
「トレントたちがいるし、アイリーンの家は過剰な防犯対策がなされているからねぇ。施錠の必要をあまり感じないらしいんだ。村人たちは自分にその権利があるって自覚が薄いし」
「なるほど……無理にとは申しませんけれど、やはり習慣づけは必要かもしれませんわ。善人が悪人に変わる例もございますから」
「だよねー。変わってほしくないし、変わらない例も多く知ってるけどね。アイリーンの安全は絶対確保しなきゃだからなぁ」
教会は施錠を許される場所が少ない。
だから下働き者は必死に力をつける。
己の身を守るために。
思い出したくない過去が記憶の底で揺らめいたので、丁寧に蓋をする。
「アイリーンさんが率先して施錠をなされれば、村の方々も習慣になるのでは?」
「あーねー。確かに。まぁ、気長にやるとするよ。ここが集会所。いろいろな用途に使われるよ。カンデラリアが村に永住とはいわずとも、長く滞在する気があるなら、子供たちにいろいろと教えてほしいなぁ」
「ええ、まだ永住は迷っておりますが、しばらく滞在したいと考えておりますので、教会の奉仕活動に基づいてお教えいたしますわ」
「うん。よろしく」
集会所の中は広く、賑やかだった。
ピアもビダルも既に席へ着いている。
トリアとカンデラリアが最後だったようだ。
「はい。夕食の前に注目。ピアとビダルの紹介は既にできているみたいだから省略! こちらの彼女はカンデラリア。由緒正しい聖女。しばらく子供たちにいろいろと教えてくれるよ。前から気になっていたことをいろいろと聞いてみるといい」
「初めまして、聖女のカンデラリアと申します。しばらくホルツリッヒ村に滞在いたしますので、よろしくお願いいたしますわ」
丁寧にカーテシーをする。
何故か拍手があった。
「今日はホルツリッヒ村に永住するかもしれない三人が来てくれたので、何時もより豪華料理だよ。アイリーン村長も認めた人材だから皆頑張って勧誘してねー。じゃあ、乾杯!」
我に返ったときには手にしていたグラスでワインを飲んでいた。
驚くほど美味しいワインだ。
これもきっとスライムたちが何かをした結果なのだろう。
「リンギエとジシメのマリネを食べるのです」
ワインの余韻を楽しんでいたら、すっと寄ってきたペネロペが皿を差し出してくる。
「食材提供は私。料理はカロリーナなのです」
「あーペネロペの作るキノコは最高に美味しいんだけど、ペネロペ自身が料理すると何故かランク落ちしちゃうんだ」
「不思議ですね?」
「キノコ娘の特徴としかいいようがないんだよね……僕も長い時間を生きてるけど、解明されていない疑問の一つだよ」
「自分が作ったキノコでなければ上手に料理できるのです。何時か改善できると信じているのです……なかなか難しいのですが」
ふーと深々と溜め息を吐くペネロペが勧めてくれたキノコのマリネをいただく。
「! 美味しいです! 焼いただけでも食べてみたいですわ。すごく味も香りも濃いですわね……キノコ好きには堪りませんわ!」
「……カンデラリアはキノコ好き?」
「ええ、毒があるものですら美味しいならいただきたいと思いますわ」
「村に永住するなら、キノコ娘しか知らないキノコを食べさせてあげる」
「まぁ! どうしましょう!」
カンデラリアは無類のキノコ好きだ。
冒険者として活動しているときに幾度となく助けられているからかもしれない。
ちなみにピアもキノコ好きだ。
彼女の場合食べるだけでなく、暗殺に使う道具としても好きなので、もしかするとペネロペとはあわないかもしれない。
「……毒キノコを食べずに使ってもいい?」
ピアが会話に入ってきた。
カンデラリアと同じ考えにいたったのだろう。
「勿論! 食べたら死ぬのです。そのまま放置するより使ってくれた方がキノコ娘としては嬉しいのです」
「毒キノコを使って人が死んでもいいの?」
「無差別殺人はよくないと思うのです。でもキノコ娘の中には、使われるなら無差別殺人も歓迎! という個体もいるのです。私としては悪人に対して使ってもらえたら喜び倍増なのです」
キノコ娘はそう考えるらしい。
忌避されないのは嬉しかった。
ピアも笑顔だ。
「御希望でしたら即死、重体、狂気にいたる毒キノコを教えるのです。普通のキノコでも人は殺せるのですよ?」
両手にキノコ料理の皿を持って、勧めて回るらしいキノコ娘がこてんと首を傾げる。
所作は可愛らしいが内容はなかなか鬼畜だ。
「参考までに教えてほしい」
「私も一緒にお願いしたいですわ」
「ん。二人の都合がいいときに呼んでくれるといいのです。私は基本キノコ小屋にいるのです」
「ええ、ではそのときはよろしくお願いいたしますわね」
こっくりと深く頷いたキノコ娘は、他の村人へキノコ料理を勧めに移動してしまった。
「キノコ娘のキノコ料理が、何時でも食べられるなんて! リア。もう永住でいいんじゃないかな?」
「私も少し、考えましたわ」
ビダルはどうしているかと姿を捜せば、カロリーナに勧められた料理を受け取りながら満面の微笑を浮かべて会話を楽しんでいる。
「ビダルはきっと、永住する」
また鼻の下が伸びてますわ! と指摘するべく、カンデラリアとピアは二人に歩み寄った。
ビダルのいないときに、豊かな胸についての悩みを分かち合おうと考えているなどとは、おくびにも出さずに。
チーズスイーツ食べ放題に行ってきました!
多分キャンセルがあって、運良く予約できたのですよ。
どれも凄く美味しくて満喫してきました。
一品一品にとても手間がかかっているんですよね。
一人で行ったのですが全種類網羅できなかったのが無念でしかたなかったです。
主人と二人ならコンプリートできたと思うんですけどね……。
次回は、昆虫ダンジョン インセクト 10(仮)の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。