指(ジャンル:コメディー?)
「うーん………」
通帳を片手に部屋の中をぐるぐるグルグル。 今月ピンチ、なんてわけではない。 悩みの種はもっと別のもの。 付き合ってもう3年。 お互いそろそろ良い歳だ。 結婚という言葉が浮かぶのも当然なわけで。
結婚に悩んでいるわけではない。むしろ一緒になれるのならこれほど嬉しいことはない。しかし彼女にそれを言わせるのは男として情けない。 つまり……… 僕からプロポーズするしかない。
そこで必要不可欠なのが指輪となってくる。しかし結婚指輪というのはなかなかお高い。 ここで安物は渡したくない、言うならばこれは僕の気持ちを形にする行為なのだから。 高ければいいとは思わないが、安すぎてもいけないと考える。 うーん、うーん、うーん……
彼女の喜ぶ顔がみたい。 きっとプロポーズを快く受けてくれるはず。 断られる未来は想像したくないだけだが。 でも彼女は優しい人だから。 だからこそ指輪や、それこそ結婚式なんかを質素なものでいいと考えてしまうだろう。
そんな我慢みたいなことはさせたくない! 僕が愛する女性には、幸せになって欲しいから。 そうだよ、彼女のためだ。 多少の奮発なんてへっちゃらだ。 一度しかない大事な瞬間なんだ、悩む必要なんてないだろ!
「よーし! さっそく出かけ………」
ガンッ‼︎
………… 走る激痛。 あっ、と言う言葉がもれて。 僕はゆっくりと、しゃがみこんだ。
§§§§§
お医者さん「ヒビ入ってますねぇ。 どうしました?」
「………小指を、タンスの角に、ぶつけました」
彼女の指に指輪をはめる前に。 僕の足の小指に、白い包帯が巻かれてしまった。