魔法使いのイクシマ
幾嶋は冒険者ギルドの前にある通りを歩いて、中央十字路へと向かった。
まだ、細い路地がどのように何処へと繋がっているのか、それが判るほどこの街に詳しくは無い。
だから、一旦大通りへ出てからニーリーの家へ帰る方が、簡単で判りやすいというだけの理由であった。
その途中にある幾つもの商店が立ち並ぶ通りには、ラミレスに連れられて行ったカズーイの武器屋がある。
ラミレス考案の簡易なスチームエンジンの試作品を見せてくれた、優秀な鍛冶職人でもあるカズーイの店から、偶然にもサージェが出てくるところに出くわした。
「よぉイクシマ! あれきりだったから心配したんだぜ。 ギルドの方はどうなったんだ?」
そう聞いてくる後ろから、聞き覚えのある声が聞こえる。
「なんだ、イクシマが居るのかい」
「おお、あれからどうなったんですかね?」
「ジーナは、怖えからな」
ジョリーとラミレスの声も聞こえた。
ゴンゾとディールも居るようだ。
どうやらもう日が落ちていると言うのに、新しい護衛の4人を連れて、カズーイの店に来ていたようだ。
すぐにサージェに続いて、残りの4人が店の外へと出て来た。
「イクシマ、冒険者ギルドはどのような処分を言って来たんですか? 私が余計な事を頼んだばかりに、厄介な事になっているんじゃないかと…… 」
心配そうな顔で、ラミレスに問いかけられた。
護衛の四人も、早くその後の出来事を話せという顔で幾嶋を見ている。
「実は、問題にしない代わりに冒険者になれと言われて、今ではC1ランクの初級冒険者です」
「お、おぉぉ…… 」
きっと予想外だったのだろう、5人から小さく驚きの声が漏れた。
それぞれが顔を見合わせている。
あれから、全員が幾嶋の処分を心配していたらしい。
口々に色々と冒険者ギルドでの出来事や初の指定クエストの事を聞かれるので、少しの間だけ説明をすることにした。
ファルマとの出会いを含む仲間殺しだった五人組の事は、ギルドには報告をしてあるけれど、説明が長くなりそうだったので説明から省く。
僅か半日の間に起きた出来事について色々と話し込んでいるうちに、夕刻を告げる鐘の音が聞こえる。
午後6時を知らせる夕刻の鐘は、日が短くなっている秋口には日没後となるので、もう辺りは暗くなっていた。
「おっと、もうこんな時間か。 それじゃラミレス、帰るとするか」
リーダーであるサージェが、長話を終わらせる。
それを切っ掛けにして、全員が頷いた。
「じゃあな、イクシマ!」
「またね、イクシマ!」
「明日また、改めて伺いますね」
ラミレスとサージェたち一行は口々に別れの挨拶をして、近道である路地へと消えて行く。
それを笑顔で見送った幾嶋も再び中央十字路へと歩き出し、帰路につく事にした。
仕方が無い事情があったとは言え、二日も不在にしている。
それただけに、顔を見せたら怒られるだろうなと思って歩いていると、ニーリーの家の前に人だかりが出来ていのが見えた。
幾嶋の胸に、何とも言えない不安が過ぎる。
気が付けば、思わず駆け出していた。
人だかりが近づくにつれて、耳を澄まさなくても幾嶋の耳には、ザワザワと色んな話し声が聞こえて来る。
そのざわめきの中に、『ルーベルが掠われたって』とか『一緒に居た子供も居なくなったそうだよ』と、近所の人が話しているらしい不穏な会話の内容が聞き取れた。
野次馬を掻き分けて門の中に入ろうとしたところで、市中警護兵らしき装備を身に付けた兵士に、門の中への進入を止められた。
その男には見覚えがある。
たしか、ルシアの部下だったイサギと言う男だ。
「この家に縁のある者だ、ニーリーを呼んでくれ! もしルシアが居るならイクシマが戻ったと伝言を頼む!」
必死の面持ちで、門を封鎖しているイサギに、そう頼み込む。
力尽くで突破するのは容易いが、正確な状況を掴むまでは早計な行動をするべきでは無いと、そう判断したのだった。
野次馬達の騒々しいざわめきの中で、『ルシア』と言う自分たちの上司の名前を叫ぶ幾嶋の声が聞き取れたのか、ルシアの部下イサギは幾嶋へと顔を向けた。
そして、すぐに幾嶋の顔を思い出したのか、少し驚いたような顔を見せる。
すぐさま近くにいた別の兵士に、幾嶋をルシアの処へ連れて行くように指示してくれた。
兵士が、ギリギリ一人通れるくらいに体を空けてくれたので、そこを通って中へと入る。
