昆虫ダンジョンインセクト 9
年に一度の視野検査。
数値に変動がなくて一安心でした。
近所にできた眼科が、大変対応が良くて、やっとこさ理想の眼科に巡り会えたと喜んでいます。
今の場所へ越してきて五年。
眼科の診察券が五枚以上ありましたよ……。
入り口にセーフティーゾーンがあるのはしみじみ有り難い。
私たちにはローズの結界があるから、スルーしてもいいんだけどね。
セーフティーゾーンがどんなものかを知っておく必要はあるじゃない?
うんうんと頷くスライムたちと一緒に、四階へ足を踏み入れた。
運良く冒険者はいない。
セーフティーゾーンはわかりやすく扉で区切られているようだ。
すみっこに陣取るとローズが結界を張ってくれた。
「さて、サクラさんや。三階での戦利品はどんな塩梅だったかね?」
「どうして老人口調なのです? 疲れたのです?」
「特に意味はないのです」
「……疲れているようです。皆には食事の用意をお願いするのです。戦利品は以下の通りなのです」
クイーンアントの宝箱
フラワービーのチャーム レアアイテム(食材)ドロップ率アップのアイテム
フラワービーの羽 百対
フラワービーの花粉玉 百個
フラワービーの花蜜 百個
そう。
クイーンアントは宝箱を持っていた!
ボスモンスターではないけれど、レア種が進化したら出てもおかしくはない。
フラワービーにどれだけ執着していたのかと、裏手の突っ込みを入れたくなるラインナップだった。
それにしても予想通り、食材特化とはいえ、レアアイテムドロップ率アップのアイテムは嬉しい。
ここにはいない、リリーの暗黒微笑が浮かぶ。
二センチくらいのリアルなフラワービーがついているチャーム。
一度つけたら、つけた人物が外さない限り外れない効果までついている。
チャームって気がつくと落ちてるじゃん?
地味に嬉しい効果なんだよね。
早速バッグにつけておこう。
クイーンアントを倒したときのドロップアイテム
クイーンアントの王冠 愚かなる貪食クイーン
クイーンアントの眼球 一対
クイーンアントの羽 六枚
クイーンアントの卵 十個
クイーンアントの蜜 一樽
アントの蜜 五百十五個
王冠がね……名前付きって珍しいらしいよ?
でもって効果はやばかった。
被っている最中は、食べれば食べるほど美しくなるって、効果だった。
でもね、外した途端。
効果がなくなるどころか、食べた分がダイレクトに返っちゃうらしい。
つまりはあれだね。
本来吸収し切れない分が一気に具現化されるから……ぱん! と。
破裂しちゃう。
……それでも美に拘る女王とかかぶっちゃいそうだよね。
死蔵か呪いのアイテム的な扱いとして、マニアに売るといいかも。
クイーンアントの卵は、育成が楽で忠誠度が高いクイーンアントが生まれるから、引く手あまたらしい。
クイーンアント自体が強くて硬いし、眷属召喚があるから、国が抱えるテイマーとかが欲しがるんだってさ。
オークションがいいみたい。
クイーンアントの蜜はティースプーン一杯で、お肌が永続的にぷるつるになる効果があるから、もの凄く人気。
ティースプーン一杯分を小瓶に入れて、定期的なオークションへの出品を勧められました。
ちなみに小瓶にして千本くらいはあるよ。
アントの蜜より多かった。
三階で見つけた宝箱は二つ。
宝箱自体は極々普通の木でできた宝箱でした。
中身は下記二種類。
スズメビーの毒針一ダース
ベアビーのもふもふ装備一式
ベアビーのもふもふ装備は可愛かった!
フィギュアとかに着せたいサイズ。
この世界のドールがどの程度の出来かはわからないけど、いい出来なら着せて飾っておきたいもふもふっぷりだった。
そこそこレアらしい。
体が小さい種族には人気なんだって。
寒さに強い装備とのこと。
「まずはこれを食べるのです」
鑑定されたアイテムに感心していると、口の中へ何か放り込まれた。
「ん? 不思議な食感。ふわしゃく?」
「フラワービーの花粉玉なのです。一個まるっと食べると疲労回復効果が半端ないのです」
フラワービーの花粉玉
レアドロップ
ふわ=わたがし食感。
しゃく=蜂の巣蜜食感。
花粉玉についた蜜がじんわりと口の中に広がる。
基本掌サイズ。
一個まるごと食べると抜群の疲労回復効果有。
「今回は掌サイズを凝縮して食べやすいサイズにしたのです。食感は損なわれていないのです。本来は一個食べようと思っても、崩れてしまうので難しいのです」
「なるほど」
ふわふわを崩さすに凝縮とか、凄い。
引く手あまたのスキルな気がしてきた。
チートって、際限がないからチートなんだよね、うん。
「次はスープですわ。具沢山のホワイトシチューですのよ」
「おぉ!」
野菜がゴロゴロ入っている。
肉もゴロゴロ入っている。
クックルーのもも……ムネかな?
しかし食欲をそそる香り……。
「おい! 飯を寄越せ! ここに誰かいるんだろう!」
ローズ結界の向こうからうるさい声が聞こえてきた。
人に物を頼む態度じゃないよね?
って言うか、セーフティーゾーンで結界を張ってるくらい警戒心高い相手にその上から目線……馬鹿じゃね?
