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異世界の機神 【寝過ごしたら、そこは異世界 】  作者: 藤谷和美
第三章:初級冒険者 イクシマ
29/42

万年Cランクのアスラ

 突然聞こえた大きな声に驚き、その場にいた全員が、一斉に声がした方へと視線を向けた。


(そっちの用件だったか…… )

 かけられた言葉を聞いて、逆に幾嶋は安心をした。


 南門から近づいて来ていた反応の目的が判らずに、下手な邪魔が入る前にモールを片付けてしまおうと思って居た幾嶋である。

 しかし、彼らの目的がラミレスの襲撃では無いと判れば、余計な心配も無くなる。


 襲撃の心配は無いと言っても、冒険者ギルド絡みのトラブルを望んでいる訳では無かった。

 その声の主がラミレスを狙っていたのでは無いとしても、これはこれで厄介な事になりそうだなと幾嶋は思う。


 声の主を確認する為に後ろを振り向き、事態がどう転んでも良いように、幾嶋は油断無くラミレスの元へと移動した。


 ラミレスや他の農夫たちが集まっている場所から、ちょうど10mほど離れた農道の角に立っていたのは、革鎧と古びた鉄製らしい胸当てをつけた二人の剣士風の男たちだった。


 向かって右側に、頭の後ろで長くもない髪の毛を束ねている、目つきの悪い痩せた小柄な男。

 痩せているだけに、頬骨と窪んだ目が印象に残る。

 その左側には、丸太のような太い腕と足を持つ、2m近い体高の、大柄で筋肉質な男が立っていた。


 二人共が、同じように憤懣やるかたない表情でミルコたちを睨みつけている。

 彼らは次に、視線を幾嶋へと動かした。


 幾嶋を見て、ギクリと驚いたような顔を見せたのは、左側の大柄な方の男だ。

 それには気付かず、威嚇するような口調で、小柄な方の男が幾嶋に向かって言い放つ。


「ギルドに出ているクエストは先に受任した者が優先だ。 その俺たちの仕事をかっさらってる奴が居るってぇのは、どういう事なんだぁ?」


 小柄な方の男は、今にも腰の剣を抜いて飛びかかりそうな勢いで、大剣を背中に収めた幾嶋を睨みつけた。


 その男の言っている事は正論だし、それについて幾嶋が反論出来る余地は無いだろう。

 言い訳が一つだけ出来るとすれば、クエストの依頼主から直接頼まれたという事しか無い。


 勿論、それが冒険者ギルドの領分を侵すという事も、ジーナから警告を受けて知っているだけに、ギルドから呼出を受けた場合は、簡単には言い訳を認めてもらえないだろう。


「おい、お前も何とか言ってやれよ、普段の威勢は何処にいったんだ、サイラス!」


 その呼び名を聞いて、幾嶋は大柄な方の男と遭った事があるのを確信した。

「あなたは、たしか『竜殺し』のサイラスさんですよね?」


 そう呼び掛けたが、大柄な方の男はビクリ!と反応しただけで、下を向いて何も言わない。

 冒険者らしき二人の片割れである大男の方は、あの日ラミレスを襲った一味に居た、『竜殺し』を自称するサイラスという男だった。


「あ?! こいつが『竜殺し』だとぉ??」

 右側の男が、乱暴な口調で幾嶋に問い返す。


 そして、隣で黙ったままのラミレスを見上げてから、小声で囁く。

 何か自分たちに都合の良くない話が有りそうだと、気付いたようだ。

 しかし、幾嶋達に向ける表情にそれを出さないだけの余裕が、まだあった。


「おい! サイラス。 『竜殺し』ってのは、何の話だ?」

 幾嶋たちに聞こえないよう注意しているのだろうが、その囁くような耳打ちの内容は、すべて幾嶋の聴覚に委細漏らさず届いていた。


 しかし、その問い掛けに、サイラスは下を向いたままで返事を返さない。

 訝しげに視線を幾嶋に移して、小柄な男は黙り込むサイラスの横腹を肘で突いた。


「うっ…… 」


 僅かに、くぐもった声をサイラスが漏らす。

 この二人の力関係は、見た目の大きさとは逆のようだった。


「モール退治ってのは、A4ランクの冒険者が来るようなクエストだったんですか?」

 幾嶋は訝しげな口調で、近くに居るミルコに向かって訊ねた。

 あえて周囲に聞こえるように、声も少し大きめだ。


「いえいえ、とんでもない。 受け付けて貰ったクエストのランクはB1±1だとかで、Cランクの上位からBランクの序盤が対象でしたね」


 A4ランクに依頼するような上級クエストだなんて、とんでもないと、ミルコは慌てて答える。


「そもそもが、そんな高額な依頼金が必要なAランクのクエストなんて、俺たちが払えるわけ無いわな」

「ちげーねぇ」

 ミルコの隣にいた農夫が、一言付け加えると周囲から同意の笑い声が沸き起こった。

 幾嶋がミルコに訊ねた『Aランク』という言葉が聞こえたのか、ラミレスの顔色が目に見えて悪くなった。


 ラミレスと初めて出会ったときに、暴漢の一人がサイラスを指さして言っていた『A4ランク』というものの意味が、ジーナとサージェの説明を聞いた今ならば、あの時よりも良く判る。

