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異世界の機神 【寝過ごしたら、そこは異世界 】  作者: 藤谷和美
第一章:ドラゴンスレイヤー計画
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人型装甲機動兵器

「間もなく作戦空域に入ります」


 全周囲モニターの前方右上部に小さな半透過ウィンドウが開き、インカムを付けた画面に映る女性の声で、部隊全員に注意を促す連絡が入った。


 幾嶋は、自動操縦中のコックピットで回想から我に返り、操縦の主導権を自分に取り戻すと、自動操縦中を示すランプの色が緑からオレンジに変化するのを確認して部隊の全員に呼びかける。


 辺りはまだ夜の闇に包まれているが、モニターには暗視装置によるフルカラーの映像が昼間の如き周囲の情景を映していた。


「総員、武器のセーフティ解除を許可する、各自セルフチェックを急げ」


 幾嶋の乗る人型装甲機動兵器は、最新型の魔導転換炉を搭載した開発コード名「スサノオ3型」と呼ばれる、菱川島重工製の黒い機体である。

 桶川技研によって現在開発が最終段階に入っている5型を除けば、現有機ではリリースされたばかりの3型が最新型になる。


 それは魔素転換炉を唸らせて、燕の翼にも似た後退翼の揚力発生装置と翼端から発生する負圧による水蒸気の長い航跡を引きながら初の戦場へと向かっていた。


 同じ部隊の仲間であり部下である11名は、そのまま幾嶋の部隊に配属されていた。

 それは全員が竜族に家族や大切な人を奪われた、同じ想いを抱く同士である。


 今日の出撃は、先日ようやく竜族の妨害を排して打ち上げに成功した追加の攻撃衛星による、運動エネルギー兵器の攻撃体制が整うまで敵を食い止めるという、重要な命令によるものであった。

 しかし、その作戦の遂行に当たって、憎き竜族を倒してはいけないという命令は受けていない。


 なんとしても一矢、いや一太刀浴びせてやろうという強い思いが、言わずとも解る部隊全員の強い想いだった。


 核兵器のような数万年先の未来へも環境汚染と言う負債を残す兵器ではなく、一撃必殺の衛星攻撃兵器はその運用数が限られているという弱点を持っていた。

 敵対する竜族の数に対して、攻撃衛星が装備しているアモルファスタングステンの槍は圧倒的にその数が足りないのが人類側の実情だったのだ。


 その上知能の高い竜族は、ロンギヌスの槍と人類が呼ぶアモルファスタングステン製の槍を補充する為のシャトルの打ち上げすら許さずにことごとくく妨害してきたせいで、世界各地で発進したダミーを含むロンギヌスの槍の補充作戦は進んでいなかった。


 また竜族はタングステンの鉱山をも集中的に狙って攻撃してくるために、槍の素材となるタングステンも枯渇し始めていたのだ。

 そうなってしまえば、深刻な環境汚染を引き起こす劣化ウラン製の槍を使うしかなくなってしまう程に人類は追い詰められていた。


 そのために槍を使う相手は敵の竜族部隊を率いている一際大きな体躯の黒竜が第一目標となるが、彼らも衛星による攻撃を熟知しているだけに、それを一旦察知してしまえば彼らの持つ特殊な魔力によって様々な妨害を仕掛けてくる事が、これまでの戦いで判っている。


 幸いにも、まだ戦場の制空権は辛うじて人類が握っているだけに、第一目標は空を飛んで来る竜族を叩くことが優先される。

 それは竜族の翼が強固な鱗と肉体に覆われた体と異なり鱗の下は反重力を発生させる薄い(とは言っても彼らの体躯に比べればの比喩で過ぎない)膜であるために、物理的な攻撃が有効なのだ。


 その制空権を守るために、友軍の戦闘機が白い雲の帯を翼の両端から曳きながら先行してゆくのが視界の隅に見えた。


 その僅かな時間の後に、彼らが消えていった前方の上空で幾つもの閃光とミサイルの爆発による煙が見える。


「これより第72人型機甲化部隊は、戦闘エリアに突入する」

 幾嶋がそう告げると、ノイズ混じりの音声で部下から了解の返事が返ってくる。


 このノイズは雷竜でもある黄色い竜の雷撃による電磁派ノイズだ。

 既に自分がキルゾーンに足を踏み入れたことを実感して、幾嶋の右こめかみから一筋の汗が流れ落ちた。


 全周囲モニターのスクリーン上には、いくつかのターゲットがオレンジ色の光の点として表示されている。

 データリンクによって各機に割り当てられたターゲットが点滅して見える。

 そのターゲットは自動的にロックされて赤い枠で表示されている。


天羽々矢(あめのはばや)!」

 幾嶋がそう言うと、空中で黒い人型機甲兵器の左手が目標に向けて真っ直ぐに伸ばされて行く。


鷹の目(ホークアイ)!」


 そう呟くと、その幾嶋の意思を脳波感知してターゲットの姿がスクリーン上で急拡大され、ターゲットスコープの照準レティクルが敵の竜に重なって表示された。


 それに連動してフルオートで左の二の腕から弓のように上下にガイドが迫り出してくる。

 それと同時に、右の背中からは自動的にアモルファスタングステンの短い矢が1本飛び出して来るのを、機械の右手が正確に指で摘まんで真っ直ぐに伸ばした左腕の肩の辺りにセットした。