「こっちへ来い!」
イサギに指示された兵士は言葉少なに言うと、玄関の扉を開けて中に向かって事情を説明していた。
やがて振り向いて、幾嶋を屋敷の中へと招き入れる。
家の中へ入ると、ニーリーが真っ先に幾嶋を見つけた。
「イクシマ! あんた今まで何処へ行ってたんだい! あたしのルーベルが、あんたのエステルまでもが、何処にも居なくなっちまったんだよおぉぉぉ!」
幾嶋の両肩を掴み、叫ぶように大声で状況を伝えようとするニーリーは、見かけ以上に混乱しているようだった。
「落ち着いて。 いったい何がどうなったんだ?」
冷静にゆっくりと、そう問い返す。
しかしまだ混乱しているニーリーは、僅か数日とは言え、見知った幾嶋の顔を見て緊張から解き放たれたのか、ただただ泣き叫ぶだけだった。
そこには、あの肝っ玉の据わったニーリーの姿が何処にも無かった。
以前も、ルーベルが掠われかけたと言っていたが、今回は未遂では無いだけに事情が違うのだろう。
「私が事情を説明しましょう。 とは言っても、私もニーリーから聞いた話になりますが…… 」
言いにくそうに、ニーリーの脇に立っていたルシアが口を開いた。
幾嶋は、ルシアに向かって無言で頷く。
「事の発端は、ニーリーが仕事を終えて帰ってきた時に家が荒らされていた事からだそうです。 心配になってルーベルを呼んでも返事が無い、先に戻っていたはずのエステルも居ない、それで我々の処に駆け込んで来たんです」
「二人が行方不明なのは確実なのか? 何処かへ出かけているという可能性は?」
その可能性は無いだろうなと思いながらも、幾嶋はルシアに問い直す。
「日が暮れてから若い女性が出歩くことは、自分から掠ってくれと言うようなものですから、まずそれは有りません。 それに家の中に争った形跡がありますから、まず掠われたのは間違いないでしょう」
何故そんな判りきった事を聞くのだとは言わず、僅かな可能性にも縋りたい幾嶋の想いを、ルシアは酌み取ってくれたようだ。
少し変わった幾嶋の話し方や雰囲気に違和感を感じながらも、このような状況では誰でもそうなのだろうと思ったのか、落ち着いて状況を説明してくれた。
「犯行予想時刻の見当はついているのか? 二人が最後に目撃されているのはいつ頃なんだ?」
畳み掛けるように、幾嶋が問い続ける。
掠われたとすれば、いったいどれくらいの時間が経過しているのか、それが二人の安全を考える上で重要なポイントに思われた。
「それは、エステルが露店の手伝いから先に戻るまではニーリーと一緒だったので、夕方までは無事だったと思われます。 そうなると、そこから日が暮れてニーリーが戻って来るまでの数時間と言う事になりますね」
それならば、まだ大きく時間が経過していない可能性は高いと幾嶋は考える。
この街では、神殿が鳴らす時報の鐘の音が一日に4回しか鳴らない。
それは朝9時、昼12時、午後3時と午後6時だ。
どうやって時間を計測しているのかは判らないが、幾嶋が衛星から得られる時刻と照らし合わせても、鐘の音の鳴るタイミングは意外な程に正確なものだった。
ルシアの説明を聞く限りでは、エステルが家に戻ったのは午後3時の鐘を聞いてからなので、恐らく家に着いたのは、それから30分も経過していない頃だろう。
ニーリーが家に戻って、しばらくしてから午後6時の鐘が鳴ったと言っているらしいので、戻った時間を仮に午後5時半とすれば、その間の約2時間の間に二人が掠われたことになる。
幾嶋も午後6時の鐘を聞いてからサージェたちと別れているから、二人が掠われてからは、まだそれほど時間が経過していないと思われた。
エステルが家に戻る時間は決まっておらず、ニーリーと一緒に帰ることもある。
だから、犯人が計画的にエステルを狙ったとは考えにくい。
それについては、ルシアも同意見だった。
恐らく犯人の狙いはルーベルで、その犯行現場へ運悪くエステルが帰ってきて巻き込まれたと考えるのが自然だろうと、ルシアは言う。
幾嶋も、それには異論が無い。
しかし、そうなると理由は何故という事になる。
わざわざ家に居るルーベルを狙うのだから、何かルーベルで無ければらなない理由があるはずなのだ。
それは何だろうと幾嶋は考える。
(ルーベルで無ければならない理由、それは何か…… )
(ルーベルが誰かに恨みをかった?)