 あの時、あっさりと気絶してしまったサイラスは、間違いなくA4ランクであるはずが無い。


 中級を表すBランクだけでも5段階ある上に、その更に上にあるのが上級を表すAランクである。

 その、下から4段階目と言えば、Aランクの上から2番目と言う高ランクなのだ。


「おい、若いの! 今のはどういう事なんだ、詳しく話してみろ。 弟と…… いや、サイラスと何処で会ったんだ」


 今まで幾嶋たちを攻める気満々だった小柄な方の男は、どうやらサイラスの兄らしかった。

 黙ったままのサイラスを見て、言い出せない都合の悪い事を隠しているのが、ある程度判ったらしい。


 その小柄な男は、幾嶋にサイラスと出会ったときの状況説明を求めてきた。

 今まで幾嶋たちに向けられていた男の厳しい目が、今は弟であるサイラスに向けられている。


「おい、サイラス! お前、またやらかしたんじゃねーだろうな? ギルドを通さない内職もランク詐称も、御法度だぞ」


「違うんだ、アスラ兄貴ぃ! 誤解なんだ、違うんだ!」

 サイラスは、すっかり狼狽えてしまい、意味の通じない同じ言葉を繰り返していた。


「何が何に対して違うってんだ! 誤解ってのは、何が誤解なんだ! まだ何も言ってねーだろ、コラ!」


「違うんだ、誤解なんだよ…… 」

「だから、何が違うんだって聞いてんだろう!」


 兄貴と呼んでいた小柄な男に強く責められて、サイラスは大きな体を小さく縮めると、力無く小声で同じ事を呟いている。

 恐らくそれが誤解などでは無い事を、本人が一番良く判っているのだろう。

 しかし高圧的な兄の前で、サイラスはそれを素直に認める事ができないでいる。


「おい、若いの! 何があったのか話してみろ」

 アスラは幾嶋に向き直ると、うんざりしたようにそう言い放った。


 幾嶋は話を進めるために、サイラスと出会ったときの一部始終をアスラに話す事にする。

 そのアスラは、しばらく苦い顔をした後で気持ちを切り替えたのか、わざとらしい笑顔で口を開いた。


「若いの、どうだひとつ取引と行かないか?」


 アスラは、そう切り出す。

 既に先ほどまでの怒りは、その表情の何処にも見えない。


「条件によっては…… 」

 相手の出す条件次第で、その取引に乗らない事も無いと、幾嶋が短く答えた。


「こいつは図体がでかい割に昔からヘタレでな、出来は悪いが、可愛い俺の弟なんだ」


 兄と弟が逆じゃ無いのかと言いたいところを、幾嶋はぐっと堪えて、その言葉を飲み込む。

 そして、男の言い出す条件とやらを待つことにした。


「若いの! お前がやった事は明らかにギルドの領分を侵しているのは判るな?」

 そう言われるまま、幾嶋は逆らわずに黙って頷く。


