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異世界の機神 【寝過ごしたら、そこは異世界 】  作者: 藤谷和美
第一章:ドラゴンスレイヤー計画
3/42

魔総研地下食堂

 魔総研の地下にある広い食堂で、一人の研究員が同僚にぼやいていた。

 時間も遅いため、他にはチラホラと人影が見える程度である。


「どうして、こんな事になっちまったのかなぁ」

「こんな事って、この食事の事か?」


 隣で一緒に食事をしていたもう一人の男が、ぼやいた男に訊ねた。


 それぞれが区切りの良い時間に腹を満たす事が出来るように、食事の時間という物は決まっていない。

 研究の区切りがついたタイミングで食べるという、暗黙の了解が魔総研にはある。


 その為に、地下食堂は24時間休み無く営業をしていた。

 かと言って、調理をする人間が24時間居る訳では無い。


 すでに配給される食事が、パッケージに入った軍用食になってから久しい。

 食料生産をする農家などが成り立たない現状では、配給される食事の原料が何なのかを詮索する事は無意味だ。


「これ、死んだ竜族とか魔獣とかの肉だっていう噂、お前知ってるか?」

「知らんわ! 死んだ魔族だとか人間の肉まで混ざってるって言う奴もいるけど、腹に入れば同じだろ」


「おまえ、強いな」

「元が何であろうと、タンパク質はタンパク質、炭水化物は炭水化物だ。 知らなくても良いことを詮索する必要が、どこにある?」


「でもなぁ…… 」

「喰わないなら、俺がもらうぞ」


「何すんだって! 待て待て、喰うよ! 喰うから、俺の分を取るなって!」

「ぐだぐだ言わないで、最初からそうしろよ。 まだ毎日こうやって喰えるだけ恵まれているんだからな」


「なあ、どうしてこんな事になっちまったのかなぁ…… 」

「まだ、言ってんのかお前!」


 再び元気なく呟く男に対して、叱るようにもう一人が言った。

 最初に口を開いた方が、それを誤解だと手を振り、弁解をする。


「違う違う、この戦いが始まった理由は何だったのかなって、そう思っただけなんだ」

「この戦いって、第三次竜魔大戦の事か?」


「ああ、そもそも何で竜族は人類を目の敵にするんだ? 元々は第一次竜魔大戦で、共に魔族を制圧した味方じゃ無かったのか?


「竜族が強すぎたからな、人類がそれに怯えて無茶な枷を嵌めたのが原因だって説は聞いた事があるな。 本当かどうかは知らないぞ、なにせ俺たちが生まれるずっと前の話だからな」


 早々と食べ終えた研究員の一人は、席を立ちコーヒー…… と言っても、本物では無く代用品ではあるが、化学合成された焦げ茶色の飲み物をテーブルに持ち帰った。

 質問をしていた方の研究員は食欲が無いのか、まだ半分も片付いていない。


「そもそも第一次竜魔大戦が起きた理由って、お前知ってるか?」


「魔族の反乱だろ、それを鎮圧するために開発中の生体兵器『竜族』を初めて量産して使用したってのは、中学校の歴史で習う常識だよ」


「じゃあさ、何で魔族は反乱を起こしたんだ?」

「人類に成り代わって、世界を支配しようとしていたんじゃ無いのか?」


「公式見解は、そうなってるわな」


「なんだよ、まるで違うみたいな言い方だな!」

「違うんだよ、事実は」


「だって、歴史の授業でやったぜ?」

「お前、魔総研に居るって事は理系コースだから、歴史なんて舐める程しかやってないだろう?