(ルーベルに片思いをしている男がストーカー行為を?)
次々と思い浮かぶことをランダムに頭の中に並べてみる。
(縫製の仕事でトラブル?)
(仕事絡みと言えば、料金の支払いでもめたとか?)
(あるいは、お金のトラブルか?)
何かが、引っかかった。
「ニーリー、旦那の借金は返したんだよね?」
ふと思いついたお金に絡む出来事を、床で泣き伏せているニーリーに問いかける。
幾嶋の渡したお金で、死んだ旦那の借金は返済出来ているはずだった。
だから、それは有り得ないだろうと思ったが、念のため確認をしてみたのだ。
「借金があったんですか?」
ルシアが、幾嶋の発言の意図を訊ねてきた。
「以前、ルーベルが掠われかけた時の理由が、それだったんです」
事情を知らなかったルシアに、以前ニーリーから聞いた話をする。
しかし、それはもう返済したはずだから、それがトラブルの理由になるとは思えないとも、ルシアに補足はしておいた。
ニーリーは、むくりと顔を起こすと、呆然と幾嶋の方を見た。
「返したさ! あの後すぐにね。 決められた法外な利息もちゃんと付けてやったよ。 だけどあいつ、それじゃ足りないなんて強欲な事を言うから、『何処までお前は強欲なんだ!』って怒鳴りつけて、お金をあいつに叩きつけて帰ってきたんだ! だから借金が理由の訳がないよ!」
「ニーリー、それだ!」
「ですね」
幾嶋の言葉に、ルシアが頷く。
恐らく、お金云々よりも面子を潰されて怒っているのでは無いかと、幾嶋は自分の考えを言った。
ルシアは、面子もあるだろうが、金が足りないと言っているのなら一番の理由はやはりお金だろうと、幾嶋の意見に付け加える。
例え1日分でも半日分でも、金貸しの法外な利息というものは積み重なるものなのだと言った。
「それで、肝心のお金を借りていた相手と言うのは?」
ルシアが、ニーリーに訊ねる。
「マーテルだよ、東歓楽街の金貸しマーテルさ。 ちくしょう! あいつがルーベルを掠いやがったのか、ふざけやがって!」
先程まで床に伏して泣き叫んでいたニーリーが、急に立ち上がると台所から包丁を持ちして、そのまま家を出て行こうとする。
それをルシアの指示で止めようとした二人の兵士が、派手に振り飛ばされた。
更に四人がかりで、ようやくニーリーを押さえ込む事に成功する。
「放してとくれ! 今すぐにあたしが行かないと、ルーベルとエステルが、大変な事になっちまうじゃないか!」
押さえ込まれても尚も暴れるニーリーに、警護隊の兵士も振り飛ばされないように必死で押さえ込んでいた。
「ニーリー! ルシアたちが居るんだから、素人が騒ぐより任せましょう」
幾嶋はニーリーを落ち着かせようと、静かに言い聞かせる。
自分一人だったら、自分が真っ先に血相を変えて飛び出していたのは間違いが無いだろう。
しかし、別の誰かが必要以上に騒いでいるのを見てしまうと、逆に自分は冷静になってしまうものだ。
兵士たちに押さえ込まれたニーリーは、怒りの矛先をルシアに変えて叫ぶ。
「あいつらがやったって言う証拠も何も無いのに、警護隊に何が出来るって言うんだい! せいぜい、あいつの屋敷に行って何もしてないかって聞くくらいしか出来ないんだよ! うちの亭主が死んだ時だって、そうだったじゃないか!」
確かに誰がやったと言うような、明確な証拠がある訳ではなかった。
マーテルが怪しいと言うのは、あくまで可能性の問題でしかない。