馬鹿だね。
「うーん。どうしよっか?」
「無視一択でございましょう? 音を消しますわ」
ローズが恥知らずな者を見る女王の眼差しをしつつ、音を消す。
「一応外の様子を窺っておいた方がいいのです? ローズ。こちら側からしか見えないようにマジックミラーにしてほしいのです」
「了解ですわ」
サクラの言葉に従ったローズにより、結界外の様子が見えた。
斧を持った大男が、がんがん結界を叩いている。
手甲鈎? を両手に嵌めた細身の男は、多種多様な動きで結界を破壊しようと試みていた。
「忍者かよ! あれって手甲鈎だよね?」
「忍者ではないのです。武器は手甲鈎もどきなのです。ちっとも使いこなせていないので、もどきで十分なのです!」
おっとサクラが熱い。
手甲鈎に思い入れがあるのかな?
忍者に思い入れがあるのかも?
「ん。女性は比較的真っ当そうなの」
モルフォの言葉に目をやれば、男二人の背後でおろおろしている女性五人がいた。
全員露出が激しい。
性奴隷的な扱いなのかな?
ぱっと見だと隷属アイテムは身につけていないようだけど。
「斧男が魅了、もどきが洗脳のスキルを持っているのです。両方をフルに使って、どうにか女性を囲い込んでいるようなのです」
筋肉むきむきの大男が魅了スキルとか!
テンプレから外れている設定に、つい過剰反応してしまった。
まぁ俺様系勘違い大男を見て、自信に満ち溢れた実力者、素敵! って盲目的になる女性もいるけどさぁ……。
「どうにか……か。ならきっかけがあれば、解放できるかな」
「ん。全員は難しいかもなの。でも一人なら絶対大丈夫なの」
ほこほこのシチュー皿を手に僅かな時間思考する。
「……じゃあ、手助けをしようか。一応ローズは一緒に行ってくれる?」
「当然ですわ!」
もどきを警戒して隠蔽魔法のレベル3で、私とローズの気配を完全に絶つ。
ローズ結界からそろりと抜け出しても、男たちは飽きもせず脅しをかけながら結界破壊を試みている。
全く無駄な努力だよ。
「声を立てないでください。結界の中の者です」
背後から囁き声で話しかけた。
女性が揃って大げさに怯える。
だが声は上げなかった。
上げかけて、口を必死に押さえている女性もいるほどだ。
「貴女方が、男たちに望まぬ服従を強いられていると聞きました。本当でしょうか?」
全員が素早く頷いた。
見えない私たちの姿を探そうと後ろを振り返って、目をこらす者もいる。
「奴らに悟られぬよう、前を向いたままでお願いします」
慌てて前を向く女性。
警戒心が薄いのは、助けてほしい心が強いからだろうか。
「先頃暴行を受けていた女性二人を保護し、暴行をした男性五人を捕縛し、冒険者ギルドへ連行しました。ギルドへ戻れば精算も終わっているはずです。貴女方も同じ行動を希望されますか?」
「希望したいのですが、貴女の御負担が大きいと思われます。また私どもでは貴女へ依頼をするほどの何かを持ち合わせておりません。満足なお礼すらできないのです。許されるのであれば、冒険者ギルドへの報告のみお願できればと思うのですが、叶いましょうか?」
驚きの返答だった。
実に冷静で礼節を重んじている。
語った女性を信頼しているのか、他の四人も同じ対応を納得しているようだ。
『ここにきて、初めて真っ当な五人組に会えたよ!』
『喜ぶツボが愛らしいですわ……』
『これはもう助けるしかないよね?』
『そうですわね。彼女たちであれば、こちらが過剰に手配をしても、それ以上の御礼をと考え、行動に移すと思いますわ』
それ以上は望まない。
ありがとう、本当に助かりました。
心より感謝いたします。
そんな言葉でいいのだ。
たとえ心からの感謝でなくとも、せめて表面を取り繕ってさえくれれば。
『愛……貴女ときたら本当に困った人ですこと。対価はきちんと望まないといけませんわよ? どんなに善人でもつけあがらせてはいけませんわ』
『善人はつけあがらないよ、どんな対応をし続けてもね?』
『では、私たちのために。貴女を大切にする者のために。頑張りなさいませ』
さすがは私の庇護者。
どこまでも私に甘い。
『了解です、ローズ様』
望まぬ対応をしても、スライムたちが私を見捨てるはずがないと信じているからこそ、苦笑しながら返事をした。
喜多愛笑 キタアイ
状態 若干緊張中 new!!
料理人 LV 4
職業スキル 召喚師範
スキル サバイバル料理 LV 5
完全調合 LV10
裁縫師範 LV10
細工師範 LV10
危険察知 LV 6
生活魔法 LV 5
洗濯魔法 LV10
風呂魔法 LV10
料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用
掃除魔法 LV10
偽装魔法 LV10
隠蔽魔法 LV10
転移魔法 LV ∞ 愛専用
命止魔法 LV 3 愛専用
治癒魔法 LV10
人外による精神汚染
ユニークスキル 庇護されし者
庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化 解体超特化
称号 シルコットンマスター(サイ)
暑さのせいか37℃が普通になってきました。
昔は35℃後半が普通だったので、37℃越えとか無茶苦茶しんどかったんですけどね……。
今は文章を普通に打てるくらいになったようです。
次回は、ホルッツリッヒ村という名の楽園。前編。(仮)の予定です
お読みいただきありがとうございました。
引き続き宜しくお願いいたします。