「本来なら俺たちはギルドにそれを報告して終わりだ。 後はギルドがお前さんに処分を下すだけの話だから、俺たちには関係が無い事さ」


 冒険者に課されているルールの1つは、受任したクエストで見聞きしたことの報告義務なのだと、アスラは言葉を続けた。


「そりゃあ冒険者登録をした者の義務ではあるけれど、他に誰も検証する者が居るわけじゃない。 つまりは俺たちの自己申告って事でもあるわけだ」

 そこまで言って、アスラは言葉を止めてニヤリと笑う。


「何がお望みなんですか?」


 彼が何を望んでいるのかは薄々判っているが、そう聞かざるを得ない流れの中に幾嶋は居た。


「だからな、こっちも困ってる農民の方々が助かるなら、無理して律儀に通報しなくても良いかなと思ってるんだ」


 アスラと、サイラスに呼ばれた男は、自分たちの弱みを見せずに幾嶋の弱みを突いて優位に立とうとしているのが、見え見えだった。


(なんだか、ちょっと面白くないな)


 アスラは、強引に自分たちが有利な方へと話を持って行こうとしている。

 そんな態度が少しだけ気に障る。


 ミルコやラミレスが冒険者ギルドとのトラブルに巻き込まれないようにと、幾嶋は出来るだけ譲歩しようと思っていたが、その対応が少しだけ変わった。


 幾嶋は、自分の持ちネタがどの程度有効なのか試すつもりで、少しカマを掛けてみる事にしたのだ。


「仮に『竜殺し』はジョークとしても、ギルドを通さない非合法な内職とかランク詐称の事は、もしも僕がギルドの尋問を受ける事になれば、サイラスさんとの出会いから含めて正直に言うしか無いですからね」


 ギルドのルールを詳しく知っている訳では無いから、サイラスの何が何処までヤバイ話だったのか、幾嶋も明確には判ってはいない。


 しかし、その言葉にサイラス自身が大袈裟に反応を示した。

 それまで下を向いていた顔をハッとしたように上げて、あからさまに狼狽えた顔でアスラを見たのだ。


 それだけで、それがアスラとサイラスの弱みだという事が、幾嶋にもハッキリと判った。


「馬鹿野郎! お前も、もう少し駆け引きって物を覚えろ。 手持ちのカードが相手にバレたら交渉が台無しじゃねーか」


 アスラは、再びサイラスに向かって小声で囁きながら、拳を振り上げて、振り下ろす。

 しかしその囁くような話し声も、幾嶋の聴覚にだけは全て届いていた。

 アスラのその短気こそが、交渉事には向いていないのだが、本人がそれをまるで判っていないのが何とも言いがたい。


 ゴチン!とその場に居た全員にハッキリ聞こえる程の音が、アスラに怒られて縮こまっているサイラスの頭部から聞こえた。

 アスラの拳が、容赦無くサイラスの頭を直撃したのだ。


 それにしても、どうして体の大きなサイラスが良いように殴られているのだろう?

