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昆虫ダンジョンインセクト 2

 は!

 買えていないチョコレートを買いに行かないと!

 買いに行こうと準備していたら、例のごとく体調不良に陥ったんですよね。

 完売していないといいなぁ。

 


 スライムたちが飲み込んでいる三流冒険者は、逃げられないと理解できていないのか、スライムたちの体内で大暴れを繰り返している。

 しかしリーダーの大剣はリリーの体を切り裂けない。

 拳闘士必殺の一撃はサクラに優しく包み込まれた。

 槍使い渾身の一撃はモルフォの体を貫通させただけ。

 体の外へからんと転がった槍は私が拾って、モルフォの中へと戻してあげた。

 魔法使いの放った炎系魔法は、己の身を焼いてしまった。

 悲鳴は聞こえる設定にしてあったようだ。

 恐る恐るこちらを伺っていた新人らしい冒険者が、その場に硬直した。

 放置すれば焼死してしまうと判断したサイが、魔法使いの全身火傷を癒やす。


 うん。

 うちの子たちは安定して優しい。

 自慢の家族です。


 僧侶は祈りを捧げているだけだ。

 攻撃ではない。

 ただの祈り。

 それが真摯な祈りであれば神にも届くかもしれない。

 だが己の無事だけを願う自分勝手さしか籠もっていない祈りは、神よりも悪魔や邪神に届きそうだ。


 攻撃を受けたスライムたちの体は自在に伸びて、攻撃の衝撃を全て殺す。

 見事な能力には、歴戦の猛者と思われる冒険者も無言で見守った。

 伊達にユニーク個体ではないのですよ、私の家族。


 自慢げに胸を張ってスライムたちの背後に続く私にも、目線は多く集まった。

 声をかけようとする者も何人かは、いた。

 だが仲間に咎められて、蹈鞴を踏んでいる。

 いい仲間を持ったねぇ?

 たぶん止めた冒険者は、危機管理能力が高かったのだろう。

 スキルだけでなく、天性の勘かな? と思う冒険者も何人かはいた。


 昆虫しかでないダンジョンなのに、なかなかの混雑っぷりだ。

 一階の途中から入り口に戻るだけなのに、五つ以上のパーティーに遭遇した。

 これなら屑冒険者と私の噂は好ましく広まってくれるだろう。


「すみません。彼らにモンスターを押しつけられそうになりましたので捕縛いたしました。お預けしてもよろしいですか?」


「なんと! 許されがたき犯罪行為ですな。お預かりを……もし、よろしければですが。貴女が冒険者ギルドへ、直接連れて行っていただくわけにはまいりませんでしょうか?」


「あら? 門番の方へ預ければ対処していただけると、思っていたのですが」


「ええ、常でしたら対処しております。しかし、被害者の実力が加害者よりも上回っており、他に問題が上がっている場合に限り、お願いしております」


「……と、言うと?」


「……お耳を拝借してもよろしいでしょうか?」


 イケメンではない門番が、打診してくる。

 説明にも態度にも不穏な気配は感じなかったので、耳を貸した。


「イケメン門番が貴族に絡まれまして」


「正確には?」


「貴族に絡まれるぜ、そりゃあよぉ! という態度で接しました関係で、上の者まで連れていかれる始末っ!」


 ぎりっと悔しげな歯ぎしりが漏れた。

 何時でも大変なのは現場です。

 そして中間管理職です。

 心がイケメンに違いない門番の肩をぽんぽんと叩く。


「お疲れ様。厄介な同僚がいると大変ね? 犯罪者の引き渡しは私が責任を持って受けますから、安心してください」


「労いの言葉までありがとうございます。貴女は高貴な方より清廉なお心の持ち主なのですね。せめて馬車はこちらで手配させていただきますので、少しだけお待ちくださいませ」


