盾のゴンゾ
「ゴンゾ! お前が頼りだ、何としても一撃目を防いでくれ」
サージェが腰の剣を抜き放ち、腰を落として構える。
ジョリーは既に、魔法の詠唱に入っていた。
ディールの放つ矢は、ことごとく侵入者の持つ片刃の剣によって打ち落とされている。
「ラミレス、隠れてろ! 俺たちを信じて出てくるな!」
部屋の奥に向かって、サージェが叫ぶ。
その時、鉄壁のゴンゾが自慢の防御スキルを発動していたにも関わらず、分厚い盾ごと襲撃者の一太刀で真っ二つに胴を両断された。
一撃をゴンゾが防ぐ事を前提で突っ込んでいた、サージェの首が飛ぶ。
焦って矢をつがえ損なったディールの胸元に、瞬時に歩を詰めた襲撃者の剣が突き刺さった。
噴き出す血しぶきを避けて体を落とした男に、ジョリーの放ったファイアーボールが迫る。
斬!と音を立ててファイアーボールが断ち切られ、その場で雲散霧消した。
「ひぃっ!」
悲鳴を上げる間もなく、手にした長いロッドごと、ジョリーの顎から上が切り落とされて、ベチャリと床に落ちる。
襲撃者は無言で部屋の奥に押し入り、ベッドの下に隠れていたラミレスを、その寝床ごと真っ二つに断ちきった。
襲撃者は室内を見回し、自らの首尾を確認すると、1つ頷く。
やがて、ブン!と音を立てて片刃の剣を振り、刀身に付着した血糊を払い落とした。
ほぼ同時刻、カズーイの店から火の手が上がり、ルシアが駆けつけた時には、石造りの建物が幸いしてか、既に延焼は収まっていた。
翌朝、その焼け跡から黒焦げの死体が1つ発見された。
その小柄な死体は両の手で、重そうな鉄の塊を大事そうに抱えていたと言う。
翌朝、小窓1つ無い狭く暗い部屋の中で、三人の男が話し合っていた。
「それで首尾は?」
「全員、切り捨てた」
「わしの方も、確実に殺してから火を付けたと報告を受けている」
「それでは、世界が平和であり続けますように、祈りましょう」
「俺は神などと言う物は好かぬ」
「わしも、金を稼ぐ世の中の仕組みが無くならねば、それで良い」
「…… 」
(ゲスに石頭めが! 愚者を導き世を正すのも、中々に疲れるわい)
やがて、室内に人の気配は消え、午前9時を知らせる神殿の鐘が鳴る。
町はいつも通りに活気に満ちた人々で溢れ、客を呼び込むニーリーの声が中央十字路の喧噪の中でも、ハッキリと聞こえた。
幾嶋が旅立った日の夜に起きた事件の事を、彼は知る由も無いのである。
世界を取り巻く闇は深く、そして根深い。
第三章は、これにて終了です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
この後は、箱根越えから神奈川へ入り、旧東京へと向かいます。
この作品とリンクしている拙作『バランスブレイカー:世界の調和を乱す者【世界が俺を拒絶するなら:異世界編】』の投稿が開始されましたので、そちらのストーリー進行に合わせて、こちらも連動した連載を再開する予定です。