幾嶋はそれを問い掛けるように、ルシアへと顔を向けた。
「たしかに我々が動くのには証拠が無さ過ぎるのは事実です。 ですが、人を集めてマーテルの屋敷へと向かわせます」
「何言ってんだい! そんな悠長なことをしてたら、あたしのルーベルも、イクシマ!あんたのエステルもすぐに売り飛ばされちまうよ!! あいつは儲けるためなら、人買いだって人殺しだって平気でやってるんだ!」
幾嶋に向かって、ニーリーが叫ぶ!
そして、それを聞いて幾嶋の表情が変わった。
「ルシア!それは本当なのか? ルシアが追っていると言っていた人身売買組織って言うのは、マーテルと言う奴の事なのか?」
ただの、身代金目的の誘拐では無い可能性を提示されては、幾嶋も落ち着いて居られない。
「噂はありますが、狡猾な奴で尻尾を掴ませないんです」
ルシアは、そう答えた。
その証拠を掴むために、ルシアが動いていたのだろう。
人身売買などとは考えてもみなかったが、幾嶋の居た世界にも似たような犯罪はあった。
ただこの世界では、それを目にする頻度が高いという事が違うだけだ。
そして、それは重大な違いでもあった。
若い女性が人身売買の対象になると言えば、その目的はおのずと限られる。
エステルがその対象に入るのかと言えば、幾嶋には理解出来ない。
しかし、そういう趣味を持つ者は元の世界にも居たし、労働を目的とした奴隷という商品価値だってある事に気付いた。
「この世界に、奴隷制度は?」
ルシアに訊ねる。
「残念ながら、すべての国が奴隷を扱っていない訳ではありません」
ルシアの説明を聞く限りでは、この街の領主は奴隷制に反対をしているという事だった。
しかし、国として罰する法律が無い以上、それを理由にして介入する事は出来ないようだ。
人の命が軽いくせに、そういう処だけが進んだ法治国家並だというのは、実にアンバランスに感じられる。
何にしても、このままではエステルが危ない!
偶然の出会いとは言えども、生を諦めかけていた贄の少女を幾嶋が救って縁が出来てしまったのだ。
彼女を再び悲惨な運命に巻き込ませる訳にはいかないと、幾嶋がそう考えるのは当然だった。
もちろんルーベルの運命だって、誰かに弄ばれて良い訳が無い。
「何処に居るのかが判れば手の打ちようもありますが、マーテルの経営する店や別宅はいくつもあって、何処に運び込まれたのか判りません。 それに、一般人を拘束しているという物的証拠が無いと我々も公的な立場上、勝手には踏み込めません」
ルシアは歯がみをしながら、苦しい事情を吐き出した。
公的な立場というのは公明正大を求められるから、証拠も無しに強引な事は出来ないのだろう。
「では、騒ぎが起これば介入出来ますか?」
何かを思いついたように、幾嶋がルシアに訊ねた。
どんな妙案があるのかと、ニーリーも騒ぐのを止めて幾嶋を見る。
「街の治安を乱す行為は重罪です。 騒乱や火事でも起これば警護隊としては黙って放置できません。 しかし、何処に捕らわれているのかが判らない事には、我々も動けません」
「居場所は、判ります」
「え?!」
そう断言した幾嶋の言葉に、ルシアだけでなく他の兵士やニーリーたちも、一様に驚いたような顔を見せた。
「どうやって!?」
その場の、幾嶋を除く全員が一斉に、そう詰問した。
一瞬の間があって、幾嶋はこう言う。
「えっと、魔法です。 魔法で見つけます」
それを聞いて、目を丸くするルシアとニーリー。
他の兵士たちも、顔を見合わせている。