 過剰なまでの賛辞は心からのもので面映ゆい。

 言葉通り手早く馬車を手配してくれたので、私だけ中に入る。

 御者がスライムに包まれた犯罪者を凝視していた。

 物珍しいのだろう。

 声をかけると我に返ったのか、丁寧に頭を下げてくれる。


 馬車は行きよりも速く冒険者ギルド前へ到着した。

 馬車の後ろから同じ速さでついてきたスライムたちを、またしても御者が凝視している。

 馬の代わりにならないかな? とでも思案しているのだろうか。

 残念だが普通のスライムではたぶん無理だ。

 馬車を引かせたらそもそも徒歩より遅いし、今と同じ状態で運ばせたら到着する頃には完全に消化されてしまうと思う。


 犯罪者を包んだスライムと一緒に冒険者ギルドへ足を踏み入れる。

 一瞬の静寂。

 若いが仕事ができそうな受付嬢が席を立つ。

 ボノを呼んでくれるのだろう。

 若くて綺麗で仕事ができそうとか、さぞモテるに違いない。

 案の定ボノを連れてきた受付嬢は、私に向かって軽い会釈をしてから自分の仕事へと戻っていった。

 こんな女性となら、一緒に仕事をしてもストレスがなさそうだ。

 容姿と性格を兼ね備えた美人さん。

 時々いるよね。

 あとでこっそり拝んでおこうっと。


「あー、そいつらが何かやったのか?」


 頬をぽりぽりと掻きながらボノが入ってきた。


「モンスターの押しつけ行為をされました」


「なすりつけだと? 恥を知れ!」


 ギルド中に響き渡る大声。

 部屋がびりびりと震えた。

 スライムたちに動揺は見られなかったが、犯罪者たちは揃って飛び上がっている。


「話をするまでは、このままにしておきますか?」


「即座に牢屋にぶち込みたいが、規則でなぁ。双方から話を聞かねぇと駄目なんだよ。嫌な思いをさせちまうかもしれねぇが、まだそのままにしてもらえると、ありがてぇ」


 頭をがりがりと掻きながらボノが不満そうに肩を落とす。

 無条件に私を信じてくれているようだ。

 信じつつ、規則をきちんと遵守する。

 好ましくも正しいギルドマスターなのだ。

 そういえば、良い脳筋なんだった!

 どうしても色眼鏡で見てしまうのに、心の中で詫びを入れつつ、ボノの後ろに続く。


 紅茶の用意までしてくれたのはスルバランによる躾の賜か。

 喉を潤しつつ、なすりつけ行為だけでなく、想像できうる範囲の犯罪行為についても語っておいた。

 なすりつけられたモンスターの数は、ドロップアイテムを見せて信憑性を証明してみせる。

 ボノの喉が唸った。

 単純に数が多かったようだ。

 一匹一匹は拳大サイズでも、それが百匹近くいたのだから、如何に状況を逸脱しているかが知れる。


「フォルス嬢が言うなら、表面化しなかった犯罪についても間違いねぇな。その点も罰を与えるときに加味しておくぜ」


「よろしくお願いします」


「さて、と。フォルス嬢の話は聞けたから、次はてめぇらだ。あースライムの皆には、こいつらの声が聞こえるようにしてもらってもいいか?」


 私が説明をしている最中、恥知らずにも野次を飛ばしてきたので、完全遮音をお願いしたのだ。


「フォルス嬢は鬱陶しかったら、スライムに頼んで遮音してくれて構わないからな!」


 話を聞けとは言わない、優しさ。

 公平を期すためには、私も話を聞かなければならないだろうに。


「ふふふ。信用していただけて嬉しいです。私の代わりにスライムたちに聞いてもらいますね」


「おう。それがいいだろうよ」


 ボノがぼきぼきと指を鳴らす。

 何ともやる気に満ち溢れている様子には、自然と微笑が浮かんだ。


『思っていたよりも、頭の良い脳筋なのね?』


『だねぇ……声が大きい方が議論に勝てるを、地で行く感じ?』


 スライムたちが完全に拘束しているので、犯罪者が自由に使えるのは口だけだ。

 リーダーはなかなか口が上手いようで、時折ボノの口を噤ませている。


『参加しなくて大丈夫?』


『こちらの提示した証拠が何よりなのです。できる門番の手紙も信憑性を増したのです』


 そう。

 仕事のできる心がイケメンの門番は短時間で、私たちが被害者で彼らが加害者である証言を認めてくれたのだ。

 手紙に目を通したボノが大きく頷いた点から見ても、いい証言だったようだ。

 今度お礼をしておこう。

 顔だけイケメンには求められても絶対にしないがな!