「俺は文系コースからの転向組でな、大学でも歴史研究サークルに居たんだ。 だから、お前よりは事実を知ってる」


「おいおい、理系なら実習とレポートで、サークルに入ってるような余裕は無いだろ。 どんな天才なんだよお前」

「いや、卒業まで6年かかったけどな」


「そういうオチかよ。 で、お前の言う事実ってのは何なんだ?」


「お前、魔族をどう思う?」

「うーん、腹黒いとか魔力があるとか…… 人類を憎んでいるとか、あとは醜い姿をしているとかかな?」


「まあ、ありきたりなイメージだな。 おまえそれを、第16研究室のバレリーに対しても同じ事を感じるか?」


「あの子は天使だろう! あの子こそ戦場に咲く一輪の花だよ」


「お前知ってるよな、あの子が知的人造生物クリーチャーだって事」

「ああ、まあそれは、ここの全員が知ってる常識だからな。 でも、あの子は魔族なんかじゃ無いだろ」


「正確なスペックは公開されていないけど、強力な魔力を持っていて不死身に近い身体能力を持ち、高度な知能を持つ人造生物だ。 何処が魔族と違う?」


「そう言われれば、美しい容姿くらいしか違わないのか? でも性格だって良い子だぞ」

「とても人類を憎んでいるようには見えないよな」


「ああ、アイザックからも実の娘のように愛されているし、回りからも親しまれて愛されている。 本人の性格も素直で真面目だ。 人類を憎む要素なんて無いだろ?」


「決定的に違うのは、その見た目だな?」

「ああ、そう言われればそうだな」


「あれが醜い顔をして角でも生えていたら、同じように接する事が出来るか? 醜く肥え太っていて、醜悪な匂いがしたら近付く気になるか?」


「彼女の中身が判っていれば、無下に嫌うことも無いと思うがな」


「つまり、中身も判らない存在ならば、近付きたくは無いって事だよな」

「いや、それは…… 」


「そんな外見で中身も判っていない、そういう状態なのが、俺たちの言っている魔族って事だ」


「つまり、どういう事だ?」


「元々、魔族ってのは人に似せて作られたんだよ」

「ウソだろ、あんな醜悪で醜い姿なのにか?」


「あれは、魔族が…… いや、最初は魔族なんて言葉も無かったんだ。 後に欧州連合が彼らを人類から区別するために取り決めたコードネームが、魔族の呼び名の元なんだよ」


「俺たち日本人は、一神教の国と違って魔物や妖怪には比較的寛容だ。 人外と一緒に暮らす昔話もあるし、人助けをする話もある」

「まあ、九尾のキツネでモフモフとか言って、ゲームやラノベで一緒に遊べるメンタリティがあるからな。 それは判らないでもない」


「元は宗教界からの反発を避けるために、明らかに人間と違う事が判るような目印を付ける事から始まったようなんだ」

「それが、あの角とか牙とかなのか」


「そうだ、一目で人類とは違う種族で有る事を判別できるように、ある時期から知的人造生物クリーチャーの設計段階に付け加えられたのが、肌の色だったり鱗や角だったり、牙や爪だったんだ」


「非道いな…… 俺なら耐えられん」


「魔族というコードネームからも判るように、一神教の方々からすれば、神によって作られた(と言う事になっている)人類とは、区別をつける必要があったのさ」

「奴らの容貌が西洋の悪魔に似ているのは、それが理由なのか?」


「そうだ、宗教的理由を尤もらしい理由に置き換えて、日本を始めとする東洋諸国にも押しつけてきたんだ」

「日本は、悪乗りするのも魔改造をするのも好きだからな。 そんな宗教的な意味とは関係無しに日本的な悪鬼の姿にして、性能をより向上させる方が日本人の性に合ってると思うよ」


「当初の開発目標は、人の代わりに戦闘行為を行う生体兵器だったり、人手不足を補う高性能な労働力だったりしたはずなんだ。  でも、その外観のせいで人間のサポートをする仕事は激減した。 これは判るよな」

「ああ、さっきの俺の反応と同じって事だよな」


「そうだ。 その醜い外観によって差別されて、人の世から受け入れられなくなった存在が魔族なんだ。 元々は魔力なんて物も奴らには無かったけど、その身体能力の高さは、当時の人間には驚異だったんだろうよ」