魔法使いとは希少な存在である、との言葉が思い出される。
だが、今すぐエステルを見つけるのには、幾嶋に装備されたテクノロジーを使うしか方法は無い。
「少し、静かにしていて下さい」
魔法を使うと宣言したのだから、それっぽい雰囲気を醸し出すためにポーズをつける。
右手の人差し指と中指だけを伸ばして二本揃えてから、少し俯いた姿勢になった自分の額に当てて、集中する振りをした。
そんなポーズを付けている間に、幾嶋はエステルに渡してあった腕輪を遠隔機動させて、遙か上空のGPS衛星から位置座標を取得した。
得られた位置座標に合わせて、監視衛星を上空に移動させる。
これには少しだけ時間が掛かった。
ジリジリと焦がれるような待ち時間の後に、天空の監視衛星から街を撮影した高解像度の拡大画像が転送されて来る。
通りも路地も、数多い屋敷さえも鮮明に判別出来る明瞭な動画だった。
「中央十字路を起点にして、東に7本目の路地を北に向かって、そこから3本目の通りと交差した右角にある屋敷にエステルは居ます」
ルシアにそう言い切る幾嶋は、既に腕輪から音声情報を拾っていた。
何しろ幾嶋の考える、人としての常識が通じない乱暴な世界である。
敵に腕輪の事を感づかれでもしたら、決して外せない腕輪を取り外すために、エステルの腕を断ち切られる事だってあるかもしれないのだ。
だから、こちら側の音声はエステルには流さない。
その音声を聞いていた穏やかな幾嶋の顔が、急に険しくなった。
もう一刻の猶予もならないとでも言うような、焦燥感も垣間見える。
「ルシアは、人を集めて後から来て下さい。 僕は…いや、俺は先に行くから、後からでも来てくれると助かる」
「しかし、理由が無いと中には踏み込めないぞ。 それに、君の脚に多少の自信があったとしても、我々だって毎日鍛えているんだ。 到着時間は、それほど違わないと思うがね」
ルシアが、後からで良いから来てくれと言われた事にプライドを傷つけられたのか、幾分不満そうに抗議した。
「君たちが介入出来る理由は、俺が作る。 だから、そんな状況になっていたら、遠慮無く踏み込んでくれ!」
そう言うが早いか、幾嶋は庭へと駆け出す。
慌てて、その後を追うルシア。
屋敷の室内に残された兵士達は、ニーリーを押さえつける手を緩めた。
ニーリーの家から飛び出した幾嶋は、ルシアに向かって振り返る。
その瞬間、幾嶋の背に3対の光り輝く、反重力推進を司る羽のような物が発現した。
その光の羽は、曖昧なその輪郭から小さな光の粒子を周囲に撒き散らして輝く。
思わず、息を呑んで後ずさるルシア。
その目は驚愕のあまり、大きく見開かれていた。
ルシアの口から言葉は出て来ない。
「イクシマ!! あんたは、いったい!?」
遅れて玄関から飛び出してきたニーリーが、そこまで言って絶句する。
「魔法ですよ!、これは僕の国に伝わる秘伝の飛行魔法なんです」
そう言うが早いか、イクシマは東の方向へと向かって飛び去った。
それまでイクシマが居た空間に、一瞬遅れて一気に周囲の空気が吹き込み、気が抜けた炭酸飲料の王冠を外したような音がする。
「あれは、子供の頃に神話の絵本で見た、六神様の光の翼。 いやまさか…… 」
ルシアは東の空を向いて、そう呟いた。
「イクシマ、お願いだからルーベルとエステルを助けておくれ…… 」
ニーリーは庭にしゃがみ込んで、東の夜空に向かって両手を合わせていた。