 交渉相手の幾嶋を放置したまま、仲間内で揉めているアスラを見て、そんな事を幾嶋は思った。


「何にしても、余計な事を話さなくて済むようにしてくれると、僕も助かりますよ」


 話が進まず脱線しそうになったので、幾嶋は軌道修正をすべく、アスラに声を掛けた。


 あくまで、事を荒立てずにこの場を過ごすことが一番の目的なのだ。

 それを聞いたとたんに、幾嶋に向き直ったアスラの顔に下卑た笑いが浮かぶ。


「あぁ、そうだったな。 俺たちはモール退治のクエストを受けて、その依頼を無事達成した。 だから、若いの、お前は何もしていないし、俺たちも何も見なかったって事だ」


「ひどい、何にもしないで手柄を横取りじゃない」


 そんな非難の声がカンナから聞こえたが、アスラはそれを無視している。

 幾嶋も、せっかく収束に向かいつつある話を。つまらない意地やプライドで壊したくはない。


 大事になれば、きっとクエストの依頼をしたミルコや幾嶋をこの場に連れてきたラミレスにも火の粉が飛ぶだろうと思ったのだ。


 別段、冒険者ギルドを敵に回したとしても、幾嶋一人であればどうにでもなるという、根拠の無い楽観的な気持ちも、彼の中に無いとは言えなかった。


「あなたに通報されなければ、僕も冒険者ギルドに取り調べられる事も無いし、余計な事を思い出さないで済みます。 お互いにメリットが有りそうな話ですね」


 これで良いのだ。

 それが幾嶋の出した結論だった。


「じゃあ、交渉成立だな!」


 そう言って、アスラは幾嶋にゆっくりと右拳を突き出してきた。

 それに合わせて、幾嶋も嫌々右の拳を突き出して当てる。


「ついでに、黒焦げになったクレイワームも片付けもらえませんか?」

 幾嶋が、ついでに持って行けと提案した。


 正直、倒した後の処理をどうしたら良いのかも判らない。

 アスラは、その提案が予想外だったのか、相好を崩して飛びついてくる。


「お、本当か? 話が判る男は出世するぜ」


 さっきまでの渋い顔は何処へやら、アスラはすっかり上機嫌だ。

 そこへ、ずっと黙り込んでいたサイラスが、遠慮がちに口を開いた。


「兄貴、さすがにクレイワームは俺たちじゃ、まだ手に負えない得物だぜ。 あんなものを持ち帰ったらギルドでジーナになんて言われるか…… 」


「構うもんか、逆に俺たちのランクが上がるかも知れねーだろ。 俺たちだって、いつまでもCランクのままじゃ先が無いだろが! これは上に行くチャンスなんだよ!!」


 サイラスは、兄であるアスラにそう言い含められて、再び黙り込んだ。


 案外と、サイラスが大きく強そうな体の割に大人しいのは、この兄に上から押さえつけられているからなのでは無いかと、幾嶋は思う。

 サイラスが恵まれた体を生かして上位に行くためには、この兄との関係を断つ必要がありそうだなと、他人事ながらもサイラスに同情していた。



 辺り一面に散乱している全てのモールの死骸から、討伐部位である長い爪を剥ぎ取り、クレイワームの死骸が転がっている方へと二人が去って行ったのは、それから2時間以上が経過した後である。