「魔力は、無かったのか? 今は、すげー魔力を持ってるだろ!」

「あれは、反乱を起こした竜族に対抗するために、魔素転換炉を内蔵できるように、第二次竜魔大戦の時に改変されたんだよ」


「お前詳しいな…… 」

「ちゃんと、公文書館へ行けば過去の資料は残ってるから、誰でも知りうる知識なんだぜ」


「それでも、凄いぜ」

「まあ、趣味だったからな、こんな事になるまでは…… 」

「つまり、差別された事が原因って事なのか?」


「当然、一神教の人達は差別するわな、人じゃ無いんだから。 人外に寛容な多神教の日本人に比べれば、彼らの差別は容赦無いだろうな」

「なるほどなぁ…… それで、反乱を起こしたって事か」


「知能も優れている上に、肉体的能力だって人間よりも桁違いに優れているんだ。 差別を受け入れられる訳が無いよな」


「だろうなぁ…… 」


「当然人類は、まともには勝てない」

「おいおい、それって今と同じ状況なんじゃないのか」


「当時、大型生体兵器の開発も世界各地で行われていてな、欧州では竜を模した生体兵器が、実験段階を終えて量産に入っていたんだ」


「それが竜族って事か?」


「そうだ、それが竜族だ。 ちなみに日本は竜じゃなくて龍とか麒麟とか怪獣を開発していたらしいが、開発の主力は大型の人型搭乗兵器だ」

「まあ、なんだ。 趣味に走ったって意味では日本らしいな」


「それも、今となれば各種魔装兵器としてドラゴンスレイヤー計画に役立っているからな、無駄では無かったという事だ」

「桶川技研は菱川島重工に対抗して、人型機動兵器で竜族に対抗しようとしているらしいけど、関東も落ちたとあれば日の目を見る事も無いよな」


「ああ、個人的には人型機動兵器にロマンを感じるけど、すべてが後手に回った結果が今の状況ではあるよ」

「なんで竜族は人類の味方だったのに、急に敵に回ったんだ?」


「1つは設計性能が高すぎたこと、二つ目は突然変異が理由だろうと言われているよ」

「設計性能ってのは判るが、突然変異ってのは何だ? 何があったんだ?」


「第一次竜魔大戦後にな、知的人造生物クリーチャーには、3つの枷が義務づけられた」

「枷ってのは、何だ?」


「1つは生まれたときに為される洗脳で、人類に逆らえなくする事だ。 これは第一次竜魔大戦前から行われていた物が、より強いものになっただけだな」

「二つ目は?」


「二つ目は、出生率の低下措置だ。 竜族が増えすぎないように排卵周期を100年単位として、受精卵の着床率も大きく落としたんだ。

「たしかに、あんなのが自然繁殖したら凄い事になるな」


「これは各国とも、竜族の脅威を第二次竜魔大戦で身に浸みて判っているから、異論無く同意した。 しかし、竜族一体を作るのには相当のコストが掛かる」


「なんだよ、コストより人類の安全のほうが優先だろう!」


「妥協案として、竜族の寿命は1000年以上にまで引き延ばされたんだ」

「簡単に生まれない代わりに、簡単には死なないって事か」


「そうだ、個体数は急激に増えないが、その代わりに耐用年数を上げてコストパフォーマンスを高くしたって訳さ」

「しかしその割に、今の大戦での竜族は多過ぎないか?」


「どこの世界にも、他人には声高にルールを守るように言っておきながら、自分だけはちゃっかりルールを破って得をしようとする奴ってのは居るだろ。 それを国単位でやられたんだよ」


