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のぼる。

 四月一二日 地下三千メートル

 私は今日、“地上”なるものを目指す旅に出る。

 祖父の何代も前からあるという、地上へ続く“穴”を通っていく。

 穴は整備されていない、過酷な旅になるだろう。

 でも、必ず成し遂げたいと思う。


 四月十七日 地下二千メートル

 僅か五日で千メートル上れた。

 ココまでの穴が一直線で通りやすかったおかげだ。

 この調子ならあと十日で地上を見られる。

 旅を続ける。


 五月三日 地下千七百メートル

 前回から三百メートルしか上れていない。

 急に穴が蛇行して狭くなり、通りづらくなった。

 穴を広げ、足場を作るのに時間がかかる。

 先は不透明になってしまった。

 旅を続ける。


 五月二十九日 地下千五百メートル

 旅は難航している。

 当初は手で穴を広げていたが、壊せない場所にぶつかった。

 “岩盤”というものだろう。

 道具が必要なので作ったが、材料を集めるのに時間がかかった。

 幸い穴の途中に分岐があり、その先に廃墟があった。

 そこに必要な物があったのが救いだ。

 旅を続ける。


 六月二十一日 地下千メートル

 岩盤を壊すのに手間取ったが、ここまで来られた。

 ここまで来れば先の穴の材質は柔らかい筈だ。

 村長に聞いた情報を信じる。

 旅を続ける。


 六月二十五日 地下三百メートル

 旅の九割を終えた。

 もう一息なので、再確認のために旅の目的を書き記してみる。

 目的は地上の“空”を“カメラ”で止める事。

 寿命半年となった母が空を見たいと言ったので、見せてあげたい。

 カメラを使えば見た物の時間を止めて、いつでも見られる。

 村長はカメラをとても大切にしていたけど、貸してくれた。

 その代わり、空を見せてあげる約束をした。

 旅の終わりも近い。

 早く空を見せてあげたい。


 六月二十九日 地下二百メートル

 カメラをなくした。

 どうやら途中で落してしまったらしい。

 捜索のため、旅を中断する。


 七月二十七日 地下二千メートル

 カメラは見つからない。

 注意深く探しながら下りてきたがなかった。

 捜索を続ける。


 八月十日 地下三千メートル

 カメラがない。

 村の入り口まで戻ってしまった。

 でもない。

 探しながら登りなおす事にする。


 八月二十二日

 カメラがない。


 九月一日

 カメラがない。

 母の寿命ももう少ない。

 急がなければ。


 九月十五日

 カメラがない。

 母の寿命が近づいている。


 九月

 ない。

 時間が


 十月

 ないないないないな


 十月八日 地下千二百メートル

 ついにカメラを見つけた。

 穴の分岐の一つに転がり込んでいた。

 分岐はとても狭くねじれていて、通れるくらい広げるのは難しかった。

 時間がなかったので、無理やり分岐に入っていってカメラをとる事にした。

 途中で体の表面がほとんど剥がれてしまったが問題ない。

 カメラの捜索に大分かかってしまった。

 時間はもう少ない。

 旅を再開する。


 十月九日 地下百メートル

 不眠不休で上った。

 途中で落下し足を二つ失くしたが問題ない。

 旅を続ける。


 十月十日 地下五十メートル

 体が思うように動かない。

 落下の衝撃が予想より深刻みたいだ。

 でも時間がない。

 旅を続ける。


 十月十一日

 体が思うように動かない。

 母は今日寿命を迎える。

 最後の手段として、頭に無事な手とカメラだけをつけて上る。

 記録はこれで最後にする。

 もし、この記録を見るものがいるなら。

 私の旅の成功を祈ってほしい。

 旅を続ける。

 地上はすぐそこだ。




 ――地表で発見された作者不明の書より全文を記載。

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