 すでに、日は大きく傾いていた。



 その夜、ミルコの家で晩飯を食べて行けと言われた幾嶋とラミレスは、南門の閉門時黒を過ぎてしまった為に、家に戻ったのは翌朝になっていた。


「いやあ、あのエダマメ……じゃなくって、フラボン豆でしたっけ、塩ゆでにすると美味しいですね」


「でしょう! あれは安定的に大きな実を取れるようになれば、良い商売になると思うんですよ。 なにしろ、今までは実のバラツキが多過ぎて、評判も悪かったんですよ」


 そんな話をしながらの帰り道、久々に食べた懐かしい味が、幾嶋の記憶を揺さぶる。

 断片的に蘇るのは、訓練教官の家の食卓の風景だ。

 しかし、それが何だったのかを、幾嶋はまだ明確に思い出せないでいた。


 突然、幾嶋が左側を並んで歩いているラミレスの肩に手を掛けて、小さく警告の声を発する。

 ラミレスは、一瞬戸惑ったような顔をして立ち止まった。


「ちょっと、後ろに下がってください!」

 もう二人は、ラミレスの家が目と鼻の先程の距離に見える位置まで来ている。


「誰かが、家の前に居ます」

「えっ、まさか!」

 幾嶋が一歩前に出るのと同時に、ラミレスが急いで幾嶋の後ろに隠れた。


 幾嶋が感知した反応は複数だが、以前のように多くは無い。

 それぞれが極近い位置に居るためか、明確に反応を分離できないが、おそらく少なくとも2人以上、多くても3人迄と言った処だろう。


 意を決して、幾嶋が小さな門を一気に開けて、広くも無い敷地内へと踏み入った。


「イクシマ! 何処へ行ってたんだよ! 待ちくたびれたぜ」

 聞き覚えのある声だった。


「久しぶりだねー」

「よぉ!」

「こいつが、例の凄い剣士なのか?」


 最初に聞こえたのは、サージェの大声、続いてジョリー、ディールの順で幾嶋に声が掛けられた。

 最後に、仲間への問い掛けをしていた男の顔は、幾嶋の知らない顔だった。


「みなさん、いったいどうして?」


 少なくとも、ラミレスの家を彼らは知らない筈なのだ。

 それを幾嶋が疑問に思うのも無理は無い。


「なあイクシマ! 良くない話と良い話があるんだが、どっちから聞きたい?」

「普通、良い話と良くない話があるって言わないかい? それじゃ順序が逆だよサージェ」

「馬鹿野郎、そんな事誰が決めたんだよ、言ってることは同じだろうが」

「まあ、どっちでも同じ意味だけど、受けるイメージは違うな」

「サージェは、悪い話を先に言いたいのさ」


「サージェ、先にゴンゾを紹介するもんだろ? イクシマだって知らない奴が居れば話を聞く前に警戒しちまうぜ」

 他の3人が頷いた。


「すまねーな、イクシマ! こいつは俺たちの仲間で、盾のゴンゾって言うんだ。 この間は腹を壊して寝込んでたから見た事ねーだろうけど、宜しく頼むわ」


「あんたがイクシマか! 俺はゴンゾだ。 見たとおり壁役くらいしか出来ねーけど、大抵の攻撃は耐えてみせるぜ」

 確かに、ゴンゾと名乗った男は、()()()のサイラスより背は低いものの、それに負けないくらいの見事な筋肉質の体をしていた。


「こいつは謙遜してるけど盾スキルを習得していてな、壁役だけならAクラスにも劣らないくらいに優秀なんだ。 例えオーガの一撃を喰らっても、こいつならしっかりと耐えられるぜ」

 サージェが自慢気に、ゴンゾの肩をポンと叩く


「まあ、2~3発が限度だけどな」


 それが2~3発も耐えられるというゴンゾの自慢なのか、それとも2~3発しか耐えられないという自虐なのかは、他の冒険者と比較する基準が無い幾嶋には判らなかった。


「イクシマです、みなさんには困っているところを助けてもらって、とても助かりました」

 とりあえずポーカーフェイスで、挨拶を返す。


「よろしく頼むわ!」

「こちらこそ!」

 そんな挨拶が交わされた後、幾嶋がサージェに向き直った。


「それで、悪い話というのを先に聞きましょうか? たぶん、ここに来た事に関係しているんですよね」


「いや、それは言いにくいから良い方の話からしよう」

 急に、サージェが口ごもる。

 その様子を見て、ディールが突っ込みを入れた。


「それじゃ、どっちから聞きたいとか言うなよサージェよぉ」

「ちげぇねえ」

 すかさず、ゴンゾが同意する様子を、ジョリーが黙って見ている。


 本来なら、ここで一言口を挟んで来てもおかしく無いのだ。

 幾嶋の頭に、チラリと悪い予感が走った。


 そんなジョリーの様子を気にしたのか、サージェが言い訳にもならない事を言う。


「俺は、マズイ物より美味しい物を先に食べる方なんだよ」

「そして、マズイ物は残すと…… 」

 ディールが、サージェの言葉を茶化して笑う。


「この話は、残せないよサージェ」

 一言、今まで黙って居たジョリーが真面目な顔で言い放った。


「判ってる。 とりあえず、いい話を先にさせてくれ」

 サージェは、真面目な顔で幾嶋に向き直り、一瞬の間を置いた後で口を開いた。


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