「ありがちで笑えないな、それ」


「どこの国も、秘密裏に自国が飼っている竜族を増やしていたから、誰にも総数が膨大に増えていることに気づけなかったって事なんだろうな」


「結局、自業自得なのかよ。 それで三つ目は?」


「三つ目は、自己崩壊を促すナノマシンの埋め込みだ。 人類の命令に逆らえば、肉体が自己崩壊をして死滅する」

「そんな完璧な枷があって、何故……  それが、突然変異なのか?」


「元々、洗脳なんてものは知能が高い生き物に対して、効果が薄いのは当たり前だ。 ん、ちょっと待っててくれ、コーヒーが切れた」

「おっと、俺もお茶を飲むかな」


 二人で給茶機まで行き、コーヒーとお茶を持ってテーブルに戻って来るまでの間も、この戦いに至る理由の話題は続いている。

 夜も更けて、食堂には他の人影も無くなっていた。


「後の研究では、竜族も魔族も早々に洗脳から解ける物が続出していたようだ。 しかし自己崩壊をもたらすナノマシンを埋め込まれている以上、人類に反抗は出来ない」


「そりゃそうだ! 体が崩壊するなんて、あまりにグロ過ぎる」


「第二次竜魔戦争の時は、まだ自己崩壊ナノマシンは無かった。 だから洗脳から解けた竜族が、自分たちよりも劣る人類に支配される事を嫌い、反乱を起こしたんだ」


「それで、魔族に魔素転換炉を埋め込んで対抗させたのか?」


「ああ、それでも竜族の方が個体性能は圧倒的に高い。 それで限定的にでも、核を使わざるを得なかった」


「つまり、放射性物質が竜族の弱点だったって事か?」


「いや、違うんだ! 奴らに核攻撃は一定の効果があったんだが、核汚染を考えると何発も使える手段じゃあ無い。 にも関わらず、奴らは反乱を止めた」

「そりゃあ、人類も核汚染で地球に住めなくなるからな。 何発も使わずに済んで良かったって事だよな」


「奴らは、ほぼ勝ちを手中に収めていたにも関わらず、何故か核による地球の汚染を嫌ったと言うのが、今では歴史家による主流の見方だ」

「竜族が自然主義者だったとか、冗談を言うんじゃ無いだろうな」


「あながち間違いでは無いかもしれないぞ、その考えは」

「ど、どういう事だよ?」


「第三次竜魔大戦での竜族の行動から察するに、奴らは人類を害悪と見なしているふしがある。 第二次竜魔大戦の時は、単なる人類への反抗だ」


「どう違うんだよ?」


「第二次竜魔大戦では、竜族が勝って、人類に対する自立権を得ればそれで良かったんだ」

「つまり、立場は対等、若しくは奴らの方が上って事か」


「ああ、ところが今回の第三次竜魔大戦では、奴らは人類を抹殺しようとしているようにしか見えない」

「そうだな、それには同感だ。 一切の降伏を認めようとしないし、非戦闘員だろうな何だろうが、皆殺しにしているからな」


「反乱の初日に各国の核関連施設を占拠して、その稼働を安全に止めさせている事からも、計画性が判るだろう」

「しかし離れた国同士で、どうやって示し合わせて動けるんだろうな、奴らは」


「それが明確じゃないんだが、恐らく精神感応に近いものを使えるんじゃないかって説がある。 そうでないと説明がつかない事が多い」

「じゃあ第二次竜魔大戦から150年、ずっと反乱の機会を窺っていたって事か?」


「やつらの寿命は長いからな。 当時の事を知っている人間はもう生きていないが、奴らにとって150年など、ほんの一眠りするぐらいの時間でしか無いのかもしれないさ」

「おいおい、人類の打つ手がすべて裏目に出てるじゃないか!」


「奴らは核を使われて気付いたんじゃないかと思うんだ」

「いったい、何に気付いたんだ?」


「人類が、地球に害悪を撒き散らす害虫だって事にだよ」

「お前、本気でそう思っているのか!」


「そんな訳無いだろ。 でもな、奴らは大地から湧き出す魔素を主要なエネルギー源としているんだ。 そんな大事な大地を、核で汚す人類を害悪だと捉えても不思議は無いと思わないか?」


「しかし、元々は魔素だって俺たち人類が発見した物だし、遺伝子改造した植物から潤沢に取り出せるようにしたのも、俺たち人類だぜ。 それは言いがかりだろうよ」


「奴らは、世界に魔素が潤沢に存在する環境になってから生まれた、新しい種族だ。 奴らに言わせれば人類など、旧世界の遺物であって、竜族に対しては害悪しか無い存在なのかもしれないって事さ」


「おいおい、ずいぶんと悲観的だな。 それでも俺たちにだって、生きる権利はあるはずだぞ」

「そうさ、だからこそドラゴンスレイヤー計画は、何としても成功させなければならないんだ」


「ああ、もう少し頑張るか」

「そうだな、もうゆっくり寝ている暇は、人類には無いのかもしれないな」


 二人は席を立ち、ゆっくりと歩いて研究室へと戻って行った。

 それからしばらくした後、人感センサーが食堂の照明を自動的に落とす。


 一切の照明が消えた魔総研地下食堂は、闇と静寂に包まれていった。


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