「撃てっ!」


 甲高い高周波音と同時に、左手のレールガンから超高速の矢が放たれた。

 空から炎の槍を地上に落として、地上軍を攻撃しているターゲットの赤い竜に何本もそれが突き刺さるのが、ハッキリとモニター越しに確認できた。


「よしっ!」

 小さくガッツポーズを取る幾嶋の動作を真似て、人型機甲兵器の巨体が同じ動きをして見せる。


 幾嶋率いる第72人型機甲化部隊が短期間で実戦投入できたのには理由がある。


 それは、マスタースレーブ方式による人体の動きを正確にトレースする基本機能によって、動作そのものに修練が不要である事と、脳波検知による操作コマンドの機械感知により、体の動作以外の攻撃操作を可能にした事が大きな理由である。


 空を飛ぶことも、空中での姿勢制御さえも、優れた脳波検知機能が実現したイージーなコントロール性能であった。


 考えれば動く、これは便利なようで危険な側面をも持っている。

 不意に思ってしまった余計な事や、恐怖でパニックに陥ったときの動作がそれに該当するが、それを防ぐフェイルセーフとして音声認識による実行コマンドの実装も行われていた。


 簡単に言えば、アニメの主人公が技の名前を一々叫んでから攻撃をする様に、それは似ている。

 脳で思った動作と音声によるコマンドの意味する内容が同じでなければ、攻撃は動作しないのだ。


 その為に、幾嶋はレールガンによってアモルファスタングステンの矢を発射する際に技の名前と攻撃命令を口に出したのだ。


 既に目標の赤い竜とは白兵戦の距離に接近しようとしている。

天叢雲剣あまのむらくものつるぎぃ!」


 幾嶋は、白兵専用の巨大な超硬タングステン合金製の刃が高速回転するチェーンソー型の大剣を背中から取り外して、機械の両手でギュッと握り締めた。

 その反力がフィードバックされて、自分の両手に剣を強く握り締めている感覚が正確に伝わってくる。


 目標はハリネズミのようになった赤竜の、傷ついたてボロボロになった翼の付け根だ。


 全身に突き刺さったアモルファスタングステンの矢で、体を針山のようにして苦悶の表情を見せている眼前の赤い竜に向かって、突入速度を緩めず擦れ違いざまに左の翼を付け根から切り落とす。


 その攻撃によって目標の赤竜は地上に落下してゆくが、地表に激突したのにも関わらず生きているらしく、醜く立ち上がろうと藻掻いていた。


「見たか!人間の力を舐めるなっ!」


 そう言って振り返る幾嶋の目に、今回ロンギヌスの槍のターゲットとなっている群れのボスらしき一際大きな黒い竜が口を大きく広げるのが見えた。


「魔素空間密度が急速に低下中、魔素空間密度が急速に低下中、回避行動を取れ!」

 甲高い合成音の警告が、狭いコックピット内に鳴り響いた。


「対魔力シールド全開!」


 ブレスが来る、そう読んで幾嶋は左手に取り付けられた小型の盾に仕込まれた防御フィールドを展開させた。

「ブレスが来るぞっ!総員防御態勢を取れ!」


 部下に指示を飛ばしながら、計器類をチェックしてゆく。

 魔素タンクは充分に充填されている。


 魔素転換炉の出力もグリーンを示していて全く問題は無い。

 魔素生成炉もオールグリーンだ。


 黒竜の大きく開けた口から吐き出されたブレスの光が機械の体を包んで行くが、左手の盾から発生した対魔力シールドの力場が大きな壁となってブレスの熱も衝撃波も荷電粒子さえも遮ってくれている。


 時間的に、そろそろロンギヌスの槍が黒竜をターゲットにロックしている筈である。

 それまで耐えれば勝てる!


 そう幾嶋が思ったときに、計器の色が一斉に異常を示す赤に切り替わった……

「馬鹿な!あり得ん…」


 小型ではあるが、緊急時に備えて制御装置は元より予備の動力炉をも装備している最新型の人型装甲兵器が、こんな形で一斉に機能停止に陥る事は理論上考えられない出来事であった。


 それも、こんな大事な場面で……

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