古林勝
よろしくお願いします。
ここ江ノ島ジャイアントスタジアムに10万人もの観客が押し寄せてきた。
今日、ここでは裏野球が開催される。今年度の裏野球は開催十五年目で十五周年記念を行っており獲得賞金と野球に使われる道具が新しいものとなっている。
今宵もスタジアムに18人のプレーヤーが集まった。
神奈川県・江ノ島。変な視線を感じながらも裏野球専用に作られたスタジアムにやってきた古林勝は、呼吸を整えるように大きく深呼吸をして、関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉のところに行き受付を済ませようとしていた。
「プレーヤーの古林です。番号は8番です。」
勝は強めの口調で受付の人に言った。
「えーと、8番古林さんは・・・EASTチームですね。このユニフォームを着てプレーしてください。」
受付の人は勝とは対照的で穏やかな口調でしゃべっていた。
勝は軽く舌打ちをした。
それと同時に勝は裏野球のルールブックを手渡されて控え室に向かった。
古林勝。22歳。神奈川県内の大学に通う4年生。身長175cm。体重62キロ。運動神経は良く、小学校、中学校、高校、大学でも野球部に所属し、1年生のときからレギュラーとして活躍していた。
だが大学2年の秋、練習試合でのスライディングで左膝前十字靭帯断裂という大怪我を負ってしまい、約8ヶ月もの間リハビリに励んだが思うように動かせなくなり自主退部をすることになった。
怪我をする前は、明るくて、大勢の友達に囲まれていたのに、今はすっかり暗くなってしまった。人との関わりを断ち切り、笑わなくなった。それはリハビリをおこなってっているときに、母が重い心臓の病気になってしまったからだ。
父は勝が小学校6年生のときに事故で他界。現在、小さなアパートで二人暮らしだ。進行を遅らせる薬の力でなんとか延命はしているが
母は病院のベッドでほとんど動かずに1日を終える。確実に病気は母の体の中で進行している。助けるには心臓移植をしなければならないのだが、莫大なお金がかかるので心のどこかでは少し諦めていた。
だが1ヶ月ほど前、家族の未来が変わるかもしれないという思いが、勝の中で芽生えた。
インターネット上で「裏野球。参加者募集!獲得賞金総額1億円以上!参加者は名前、年齢、住所、メールアドレス、志望動機、をお書きの上ご応募ください!」と書かれていた。
しかし勝はなかなか参加に踏み切ることはできなかった。勝はインターネット上でよく裏野球についての掲示板を見ていたからである。
野球に使うバットは人の足、ボールは女性の乳房。参加したプレーヤー18人のうち半数以上は生きて帰ってこれない。さらにWESTチームには過去最多8大会連続出場中のスタープレイヤー坂上龍がいるということ。勝には賞金よりも恐怖心のほうが勝っていたからだ。
それでも勝は、母のためにと裏野球に応募した。正直当たるわけないと思っていた。
しかしその10日後、勝の思いとは裏腹に一通のメールが届いた。「裏野球に当選いたしました。」そのときは訳がわからなかった。しかし続きには、「参加日は4月27日。持ち物はなし。番号は8番。場所は江ノ島ジャイアントスタジアム。ルール説明は会場でおこないます。キャンセルはできません。強制参加となります。プレーできる格好でお越しください。お待ちしております。」非常に淡々と書かれていたが、勝はやってしまったということに気づいた。
「ほんとに・・・ほんとにきた。」
そのあと何日も考え込んだが母を助けるためだ、と決心した勝はそれから野球の練習に取り組んだ。
勝の本心は行きたくないのだが、掲示板に書かれていたことを思い出して行くしかないと決め、だからこうしてスタジアムに足を運んだ・・・・・・
勝は少し顔を強張らせながらも赤い絨毯が引いてあるところを歩いていくと、道が二つに分かれているところに出てきた。左側にEAST様、右側にWEST様と書かれていた。
勝はEASTチームなのだがWESTチームのほうが気になってしまいWESTチームの通路へ入っていこうとした。
するとそのとき、空港の金属チェックのときに鳴るような音が静かなところに響き渡った。
いきなりの音に驚いた勝は腰から砕け落ち、すぐさま来た道を戻りEASTチームの方へ向かった。
勝は手にしていたルールブックを鞄にしまい大きく深呼吸をし、控え室に入っていった。
次はもっとおもしろくします!