「いい加減に嘘はうんざりなんだよ、ど屑どもが! そんなにほざくんなら、司法に丸投げしてやらぁ!」


 丸め込めると思いボノを侮った犯罪者の顔色が変わる。

 司法というからには、冒険者ギルドが罰を決定するよりも重くなるのだろう。


「おい! こいつらを司法に突き出してやってくれ! スライムが助けてくれるから、しっかり捕縛し直せよ! 絶対に逃がすな!」


 扉の向こうへ向けて声を荒らげると、屈強な職員たちがわらわらと現れた。

 私たちの実力はしっかり認識されているらしい。

 中にはスライムたちに感謝の言葉を述べる者までいた。

 暴れるリーダーの意識をさくっと奪ったリリーに対しては、拍手までしていたのだ。

 このまま良い関係が続ければいいなぁと思いつつ、ドナドナされた犯罪者を見送った。


「はっ! 馬鹿な奴らだ。俺に裁かれていた方が、冒険者として再出発できる可能性があったのにな!」


「司法に預けたら、それは無理なんでしょうか?」


「無論復帰可能な例もあるぞ。ただ奴らは無理だな。フォルス嬢に対する罪以外も暴かれるだろうよ」


 やるせない表情を浮かべるので、イモジャガ虫除けのプレゼンをしようと決めた。

 良い脳筋は労らねばなるまい。


「そんな意気消沈気味のギルドマスターに朗報です!」


「んぁ?」


「インセクトダンジョンに有効な虫除けを卸せます!」


「本当か!」


「まだ一階だけしか試していませんが、ワンプッシュで即死させられますよ」


「冗談だろ! や、フォルス嬢が言うなら、本当なのか……すげぇなぁ、おい」


 何ともタイミング良く小さな羽虫が目の前を横切ったので、ぷしゅっと一噴きして見せた。

 全身に虫除けをあびた羽虫は即座に落下する。

 ボノは落ちた羽虫と私を交互に見つめた。


「赤ちゃんに一噴きしても、肌はいたみません。つまり人に害は全くない上に、虫が殺せる薬なのです」


「……これはまた、おい。需要が多そうだぞ……」


 途方に暮れるボノの前に二本のスプレーを置いておく。

 

「この容器の使い方はわかりますか?」


 何せオリジナル容器。

 スプレーはこの世界にない気がする。


「いや。説明が欲しいな」


「商人ギルドのマスターが御一緒の方がよろしいのでは?」


 スルバランなら一度で覚えてくれそうだ。

 ボノは何となくだが、ずっと押し続けて、出ないぞ? と首を傾げるか、何度も押して、一度でいいのです! と怒られるかの未来しか見えない。


「だな! すぐに連れてくるから、準備を頼むぜ!」


 了解しましたの声はきっと聞こえなかっただろう。

 ボノは瞬きする間に消えた。

 熊獣人なのに、俊敏!


「あ、またしても聞き忘れたし!」


 心の中では熊獣人扱いしているので今更の気もするが、戻ってきたら熊獣人であるのか、違う獣人なのか、聞いてみたいと思う。

 だって、気になるよねぇ?





 喜多愛笑 キタアイ


 状態 気分上昇中 new!!

 


 料理人 LV 4 


 職業スキル 召喚師範 


 スキル サバイバル料理 LV 5 

     完全調合 LV10

     裁縫師範 LV10

     細工師範 LV10

     危険察知 LV 6

     生活魔法 LV 5

     洗濯魔法 LV10

     風呂魔法 LV10

     料理魔法 LV13 上限突破中 愛専用

     掃除魔法 LV10

     偽装魔法 LV10

     隠蔽魔法 LV10

     転移魔法 LV ∞ 愛専用

     命止魔法 LV 3 愛専用

     治癒魔法 LV10

     人外による精神汚染


 ユニークスキル 庇護されし者


 庇護スキル 言語超特化 極情報収集 鑑定超特化 絶対完全防御 地形把握超特化  解体超特化


 称号 シルコットンマスター(サイ)  




 頑張れば美味しそうなお肉とかもらえるアプリを始めたんですけど、無課金ではどう頑張ってももらえる気がしませぬ……。

 無課金で頑張っている人で入手した人がいたら報告してほしいですね。


 次回は、昆虫ダンジョン インセクト。3(仮)の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続き宜しくお願いいたします。

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